Infinite Stratos Other Wings 作:槇島 包呉
1週間という決して長くはない準備期間をそれぞれが様々な形で過ごして遂に試合当日がやってきた。
「はぁ。」
クジ引きの結果一回戦目は
「緊張か?」
その声が聞こえたのか更衣室に備えられた中継モニターを眺めていた蔵人から指摘される。
「試合だし緊張するなって方が難しいだろ?」
「そうだな。むしろある程度は緊張してない方が危険だ。」
いくら練習と付くとは言え試合は試合だという考えは俺と蔵人の共通認識らしく控室内の空気は基本的に緩いものでありながらも僅かに張り詰めたものになっている。
ピットに待機していても良かったのだが一人でいると良くない緊張をしてしまいそうで、こうしてギリギリまでは更衣室に待機することにしたのだ。
しかし試合に備えて着替えた後はただ待つことしか出来ない俺と学園側からの指示でISの出撃ピットへは立ち入れなかった蔵人という状況ではこうして男二人多少の会話をするばかりで何もすることが出来ずに過ごすしかない。
だがこの部屋からすぐ傍の出撃ピットでは学園専属の整備士達によるセッティングを終えた白式(つい先程届けられたばかりの自分専用機)がその出番を待っているのだ。
「気合い入れていかなきゃな。」
そんな適度に張り詰めた時間が続くかと考えていた矢先に控室の扉が開いた。
「ようワンサマー。準備できてるか?」
「陣中見舞だぜワンサマー。」
扉の向こうから現れたのはいつもの黒い制服ではなく作業着姿の何也と有斐であった。
「何しに来たんだ?」
その姿を確認した蔵人が意外そうに尋ねているがこの二人は俺の訓練中に何度か顔を見せていたしそもそも本来なら蔵人も向こう側に居るはずではないだろうか。
「何也達までなんだよ。
「うーん、雷吾にゃ対特殊射撃戦装備機への対応をひたすらしてもらったしやれることはやったよ。あとは始まってからだな。」
「ワンサマーにも言えることだけど機体の相性があるからな。近寄れなきゃアウト。接近する事ができれば勝ち目はある。」
「そんなに強いのか……。」
本番が始まれば俺達は暇でな。とそれぞれに続けながら笑う二人の言葉に気が緩みそうになるが自律だと自らに言い聞かせて緊張感を取り戻す。
「そりゃ遠距離型と言っても近接用武器くらいはあるだろうからな。雷吾の奴だって射撃武器は持ってるしその逆も当然だろう。」
送られてきた白式の資料には刀くらいしか記載されていなかったとは言えぬ空気を感じる。
「おい。」
「あぁそろそろ始まる時間か。そんじゃ頑張れよワンサマー。応援してるぜ。」
「勝っても敗けてもうまい飯を食おう。」
有斐が時計を見て声を掛けると何也とそれぞれに最後の言葉をいいつつ控室を出ていった。
「……後付けでいいからライフルの一つでも持っていくか?」
激励に来てくれた二人が退室した後ボソリと蔵人が提案する。
スペックは流石に見せていない(お互いの身の安全と平穏の為だと蔵人の方からそう言ってきた)が武装が刀一本しか見当たらないことに関してはすぐに分かることであるし戦術指南を受ける為に既に告げていた。
「訓練してないしいい……。」
訓練もなく初めて握った当てることのできない銃など危なっかしくて恐ろしい。
しかしこの先もずっとそのままでいいというわけにも行かぬだろうし近い内にそっちも訓練しようかなどとと考える。
「む、始まったか。」
そんな思考をしている最中発せられた蔵人の声にアリーナ中継用の大型モニターを見やる。
その画面の中にはISの装着を終えたセシリアと、EAFを装着した姿の雷吾が向い合って立っていた。
『緊張しているというわけではなさそうですわね。』
モニターの中のセシリアが向かい立つ雷吾にそう声を掛けている。
『ただの模擬戦だ。ガチガチに緊張するようなものでもないし油断できるものでもない。それだけだ。』
まだ戦闘開始前の状態であるのでお互い距離をおいた状態で口だけでの応酬が行われる。
「言われてるぞ。」
「うるさい。」
向かいに座る蔵人がモニターの向こうの会話を聞いて茶々を入れてくる。
その間にもアリーナではセッティングの最終確認のアナウンスが流され、向かい立つお互いが手早く機体の状況を確認していく中、俺は自然とEAFの展開を見つめていた。
『ENERGY・AIR・FORCE standby』
『SETUP』
『Ready』
『Alright』
次々と発せられる機械音声に合わせて感覚を確認するように雷吾の一号機改が数度拳を開閉させる。
今回の1号機の装備は両手に一振りずつの刀と肩に追加アーマー等、打鉄とは違うが鎧武者を彷彿とさせる装備であった。
『Ignition』
『Engine Starting Now』
エンジン部から甲高い音が響き始め、その後部からは陽炎が揺らめきはじめる。
それと同時にエンジンユニット二機から伸びる鋼鉄の翼が折り畳まれた状態から展開されていく。
『Engaged』
システムのチェックと翼の展開を終えてむき出しだった関節部分が薄めのゴムのような素材でカバーされる。
『Countdown3・2・1 Connect』
その一連の流れを見て引っかかりを覚えたので目の前の友人に尋ねる。
「蔵人が使ってたときはもっと早かったよな?」
実際こっちの訓練に使うために何度か飛ばしてくれたときに見たのはISと同じかもっと速いくらいの展開速度だった筈だ。
「あぁ。実際はもっと短くできるな。わざとだろうよ。それで油断でも誘えれば御の字だ。」
その言葉の内容に少し考える。確かに機体展開のタイミングで目の前でもたもたと準備をしているような相手の姿を見せられては油断が発生するかもしれない。
いわゆる「常在戦場」の気持ちなのだろうか。そう考えて感心してしまう。
「すごいな。模擬戦でもそこまで考えてるのか。」
「・・・まぁ、
しかし、或いはただの格好つけかもしれん。と、続ける蔵人の言葉に俺はどっちなんだとがっくりと肩を落とした。
「どちらにせよEAFとISが同時に空を飛ぶのは偉大な一歩目だ。」
蔵人がそう告げると同時に画面の向こうでブルー・ティアーズとEAF01改が飛び立った。
今更ながらにキャラ紹介など
カーレン・イスカ・雷吾(らいご)
両親が国際結婚でカナダ人の父と日本人の母を持つ。
もともとは父親がEAFのテストパイロットをしていたが過激派によるEAFの工場襲撃の際に父親を失う。
その際に見学に来ており、息を引き取る直前の父の言葉に従い身につけた機体こそが父の愛機でもあった一号機である。
その後機体を一度改修しており現在では一号機改とそのパイロットとして登録されている。
EAF01改
元々はテスト用のオーソドックスな機体として開発されていたが後続の機体がチーム戦を意識した特化型だった為にIS学園入学に合わせて近接よりに改修された。