ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です


第26話

「やはり、ここにいましたか」

 

わたしの2歳年上の男の子、シュウがわたしを追いかけてきた

 

「…なんでわかったの?」

「いつも一緒にいますからね。ある程度ですが、予想はできますよ」

 

ベルメールさんにひどいことを言ってしまったわたしは

感情がごちゃごちゃになってしまい、泣きながら家を出てしまった

 

どこに行こうとか考えてなかったのに、シュウにはお見通しだったみたい

 

「…わたし、ベルメールさんに酷いことを言っちゃった」

「そうですね」

 

わたしの隣に座りながら、シュウは頷いていた

 

「シュウ、どうしたらいい?」

「ナミはどうしたいのですか?」

 

わたしが聞いたのに逆に聞き返された…

 

「…ベルメールさんに謝りたい」

「では、そうすればいいでしょう」

 

そんな簡単に言わないでよ…

 

「ここに来る前に、ベルメールさんには少しゆっくりしてくると伝えました

 なので、ナミが気持ちを落ち着かせる時間はありますよ」

 

…どこまでお見通しなんだろう

 

シュウとはずっと一緒にいる。わたしに物心がつく前から一緒に

 

わたし達の家には本がいっぱいある。わたしもノジコも

シュウに本を読んでもらって文字や難しい言葉を覚えた

 

シュウはノジコと同い年なのに色んな事を知っている

 

大人のベルメールさんやゲンさんよりもいっぱい色んなことを知っている

 

だからなのかココヤシ村の人達はシュウの事を《天才》って言っている

 

そして、シュウは凄く落ち着いていて大人みたいな男の子だ

 

ココヤシ村や近くの村にいる年の近い男の子達とは全然違う

 

スカートを捲ろうとしたり、虫を持って見せびらかしたりしてこない

それで嫌がる女の子を見つけると、優しく男の子を注意したりしている

 

そのせいなのか、シュウは村の女の子達に人気がある

 

大人っぽくて格好良いって、女の子達がよく口にしている

 

わたしも家族としての贔屓目無しに見ても格好良いと思う

 

波打つ紫の髪に整った顔立ち、落ち着いた物腰と優しい性格

 

それに漁をして魚を取ってくれたり、畑仕事や家事なんかも率先してやってくれる

 

そんな自慢の家族なのがシュウよ

 

「どうしました、ナミ?」

「え?なんでもないわ」

 

少し考え事をしていたらシュウの顔を見てボーっとしていた。気をつけないと

 

「風が気持ちいいですね。今日は雨の心配はなさそうですか、ナミ?」

「…うん、大丈夫よ」

 

目を閉じて風を感じ、わたしはシュウに返事をした

 

いつの日だったか、わたしは何となくだけど天気を感じられるようになった

 

言葉にはできないけれど、空気が乾いているとか重いとかがわかるのよね

 

シュウが昔、どうして雨が降るのかとかを教えてくれてから

一時期、ずっと空を見ていた時があった

 

そうやってずっと見ていたら、ふと、雨が降るって予感がして

洗濯物をしまったほうがいいとベルメールさんに言ったことがある

 

空は雲1つない青空だったから信じてくれなかったけど

シュウがまた干せばいいと言って取り込んでくれた

 

洗濯物を取り込み終わって30分も経つと空模様が急に変わって雨が降ってきた

 

ベルメールさんは吃驚していて、ノジコは偶然だと言っていたけど

シュウは頭を撫でて誉めてくれた

 

それが嬉しくて、それからはずっと天気を見るようにしている

 

他にもシュウは、わたしが海図に興味を持って、世界中の海図を

自分の目で見て描きたいと言ったらすぐに応援してくれた

 

このわたしの夢はシュウだけじゃなくて、ベルメールさんも

ノジコも応援してくれたのが凄く嬉しかった

 

それからは、シュウが漁で獲った魚を商人の人に売ったお金で

ペンや紙をわたしにプレゼントしてくれる時がある

 

それだけじゃない、毎年わたしやノジコ、ベルメールさんの誕生日に

そのお金でビーフシチューを作ってくれる

 

それが凄く美味しいの

 

…思い出したら食べたくなっちゃった

 

「さて、そろそろ帰りましょうか、ナミ」

「うん」

 

そう言って、先に立ち上がったシュウはわたしに手を差し出してくれた

 

3年前は意識せずに取っていた手、そして今は意識して取っている手

 

シュウと手を繋いでいると嬉しくて、暖かくて、少し胸がドキドキする

 

これが何なのかわからなくてベルメールさんに聞いてみたんだけど

なんかニヤニヤして教えてくれなかった

 

そして、何処かで聞いていたノジコがそのことをベルメールさんと

一緒にからかってくるようになった

 

よくわからないけど恥ずかしいのでやめて欲しい

 

でも、シュウと手を繋ぐのをやめるつもりはない

 

村の女の子達が羨ましそうに見ていることがあるけど譲るつもりはない

 

「シュウ」

「どうしました、ナミ?」

 

この気持ちが何なのかまだわからないけど、精一杯の気持ちを込めて言おう

 

「ありがとう、シュウ」

 

目を見開いて驚いているシュウの手を曳いて家に帰る

 

暖かい風が気持ちいい日

 

ベッドもお日様の匂いがして今日はよく眠れそうね

 

その後、家に帰ったわたしはベルメールさんに酷いことを言ったことを謝った

 

でも仕返しなのか、シュウと手を繋いで帰ったこととかを

からかわれて凄く恥ずかしかった

 

 

 

 

『ありがとう、シュウ』

 

ナミの一言とその時の笑顔が頭から離れない

 

太陽のように明るい笑顔

 

赤ん坊の頃から見せてくれていた笑顔、あの頃よりも魅力的に感じる笑顔

 

胸がドキドキしている…多分、顔も赤くなっているかもしれない

 

前世では一度も経験したことのないものだが、それでもこれが何なのかは察しがつく

 

家族として守ろうと思っていた女の子、妹のように思っていた女の子

 

いいのか?俺は元は三十路過ぎの大人だぞ?

 

そんな葛藤が1年前から続いている…答えは出ていない

 

転生前には確かに恋人が欲しいと思った。それがナミのように可愛い女の子なら最高だ

 

だが…

 

考えはずっと堂々巡りだ

 

俺は視線を下げて繋いでいる手を見る

 

ナミが無邪気に手を繋ぎ俺を引っ張っている

 

「シュウ!わたし、ビーフシチューが食べたい!」

 

ナミの言葉に心が落ちつく

 

「ナミの誕生日に、また作りますよ」

「え~、シュウのケチ~」

 

ナミが文句を言っているが、その顔は笑顔だ

 

胸のドキドキは止まらない、答えは出ない

 

でも…もう少し、このままで…

 

 

 

 

「うわぁ―――!腕が伸びた―――!!」

 

俺はルフィのその声に振り向いて驚く

 

「おいルフィ!お前、こんな形の実を食ったか?!」

「あぁ、デザートで食った。不味かったけどな」

 

俺はルフィの言葉に頭を抱える

 

一味の仲間であるラッキー・ルウがルフィに悪魔の実の能力者のデメリットを話している

 

泳げなくなったとわかったルフィは叫んでいた

 

ルフィ…こっちが叫びたい気分だぜ…

 

「シャンクス、どうする?」

「ベックマンか…食っちまったもんはしょうがないだろう?」

 

シュウを探してもう7年になる

 

これだけ時間をかけてしまった以上、息子に手土産の1つでもと

グランドラインで悪魔の実を手に入れていたのだが

今回、フーシャ村で情報集めをしながら酒場で飲んでいたらルフィに食われてしまった

 

「それで、そっちはどうだった。ベックマン」

「あぁ、目星はついた…ココヤシ村だ」

 

この7年で初めて具体的に村の名が出た

 

「ココヤシ村?」

「あぁ、その村では《天才》と呼ばれている少年がいる。7年前の当時2歳だった時に

 大人顔負けの知識を披露していたらしい」

 

7年前に2歳…シュウと同じ年齢だ

 

「その少年の特徴は波打つ紫の髪らしいな…そして、その少年の名前はシュウだ」

 

アカリと同じ髪に息子と同じ名前…

 

「ベックマン!」

「あぁ、今回は当たりだろう」

 

やっと見つけた!

 

「よし!今日は俺の奢りだ!飲むぞお前ら!」

「「「宴だ―――!」」」

 

俺は小樽型の杯に注がれているエールを一息で空ける

 

うまい!

 

今日のエールは一段とうまい!いくらでも飲めそうだ!

 

「それで、どうするんだ?シャンクス」

「…そうだな、迎えにいくのは来年にしよう」

「いいのか?」

 

驚いたようにベックマンが尋ねてくる

 

「シュウへの手土産はルフィに食われちまったし、シュウを育ててくれた相手にも

 礼をしなくちゃならない。さすがに手ぶらというわけにはいかないだろう?」

「…シャンクスがそれでいいのなら構わない。なら、グランドラインで

 しっかりと稼がないとな」

 

そう言ってベックマンも杯を空ける

 

そうだ!こんな目出度い日には飲むのが海賊だ!

 

「なぁシャンクス、また近い内に海に出るんだろ?俺も連れてけ!」

 

いつものようにルフィが絡んでくる

 

ナイフで自分の頬を刺したりと色々と退屈しない奴だ

 

「はにふるんだー(なにするんだー)」

 

ルフィの怪我をしていないほうの頬を引っ張ってみるとゴムのように伸びる

 

「はっはっはっは!」

 

あぁ、愉快だ!最高の1日だ!

 

俺はまた杯を空ける

 

シュウよ、俺の《宝》よ!待ってろよ!




夕方の投稿は17:00になります

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