Infinite Stratos Other Wings   作:槇島 包呉

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嘆きのボイン

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、技術者の全身を特殊なエネルギーフィールドで覆っています。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィン等が挙げられ―――。」

昨日のテスト及び解答を抜いて初めてとなる授業の中で俺は頭を悩ませていた。

事前の学習の効果もあって決して理解できないほど難しい授業というわけではない。

ただ、ちょっと配布物を回す際に見えてしまった箒の大胆に露出された太ももに眼と脳を焼かれて煩悩に襲われているのだ。

武道をやっているからか引き締められたその魅惑的なラインを見せつける脚と短めのスカートの間から覗く太腿だけでもすっかり美人になってしまった幼馴染を意識してしまうのは仕方ないのかもしれないが、今回は更に配布物を渡すために半身をこちらに向けるようにしていた際に僅かに開かれた脚の間からはっきりと内ももが見えてしまったのだ。

偶然とは言えここまで見てしまえば最早その奥に秘められている箇所を想像してしまうことから逃れられるはずもなく集中力を著しく欠く事態に陥っているのだ。

武道をやっている身としては情けない話ではあるが10代の男という事実は情けないほどに煩悩に負けてしまうものらしい。

そのようなはっきりと自覚できるティーンエイジャーの男性故の衝動的な悩みに脳を苛まされていると近くの席の女子が挙手とともに「はい。」と声をあげたのでどうにか意識を切り替えてそちらに集中しようとする。

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか体の中をいじられてるみたいで怖いんですけれど・・・・・・?」

聞き流しかけていたがなにやら一通りの解説は終わっていたらしく、ここまで質問はありませんか?という確認をする山田先生の声に(有斐曰くバルクホルンと呼びたい女子暫定一位の)谷本さんが挙手をした。

あと、オルコットさんは流石に既にそういった内容が頭に入っているのか授業自体は真面目に聞いている様子だったが時折春の息吹に身を任せてか暇そうに軽いあくびをしている。

その姿はどこかヨークシャーテリアのような印象を抱かせた。

気品だけならゴールデンレトリバーやシェットランド・シープドッグのようであるが。

「言葉だけでしたら確かにそんな印象を抱くかもしれませんが、そんなに難しく考えることはありませんよ。・・・・・・そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね?あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響がですということはないわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、型くずれしてしまいますが―――。」

溌溂と答えていた山田先生の言葉が突然止まる。

それはそうだろう。確かに今まではその説明で伝わったかもしれない。

そして大変理解しやすいものであっただろう。

―――ある程度の女子にとっては。

「あ、えっとぉ・・・・・・いや、男の子はしないですね。あはは。その・・・・・・わ、わからないですよね、この例え。あは、あははははは・・・・・・。」

冷や汗をだらだらと流しながら笑ってごまかそうとする我らが副担任(やまや)

しかし俺は忘れることは出来ないだろう。

山田先生が恐怖を覚えていたのがどう反応すればいいかわからない俺達ではなく、憎悪と嫉妬の炎を燃やして暗黒面に陥りかけている女子数名であったことを。

その顔を直視することが下手なホラーゲームよりよっぽど怖いものであるだろう事を。

新学期の開幕早々こんな亀裂を生んで大丈夫かこのクラス。

ちなみに一部の男子生徒は胸の前で意味ありげに両手でお椀のような半円を描き、隣の男子に否定の首振りの後もっとお椀を大きくと指摘されていた。

 

さて、そんな調子だった授業もなんとか終わり事の始まりは本日の昼休み。

「あ、織斑くんと箒ちゃんこのあと時間ある?畝霧くんも!」

2人での食事を終えた俺と箒を捕まえた相川さんが朝の書類の打ち合わせの続きを終えた蔵人を呼び寄せて会議をしようと提案する。

「まぁ、書類はなんとかなりそうだし相川さんの言うとおり作戦会議とするか。」

続きはまた次の機会で、とオルコットさんに言ってこちらへ合流してきた蔵人が同意する。

「ワンサマーは自分の戦闘スタイルは何が似合うと思う?」

「似合うって言われるとイメージわかないなぁ。」

雷吾とオルコットさんに勝つためにはまず今の俺に一番足りていないものである圧倒的な経験不足を補うことが必要であり、今からそれをどうにかするには自分に合っていると思われる戦闘スタイルに絞って訓練するしかないのではと告げる蔵人の漠然とした問いについ頭を捻ってしまう。

そこで俺を救ったのは箒の一言であった。

「一夏、昔から剣道やってただろ?なら剣での近接戦なんてどうだ?」

その情報に蔵人がそれだな。と頷き、箒に礼を言う。

「本当か?そういやこの前師匠がどうとか言ってたな。実にいい情報だ。ありがとう篠ノ之さん。」

「いや、名前でいい。実はその苗字は姉のことも思い出してあまり好きではないんだ。」

苗字で箒のことを呼ぶ蔵人に箒が少々気まずそうに返事をする。

先日再会してからも一向に束さんの事がを話題にしなかったのでもしやと思っていたのだけどどうやらその予感は当たっていたらしい。

「すまないな。博士の事か?」

「あぁ・・・・・・家族が離ればなれになるきっかけでもあるからな。正直どう言えばいいのか分からないがあまり触れられたくないんだ。」

詫びる蔵人の言葉に答える箒の返事で湿っぽくなり始めた空気を打ち破ろうとしてか相川さんがパシンと手の平を打ち合わせた。

「それじゃあ早速織斑くんの腕を見ようよ。」

「え?」

「そうだな!いざ行かん剣道場!急ぐぞ一夏!」

「ほらほら行くぞワンサマー。」

本人もその道の心得でもあるのか楽しげに言って意気揚々と先を行く相川さんに引張られ、後ろにいた蔵人に背中を押されながら歩きだす。

その為、相川さんの隣を歩く箒の「一夏の剣道姿かぁ。」という心底嬉しそうな声に気づくことができなかった。

経験者で部活に入ろうとも考えていると熱弁を奮った箒のお陰で昼休みに誰もいない剣道場を見学する許可を貰ったので早速壁際に立てかけられていた授業用の竹刀を出して構える。

いくら慣れない場所とは言え剣道場というものはどこでもそう変わることはないのだ。

この場で箒に腑抜けた情けない姿など見せたくないという男心は自分自身に何一つ気を抜くことをさせず武士のような心構えを心身の隅々まで行き渡らせていく。

「構え、変わったな。」

竹刀を構え向かいあって緊迫した中で箒が言う。

「流石にな、我流って訳にも行かないしバイトもしなきゃいけなかったし千冬姉も忙しかったからどうしようかって一人で悩んでたらその時たまたま知り合った道場の師匠が教えてくれたんだよ。」

「強くなったか?」

「人前で見せるのは初めてになる。」

「そっか。それじゃあ始めようか。」

その言葉を最後に沈黙が訪れ、蔵人が手を振り下ろす。

それが合図であった。

「イヤァァァァァッ!!」

剣道では割とよくある何を言っているのか自分ではわかっているつもりの周囲にはよくわからないような奇声と共にしっかりと受けるように真横に構えられた箒の竹刀に向けて竹刀を振り下ろす。10本ほど軽く面を狙い、蔵人の声で構えを変えた箒に合わせて10本胴を狙い、再度構えが変わった後は10本小手を狙う。その繰り返しである。

時折会心とも言えるような澄み切った音を引き連れた一本が入るが、試合ではないので止まりはせずに打ち込みが続く。

「改めて目の前で見るとすっごい迫力だね。」

5分ほどそれが続き、俄に体が熱を持つ程度の運動を終えて竹刀を直した時にそのような感想を言う相川さんの声が耳に入る。

「やってる本人達は意外と気にならないもんだしそこまで派手にやってるつもりも無いんだがな。」

「なんだ、畝霧もやってるのか?」

相川さんの感想に応える蔵人の言葉に気付いた箒が尋ねる。

「まぁ齧る程度だけど家の教えもあって剣道は修めてたよ。」

あっさりとそれを認める本人の言葉に俺も(真偽の程は定かではないけど)燕飛組の末裔だと言う雲親の家と昔から付き合いがあるような家であるならそういうこともあるだろうなと納得してしまう。

「じゃあ本当は今もやってみたかったりしたのか?」

本人の顔を見れば聞く必要のないほど伝わってきているが敢えて尋ねてみる。

「正直な所かなり疼くものだ。俺もそのうち手合わせしてみたいもんだよ。」

その言葉に俺も今後の修行相手には困らないかもしれないなと喜びを覚えたのであった。

 

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