ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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第14話

あの後、目を覚ましたら母さんの他に、独特な髪型をした美人さんと

なにやら立派な髭を生やした強面な男性がいた

 

美人さんはベルメール、髭の人はゲンさんと言うらしい

ちなみに母さんの名前はアカリだ

 

3人して俺が立つのを待っていたみたいだが、お腹がすいて泣いてしまった

 

そう、感情を抑えきれずに泣いてしまったんだ

 

これが、身体に感情が引っ張られているのか、まだ抑制の反動が

残っているのか判断がつかないが、まだ言葉を話せないので

他に意志を伝える方法も無く、仕方がないのでそのまま泣き続けた

 

そうしたら、なんと母さんが服をはだけだした

ちなみに、ゲンさんはベルメールさんに耳を引っ張られて部屋を出ていった

 

そう、まだ食事が授乳だったのさ…

 

離乳時期に意識が目覚めると言っていたあの老人に小一時間は説教したい

 

だけど本能なのか、なんの葛藤も無しに飲むことができて助かった

 

食事を終えて一息入れると、また俺が立つのを待つ3人の姿がある

 

だけど満腹感のせいかまた抗えない程の眠気がくる…おやすみ、みんな

 

 

 

 

俺が目を覚ましてから3ヶ月ほど経った

 

どうやら俺が目を覚ました時はまだ生後6ヶ月程だったらしい

そして、今は生後9ヶ月程だ

 

あれから、何度も掴まり立ちを繰り返し、それを母さんやベルメールさんに

目撃されて驚き、喜ばれたのだが、そんなに凄いことなのか?

 

なにせ、前世では生涯独り身だったのだから育児知識なんて皆無なのだ

 

知識と言えば、特典でもらうはずだった重力に関する知識なんだけど…

これっぽっちも無いってのはどういうことだ?

 

いや、前世での一般常識程度の知識はある…というか覚えているんだけど

少なくとも博士号どころか、論文を書く知識なんて欠片も無いぞ

 

あの老人が優遇するとか言っていたけど…まぁ無いものは仕方がない

 

そして俺は今、文字の勉強と発声練習をしている

母さんが本を読み、俺はそれを繰り返すように言葉にしている

 

なぜか母さんの膝の上で…

 

 

 

 

「ありがとうございます」

「あいあおうごじゃーまう」

 

ここ3ヶ月程は立つことからヨチヨチ歩きまで出来るようになったのだが

いまだに滑舌はよろしくない…

 

そんな訳で、母さんに本を読み聞かせてもらいながら発声練習をしているのだ

 

「キャー、可愛い!」

 

母さんはそんなことを言いながら膝の上の俺を抱き締めてくる

少し、いや、かなり子煩悩なのが今生の母さんだ

 

もう、歩けるようになったけど、話すのが苦手なのは大丈夫なのかと

ベルメールさんと母さんがDr.ナコーに確認していたのだが、

なんでも、俺があまり泣かなかったのが原因じゃないかとのことだ

 

つまり、発声に必要な身体能力がまだ発達していないということだ

 

その為、母さんと一緒に日々発声練習に勤しんでいるのが現状である

 

「おはようございます」

「おあおーごじゃーまう」

 

…先は長そうだ

 

 

 

 

目を覚ましてから6ヶ月程経って1歳になった

 

今では走れるようになり、滑舌もかなり良くなった

 

だが、最近母さんの調子が良くない…よく咳きをするようになり

しかも、その咳きに血が混じっている…

 

Dr.ナコーの診療所まで走り、俺はベルメールさんや

ゲンさん、そしてDr.ナコーにそのことを告げた

 

3人はなんとか誤魔化そうとしてきたが、俺はただの子供では無い

少なくとも30年以上の人生経験を引き継いだ子供なのだ

だから、母さんの状態が良くないのははっきりとわかる

 

前世では親孝行と呼べるものを何一つしてこなかった…

だからというわけじゃないが、俺の事を溺愛してくれる母さんに

なにか1つでもしてあげられることはないのかと思う

 

俺の様子に誤魔化すことができないと思ったのかベルメールさんが答えてくれる

 

ウイルス性の心臓病…それが母さんの病気で、余命は半年ほど…

 

その事を聞いた俺は、涙が止まらなかった

 

 

 

 

《賢い》この子を、シュウを見て思ったことだ

 

まだ1歳だというのにこの子はアカリの状態が良くないことを知り

私達にその事を話してきた

 

そして、シュウはアカリが長くないことを明確に理解して泣いている

わずか1歳の子供が死を理解して泣いているのだ

 

アカリは常々、シュウは天才だと親馬鹿を発揮してきたけど

今なら私にもわかる。この子は私達の誤魔化しを察して

本当の事を聞いてきたからだ

 

でも、今はその賢いことが残酷だと感じる…

 

シュウはアカリの余命を知り涙を流している…その小さな手を握り締めながら

 

「わたしに、なにか、かあさんにできることはないですか?」

 

本を読み聞かせて言葉を覚えさせたからなのか、シュウは日常的に

丁寧な言葉を用いて会話をする

 

これもアカリが凄く自慢をしていた

 

「…子供が変に気を使うんじゃないわよ」

「ですが…」

 

まだ滑舌はやや拙いが、明確に意思を持って会話をしてくる

本当に賢い子ね

 

「なら、子供らしくアカリに甘えてあげなさい」

「え?」

 

「いっぱい甘えて、思い出をたくさん作りなさい。それが、シュウが

 アカリにしてあげられることよ」

「べるめーるさん…」

 

悲しそうにしていた眼が変わった、うん、大丈夫そうね

 

「ほら、涙を拭きなさい。アカリに見られたら心配するわよ」

「はい…」

 

シュウにハンカチを渡そうとした時、外からアカリの声が響いた

 

「シュウ?ここにいるの~?ママに返事をちょうだ~い」

「ほら、アカリが来たわよ。ちゃんと甘えてきなさい」

 

アカリが診療所に入ってきて目を見開いた

 

「シュウ!?なんで泣いてるの?どこか痛いところでもあったの?」

 

涙を流しているシュウに武装色の覇気を使って急いで近づくアカリにため息がでる

…なんて覇気の使い方をしているのよ

 

「Dr.ナコー!シュウは大丈夫なの?」

「どこも悪い所はない。健康体じゃ」

 

「じゃあどうしたのシュウ?ゲンさんの顔が怖かった?大丈夫よ、

 ゲンさんはああ見えて良い人だから」

「おい」

 

ゲンさんが平手で空を叩いてアカリにツッコミを入れる

 

そんなゲンさんを放置してアカリはシュウを抱き上げた

それを見たゲンさんが項垂れる…ご愁傷さま

 

「ほら、もう大丈夫よ~、ママが一緒にいるからね」

「はい…かあさん」

「もう、母さんじゃなくてママでしょ?」

 

子供のように頬を膨らまして軽く抗議するアカリを見たシュウが

涙を拭いて、ニッコリと笑顔でアカリに応えた

 

「はい、ママ」

 

いつもは恥ずかしいからと呼ばない言葉を使いシュウがアカリを呼ぶ

 

念願の言葉で呼ばれたアカリはとても嬉しそうにシュウを抱き締めて

とても幸せそうだった

 

残された時間は少ないかもしれないけれど…思いっきり甘えなさい




次回からは毎週日曜日に投稿していけたらと思います

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