(未完)異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!? 作:DENROK
ナザリックという超勢力が突如台頭した結果。大陸の辺境である人類種が住まう世界は卓袱台をひっくり返したようになっている。
あらゆる勢力バランスが乱れ、その影響から免れたものは存在しなかった。
その超越した力の前にあらゆる組織は要求を呑むしかない。
仮に要求を拒めばどうなるのか、それはある程度賢い者達は皆理解していた。
「エ・ランテルを明け渡す!? 正気ですか父上!」
「仕方なかろう。これが国のためなのだよ」
年季を感じさせるアンティークの巨大なテーブルを挟んで、国王であるランボッサ三世と、その長男であるバルブロ第一王子が顔をつきあわせる。バルブロは立派な体格に精悍な顔つきをしており、見た目通り王族の中で最も武術に秀でている武闘派である。
「あの方々とは友達になりたいですわね」
同じくテーブルについていた第三王女のラナーは誰もが見惚れる可憐な笑顔で嬉しそうに語った。
「お前は何を言っているのだ!? あんな化け物どもと友好関係など!」
「とてもお美しい方々でしたわ。とても化け物などには見えませんの」
あっけらかんと笑顔で喋るラナーにバルブロ含めこの場の面々は言葉も出なかった。
埒が明かぬとバルブロはラナーと話すことを辞めて再び父であるランボッサ王へと顔を向ける。
「バルブロよ。ではお前には良い案があるというのか?」
「当然突っぱねるべきです! 我らの領地を割譲するなど言語道断!」
「その結果何が起きる? 神々の要求を拒否するだけの力が本当に王国にあるとお前は考えているのか? 無駄に血が流れるだけではないのか?」
ランボッサ三世は精気に溢れた顔でバルブロを厳しく睨み付けた。今にも死にそうな枯木のような風貌は過去のものとなっている。神が与えたポーションによって王は以前と見違えるほどの覇気を取り戻していた。
王の気当たりを受けてバルブロの体に震えが走るが、それでも同じ血を引く者の維持か、自身を奮え立たせるようにテーブルに勢いよく手をついて言い返す。
「しかし、みすみす利益を手放すなど! エ・ランテルは交易の要衝ではありませんか! それに地理から見て戦略的にもあの地の価値は計り知れないのですよ!」
「バルブロ殿下、宜しいでしょうか?」
一人で盛り上がっているバルブロに対して、大貴族であるレエブン侯が口を挟んできた。
この宮廷会議には王族や大貴族など政治の中枢を担う者達が列席している。
「なんだ!? まさか余の諌言に文句があるのではないだろうな!?」
「殿下の国を思うお気持ちは良くわかります。ですが、神々の要求を拒否するのは危険すぎます」
「貴君までそんなことを言うのか!」
激しく唾を飛ばしながら真っ赤な顔でバルブロは怒鳴る。テーブルには大皿に入った茶菓子と茶が用意されているが、もう誰も手を付けないだろう。
バルブロとは対照的な冷たい表情でレエブン侯は口を開く。
「では殿下は王国が此度の神々の要求を拒否し、神々がエ・ランテルを手中に収めるために強硬手段に出た場合でも撃退出来ると仰るのですか?」
「会談に帝国の皇帝が出しゃばって来たことからも分かるように、これは帝国の差し金に決まっている! 帝国のエ・ランテルを手に入れようする策略だ! 彼の地を手放せば王国は大損害を被るぞ! 到底受け入れることは出来ぬ! 徹底抗戦するべきだ!」
「では神々との戦いになっても王国が勝利出来ると?」
「当然だ! だいたい自ら神などと名乗っているがアレは化け物の集団ではないか! ならばどのみち化け物は滅ぼさねばならない! 戦いは元から避けられんということ! 遅いか早いかの違いでしかない!」
熱弁を振るうバルブロには、周囲が冷たい瞳で自身を見つめていることに気づかない。ラナーだけは終始笑顔だが。
「殿下は先ほどから何も勝算を語られませんが、神々に対して勝算がおありなのですか?」
「勝算も何も、ただ正面から叩き潰せば良い! 聞けばあの化け物共は寡兵らしいではないか! 数万の兵を集めて吶喊させれば数の利で簡単に堕とせる!」
瞬間会議の空気が凍り付いた。一人熱中している男以外の纏う空気がさらに冷たいものとなる。やはりラナーだけは全く雰囲気が変わらないが。
ラナーが無邪気な笑顔で口を挟む。その柔らかい物腰と雰囲気に兄であるバルブロは気勢を若干削がれ少し落ち着きを取り戻した。
「お兄様、失礼ですがその寡兵という情報は確かなのですか?」
「余が情報を集めたところ化け物共は多くても二十体程度しか確認されていないのだ」
「殿下、それは確認出来ていないだけであって、他にもいる可能性があるのではないでしょうか」
レエブン侯が再び口を挟んでくる。
「ふん、先の謁見の時に現れた化け物達は僅か十体程度に過ぎなかったのだぞ? 国同士の会談であれば力を示すために護衛の兵をこれでもかと引き連れるのが当たり前。つまりそれだけ数が少ないのだろうよ」
「では、それが殿下の仰る勝算ということですか?」
「そうだ! 臆することなど何もない! 化け物共なんぞ退治してしまえば良いのだ!」
再び熱くバルブロは叫んだ。
その後、今度は下卑た笑みになりさらに語る。
「だが、あの場にいた見目麗しい女の姿をした奴らは化け物といえども利用価値があるかもしれんな。可能ならば生け捕りにしたい。惜しいな、化け物でなければ妾にしたいほどの美しさなのだが」
「殿下、神々をそのような目で見るのは控えた方が宜しいかと。何が神々の機嫌を損ねるのかは全く分かりませんので」
レエブン侯は冷たい瞳と声音でバルブロを諫めた。
それを受けてバルブロは怒りの形相で怒鳴り返す。
「貴様は余の話を聞いていなかったのか!?」
「失礼ながら殿下、私は神々と争うことには断固として反対させて頂きます。ええ、なんとしても。何を言われようとも反対致します」
レエブン侯は終始冷たい無表情だったが、その怜悧な瞳からは内に秘めた確固たる意志が滲んでいる。それを見て取ったバルブロは暫し口を噤んだ。
「殿下の推察はごもっともですが、私も独自に調査したところ、私には神々に王国が勝てるという勝算は全く見いだせませんでした。むしろ絶対に敵対してはならないという焦燥感が増すばかりでございます」
「な、何を言っているのだ貴様は……」
「十分信用出来る筋の者達による推定ですが、神々の戦力を難度で現した場合、あのインランと名乗っております少女の姿をした神一人で難度は二百を超えるそうです。これはあの神一人で王国と帝国の全兵力を相手に正面から勝てるという値です。おとぎ話に登場する国堕としに匹敵すると言えば分かりやすいでしょうか」
「まぁ! あの方達は本当にお強いのですね!」
ラナーの嬉しそうな声が会議室に響く。
他の面々は凍り付いたように静かだった。
「さらに重ねて申し上げますと、直接神と相対した王国戦士長の証言では、その少女の姿をした神と至近距離で向き合っただけで、言葉に出来ないほどの心臓を握りつぶされるような威圧感に体が萎縮してしまい指一本動かすことも出来なかったそうです。ご存じの通り王国戦士長は周辺諸国最強とも称される王国最強の戦士であり戦力です。その戦士長の証言ですから、我々は真摯に受け止めるべきでしょう」
再起動したバルブロは再び怒鳴り散らす。
「ふ、ふざけるな!!! この場は国の行く末を決める重要な場なのだ!! 冗談などを言って良い場所ではないのだぞ!!」
「これは確かな情報筋から得た神々のこれまでの行動を客観的に評価しただけです。神々はインランと名乗る少女の姿をした神と天使のたった二人でビーストマン十万の軍勢を魔法の一撃で灰燼に帰しました。王国と帝国の兵を合わせれば三十万に届くかもしれませんが、ビーストマンと人間では一人あたりの戦力は桁違いです。この情報だけで神々と争うことは無謀だと分かります」
「貴様! そんな欺瞞情報も見抜けないのか! 失望したぞ! やはり此度の戦は確かな戦略眼を持った余が陣頭に立つしかないようだな!」
チラリと王を見ながらバルブロが得意顔で捲し立てた。もう机のバルブロの目の前の部分は涎でベタベタしている。これを拭く従者が気の毒なほどである。
「お言葉ですが殿下、この情報は確かな筋から入手し幾通りもの方法で裏を取った確かなものです。それでも信用出来ないと仰るのであれば、この私の首をかけてもかまいません」
「父上! レエブン侯は乱心しております! この重要な会議に参加する資格を持ち合わせていないと余から進言致します!」
「バルブロよ、少し頭を冷やせ」
心身が凍りつくような重く低い声がバルブロに浴びせられた。
「バルブロはああ言っておるがな、余はレエブン侯の言うことを信じようと思う」
「はぁ!?」
ランボッサ王は机を囲む王国の重鎮達を見回しながら厳かに語る。
バルブロは大口を開けて驚愕した。
だが、他の面々は王の言葉に頷いていく。
それまで静かに会議の成り行きを見守っていた者達の中から、ボウロローブ侯爵が口を開いた。
「実は私もレエブン侯が先ほど仰った情報は得ていました。仮に事実であれば、神々に敵対するのはあまりにも危険でしょうな」
「は?」
ボウロローブ侯爵といえば、大貴族の中で最も武闘派として知られている。兵の強化に熱心であり、独自に専業兵士を育成して組織しているほどだ。そのボウロローブ侯のイメージからはかけ離れた穏健な言葉にバルブロはアホのような声を出すしかなかった。この宮廷会議でも神々討伐に賛成する味方になると思っていたのだからなおさらである。
「私も実は……」
「いやはや、私も此度の神々の要求を拒否することには反対だったのですよ。レエブン侯に先を越されてしまいましたな」
他の大貴族達も次々とボウロローブ侯に追従していった。
バルブロの目が点になる。貴族達は王族派と貴族派の二つの派閥に分かれており、会議ではこの二つの派閥で意見が分かれるのが常なのだが、今回はどちらの派閥も意見を一致させている。
明らかにおかしい。バルブロは裏で既に話がついており、自身が除け者にされたことを理解した。
王城のとある一室に嘆息が響いた。
「兄は哀れだな」
「仕方ないでしょうな。会議の主導権を握れるように数さえ揃えば良かったのですから、脳筋は後回しでしょう。比較的利に聡い者達から説得するのが正解です」
「貴君は中々毒舌だな」
「これは失礼致しました。ザナック殿下」
ニヤリと微笑みながらレエブン侯がザナック第二王子に言葉を返す。
「しかし、大貴族達がああも簡単に応じるとはな。どう考えてもあんなふざけた要求に従うはずがないのだが、良く首を縦に振る気になったものだ。いったいどんな凄い魔法を使ったのだ?」
「簡単ですよ、八本指から圧力がかかっているのです」
ラナー第三王女が口を挟んできた。
この場は王城内の部屋の一つである。
ラナーは普段の可憐な笑顔がなりを潜め、恐ろしいほど感情を感じさせない無表情になっていた。人形が口だけ動かしているような不気味さがある。
「此度の件は八本指の方が事の危険性を理解出来ているということです。皮肉な話ですね」
「ふむ、このまま八本指に政治を任せてしまえるならば私も楽が出来そうなのですが」
「面白くない冗談ですね。既に政治を八本指が握って今の王国があるというのに」
「はは、これは一本取られたな。レエブン侯よ」
「全然笑えませんよ……」
三人は宮廷会議での様子とは一変して親しげに顔をつきあわせている。ラナーは真逆で精気を感じさせないほどの無表情だが。
この場は三人が秘密裏に設けた会議の場である。ラナーのこの本性を知る者は王国にこの場の二人、ザナック第二王子とレエブン侯しかいない。半ばラナーの人知を超えた知謀頼りの集まりである。
当然この場を、特に今のラナーの本性を見られるのは拙いのでこの場には三人以外は誰もいない。従者は全て部屋から締め出されていた。まさに秘密会議である。
「此度の会議は上々の結果が得られました」
「うむ、次はどうする?」
「神々と友誼を結ぶことが第一です。間違っても機嫌を損ねてはなりません。国が滅びます。要求には全て従うくらいの姿勢でいいでしょう」
「さすがにソレはやりすぎではないか? 神々の要求次第では国の骨格が失われてしまうぞ。それでは滅んだようなものではないか」
ザナックの苦言にラナーは感情の篭もらない声で返す。
「その時はその時です。どのみち神々には勝てませんから。早いか遅いかの差でしかありません。ならば神々の機嫌を取り友誼を結ぶべきでしょう。帝国のように。本当に帝国の皇帝は優秀ですね。此度の帝国の動きは驚嘆に値します」
「お前がそこまでベタ褒めするとは、やはり帝国の皇帝の能力は傑出しているのか」
ザナックが唸る。本性を現したラナーが他人を褒めたことなど見たことがない。むしろいかに他人が劣っているかを理路整然と語る方が圧倒的に多いくらいだ。
「神々に勝てないなら友人になるというのは素晴らしい手です。ただし言うのは簡単ですが実行するとなるといったいどうやったのか私にも分かりません。帝国の皇帝は英傑ですね」
「普通に親睦を深めただけじゃないのか?」
「まさか、これまで得られた情報から間違いなく神々はその名にふさわしい人外の器の持ち主です。視点の異なる人外と普通に親睦を深めるというだけで大変な偉業ですよ。ましてや損得抜きでの友情を得るなど。情報の限られた状態で、私に同じことをしろと言われても千回やって一回出来るかどうかですね」
「ああ、友情かぁ…… そりゃあお前には……」
「ええ、確かにラナー妃殿下には荷が重そうですね……」
「何を言うのです。私はラキュースの親友ですよ」
無表情で語るラナーの顔を見てザナックとレエブン侯は嘆息した。
八本指がなり振り構わず、脅迫・恐喝なども含めて貴族に根回しした結果得られた平和。
バルブロは除け者。
ジルクニフの驚嘆すべき戦果にラナー絶賛。
ジルクニフと神々が個人的に友誼を結んでいることまでラナーは看破してますが、どうやったのかまでは分かっていません。
実際竜王と個人的な友誼を結べとか言われたら首を傾げるよね。人外との交流って偉業ですよ。