ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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第15話

「ママ、今日は何を作るのですか?」

「そうね、今日はビーフシチューを作るわ」

 

あの日、母さんをママと呼ぶようになってから6ヶ月程経った

 

俺がママと呼んだあの時から、ママの状態は安定して今に到る

 

Dr.ナコーが言うには、大きな感動が患者の病を改善することもあるとか…

 

そのおかげでママはまだ生きていられるが、それでも残された時間は少ないらしい

少しでも長く生きて欲しいと思う

 

「このビーフシチューはね、シュウのパパ、シャンクスも美味しいって

 言ってくれたわたしの得意料理なのよ」

 

自慢するように胸を張るママがなんとも子供っぽく見える

実際、凄く若いのでその仕草も似合っている

 

「だから、この料理の作り方をシュウに教えてあげるね。いつかシャンクスに

 会ったときに作ってあげて、わたしはもう作ってあげられないでしょうからね」

「ママ、そんなことは…」

 

ママが顔を横に振りながら言葉を続ける

 

「シュウのおかげで少しだけ長く生きることができたけど…多分、後半年ぐらいで

 わたしは死んじゃうでしょうね…ごめんね、シュウ」

「ママは死ぬのが怖くないのですか?」

 

ママが俺を優しく抱き締めてくれる

 

「怖いわよ。でもね、それ以上に幸せなの。生きてるって感じるの」

 

「周囲に流されるままに、常識に抑えられて惰性で過ごしていくのは

 死んでいないだけで、今みたいに生きてるって感じなかったわ」

 

「だから、自分の思うままに、自由に生きてね…愛しているわ、シュウ」

 

ママの言葉が心に染み込んでいく…涙が溢れだす

 

「ふふ、それじゃビーフシチューを作ろっか、ベルメールがお仕事に

 行っているのを後悔するぐらい美味しいビーフシチューをね」

「はい、ママ」

 

ママが自分の服の袖で涙を拭ってくれる、このこと1つで俺の心は晴れてしまう

母親というのは…凄いんだな

 

「あ、そうだ」

「どうかしましたか?ママ」

 

なにかイタズラでも思い付いたかのような顔をしているが…

 

「わたし、まだシュウに愛してるって言ってもらってないわよ?」

 

そんなことを満面の笑顔で言われても…

 

「それは、父さんの役目ではないでしょうか?」

「シャンクスにはいっぱい言ってもらったから大丈夫よ♪」

 

両親の惚気ってキツイんだな…

 

「ほらほら、ママに愛してるって言ってよ」

「えぇ…」

「あぁ~くるしい~愛してるって言ってくれないとママしんじゃ~う」

 

そんな棒読み気味に言われても…

 

恥ずかしいという思いはある。でも、後悔はしたくない

 

なら、俺にできる限りの思いを込めてママに言おう

 

「私も愛しています、ママ」

 

 

 

 

「私も愛しています、ママ」

 

顔を赤らめながらもそう言ってくれる息子が愛しくて抱き締める

 

どこかその仕草がシャンクスを感じさせて、あの人の子なんだと実感させてくれる

 

ふふふ、幸せだなぁ…

 

シュウ、最後の時までママはいっぱい愛してあげるからね

 

 

 

 

「お帰り、ベルメール」

 

ベルメールが半年振りにココヤシ村に帰ってきたのを出迎える

 

ロジャー船長が創り出した大海賊時代により爆発的に増えた海賊に対処するため

今、海軍全体で人事が順次一新されていっている状態みたいね

 

それと、1年以上前に脱獄した金獅子のシキと、オハラの悪魔とされた

ニコ姉妹への対処もあって凄く忙しいみたいね

 

「ただいま、アカリ。あれ、シュウはどうしたのよ?」

 

ベルメールはわたしの命が短いことをガープさんに正直に告げて

優先的に休みを貰っているみたい…ありがとう、ベルメール

 

「お昼を食べたら寝ちゃったわ」

「そう?…そういえば良い匂いがするわね」

「ビーフシチューを作ったのよ、シュウと一緒にね」

 

まだ背が低くて届かないから椅子の上に立って覗き込んでいる姿は可愛かったわ

 

「相変わらず1歳児とは思えない行動力ね」

「ふふん、シュウは天才だから♪」

 

本当に自慢の息子だわ

 

「あ、そうだベルメール、これ飲んでおいて」

「なによこれ?」

「まぁ予防薬ってところね。さっきシュウにも寝る前に飲んでもらったから」

 

残された時間が少ないわたしが残せる数少ないもの…

これが発揮されないほうがいいんだけどね

 

「そうなの?じゃあ…マズッ!!」

「あはは!シュウも同じ反応してたわ」

「もう、口直しにビーフシチュー貰うからね」

 

そういって、さっさと家の中にベルメールは入っていった

 

「ごめんってばベルメール」

 

笑いながら後を追う。さてと、パンも用意しないとね

 

 

 

 

あれから時間は経ち、わたしの息子、シュウが2歳を迎えた頃

わたしは体に力が入らなくなってきた

 

体と意識が離れていくような感覚…見聞色の覇気を使わなくてもわかる…

いよいよ終わりの時がきたみたいね

 

わたしのベッドの横にシュウとベルメール、ゲンさんにDr.ナコーがいる

 

わたしの最後を看取ろうとこうして集まってくれた

 

「ママ、喉は渇いていませんか?」

「大丈夫よシュウ」

 

シュウが涙を流しながらわたしに話しかけてくる

わたしの死期が近いことを明確に理解して悲しんでくれている

 

本当に賢い息子だわ…

 

「アカリ、あの手紙は必ず届けるからね」

「うん、お願いねベルメール」

 

ベルメールに3通の手紙を預けた。相手はレイ養父さん、ワノ国の家族

そして、シャンクスだ

 

ただ、普通に送るとわたしが元ロジャー海賊団だったこともあり、

検閲される可能性があるので手紙はレイ養父さんに届けてもらうことにした

 

その後は、レイ養父さんにワノ国の家族と、どこにいるかわからない

シャンクスの所に送り届けてもらう…お願いね、レイ養父さん

 

「それじゃ、私とゲンさん達は席を外すわね…最後までしっかりと

 甘えなさいよ、シュウ」

「ふふふ、甘えるのはわたしの方よベルメール」

 

わたしの言葉を聞いた3人が部屋を出ていく、息子と2人にしてくれた

 

シュウは涙を流し続けている…ありがとう、シュウ

 

「シュウ、わたしになにか言うことはない?」

「…愛しています、ママ」

「ふふ、ありがとう」

 

あぁ、幸せだなぁ…前世よりも短いけれど、ずっと生きたと感じる一生だったわ

 

「シュウ、手を握ってくれる?」

「…はい」

 

医者の真似事をして、海軍に入って、海賊になって、本当に楽しい日々だったなぁ

 

「シュウ、わたしの所に生まれてきてくれて、ありがとう」

「…はい」

 

お母様、お父さん、ユカリお姉ちゃん、ヒカリ、レイ養父さん…

わたし、ママになれたわ

 

シャンクス、わたしの恋人になってくれてありがとう

シャンクス、わたしを愛してくれてありがとう

 

そして…

 

「シュウ、愛してる」

 

 

 

 

その言葉を最後に俺の今生の母、アカリは目を閉じた…

 

ママが死んだ事が悲しくて、言葉もなく泣き続けた

 

まだ22歳の若さだ…それでも、その顔は幸せそうに微笑んでいた…

 

「ママ…私、の方、こそ…」

 

嗚咽で言葉がつっかえてしまう…最後までちゃんと伝えるんだ!

 

「ママ、愛してくれて、ありがとう」

 

俺の言葉が届いたのか、アカリママの顔は微笑みが深まったように見えた…

 

俺が2歳になった年の7月3日、アカリママは眠るように亡くなった




これでアカリは物語から退場となります

過去編を書いていくうちに、お気に入りとなったキャラだったので
ここで退場させるのは本当に惜しいと感じています…

アカリの生き様が後にこの世界にどういった影響を与えるのか
そこら辺も書き表すことができたらいいですね^^

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