Infinite Stratos Other Wings 作:槇島 包呉
今回登場しただけでも5名のオリジナルキャラクターがいますが折を見て紹介を挟んでいきたいと思っています。
「全員揃っていますでしょうか?」
教壇の上に立った童顔の教師が教室の隅まで見渡して確認するように発言する。
教師という立場上本来ならばもう少し落ち着いた態度なのだろうが生徒を律する立場に有る筈の彼女が今日に限って落ち着きが無い表情なのは仕方ないと言えるだろう。
少なくともIS学園という場所に男子生徒がいるこの教室に限っては。
「それでは自己紹介をお願いします・・・・・・そうですね出席番号順で。」
その言葉に合わせて女子の出席番号一番から自己紹介が始まる。
一昔前、あるいは若者向けノベル等なら女子校以外では違和感がある光景だったのだろうが当代の一般的日本人にとって自己紹介などが男子から始まるという風習はとうに風化しており、女性の権力が強い当世ではこのような光景はもはや当たり前であった。
IS学園。
ここは才能溢れる様々な美少女達が過ごす夢の様な花園とイメージされ、科学の結晶が集まる場所である。
退屈な時間の経過を待つ間にそこまで考えたところで女子の最期の一人が自己紹介を終えたのかちらちらとこちらを伺うように見てくる副担任の姿が目に入る。
まるで頼りない檻程度の障害の先にいる猛獣を見るかのようなその視線はあまり嬉しいものではなく、むしろ不快に近い。
そんな教師の姿に対してその態度は何かと言いたくなるが自らの身分というものを再考してぐっと堪える。
そう、
「織斑一夏です。よろしく。」
今挨拶を終えたばかりの男、織斑一夏よりも。
このIS学園にて男子生徒として最初に自己紹介をしたのは目の前の席に座る史上初の男性IS操縦者という肩書を持つ顔立ちが整った男であった。
しかし我々から見ればまだ”IS学園に所属しており、ISの操縦者であるだけ彼女達の側であるはずの男”なのだが、そんな織斑一夏に対して向けられる声は、「織斑くんってコワイ感じかな?」や「なんか、怒ってそうだね」とあまりいい印象ではないものであった。
女性の視点を持たぬ身なので推測の域を出ないが笑顔を振りまかず、愛想も考えない彼の自己紹介は周囲から見るとまるで不機嫌のような印象を与える事になってしまったようだ。
これが我々男性陣の視点に変われば話は簡単である。
実際の所、1000を超える人間の集団の中で男女の比率が限りなく0:10に近しい状況に放り込まれて固くなるなというのが難しいものだ。
個人的に表現するとするならば一面の花畑に放たれた狼であろうか。
表現の仕方は兎も角、これまで女子生徒のみで構成されていた(おそらく彼女達も最初はそのつもりであった)学園生活に異色の存在が混じっているのだ。実際のところこれだけでも教室の雰囲気を正常に保つことは難しいのだろうが
「それでは―――」
「
流石にもう一度副担任のこちらへの伺うような視線を受けるのは皆御免なのか視線がこちらを向く前に起立の音で言葉を遮って、先程自己紹介を終えた織斑一夏と同デザインの黒い制服を見に付けた男子生徒が自己紹介をする。
初対面の者達に対する挨拶としては少々無機質すぎる気がするが偉大なる第一号者に合わせてこのスタイルを選んだのだろう。
後続の我々があまり頭を使わなくても済むように。
「カーレン・イスカ・
「
「
「
燕飛の機転に合わせてと残った3人の同僚達も次々とフォーマットを合わせて自己紹介を終える。
それを静かに聞くだけだったクラス内に少なくはない拒絶の視線があることがあまりにも予想通りの展開であった。
我々の存在については先述した”男性とはいえIS操縦者である織斑一夏”とは全く異なるものであったからだ。
その存在の当初の理念として『男性でも使用することができる、飛行可能なパワードスーツ』を掲げ、世界を揺るがしたISという機動兵器に対して女性有利とする世の中を沈静化するべく時間と金と資源を与えられて作られた現存するあらゆる技術の集まりでもあり、男性の希望として送り出された現代におけるイカロスの翼。
その名を「
翼を生み出した人々やスポンサーが我々(機体含む)につぎ込まれている予算に匹敵するのではと思うほどの金額を数年前から正規のスポンサーとして名乗りを上げてIS学園へと寄付して予めそれなりの発言力を付けていたうえで口を揃えてジャンル上はISと同じ飛行可能な装着型兵器であるがゆえに指導要綱の流用が可能だと言い張ってくれたお陰で試験的にこのIS学園に通う運びとなったが、区別(善意的解釈である)の為か他の生徒とは違い同じデザインの黒い制服に身を包んだ我等へ向けられる視線は織斑一夏以上に差別的なものばかりであった。
まぁ、それも当たり前といえば当たり前なのだ。
表向き『男性でも女性でも起動可能な別の系統で生み出されたISのようなもの』だと宣伝されているその機体は女性のみが運用可能な兵器であるという現在のISの生み出した女性優位な社会を無に返しかねない存在である。
EAFの出現により自分達のいる場所が今や砂上の楼閣になる可能性があるということを自覚させられた多くの女性はその恐怖感からISを倒す目的で作られた存在だと認識しているだろう。そんな存在がわざわざIS学園に通っているのだ。
その認識は勝手なものであるがまぁ間違っているものではないと
上の者にはっきりと告げられたわけではないが、そのために我々はここへ送られてきたのだ。
最もこの立場を得たのも偶然の積み重なりの上なので生憎と上層部の思惑通りにそんな命令や陰謀に最後まで付き合う気はそこまでないのだが。
兎に角、そんな我々の存在を快く思わない女性の数は当然少ないものではなく、その思想を注がれ続けた女子生徒達の根底は簡単に覆せるものではなさそうであった。
しかし、そのような話を置いておくにしても八王子の自己紹介の時に副担任の表情が特に厳しい物になったのは気になるところだ。知り合いか何かなのだろうか。
少なくともその時の表情は初対面の者へ向けるようなものではなかったのだ。
元はこの国の代表に選ばれるほどのIS操縦者と我々の機体を構成する制御プログラムを作成していた天才プログラマー、何かあったと考えるのは出歯亀が過ぎるだろうか。
副担任によるいかにもな新入生向けへのHRを聞き流してそんなことを考えていると「何をざわついている。」という一言によってこれまで異例の男6人組の存在に僅かにざわついていた教室に突然の静寂が訪れる。
その原因は不愉快そうに眉を歪めた美人であった。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
副担任が凍りついた空気の中で唯一自然な動きで言葉をかける。
「あぁ。山田君、いきなりの出だしを任せて済まなかったな。」
「仕方ないですよ。うちのクラスにアレの件ですから。」
その時、山田先生の視線がチラリと我々EAFパイロット達の方へと向けられた。
あまり気持ちの良いものではないがいい加減慣れなければならないし、軽く聞き流していたHRの時の態度から考察するとどうやらあの小動物的態度は生来のものらしく、そうであればそこまで目くじら立てる程の物でもない。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。
私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ないものにはできるまで指導してやる。
もう一度言い方を変えて言うぞ。私の仕事は若干十五歳を十六歳まで鍛え抜くことだ。
逆らってもいいが私の言うことは聞け。いいな?」
先ほどの事もありシン、と静まり返っていた教室に十分すぎるほどに行き渡る声量で告げられた。しかしその静けさは次の瞬間一瞬にして吹き飛ばされることになった。
「キャァーッ!!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっと前からファンなんですっ!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
「私もはるばるオーストラリアから来たんです!!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんてっ!」
「お姉様のためなら死ねます!むしろお姉様のために死にたいっ!」
織斑千冬に対して向けられる黄色い声の数々に当の本人織斑千冬が鬱陶しそうな表情になる。
「なぁ、これずっと続くのか?」
そこでようやく自分の正面に座っていた白いIS学園制服の男子、織斑一夏が訪ねてくる。
「そうならないように願うしかないよな。」
同じようにうるさそうに眉をしかめた