ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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第11話

『財宝?欲しければくれてやる!探せ!この世の全てを置いてきた!』

 

ロジャー船長の最後を見ようとローグタウンに集まった人々が熱狂している

金獅子のシキが船長の処刑を止めようと襲撃してきているのに誰も逃げないほどに…

 

「ロジャー…まったく、お前って奴は…」

「レイ養父さん…」

 

レイ養父さんが泣いている

 

「これで、世界は変わる…多くの者が海に夢を見るように、なるだろう…」

「海賊は絶対悪だという、政府、海軍の広めた認識が…夢に、自由に生きる

 代償なのだと気づく者達が出てくる…時代が変わる…」

 

目を押さえていたレイ養父さんが涙を流しながら顔をあげる

 

「ロジャー…本当に…最後まで、退屈させない奴だ…」

 

レイ養父さんだけじゃない、ローグタウンに集まった元ロジャー海賊団の

みんなも泣いている…もちろん、わたしもだ

 

たった3年しか一緒にいなかったけど、それでも仲間だから凄く悲しい

 

覚めない熱狂の中、わたし達は涙を流し続けた

 

 

 

 

「マックス!?」

 

俺の恋人、ベルメールが走ってくる…格好悪いところ見られちまったな…

 

「誰か、軍医を、医者を呼んで!」

 

海賊王ゴール・D・ロジャーの最後に魅せられていた坊主が、金獅子のシキが

能力を使って投げた岩に潰されそうになったのを庇い、俺が潰された

 

潰された下半身はもう感覚が無い…さすがに今回はダメそうだ

 

「ベルメール…煙草を、とって、くれ…」

「こんな時に何を!」

「頼む…」

 

ベルメールが胸ポケットから煙草を取りだし、俺に銜えさせてくれる。

俺はまだ少しだけ動かせる特殊な手袋をはめた右手の指を擦り合わせ火花を出す

 

その火花を能力を使い操作して煙草に火をつける、慣れしたしんだいつもの動作だ

 

「…ふ~」

 

元々はガープ中将…いや、ガープのおっさんにガキ扱いされるのがイヤで

始めた煙草だけど、今じゃ俺のトレードマークの1つになった

 

「一仕事した、後の一服は、格別…だな」

 

こんな時だけど、ベルメールが膝枕をしてくれている…あぁ、悪くない

 

憧れた《ONE PIECE》の世界に転生が決まった時は、無双だ!ハーレムだ!なんて、

思っていたのに、今では本気で惚れたベルメール一筋だ

 

「あり、がとう、ベルメール」

「何いってんのよマックス…」

 

水が顔に掛かる…ベルメールが泣いてくれている…あぁ、悪くない

 

煙を吸い込み、吐き出す…意識が遠退いてきた…なんて言えばいい?

 

特典で前世の知識はそのまま残っているけど、浮かび上がってくる言葉は、

どれも陳腐に感じてしまう…あんなに格好良いと思っていたのにな…

 

俺らしく言おう、誰の真似でもない俺の言葉で…

 

「あぁ…悪くない」

 

身体から力が…熱が抜けていく感覚に死を感じるが、まったく怖くない

ベルメールが俺の顔に添えてくれている手の暖かさのおかげだ

 

あぁ、悪くない…

 

ベルメール…ありがとう

 

 

 

 

マックスが落とした煙草を手に取り、一口吸う、煙が肺を刺激してむせてしまう

 

「…なんでこんなのを、美味しそうに、吸っていたのよ…」

 

彼が最後に残した言葉が頭に残っている

 

「悪くないって…当たり前でしょ、私が、恋人になったんだから…」

 

私の恋人、初めての恋人、愛しい人

 

「マックス!」

 

海兵という仕事柄、仲間が死ぬのは初めての事じゃない…

 

それでも私は、恋人がいなくなってしまった事が悲しくて人目を憚らずに泣いた

 

 

 

 

ロジャー船長の処刑が終わり落ち着いた頃、元ロジャー海賊団のみんなは

それぞれの道へと歩きだす

 

レイ養父さんを始めとした古参の人達は、ロジャー船長以外の人の下には着かないと

海賊を引退することを決めている…わたしはどうしようかな…

 

思い悩んでいるわたしに、この1年で少し背が伸びたシャンクスが話し掛けてきた

 

「久しぶりだなアカリ」

「うん、久しぶりねシャンクス」

 

目を腫らしたシャンクスを見て、彼も泣いていたんだと安堵する

 

「アカリはこれからどうするんだ?」

「…どうしようかしらね?」

 

世界一周を成し遂げて、わたしのこの世界を見たい、楽しみたいという思いは

ほとんど満たされてしまっている…本当にどうしようかしら?

 

「…正直、何も考えてなかったわ」

「そうか…」

 

そう言うとシャンクスは少し俯いてから、意を決したようにわたしを見てくる

 

「なら、俺と一緒にこないか?」

「え?」

「俺は、自分の一味をつくる!そして、ロジャー船長みたいな大海賊になる!」

 

そう言って笑うシャンクスの顔は、ロジャー船長と同じく無邪気に輝いて見えた

 

「アカリ!もう一度、海賊にならないか?」

 

3年前にシャンクスに誘われた時を思い出す、

落ち込んでいたわたしを導いてくれたあの言葉だ

 

「うん、いいわよ」

「そうか!ありがとう!」

 

自然に誘いに応えていたわたしだけど驚きはない、それよりも嬉しそうに笑う

シャンクスの笑顔が素敵だと思う。うん、格好良くなってきたわね

 

「それにしても、『俺と一緒にこないか』って、もしかして告白かしら?」

「え?あ、いや…」

「あはは、真っ赤になっちゃって、相変わらず子供よね」

 

こうしてからかうのも1年振りね、うん、やっぱりわたし達はこうじゃないと

 

「からかうなよ!俺も来年には15で大人だ!」

「来年ってことはまだ子供じゃない」

 

そうやってからかっているとシャンクスは赤髪をガシガシと掻いて悔しがる。

1つ深く息をしたシャンクスは真面目な顔になりわたしを見る…何よ?

 

「アカリ、好きだ。俺の恋人になってくれ」

「…え?」

 

その一言にわたしは固まってしまう、そして意味を理解して顔が熱くなる

 

「え、あ、その…」

 

応えようとするものの言葉にならない…落ち着きなさいよ、わたし!

 

「たぶん、一目惚れだったと思う。アカリを助けて、お礼を言われた時の笑顔を

 俺はずっと覚えている…あの時から俺は、アカリに惚れていたんだ」

 

わたしが返事をできない間もシャンクスの告白は続く

 

「でも俺は、その事にずっと気づかなかった…子供だったんだ、でも、

 この1年の間もアカリを忘れたことはない…俺は、アカリが好きだ!」

 

胸の鼓動が速くなる、恥ずかしくて、でも嬉しくて速くなる。

 

わたしはシャンクスをどう思っているの?…うん、そんなの、わかっていたことよね

 

シャンクスがまだ子供だからってずっと誤魔化してきたけど…

もう、自分に正直なろう…わたしは…

 

「うん、わたしもシャンクスが好きよ」

「そ、そうか!」

 

「まったく、あのタイミングで告白して断られたらどうするつもりだったのよ」

「…考えてなかった」

 

「そういうところが抜けているわよね、シャンクスって」

「ははは、すまん」

 

照れているのを隠すように続けられるわたし達の会話…

まぁ、これもわたし達らしいわよね

 

「それで、この後はどうするのかしら船長?」

「あぁ、まずは仲間集めだ!行こう、アカリ!」

「あ、ちょっと、待ちなさいよ!」

 

もう!せっかく恋人になったのなら手ぐらい繋いでいきなさいよ!

 

「仲間集めって、目星はついてるの?」

「あぁ、見習い時代に目をつけていた奴がいる!」

 

自分の目で世界を見てみたいって言っていたものね、

その頃から考えていたのかしら?

 

「ほら、アカリ」

 

そう言ってシャンクスが手を差し出してくる…もう、シャンクスのくせに生意気よ!

 

わたし達は走り出す、新しい時代を…ロジャー船長が作った時代を




次回で過去編は終わる予定です

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