Infinite Stratos Other Wings 作:槇島 包呉
もしもISの世界でもう一種の人型飛行兵器が完成していたらという妄想ネタから筆を執ってみました。
お見苦しい点も多数あると思いますがよろしくお願いいたします。
入学式直前
とある女性は呟く
「朝か・・・・・・。」
アラームの音に起こされてゆっくりを顔をあげる。
「あぁ、今日から新学期だったな。」
朝特有の目覚めきっていないゆっくりとした思考と口調で今日の予定を思い出す。
そして身体を起こした時に崩れる空の酒類の容器を見て思わず苦笑いをしてしまった。
最近量が増えてきている。
それも全てあの日以来だ。
偶然立ち寄った日から今までの数ヶ月の間にすっかり行きつけとなっていた料理屋の店員に気持ちを打ち明けてみようと奮起して行ったあの日、彼はそこに居なかった。
思いを告げることすら出来ずにこの歳にもなって失恋のような思いに駆られて、その日以来嗜む程度であった酒の量が加速的に増えた気がする。
最近は生徒が居ない期間だったので問題はなかったのだがこれからはそうもいくまい。
早く忘れてしまわねばな、と僅かに赤みがかっていた目元を化粧でごまかそうと織斑千冬は洗面台に立った。
とある少年は自問する
「どうしてこうなったのだか。」
これで何度目になるのかすら覚えていない自問である。
それというのもこの身は気がついたらあれよあれよと言う間に史上初のIS操縦者として進学先まで決められた立場なのである。
本来着る予定であったはずの藍越学園の制服ではなく白と黒の混じったIS学園男子用制服に袖を通す。
「EAFて言ったっけか。」
自分がうっかりISを起動させてから過ごしてきた激動の日々の中で様々な人物から気をつけろと言われたその名前を一度口にしてみる。
「会ってみなきゃどんな奴らかなんて分かんないもんなぁ。」
できるんなら仲良くしたいなぁ。なんとなく出た言葉であったがそれは彼、織斑一夏の未来を見事に表すことになる。
そして彼女は観察する
「視界良好、良好。いっくんも箒ちゃんもよーっく見えるねぇ。」
IS学園の敷地内にある岩と崖で構成された海岸沿いの野外訓練エリアに立つ女性はわざとらしく指を双眼鏡のように輪っかにして遠くを走るモノレールを眺めて一人で楽しげに言う。
「せっかくの入学式だもんね。箒ちゃんの新しい制服姿といっくんの制服姿を見たいよね。」
誰に尋ねられたわけでもなく、しかし物語の登場人物のように歌うように一人女性はそう続ける。
その際、視界に入っているはずの他の生徒や上空を飛行している何かのことなどは一切意識に止まらず、彼女にとってそのモノレールの中にはたった二人の人物が乗っているということしか理解できていなかった。
一見無防備にもみえる姿でもあるが周囲には一方型の空間投影迷彩でこちらからだけ見えて相手側からは何もないように見せかせているうえにコンタクト型の網膜投影ディスプレイから直上軌道にある衛星の情報も合わせて周囲の警戒もしている。
更にISコアネットワークも利用して近隣のISの動向に注意しているどころかこの時間帯に限り全てのISのセンサーは篠ノ之束という存在を知覚できないようになっていた。
なので彼女、篠ノ之束の存在が感知されるようなことはありえない筈であった。
だから彼は驚愕する
『EAF05!蔵人!ランディングコースの提示はまだか?』
IFFが味方機を示す機体EAF01からの通信を聞きながらそのレドームとカメラアイが合わさったヘッドの機体の目は偶然にもソレを捉えていた。
「・・・・・・今各機のHUDにデータを転送している。やがて見えるようになる頃だろう。」
とりあえずこの状況を理解しているのは己だけらしい。もともと通信・光学・観測などに特化した機体装備な上に今はこれから世話になるIS学園付近の地形データ採取の為に戦闘などを一切考えていない完全偵察観測系装備で固めているのだ。だからこそ偶然に近い形でそのあたりの歪みを引っ掛けることに成功したのだろう。
『データ確認、指揮管制機の指示に従う。』
「じゃあEAF各員テンション上げていこうか?」
冗談交じりな口調で話すのは驚きを悟られたくない為かそれとも僚機にアレのことを気付かせないためか。
機体制御に混じって自分たちの雇い主でもある上層部へ向けた秘匿通信コードを用意しつつどの手段で情報を伝えるのが最良な手段かを考え始める。
「速度このまま方位修正風向き観測開始。IS学園コントロールへ。こちらEAF05天鶴。
パイロット畝霧蔵人。これよりEAF各機が順次着陸に入る。管制を。以上。」
こちらも機体を安定させつつその人物の姿を捉えた映像にありったけの補正をかけてデータをひたすらに収集し続ける。
そこにいるのが只の人物ならなんの問題もないだろう。
しかしその人物の名前と存在自体がそれを許さなかった。
篠ノ之束。
この世界を揺るがす引き金を自ら引いた人物である。
今は手を出すことは出来ない。しかし、次があれば必ず指示に従った対応をしてみせる。
それが接触なのか敵対なのかはまだ不明だがその人物を決して見逃さないように彼、畝霧蔵人はしっかりとカメラアイとともにズームさせた映像をその肉眼にも焼き付けた。
よって少女は思考する
「ねぇ、アレって何かな?あれもISだっけ?見たことないタイプだけれど。新型とか?」
「いや、アレって噂の機体じゃない?」
「あぁ、男でも動かせるって言ってたあの?」
「そうそう。」
その後、「男の作った機体なんて所詮勝てるわけがない」といった内容に続く背後に座る女子生徒達の会話をそこで聞くのをやめた女子生徒はモノレールで一人、窓の外に見える5機の機影を眺めた。
流線型のデザインが多いISよりも随分と装甲が多く、尖ったデザインのそれらはそれぞれが違う形ではあるものの共通のデザインとして大きなエンジンを肩から繋がる背後に背負い、そこから生える鋼鉄の翼で空を切って風に乗りながら存在していた。
(あの中央の機体、何処を見ているんだろう?)
等間隔の隊列を組んで飛行する5機のそれらの中でひときわ目立つ大型の頭を持った機体に目を引かれて視線を奪われてしまう。
メカニックとパイロットのどちらを目指すべきか未だに悩んでいる中で見たそれは、空を重力の鎖から解き放たれて動くISとはまた違い、重力の鎖に縛られたままで風や空気を読んで、時に利用しながら自由に空を駆けていた。
相川清香はまだ知らない。彼女がEAFに近い位置で学園生活を過ごすことになる日々を。