(未完)異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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帝国回


第18話:帝国は永遠である

 

 

 

 

 バハルス帝国。首都の宮殿内に設けられた執務室。

 

 「爺が逮捕!?」

 

 「はい……」

 

 「そんな馬鹿な!!」

 

 「フールーダ様は現在法国にて投獄中です。牢には非常に強力なマジックアイテムで結界が施されておりまして、フールーダ様でも自力での脱出は不可能とのこと」

 

 鮮血帝は開いた口が塞がらなかった。

 

 未だ腫れが引かない顔に滲む脂汗を秘書官はハンカチで拭いながら発言を続ける。

 

 「此度のフールーダ様の暴走によって法国と神々が帝国に抱く心象は最悪です。特に法国はいつ帝国に攻め込んで来てもおかしくないかと、さらに申し上げますと仮に神々が帝国に敵対した場合、神々の力が我々が得ている情報の通りなのであれば間違いなく帝国は滅びます」

 

 「あ、ああ…… なんという……」

 

 震えながら鮮血帝は頭を抱えた。

 

 「法国では天使と神の一人にお会い出来ましたが、天使はフールーダ様を一撃で行動不能にしました。これは私の私見になりますが、それでも相当加減をしていたように思います。それこそ赤子を優しく寝かしつけるようなモノをその時私は感じました」

 

 「つまり、爺と天使には赤子と大人ほど力量に差があると?」

 

 「あくまで私の個人的な感想ですが、その通りです」

 

 この秘書官は鮮血帝も認めるほど有能な者だ。その観察眼にも当然一定の信頼をおいている。そう言われては鮮血帝にも決して無視することは出来ない。そもそも実際にその目で天使と神々を見て力の一端でも良いから見極めさせるために使者として送り出したのだから。

 

 「ふぅ…… はぁ…… それで、神の方はどうだった? お前は何を感じた?」

 

 「それが…… ただの異常に美しいだけの少女だなと…… まさに神と評するにふさわしい美貌を持つ奇抜な格好の少女にしか見えませんでした」

 

 「……なんだソレは? 他には何かないのか?」

 

 「私はその少女の姿をした神がフールーダ様に乱暴されて泣き喚くところしか見ておりませんので……」

 

 申し訳なさそうに秘書官は語る。

 

 「だが、ビーストマンの大軍十万を一撃で葬り去ったのは、今話に出た天使とその少女の姿をした神なのだろう?」

 

 「もしかすると、ビーストマンを駆逐したのは天使の力だけなのかもしれません。直接的な戦闘力は乏しい可能性があります。近くに見たこともない獣のようなゴーレムを従えておりましたので、戦闘は他者に任せる後方支援型なのかもしれません」

 

 「ほう、お前を使者に送ったのは正解だったようだな」

 

 鮮血帝はニヤリと笑った。

 

 

 次の瞬間、鮮血帝達のいる執務室が轟音と共に激しく揺れ動く。調度品が音を立てて床に散らばっていった。

 

 「なんだ!?」

 

 「地震!? ……ではないでしょうね」

 

 先ほどの轟音は執務室の窓がある方向から聞こえていた。

 

 鮮血帝と秘書官、それにこの部屋にいる者達は窓から見える中庭の方に目を向ける。

 

 

 目が、合った。

 

 

 巨大な人型の何かが、中庭から窓越しにコチラを向いており、その頭部と、目が合った。

 

 部屋にいた鮮血帝の護衛の一人の叫びが部屋に響く。

 

 「ゴーレム!? ドラゴン!? はぁ!?」

 

 その巨大なゴーレムに続くように、空から翼を広げて巨大なドラゴンも中庭に降りてくる。

 

 ゴーレムは巨体に似合わぬ機敏かつ人のような滑らかな動きで執務室の窓の前まで歩いてくると、腕を窓に突き出す。

 

 硬質な音を立てて、巨大な腕が窓を割りながら執務室の天井に手をかけると、恐ろしい膂力で部屋の天井を引き剥がしていく。ここは最上階なので、部屋の中にいた鮮血帝達には天井があった場所から青空が見えるようになった。

 

 そのまま中庭に面した窓のある壁も全てゴーレムに強引に引きちぎられてしまう。

 

 余りにも想像を絶する事態に、護衛達も動けなかった。

 

 他のもっと凄いモノに目がいってしまい気づかなかったが、この部屋がある宮廷の向かいに建っていた帝国兵達の宿舎が更地になっていた。先ほどの轟音の原因はアレだろう。

 

 

 

 

 

 「コロスコロスコロスコロス……」

 

 「ちょ、マーレ!? 今は至高の御方に与えられた任務の方が重要でしょ!? 気持ちは分かるけど抑えなさい!」

 

 目の前のゴーレムにほとんど遮られてしまっているが、ドラゴンの背に乗っているダークエルフの少女と少年が何か言い合っているのが見える。

 

 「あはぁー! 帝国の方々にぃ、我が神々から言づてがありますぅ! 『死ぬか! 隷属か!』 私が頑張って説得したんですからぁ! 感謝してくださいねぇ! 本当なら皆もう死んでるんですよ!」

 

 ゴーレムの隣に滞空した純白の翼を6対12枚も背負い赤髪の長髪を背中に流して両目を眼帯で覆った天使が、微笑みを浮かべながらよく通る綺麗な声で朗らかに語った。

 

 「ふふ、ふふふふふふ…… こんにちわ、帝国の皆さん」

 

 「妾の手で滅ぼしたいでありんすのに……」

 

 ムカデのような尻尾を腰から垂らした赤いスーツを纏いメガネをかけた男と、ボールガウンを纏った見目麗しく顔色の悪い美少女もドラゴンの上で何かを言っている。

 

 だが、この場の面々の頭には何も入ってこなかった。

 

 ゴーレムから玉を転がすような少女の声が響く。

 

 『返答は何かしら? あー、今すぐ頼むわよ。王国との会談も控えてるから結構忙しいのよ』

 

 「そう急かすな。どうせ答えは決まっているのだからな」

 

 

 

 「な、神……」

 

 帝国筆頭秘書官のロウネが搾り出すようにその言葉を呟く。

 

 「まさか私の大切な仲間に狼藉を働いておいて、ただで済むとは思っていないだろうな?」

 

 憤怒の表情を浮かべた魔王が、ゴーレムの隣で微笑む天使に並ぶように滞空して喋る。

 

 「自慢ではないが我がギルドは悪を標榜しているからな、やられたら万倍にして根こそぎ叩き潰すのが昔からギルドの仲間達との決まり事なのだよ」

 

 ゴーレムの胸部が開き、中に二人の少女が座っているのが執務室の面々から見える。

 

 ゴーレムの中に鎮座している一人の、黒髪を耳の上で左右に結った。まさに神の美貌と評するにふさわしいモノを持つ少女はニヤリと笑って、そのエメラルドの宝石の様な2つの瞳で鮮血帝を見つめていた。

 

 「「ようこそ、ナザリックへ」」

 

 二人の神の言葉が重なって鮮血帝に届く。

 

 

 

 

 

 鮮血帝は粘つく口を動かして、なんとか言葉を紡ぎ出した。

 

 「へ、返答……?」

 

 「そうだ。ああ、分かってる。隷属したからと言って国民を磨り潰したりするつもりはないぞ」

 

 「ま、実験には付き合ってもらうけどねぇ」

 

 神の一人である少女は、ゴーレムの胸元から執務室に降りてきていた。

 

 「んー、これが護衛なの? やっぱりこの世界の人間はゴミしかいないのね。あのジジイもレベルは大したことなかったし」

 

 ジロジロと鮮血帝の周囲で武器を構えている者達を見て、少女はそう言葉を零す。

 

 「……装備が聖遺物(レリック)ですらないとか、もうギャグよね。ソロの懐が貧しいプレイヤーでもせめて武器ぐらいはマトモなの用意してるわよ?」

 

 護衛の大男に近づくと手に持っている大剣を掴んで値踏みするように少女は語り続ける。

 

 バキッ

 

 「あっ」

 

 「……え?」

 

 「……はぁ?」

 

 少女が握った大剣が細い木の枝の様にポキリと折れた。

 

 護衛の大男と執務室にいた者達はソレを信じられないモノを見たように呆然とする。

 

 「えぇ……本当にクズ武器ね。ちょっと可哀想になってきたわ……」

 

 刃が中程から折れて短くなった大剣を呆然と握り締めている大男の肩を少女はポンポンと嫋やかな剣を握ったこともなさそうな手で叩く。

 

 ちなみに、今へし折れた大剣は、帝国の資金と技術の粋を集めて作り出され、帝国が施せる最高のエンチャントも施された極めて高価な特注品である。

 

 「インラン、今後はナザリックの備品になるのだから、あまり壊すな」

 

 「ああそういえばそうだったわね。でもこんなゴミアイテム要る?」

 

 「いや、要らないが」

 

 執務室の面々は神々の会話をどこか遠くで語られることのように聞いていた。

 

 「で、どうするの? もう答えは決まってるんだから、さっさとしてよね」

 

 少女は無垢な顔で平然と聞いてくる。

 

 それに対する鮮血帝の答えは───

 

 

 

 

 「て、手合わせして貰えないだろうか」

 

 「……はぁ?」

 

 「いや、君たちの力を認めていないわけではないのだが……是非その力を確かめさせて欲しい」

 

 鮮血帝は爽やかな笑顔で続きを述べる。

 

 「どうだろう、僕の用意した者達と戦って、君が勝ったら、僕たちは君たちに隷属することを誓おう。ただし僕の用意した者達が勝ったなら。関係を見直してはもらえないだろうか」

 

 「えぇ……あんた、国のトップなのよね。そんな馬鹿で大丈夫なの? だいたいあんたのトコロのジジイがあたしをレイプしたのが原因なのに」

 

 「なんというブーメラン……」

 

 アカデミックガウンを纏った青年の姿をしたもう一人の神が、少女の言葉に額を押さえる。

 

 「んー、あんまり時間取れないのよね。いいわ。全員同時にあたしが相手したげる」

 

 「ありがとう! 助かるよ!」

 

 鮮血帝は笑顔で叫ぶと、急いで近くの者達と話を始めた。後ろに振り返り神達から顔が見えなくなった途端表情が激変する。

 

 「……急いで腕利きの者達を集めろ。雷光の代わりの武器も大至急だ。四騎士だけでなく、親衛隊も出す」

 

 「さすがに数が多いのでは……」

 

 「私が用意した者達とは言ったが、数は指定していない。それで押し通す。宮廷魔術師も全てだ。ハッキリ言うが此処で勝たねば、帝国は終わる。もはやなり振りは構っていられないぞ、外聞が悪かろうが出来ることは全てやる」

 

 鮮血帝達の会話は小声ながら熱を帯びていった。

 

 

 

 

 

 「ちょっと……アイツ等の話、思いっきり聞こえてるんだけど。あたし達は地獄耳って伝えといた方がいいのかしら」

 

 「黙ってろ。いいじゃないか。あがくのを見るのも一興だ。あんな低位の隠蔽魔法で俺達に会話を聞かれていないと思ってるなど実に滑稽じゃないか」

 

 執務室から出てゴーレムの肩に乗った少女と、アカデミックガウンを纏った青年がこっそり会話していたが、執務室で話し込む面々には聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮廷前の中庭の中央部に広いスペースを取って、それ以外の場所に夥しい数の人間達が整然と並んでいた。

 

 服装も様々で、鎧に剣や槍を持った明らかに近接職と分かる者や、ローブを纏い杖を握る魔法詠唱者らしい格好の者達が、それぞれ固まるようにして佇んでいる。

 

 「一応、これは純粋に善意から言っておくけど、皆死ぬわよ。いいのね? 蘇生はしてあげるけど、費用はソッチ持ちだからね?」

 

 中庭中央部の空白地帯から、目の前で前衛職、後衛職のグループでそれぞれ前衛と後衛を形成している軍団を眺めながら、少女が言い聞かせるように語る。

 

 「ああ、ちなみに低位階の蘇生魔法と、高位階の蘇生魔法では料金が大分違うからな。今のうちにどれを使うのか考えておいてくれ」

 

 アカデミックガウンを纏った黒髪黒目の青年が、鮮血帝に1枚の紙を渡す。紙には帝国で普及している文字で蘇生費用が記されていた。

 

 「……ちょっと聞きたいのだが、この《完全蘇生(トゥルーリザレクション)》という蘇生魔法はなんだい?」

 

 「ああ、そうかお前達には馴染みがないんだったな。要するに体力が落ちないし、弱い個体でも蘇生時に灰になったりしない蘇生魔法だ」

 

 その言葉に鮮血帝は今日何度目か分からない激しい目眩を感じる。

 

 「ははは…… 本当にこんなに格安でそんな神の奇跡を利用出来るのかい?」

 

 確かに高額だが、それでもこの蘇生魔法の価値からすれば非常に安いと鮮血帝は思った。金はあるが既存の蘇生魔法には耐えられない弱さの者はそこら中にいるのだ。コレだけで凄まじい財産と権力が手に入るだろう。実際鮮血帝も利用したいくらいである。代えの効かない文官は沢山いるのだ。

 

 「勿論だ」

 

 さも当然といった雰囲気で頷く青年に、鮮血帝はこれが神か……と変な感動を覚える。

 

 目の前に山のように立ちはだかる帝国が誇る精鋭達を前にして、神と呼ばれる少女は全く怯えた様子もなく平然としていることからも、この神の奇跡と呼ぶにふさわしい蘇生魔法が真実なのだという不思議な確信が生まれた。

 

 「ああ、ジジイも呼んであげようかしら?」

 

 「爺、フールーダのことかい?」

 

 「そうよ、あのレイプ魔よ」

 

 一瞬そう言われて誰のことなのか鮮血帝には分からなかった。

 

 「ええと、可能ならば呼んで欲しいな」

 

 「おk、シャルティア!」

 

 「はいでありんす! 《転移門(ゲート)》 ではすぐ取ってくるでありんす!」

 

 中庭の脇に控えていたボールガウンを纏った美少女がその声に反応すると魔法を詠唱し、中庭の一角から漆黒の靄がごうごうと吹き上がる。

 

 そのまま靄の中にその少女が入ると姿が消え、ほどなくして靄から再び出てきた。それに遅れてローブを纏ったしわくちゃの顔をした老人も出てくる。

 

 「おお……!! なんという魔法だ……!!」

 

 「うげぇ…… やっぱり気持ち悪いわね」

 

 漆黒の靄から現れたフールーダに鮮血帝やこの場の帝国側の面々が驚く中、中庭の中央に佇んでいた神の一人の少女も顔を顰める。

 

 「!?!?!? おおおおおお!! 神!! 神!! 神ぃいいいいいいいい!!!!!」

 

 「ひょえ!?!?」

 

 少女を視界の中に認めたフールーダはバタバタと突進を開始し、少女は悲鳴を上げた。

 

 「……と、危ない危ない。儂としたことが取り乱したわい」

 

 だが、今回はフールーダが途中で我に返る。

 

 「爺、大丈夫なのか? なんでも向こうで酷い狼藉を働いたそうだが」

 

 「すまんのうジル。魔法が関わるとのう。儂はダメなんじゃよ……」

 

 申し訳なさそうにフールーダは鮮血帝に頭を下げた。

 

 「ホレ、精神抑制のマジックアイテムを貰ったんじゃ。これでもう大丈夫じゃよ」

 

 フールーダはローブの胸元の内側に潜り込んでいた首からかけたネックレスを掲げてみせる。

 

 「当然だが、後でマジックアイテムの費用も請求するぞ」

 

 遠くから神の声が二人の元に届く。なんだか鮮血帝はやるせない気持ちなった。

 

 

 

 

 

 「話は分かったがのう。ジルよ、絶対勝てんぞ。やめておくんじゃな」

 

 「やはりそうか…… 具体的にあの神はどれくらい強いのだ?」

 

 鮮血帝が中庭の中央に佇む少女に目を向けると、それにフールーダも追従する。今は探求者の怜悧な瞳をしていた。

 

 「正直儂には底が全く見通せなんだ。だがな、あの小娘の姿に惑わされるな。あれは間違いなく神と呼ばれるに足る存在じゃ。儂ら人間がいくら努力しても勝てぬよ。蟻がいくら集まっても象には勝てぬのと同じじゃ」

 

 「はぁ…… なんということだ…… 帝国は終わりだな……」

 

 空を仰ぎ見ながら鮮血帝ジルクニフは呟く。それには万感の思いが込められていた。

 

 「まぁ、悪いようにはならんかもしれんぞ? そこにいる天使と法国で話したが、中々話の分かる女子(おなご)じゃったからな」

 

 「爺ぃぃぃ…… 二百を越えても女の尻を追っかけてるのか? だいたい爺のせいでこんな目にあっているんだぞ」

 

 「ふぁふぁふぁ。せっかくだしあの神を嫁に貰ったらどうじゃ? 相手にとって不足なしじゃぞ? それに帝国を存続させる最良の手段かもしれんな」

 

 ニヤリと笑ったフールーダの顔面に拳を叩き込んでやろうかとジルクニフは本気で思った。

 

 「まぁ、ジルが最後まであがきたいというのであれば、儂も今回は従おう。さすがにちょっとは悪いとは思っておるからな。なにより《完全蘇生(トゥルーリザレクション)》とやらに興味がある。どれ、一回くらい死んでみようかのう」

 

 中庭に並ぶ帝国が誇る精鋭達の列にフールーダも加わるために移動を始める。

 

 「で? もう初めていいのかしら?」

 

 「……ああ! 宜しく頼む!」

 

 万感の思いを込めて、ジルクニフは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぬぅ!? 魔法が効かん!?」

 

 「あはははははは!! そんなカスみたいな魔法が通るわけないじゃない!!」

 

 宮廷魔術師達の空からの《火球(ファイヤーボール)》の爆撃の嵐の中を、平然と神が歩いてくる。

 

 「ジジイイイイ!!! あんたには返したい借りが山ほどあんのよぉおおお!!! 蘇生出来るようにちゃんと死体は残してあげるわ!!! 《範囲強化威力弱体化(ウィークワイデンマジック)重力場(グラヴィティ)》!!!」

 

 空を漂う宮廷魔術師達は体の重みが増したような感覚に襲われそのまま地面に叩きつけられる。だがフールーダだけは持ち前の魔法力で《飛行(フライ)》によって増えた自重を強引に浮かび上がらせて空に漂い続けていた。

 

 「おほっ、危ない危ない」

 

 「ジジイイイイ!!! その微妙な強さめんどくさいんだけどおおお!!! 手加減すんのも大変なんだからねぇ!!!」

 

 「ああなるほどのう…… それで儂は無事じゃったのか。しかし、《魔法威力弱体化(ウィークマジック)》とは、本当に底が知れんわい」

 

 納得した様子で、フールーダは中庭の上に漂いながら顎髭を扱く。その目は怜悧に細められ、目の前の神を子細に観察する探求者のモノになっていた。

 

 地面を見れば、柔らかい土の地面に落ちたからなのか、神が魔法の威力を大きく下げたからなのか、宮廷魔術師達がヨロヨロと起き上がり、ポーションを口にしている。

 

 「ちょっとあんたら弱すぎて話になんないわよ!! 模擬戦始めた頃のコキュートスだってパワーだけはあったわよ!!」

 

 隙だらけの宮廷魔術師達に追撃をかけることもなく、神は堂々とのたまう。

 

 「配下に加える前に丁度いいから稽古付けて上げるわ!! かかってきなさい!!」

 

 神は爆撃の邪魔にならないように下がっていた前衛職の者達を手招きしながら叫んだ。

 

 

 

 

 「無駄に面倒見がいいよなアイツ」

 

 「そうなのかい?」

 

 中庭の脇に用意されたテーブル席に座って此度の手合わせを眺めながら、アカデミックガウンを纏った青年である”もう一人の神”とジルクニフは歓談していた。テーブルには神達が持参した茶菓子と飲み物が用意されている。

 

 「まぁな、我々のシモベ達にも暇さえあれば模擬戦で稽古をつけてるぞ」

 

 「興味深い話だね。うわぁ、これ美味しいね」

 

 もぐもぐと茶菓子を口にしたジルクニフがその美味に舌鼓を打つ。

 

 「ふふふ、そうだろうそうだろう。我がギルドは最高だからな」

 

 ニマニマと満面の笑みで神も嬉しそうに言葉を返した。

 

 もう神との手合わせでの勝利を半ば諦めたジルクニフはふっきれた様子で笑顔を浮かべている。今後のことを考えて目の前の神と交流を深める方向に作戦をシフトしたのだ。諦めない男である。

 

 

 

 

 

 

 「舐めるんじゃねええええ!!!」

 

 雷光のバジウットは予備だが性能はほとんど変わらない大剣を手に少女の姿の神に斬りかかる。他にも4騎士達全員で神を取り囲んでいた。

 

 「あー、おっそ、ありえないぐらい遅いわー」

 

 ヒュンヒュンと飛び交う斬撃をすり抜けるように悉く回避しながら、神の心底呆れたような声が中庭中に届く。

 

 神を囲む4騎士の周りで臨戦態勢で武器を構えている親衛隊の面々の顔がその言葉を受けて歪む。4騎士の顔もビッキビキに歪んでいた。

 

 「えい」

 

 「キャ!? イヤアアアアアア!?!?!?」

 

 いつの間にか重爆のレイナースが纏う鎧も下着も何もかもがが奪われ、神が胸に抱きかかえるように持っていた。そして次の瞬間には神の手からも消えている。

 

 「あはははは! あんた良い体してるじゃないの!! どう? 後で10発くらいヤらせてくれないかしら?」

 

 「レイナース!? 貴様ぁああああ!!」

 

 激風のニンブルが激昂して大振りな攻撃を神に繰り出す。

 

 「《傀儡掌(くぐつしょう)》」

 

 「がふっ!?」

 

 攻撃にカウンター気味に放たれた神の平手がニンブルの鎧に包まれた胸に優しく叩きつけられる。

 

 「はぁー。ほんと隙だらけねぇ。じゃーあんた服全部脱いでそこでラジオ体操してなさい」

 

 虚ろな瞳になったニンブルは神の言葉の通りに鎧と服を全て脱ぎ、さらに服を丁寧に畳んで地面におくと、戦闘の邪魔にならないところまで移動してチャカチャカと体操を始めた。

 

 帝国の誇る最精鋭のあんまりな末路に4騎士や周囲の親衛隊、それに宮廷魔術師にフールーダも心から戦慄する。

 

 「うわぁ……」

 

 「これは酷い…… 神には慈悲の心がないのか…… あいつもう騎士やめるかもしれないぞ」

 

 テーブル席から一部始終を眺めていたもう一人の神とジルクリフも青い顔で震えていた。

 

 

 

 重爆のレイナースは騎士の誇りなのか辱められた屈辱による怒りなのか、全裸でも武器を手におっぱいをぷるんぷるんさせながら神に攻撃を加え続けていた。

 

 大きな盾を両手に持った不動のナザミと、大剣を手に持った閃光のバジウットもレイナースを直視しないようにしながらも密に連携して戦い続ける。目の前で揺れる美尻は気にしない。

 

 「弱すぎて飽きてきたんですけど、もう律儀に避けるのもめんどくさいわ」

 

 金属音が響くと、神が手で受け止めたバジウッドの大剣が粉々に砕け散った。

 

 「なぁ!?!?!?」

 

 「ほらね。避けないとこうなるのよ」

 

 柄だけになった大剣を手にバジウッドが呆然とした顔で後ずさる。

 

 「ちょっと待て!? なんだアレは!? ありえんだろう!?」

 

 「まぁ、装備のデータ量が違いすぎるからな。ああなって当然だろう」

 

 テーブル席も中々賑やかになっていた。もうひとりの神は非常に高品質なティーカップを口に傾けながら、さも当たり前といった風情でジルクリフに語りかけた。

 

 神々が連れて来た見目麗しいメイド達と壮年の執事が見事な所作で茶菓子を追加し茶を入れ直していく。ここだけ中庭の中で空間が切り離されているようである。

 

 「とりあえず、お前達が配下に加わったら装備は全部一新だな。我がナザリックの配下があんなゴミ装備では沽券に関わる」

 

 「ゴミ装備……」

 

 ジルクニフは余りにもショックで茶菓子に手が伸びる頻度が大分減っていた。でも美味いから食べる。

 

 

 

 

 

 「ところで、あんたのその顔はファッションなのかしら?」

 

 ビキリと、血管が切れる音が中庭に木霊したような錯覚が起こるほど、神の放った言葉を受けてレイナースから怒気が噴き出す。

 

 全裸の美人が顔面を般若にして武器を持って迫ってくるのは完全にホラーなので、さすがのインランもちょっと怖い。

 

 「ま、まぁ、ファッションセンスに関しては人それぞれだしね? い、いいんじゃないかしら? とってもクールね?」

 

 「き、きき貴様ぁあああ!!!! 殺す!!!! 殺してやるぅううう!!!!」

 

 メチャクチャに武器を振りまわす、メチャクチャにおっぱいも振り回された。千切れそう。

 

 「疑問なのだが、あの全裸のイカレタ女の顔は何なのだ?」

 

 「ああ、あれは呪いによるものなんだ。強力な呪いでね。神官でも浄化できない」

 

 「え!? そうなの!? なんかゴメンね!!」

 

 地獄耳の少女の姿の神が、テーブル席の会話を聞きつけてレイナースに謝る。

 

 「むきぃいいいいいいい!!!」

 

 遂にレイナースは奇声を上げて泣き出してしまった。

 

 「ここは私の出番ですね!! 清浄回帰!! 《浄化(ピュリファイケイション)》!!」

 

 テーブル席の傍で控えていた天使がウキウキと前に出ると魔法を唱える。

 

 レイナースを柔らかな光が包み込み、激昂や呪いなどの各種状態異常が全てクリアされる。

 

 「ジルクニフ。後で浄化料金払えよ。ちょっとは安くしとくぞ」

 

 「ああ、分かったよモモンガ……」

 

 ジルクニフともう一人の神は名前で呼び合う仲になっていた。ジルクニフの高いコミュ力の成果である。

 

 

 

 

 

 「う! うあああああああん!! あああああああ!!」

 

 自分の顔をぺたぺたと何度も触り綺麗な肌が取り戻されたことを自覚したレイナースは地面にへたり込むと号泣する。

 

 「うんうん、えがったわねぇ!」

 

 「おいぃいいい!! 武器がねぇぞ!! 誰か寄越せ!!」

 

 閃光のバジウッドは近くにいる親衛隊の持つ武器を奪い取ると再び神と対峙した。

 

 「あんたさぁ、そんな武器じゃ話にもなんないわよ。コレ使いなさい」

 

 「へ? お、おう……」

 

 バジウッドが構える武器に腹を立てた神は、どこからともなく剣を取り出すと刃の部分を持って柄を向ける。

 

 剣というには大きすぎ、余りにも大ざっぱな外見の肉厚かつ極大な鉄の塊の柄を握り締めたバジウッドが構える。

 

 「ホラ、来なさいよ!!」

 

 今度は神の拳で受け止められた大剣は折れることも砕けることもなかった。

 

 「もしかして」

 

 「ああ、あのドラゴンころしの代金も請求するぞ」

 

 「はぁ……」

 

 テーブル席にはジルクニフが見たこともないような甘味が続々と追加されている。美味い。

 

 

 

 

 「ちょっとそこの盾持ってるおっさん! あんたずっと突っ立ってるだけじゃないの!」

 

 「いや、貴殿が攻撃しないことには、私の出番はないのだが」

 

 「あたしが攻撃したらあんたらミンチより酷いことになっちゃうでしょうが!! いいわよ! もうあたしも脱ぐわよ!!」

 

 徐に神はたった一枚だけ纏っている布を脱ぎ捨てた。

 

 そこには宝石よりも美しい美貌と完璧なプロポーションの全裸の少女がいるだけだった。

 

 「ああ、装備を外したな」

 

 「どういうことなのだね? 僕にはただ服を脱いだようにしか見えないのだが」

 

 「分かり易くいえば今まで身につけていた大量の強力なマジックアイテムを全て外した感じだな。今のアイツは超弱いぞ。俺でも勝てるな」

 

 「へぇ……」

 

 ジルクニフはこの情報を心のメモ帳にしっかりと書き込んでいく。痴女が変態に変わっただけではないらしい。

 

 

 

 

 全裸の神は目のやり場に困りまくる姿で四騎士のうち二人と対峙する。

 

 「じゃああたしからも行くわよ! 構えなさい!」

 

 「おう! こいや!」

 

 「神の攻撃! 防いでみせる!」

 

 なんかもう若干朗らかな空気が中庭に漂いだしていた。完全に模擬戦の空気である。

 

 耳を劈く激しい金属音が鳴り響き、不動のナザミが砕けた盾と共に凄まじい勢いで中庭を吹き飛び、そのまま建物の壁に大穴を開けて消えた。

 

 ポンパンチの姿勢で固まったままの全裸の神を含めた全ての者が呆然としている。

 

 「嘘でしょ…… さすがにこんなに弱いとは思ってなかったわ…… ああ、殺しちゃったかも」

 

 「熱い!」

 

 「どうしたジルクニフ、紅茶は逃げないぞ、もっとゆっくり飲むがいい」

 

 今の光景がショックで思わず紅茶を飲む手が滑ったジルクニフをもう一人の神が茶化す。

 

 「なぁ、アレは本当に弱体化しているのかい?」

 

 「しているぞ、見ての通り一切装備を身に付けていないだろう。お前の国では全身鎧と全裸の防御力が同じだったりするのか? 素手の方が剣を持つよりも攻撃力が高いとか?」

 

 今日はよく空を仰ぎ見る日だなとジルクニフは思った。

 

 

 

 

 「あー、あんたまだ戦うの?」

 

 「当たり前だろーが! せっかくこんな上等な武器も貰ったしな! 試し切りさせろよ!」

 

 「モモンガ様ぁ。あの不届き者に天罰を与える許可を頂きたいのですがぁ」

 

 テーブル席に天使が近づいてくると笑顔の中に濃密な殺気を滲ませてもう一人の神に懇願する。あまりにもこの時の天使が怖すぎてジルクニフは指一本動かせなかった。

 

 「お前がそこまで怒るとはな、他の守護者は大丈夫なのか?」

 

 「いやそれがぁ、ほらぁ、見て下さいよぉ。皆唇噛み千切ってますよぉ」

 

 「うわぁ……」

 

 「今のインラン様は万が一ではありますがあの不届き者の剣で肌が傷つく可能性がありますからぁ、そうなったら私でも自制は難しいでしょうねぇ」

 

 「ジルクニフよ」

 

 「なんだいモモンガ」

 

 「インランに傷が付いたらここら辺は更地になるぞ。結構発展してるみたいだけどスマン」

 

 ジルクニフは口の中の甘味と一緒に紅茶を噴き出した。

 

 

 

 

 

 「手合わせは中止だ!! 即刻中止!! 帝国兵は全員武器を収めろおおおお!!!!」

 

 必死の形相でジルクニフは中庭を駆ける。

 

 

 

 

 

 




モモンガ「ジル君話せるー」
ジルクニフ「神ヤベー」
フールーダ「貞操帯付けられたンゴー」
帝国兵達「アカン」
コキュートス「ハブられた」



 魔法威力弱体化(ウィークマジック)は捏造。グラヴィティを完全装備のインランが普通に唱えるとフールーダ含めて地面と激しくキスして体を粉砕して即死します。
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