ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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本日3話目です


第30話

「何の用だ、小僧」

 

アーロンがライフルをベルメールさんに向けたまま、俺を睨んでくる

 

心臓を握られたような感覚がしたが、強く息を吸い込み話し出した

 

「アーロン、貴方は税を納めれば命を保証すると言いました。

 なので、その税を持ってきたのですよ」

「俺達に逆らえばその限りじゃねぇとも言ったはずだがな、小僧」

「えぇ、そうですね。ですが、貴方は支配すると言いました。略奪主義ならば

 殺して奪えばそれで済むはずです…何故でしょうか?」

 

横目で睨んでいたアーロンが顔をこちらに向けた

 

どうやら興味をひけたようだ

 

「貴方の目的が何なのかはわかりませんが、税を払う者を殺すのは

 おそらく目的から外れるのではないですか?」

「小僧…」

 

…もう一息かな?

 

「私達人間を下等な種族と言っていた貴方が支配すると言うのならば、

 生かしておいた方が優位を見せつけることができると思いますが」

「いいだろう、小僧。今回はその口車に乗ってやる。ハチ!金を確認しろ!」

 

腕が多い魚人が俺の持っている袋を取りにきた

 

「にゅ~、それじゃ数えるから大人しくしていろよ?」

「えぇ、お願いします」

 

袋を渡した俺はベルメールさんに近づいていく

 

「なんだ小僧、まだ税は確認してないぞ」

「…すでに格付けは済んだと思いますが、話すことも認められませんか?」

 

少し目を見開いたアーロンが上機嫌に笑い出した

 

「シャハハハハ!確かにその通りだ!いいだろう、話すことを認めてやる」

 

アーロンは踏みつけていた足をどかし、ベルメールさんから離れていった

 

「大丈夫ですか?ベルメールさん」

「…シュウ、何で出てきたのよ」

「家族を守るためですよ…もっとも、足が震えるほど怖かったので

 出てくるのが遅くなってしまいました。申し訳ありません」

 

ベルメールさんは体を起こし、怪我をしていない左手で俺の頭を撫でてきた

 

「とりあえず助かったわ、ありがとう、シュウ…ところで、あのお金は?」

「アカリママが残したお金ですよ。なので、どう使おうと私の自由です」

 

ベルメールさんの顔に少しだけ笑みが浮かぶ

 

もっとも、この後で曇ることになるんだろうけどな…

 

ごめん、ベルメールさん

 

「ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な…にゅ~、アーロンさん、10万ベリーしかないよ」

「…どういうことだ、小僧」

 

さて、ここからが正念場だな

 

「えぇ、その10万ベリーで合計25万ベリーです」

「足りねぇな」

 

声が震えそうになる…俺は、腹に力を入れて答えた

 

「大人1人15万ベリー、私を除いた子供2人で10万ベリー、合わせて25万ベリーですね」

「なっ!?シュウ、あんた何を言ってるの!」

 

ベルメールさんが食って掛かってくるが、これが最善なんだ

 

「死にたいのか、小僧」

「死にたくないですね。ですが、これが最善ですので」

「シュウ!それなら私が!」

 

ベルメールさんが俺をかばう様に抱き寄せるが、俺はそっと首を振る

 

「ベルメールさん、私達、子供3人が残されて、この先やっていけると思いますか?」

「みんな畑を手伝ってきたから、世話や収穫は大丈夫でしょう?だから!」

「ココヤシ村が支配されることで、商人との交渉にどんな影響がでるか想像ができません」

 

ベルメールさんが、ハッとしたような顔になる…気づいたかな?

 

「ベルメールさんなら、これまで何度もやり取りをしているので商人の信用もありますが

 私達では買い叩かれる可能性もあります。なので、ベルメールさんには

 生き残って貰わないと困るのですよ」

「でも、それじゃあんたが!」

「…ありがとう、母さん。でも、これが最善なのですよ」

 

ベルメールさんが涙を流している

 

…覚悟は決めた筈なんだけどな

 

「アーロンは税を納めれば命は保証すると言いました。ですが、次回以降も継続して納めるには

 私よりもベルメールさんの力が必要なのです」

「シュウ…」

 

ベルメールさんは項垂れ涙を流し続けている

 

母親を泣かせて、悪い子になった気分だ

 

「さて、そう言うわけです。なので、貴方に処断されるのは私ということになります」

「…そうか」

 

俺はそう言いベルメールさんから離れると、アーロンがライフルを俺に向ける

 

「「シュウ!」」

 

この状況に我慢できずにナミとノジコが出てきてしまった

 

「隠れてなさいと言った筈なのですがね…」

 

ナミとノジコがこちらに向かって来るので、手を向けて制する

 

すると2人はベルメールさんの元へ行き、すがり付いた

 

「ベルメールさん!シュウが!」

「ごめん…ごめんね、ナミ、ノジコ…」

 

ベルメールさんが2人を抱き締める

 

「小僧、言い残すことはあるか?」

「おや、思ったよりも情があるのですね」

「シャハハハハ!足を震えさせながらよく言うな、小僧」

 

ほっとけ鮫野郎!でも、格好つけたのなら最後までやらないとな

 

俺は両手で顔を張る

 

ベルメール母さんがよくやっている行動だ

 

うん、痛いけど足の震えは止まったな

 

「ゲンさん、お世話になりました」

「シュウ…すまん!」

 

「ノジコ、あまりナミをからかいすぎてはいけませんよ。お姉さんなんですから」

「うぅ…う、うん!」

 

「ベルメールさん…いえ、ベルメール母さん、ありがとうございました

 ナミとノジコをよろしくお願いしますね」

「シュウ…ごめん、ごめんね…」

 

「ナミ…」

「シュウ!やだぁ!」

 

ナミが食いぎみに言葉を返してくる

 

さて、こんな場面だけど…いや、こんな場面だからこそ、ちゃんと気持ちを伝えよう

 

後悔しないように…

 

「ナミ、好きです」

「…え?」

 

「家族としても、もちろんそうですが、私は1人の男としてナミが好きです」

「え…あ、シュウ…」

 

ナミが顔を赤らめている…うん、眼福である

 

こんな時だけど、笑いそうになる

 

「素敵な女性になってくださいね」

 

ナミに微笑んだ後にアーロンへと向き直る

 

アーロンはライフルを俺の左胸辺りに狙いをつけてくるが

不思議と恐怖を感じない

 

「下等な人間にしておくには惜しい《男》だったぜ、小僧」

 

その言葉と共にアーロンが引き金を引いた

 

パァン!

 

どこか乾いたような音が耳に残り、強い衝撃で後ろに倒れてしまう

 

「「「シュウ―――!」」」

 

ベルメールさん、ナミ、ノジコの声がなんか遠く聞こえる

 

一瞬遅れて、腹に熱さが来る

 

我慢できずに両手で抱え込むようにして抑える

 

「ん?…運が良かったな小僧、俺が銃を噛んだことでどうやら曲がっていたらしい

 もっとも、余計に苦しむ羽目になったようだがな!シャハハハハ!」

 

腹の熱さで思考が回らない

 

「喜べ小僧、いいことを思いついた。てめぇは見せしめがどうとか言っていたな?

 腹に穴の空いたてめぇを海に捨ててやる。魚達の人気者になれるだろうよ、シャハハハハ!」

 

腹の熱さが強烈な痛みに変わってきた…これならまだ我慢できる

 

アーロンが倒れている俺の頭を鷲掴み、持ち上げる

 

「もっとも、さっきのように運がよけりゃ生き残るかもなぁ、小僧、シャハハハハ!」

 

…可能性があるなら抗ってやるさ

 

死ぬ覚悟は決めていたが…アカリママとの約束を忘れたわけじゃない!

 

「…では、生き残り、貴方達へ、報復、するとしましょう」

「シャハハハハ!」

 

アーロンが俺の言葉を笑い飛ばし、俺を掴んでいる腕を振りかぶる

 

「「「シュウ!」」」

 

みんなの声が聞こえる

 

俺は精一杯の笑顔をして声を発した

 

「…いってきます!」

 

ブォン!

 

アーロンが俺を全力で海へ向けて投げる

 

みんなが俺の名前を呼ぶが、声が遠くなっていく

 

俺は今日の出来事を記憶に刻み込んでいく

 

俺の家族の自由を奪った怒りと共に…




次は15:00に投稿予定です

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