細かい事は気にしちゃいけないんだぜ☆(主にズァークさんやレイさんの性格やカードのオカルト効果
俺の名前はズァーク。かつて世界で一番強いデュエリストとして君臨し、そして世界を混沌へと導いた者だ。
現在は零羅とかいうガキの中に封印されている。ちなみに扱いとしては「悪の魂」なんだとさ。まったく、嫌になるな。俺がこんな風になったのは俺だけのせいじゃないのに。
俺はかつてプロデュエリストとして充実した日々を送っていた。それが変になったのは、俺が質量を持ったソリッドビジョン……リアルソリッドビジョンシステムを用いたデュエルで相手に重傷を負わせてからだ。俺は自分がしてしまった事に恐怖したというのに、そんな俺に降り注いだのは罵声ではなく歓声だった。それからの俺のデュエルにはより過激なものが求められ、それは他のデュエリストにも伝播していった。悪夢の始まりさ。
デュエルに過激さが伴うようになってから、俺が聞いていたモンスター達の声に苦悶が混じるようになった。しかし勝ち続ける俺は後戻りすることも、止まることも出来なくなっていったんだ。
そして周囲が俺に過激さを求め始めそれが加速した結果、俺は世界を滅ぼしかけた。
今思えば俺はその期待に応えようとする心と、共に戦うモンスター達の苦悶の声に板挟みになっていたんだろう。そして知らず知らず、俺は破滅への道を歩み始めていた。
きっと俺は、途中から狂ってしまっていた。
…………といっても、それもすでに過去の事。こうして封印なんかされちゃいるが、今では俺も開き直ったものだ。
俺の魂が封印された影響なのか、少年だった零羅は赤ん坊になってしまった。赤ん坊になるといっても中身だけ幼児退行したとかでなく、本当に体ごと赤ん坊になってしまったんだ。
最初の頃は俺の魂の影響か笑顔を無くしてしまっていたが、俺の分身である榊遊矢と兄である赤馬零児のデュエルを見る事によって彼は笑顔を取り戻した。
で、その後の成長を見守るうちに俺もかなり丸くなったというか……なんというか、正気に戻っていった? うまい表現が思い浮かばないが、とにかく穏やかな心を取り戻していったんだ。今では零羅の守護霊気取りである。……まあ、そんな奴は"もう一人"居るがな。
そういえば誰に言うでもないが、断言しておきたいのは俺が穏やかになったのは零羅のおかげであり断じて榊遊矢のエンタメデュエルのおかげなんかじゃないってことだ。俺、あいつ嫌いなんだよな。
だってずるいじゃないか。俺には誰も居なかった。俺の表面ばかりを見て結果だけを求めてはやし立てる奴らばかりが俺の周囲を取り巻いていたのに、あいつにはたくさんの仲間がいた。そしてやっと分身4人がひとつになって復活できたと思ったら「遊矢を返せ」だの「戻って来い遊矢」だの、遊矢遊矢遊矢……煩いったらないっつーの!! 俺は生きてちゃいけないのかよ!
そりゃあ色々したさ。世界を滅ぼしかけて、忌々しいクソ女のカードも一因であるとはいえ結果世界を4つの次元に引き裂いた。
けど、俺にも榊遊矢みたいに仲間がいたら……俺に「無理に戦わなくていい」「楽しく無いならやめていい」って言ってくれる奴が一人でもいたら……。……やめよう。過ぎた事でセンチメンタルになるのはごめんだ。
とにかく、俺はあいつが嫌いだ。でもそんな俺が嫌いなあいつは、近々結婚するのだという。
『あいつも、もう二十歳か。早いな』
『そうね~。時間が過ぎるのは早いわー』
『ババ臭いなお前』
『はあぁ!? 何よ失礼ね!』
『おまけにヒステリーときてる。更年期障害って奴か? ハハハ!』
『ちょっとそこ正座しなさいよズァーク』
『嫌だね。というかお前、そのハリセンは何処から取り出しんたんだ。分身に影響され過ぎじゃないか?』
『ぶー。柚子は私の分身だけど分身じゃありませんー。あれだけ自我が確立してるんだし、もう別人と思ってるわ。ま、妹とか娘みたいなもんよ。あなたにとっても遊矢くんはそんな存在じゃない?』
『息子か弟みたいに思えって? 冗談だろ』
俺の独り言に勝手に相槌をうって、ちょっと突いたら簡単に怒りだす単純女……。こいつの名前は赤馬レイ。かつてモンスターと一体化し、覇王龍ズァークとなった俺を4枚のカードを用いて次元ごと引き裂いて封印したとんでもない女だ。
今では世界を滅ぼそうとした俺を止めてくれたことに感謝もしているが、基本的に馬が合わないので未だに礼は言っていない。
こいつは俺が零羅に封印される前に零羅の体を借りて復活した俺を再び封印しようと画策していたようなのだが、俺が零羅の体に入った時にその魂は俺と入れ替わるようにはじき出された。そしてその魂はレイの分身である柊柚子の体に他の分身と同じく収まった……はずだった。
しかし何故か最近になって、こいつはひょっこり零羅の体に戻ってきたんだ。「あなた一人じゃ暇でしょ? 私も役割を終えて行くとこなくなっちゃったし、ここに居させてよ」とか言っていたが、一人悠々と零羅の成長を見守っていた俺としては邪魔でしょうがない。こいついちいち口うるさいんだよな。すぐ怒るし鬱陶しい。
『相変わらずあなたは遊矢くん嫌いよね』
『…………だって、あいつはずるい』
『はいはい。そうよね~。本当はあなたもデュエルしたいのに出来なくて、遊矢くんはプロとして大活躍してるのが羨ましくてしょうがないのよね~。あの子はズァークと違って友達もたくさん居るしー』
『お前本当にムカツクな。なんだ、そのあやすみたいな言い方』
『だってズァークあなた子供っぽいんだもの。そりゃあ、子供をあやすような口調にもなるってもんよ』
『お前はババ臭いな』
『黙れ』
…………まあ、退屈はしないが。
とにかく、俺はデュエル出来ない不満はあるが今のところ心穏やかに零羅の中で過ごしている。しかしこうして思考する余裕があるからこそ、気がかりも出てくるわけで。
『…………それにしても、4人も人格詰め込んだまま結婚して大丈夫かあの二人』
『あ~……そうよねぇ』
あの二人というのは、榊遊矢と柊柚子のことだ。この二人は4年ほどの交際期間を経て、今度結婚する。榊遊矢は嫌いだが、まあそれでも一応俺の分身。祝ってやらない事も無い。……しかし、問題はその二人の中身だ。
4つの次元に世界が分裂した時、俺の魂も4つの人格に分かれてそれぞれ4人の人間として転生した。それはレイも同じだ。
榊遊矢、ユート、ユーゴ、ユーリ。
柊柚子、黒咲瑠璃、リン、セレナ。
今では統合され、それぞれ榊遊矢と柊柚子の中に全ての魂が収まっている。本来の主人格である俺とレイを欠いた状態ながら、奴らは現在それで安定しているようだ。
しかし安定してると言っても、本当にそうかと言われたら疑問である。なにしろ表層に出てくることは無くとも、一人の体に4人の魂。元は一つの魂でも、レイの言葉を借りるわけでは無いがそれぞれ自我を確立した別人なのだ。それが一つの器に納められている姿は歪だろう。
一応赤馬零王は各人格の知人や家族のために分離できないか研究を続けているようだが、その成果は芳しくない。奴自身もどうにかもう一度娘であるレイと対話出来ないものかという望みもあるようだが、そのレイはすでに柊柚子の中には居らずここで呑気に世話焼きババアみたいな事を日々呟いている。
……レイとしてはすでに自分は過去の存在だと割り切っているようなので、父である零王は少々不憫だな。……この女の鉄や鋼のようなメンタルはどうやって形成されたのだろう。割と本気で謎だ。色々世論に振り回された俺としては、その強さが少しばかり羨ましい。絶対に言ってやらないが。
とにかく、存在としては安定していても中身の人格連中を思うと色々複雑ではないだろうか……と、想像するわけだ。
だってあれだろ? 結婚して、まあ色々するわけだろ。色々。でもってその全てを常に分身たちに見られている状態なわけだろ。……少なくとも俺だったら絶対に嫌だ。
俺がそんな風に想像して顔をしかめていると、ふいにレイがひとつ提案をしてきた。
『ねえズァーク、あなたどうせ暇でしょ。私の考えに一枚かんでみない?』
++++++++++
榊遊矢がプロになってから6年が経過し、幼馴染である柊柚子と交際を始めてからは4年が過ぎた。交際を始めた当初は周囲に驚かれるどころか「やっとか」「遅いよ」「え、付き合ってなかったの?」などと散々言われたものだ。
二人としてはゆっくり幼馴染から恋人へと変わった関係を育んでいこうと思っていたのだが、双方が成人を迎えた事でいよいよ周りが煩くなった。言い方はそれぞれ違うが、その内容は総じて「さっさと結婚しちまえよ」である。そしてそんな友人知人家族に後押しされる形で、本日挙式となったわけだ。
当初、二人は自分の中に生きる別次元の存在のため結婚を渋った。せめて赤馬零王が自分達から3人の人間を分離させるその日が来るまで、結婚は控えた方がいいのではないか、と。
しかしそれぞれの次元で自分たちの中に居る者達の縁者が「幸せになってくれないか」と申し出たため遊矢と柚子は結婚を決意した。……彼らがどんな想いでその言葉を口にしたのか正確なところは分からない。しかし、彼らの心に応えたいと思ったのだ。
遊矢は人生の晴れ舞台を前に緊張しつつもプロとして、エンタメデュエリストとして培ったメンタルをもってしてどうにか無様な醜態は晒すまいと高鳴る心臓を抑えていた。しかし平静を保った心も、花嫁衣裳を身にまとった柚子を見た瞬間にあっという間に崩れ去る。
銀色の糸で繊細な刺繍が施された純白の衣装に、白い花があしらわれたベールが濃い桃色の髪の毛を優しく包み込む。ほっそりした手首には、かつて大自然のエナジーを宿したカードとして存在していたものが腕輪となって4つ収まっていた。
そしていつもと違う化粧が施された顔は、しとやかな表情も相まって柚子を遊矢の知らない大人の女性に錯覚させる。しかしその大人びた表情も遊矢を見た途端、あどけなさを感じさせる花のような笑顔に染められた。
「ど、どうかな? えへへ。試着の時もビックリさせようと思って見せなかったもんね。初めて見た花嫁姿の私はいかが?」
「………………」
「遊矢?」
照れ隠しするように茶化した口調で尋ねてくる柚子に遊矢は咄嗟に答えることが出来ず、そんな遊矢を柚子が不安そうに眉尻を下げて見つめた。それにはっと我に返った遊矢が慌てて答える。
「き、綺麗だよ! 凄く!」
「本当?」
「ああ! 綺麗だ……………本当に…………」
思わず見惚れたままぼうっと突っ立っていると、その遊矢の背中を勢いよく叩く者がいた。
「いた!?」
「遊矢。あんた、柚子ちゃんに見とれるのもいいけどシャキッとしな!」
遊矢の母、洋子である。見れば父である榊遊勝もいつのまにか居たようで「気持ちは分かるぞ。柚子ちゃん綺麗だもんな」と言って遊矢と柚子を照れさせた。
そしていよいよ式の本番。4つの次元からそれぞれ縁の深い者達が集まり、すでに有名プロデュエリストとして名を馳せていた遊矢の結婚式とあって呼んでもいないマスコミやファンまでもが集まっていた。しかし遊矢としてはそれに関して煩わしく感じる事など無く、むしろ歓迎したいくらいだ。……というのも。
「レディース&ジェントルメーン! 皆様、今日は私榊遊矢と柊柚子……おっと失礼、柊ではなく今はもう榊柚子でした。ゴホンッ。改めまして、本日は私共の結婚式にお越しいただきありがとうございます! そしてこの私榊遊矢、せっかく来てくださった皆様を祝福だけ受け取って返そうなんてケチなことは致しません! 本日、これより皆様に榊遊矢のウエディングデュエルをお見せいたしましょう!」
「こんな時までデュエルだなんて呆れちゃう……なんて言わないわ! 私と遊矢、夫婦そろってお相手するからどんどん参加してね!」
……というのが理由である。
次元戦争から数年が経ち、かつての仲間もそれぞれ忙しく一堂に会する機会は少なくなった。そのため今回は結婚式で集まってくれた面々とデュエルを通して再会を喜ぶ事にしたのだ。だから賑やかなのは大歓迎、観客が大いに越した事は無いと遊矢は笑顔で招待客を見回した。
「え、嘘! 柚子お姉ちゃんたちそんなこと考えてたんだ!」
「流石お二人ですね!」
「痺れる~ぅ!」
「まったく、今日くらい休めばいいものを……。ふむ、しかし男権現坂! ここは是非とも参加させて頂こう!」
「俺も参加するぜ~! この超ゴージャスでスペシャルスターなエンタメ"プロ"デュエリスト、ネオニューウルトラハイパー沢渡シンゴが結婚式に花を添えてやるよ!」
「くぅ~! やってくれますね! ではこのわたくし、ニコ・スマイリーが実況させていただきましょう!」
突然の提案に招待客が湧く。しかしそこで真っ先に遊矢の前に現れたのは、幼い子供の影だった。
「零羅?」
現れた子供……赤子に戻ってから数えて今年で6歳になる弟の姿に、忙しい合間を縫って結婚式に参加していた兄である赤馬零児は困惑したようにその名前を呼ぶ。先ほどまで自分が手を引いていたというのに、弟はいつの間にあんな場所に移動していたのだろう。
しかしその困惑は、零羅が口にした一言で緊張へと変わった。
『我が名はズァーク』
『!?』
その場に居た誰もが息をのんだ。忘れもしない……その名は、6年前世界を滅ぼしかけた邪龍が冠した名前である。
「馬鹿な! 封印が解けたというのか!?」
真っ先に声を荒げたのは彼の危険性をもっともよく理解している赤馬零王だった。単なる子供のいたずらで片付けるには、口にした人物がまずかった。なんといってもその邪龍の悪しき魂が封印された器こそ零羅なのだから。
誰もが緊張する中、しかし零羅は笑った。
『でも、レイちゃんでもあります』
『は?』
重々しい声から一変して可愛らしい声でのお茶目さを含んだ発言に、再び誰もが困惑する。レイの父である零王やレイの分身だった柚子などは特に。
しかし会場の困惑など物ともせずに、零羅は言葉を続けた。
「あの、今日は……二人から贈り物があるんだって」
今度発せられたのは、いつもの零羅の声だった。
「待て零羅! どういうことだ? 今の言葉が本当なら、ズァークの魂は復活しようとしているのか? レイは柊柚子の中ではなく、お前の中に居るのか!?」
『まあまあ、落ち着いてよお父さん。めでたい席よ? 細かい事はいいじゃない』
『細かくは無いだろう』
『いいの! せっかく零羅が協力してくれたんだから、表に出られているうちに早く終わらせちゃいましょう』
『……まあいいが』
零羅の口から零羅、ズァーク(多分)、レイ(多分)の3人分の声が発せられ、困惑は広がる。しかしふと、零羅……否、おそらくズァークの強い視線が遊矢を射抜いた。
『榊遊矢。俺の分身よ』
「! ズァーク……。お前は……」
『俺はお前が嫌いだよ。だって、お前は俺がやりたかったことをやってるし、俺が欲しかったものをみんな持ってるんだ』
「え?」
『俺は俺のデュエルを見てくれてるみんなの期待に応えたかった。……だけど方法を間違った。でもお前は、エンターテイメントという形で日々、笑顔を周囲に与えながらそれを体現している。支えてくれる仲間も伴侶も居る。……正直、羨ましくて妬ましい』
「…………」
『デュエルでみんなに笑顔を、か。デュエルなんて負ければやっぱり悔しいし、誰もを全部笑顔にするなんて甘い考えだ。だがお前の周りの人間や……かつてはデュエルに苦しんでいたモンスター達も今では凄く楽しそうなんだ。悔しいよ。俺にはモンスター達の苦しみが聞こえても、復讐って形でしかそれを解決できなかったからな。いや、解決なんて出来てなかったか。俺がしたことは、多分苦しんでいたあいつらをもっと苦しめた。………………もしかしたらお前は、俺の理想が具現化した分身だったのかもな。お前は俺の「デュエルを楽しみたかった」心が形になった分身で、ユートは「融通が利かなくて追い込まれた」俺の真面目さの分身。ユーゴは俺の調子に乗りやすい部分を、ユーリは俺の嗜虐心を受け継いでたな。まったく、分身になるにしてもそれぞれ個性有り過ぎだろ。今も心の中で煩いんじゃないか?』
「ねえズァーク。あなたとレイは、結局何を言いたくて出てきたの?」
次第にとりとめなく饒舌になるズァークの言葉に柚子が問うと、それに対して返答したのはレイだった。
『だから、贈り物をしに来たの。さあズァーク、始めるわよ!』
『偉そうに指示するな! 俺は勝手にやる』
『もう、なによ! 二人そろわないと無理でしょ?』
『チッ』
『態度悪いわね~。まったく』
緊張感のない軽快なやりとりに困惑は深まるばかりだが、次の瞬間……零羅の体から半透明の人影が2人分、分離したことでざわめきが広がった。そして人影はそれぞれ天に手をかざす。
『来い! 俺のドラゴンたち!』
『来て! 花鳥風月の美しき自然のエナジー宿りしカードたち!』
「!? 俺のデッキからカードが!」
「う、腕輪が!」
人影……ズァークのもとには遊矢のデッキから「オッドアイズペンデュラムドラゴン」「ダークリベリオンエクシーズドラゴン」「クリアウィングシンクロドラゴン」「スターヴヴェノムフュージョンドラゴン」が集まり、ソリッドビジョンシステムが発動していないにも関わらずドラゴンたちは実体化した。
次いでもう一つの人影、レイのもとには柚子の腕に輝いていた4つの腕輪がカードへと姿を変え「エン・フラワーズ」「エン・バーズ」「エン・ウィンズ」「エン・ムーン」となって集まる。
そして仕上げとばかりに、ズァークは高らかに叫んだ。
『最後はお前だ! 現れろ、時空をつかさどるアストログラフマジシャン!』
遊矢のデッキから今度は時読みの魔術師と星読みの魔術師が抜け出て、それが交わり一枚のカードへと姿を変える。そしてそれもまた実体化し、神々しく星々のごとき光をその身を包むマントに納めた魔術師は静かに眼下を見下ろした。
「ズァーク! お前、まさかまた次元をめちゃくちゃにする気か!?」
『早とちりはよしこちゃんよ遊矢くん! もしそうなら私が止めてるわ』
「レイ……あなた……」
柚子はレイの名を呼びながらも、不思議な期待感を覚えていた。体が熱く、ドクンっと"4つ"分の鼓動が響く。
『次元に影響を及ぼさないように、私のカードとアストログラフマジシャンが守るわ!』
『そして俺のドラゴンたちが、お前たちをひっぺがす! 精々歯を食いしばれ!』
「「は?」」
ズァークが言うなり、遊矢と柚子の体が浮きあがった。そしてその周囲を囲むドラゴンたち。
ドラゴンの咆哮が天をつんざき、アストログラフマジシャンが放った力が光のアークとなって各次元を繋ぎ世界を震わす衝撃を無に帰していく。世界を繋ぐ
そして咲き誇り舞う花びらが、可憐に飛び交う鳥たちが、温かく包み込む風が、慈愛のごとく降り注ぐ月光が……わずかに乱れた世界の歪を癒していく。
ふいに、結婚式会場の何処かで誰かが「瑠璃……?」と呟いた。
時間にすればものの数十秒。4色の光が弾け、それはそれぞれ人の形へと変わり地に降り立った。
++++++++++++++
それはきっと、ありふれた日常の光景。
ある場所では町のシンボルを掲げた塔を見上げる位置で、一組の兄妹が仲睦まじげに歩いていた。
「ふふっ、兄さんが買い物に付き合ってくれるなんて珍しい」
「たまには……な。それより瑠璃、何を買いに行くんだ?」
「もうすぐユートの誕生日でしょう? プレゼントを選びたいの!」
「なっ」
「? 毎年してることじゃない」
「そ、そうだが……。……念のために聞くが、お前たちはその、ゆ、遊矢と柚子のようなことは……」
「あははっ、何言ってるのよ兄さん。まだ私たちは結婚なんてしないわよ」
「……まだ?」
「あ」
羽の髪飾りを付けた女性は、後で問い詰められるであろう恋人に心の中で謝罪した。
ある場所では、二人の男女がバイクを囲んであーでもないこーでもないと話していた。
「なあリンー。やっぱりもっと馬力のあるエンジン積もうぜー」
「駄目よ。今私たちで買える馬力のあるエンジンってなったら、小回りが利かなくなるでしょ? もうちょっと考えましょう」
「でも次のフレンドシップカップまでにさぁ……」
「わかってるってば! もう、せっかちなんだから。それより今日の夕食は何がいい?」
「リンが作るもんならなんだっていいぜ!」
「あのねユーゴ。そういうのが一番困るのよ」
「でも俺の奥さんが作る料理がまずいわけないだろ! なんたって、俺への愛情がたっぷり詰まってるからな!」
「もう! ここ外よ!? 大きい声で恥ずかしい事言わないでってば!」
「愛してるぜ~リンー!」
「だーかーらー」
ご近所からは「またやってる」と生暖かい視線を送られながら、二人の賑やかなやりとりは続く。
ある場所では、二人のデュエリストが互いに研鑽しあっていた。
「あははっ、こんなものかい? 僕つまんないよ。挑んでくるならもっと強くなってからにしてくれないかな」
「煩い! お前だって何度か負けたじゃないか!」
「でも勝率は圧倒的に僕のが上だろ? まったく……これじゃ困るよ。今度君と組んでタッグデュエルしなきゃいけないなんて、プロデューサーも見る目無いね」
「それについては同感だ。何故私がこんな奴と……」
「でも相手が遊矢と柚子だからね。それを思えばこそ、ちょっとは我慢できるよ」
「フッ、相手がお前なのは不本意だが、たしかにあの二人とのダッグデュエルは楽しみだな」
「じゃあ勝つためにも、君にはもっと強くなってもらわなきゃねセレナ。だってデュエルはやっぱり勝つのが楽しいんだしさぁ!」
「言われるまでもない! あと10戦は付き合ってもらうぞユーリ!」
飴をくわえた通りすがりの青年に「あの二人もよくやるなぁ……」と言われつつ、二人のデュエルは続く。
どこかで誰かが呟いた。
『ま、幸せにな。俺の分までたっぷり楽しめ』
___________________ お楽しみは、これからだ!
もっと色々書きたかったけど途中で力尽きたよハルトォォォォ!(叫ぶために唐突に意味もなく呼ばれるハルト少年
アニメアークファイブ最終回を見て思わず書いた短編です。あの、分離エンド(公式版)は何処ですかね……?(震え声
きっとあの後遊矢シリーズも柚子シリーズも分離したって信じてる!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。