6話.交渉成立
休日の昼、日が下がり外にある人口島の風力発電はあの、ハイジャックの事件の時、新光がほとんど壊し航空機等の残骸が落ちている。
武偵高の寮の屋上で猫が歩き、その下から音が聞こえる。
その音はヴァイオリンだがその音は到底聴けるレベルではない。
彼がなぜ弾いているのか……それは後にわかる。
「おい、だから手を組めって言ってるだろ」
「だから断ると言っている」
壁の向こう側から藍の色素が混ざった漆黒の髪、顔に無数の傷がある武偵と浩司が話していた。
彼の名は萩原願(はぎわらげん)。強襲科でずっとSランク(Vランク)を取っており誰かが「あ、悪魔たん……」と言われている程の実力者。若き歳で自衛隊の虎の子である特殊部隊『Fユニット』を指揮する自衛官であり、日本の治安を維持する裏の組織『大和』の総帥でありながら裏の世界では『日本の首領(ドン)』と呼ばれる萩原家の第八十八代当主でもある。
そんな彼がなぜここに居るのか。
「ったく、お前は堅いヤツだな。魔剣(ディランダル)がお前らを狙ってるってこと知ってるんだ。奴を捕まえればだな」
「だから断ると……」
言っている、という浩司だが願は演奏している部屋の前へ行き、
「……つーか隣のお前うっせぇ!テメェも何か言え!」
回し蹴りをして演奏している新光に怒号を浴びせる。
願曰く、下手な演奏だ、と。
「ん?手を組めって?急に何を言ってるんだ。つかなんで魔剣のことを知ってるんだ?」
少し時間遡ってアリアとキンジのコンビ復活の次の日、昼休みに車両科(ロジ)の武藤と不知火、キンジ、新光、アリアと話していた。
「キンジ……お前、星伽(ほとぎ)さんと喧嘩したんだって?」
星伽さんとは星伽白雪。SSR所属、鬼道術という超能力等、優等生なんだがキンジがらみになると冷静さを失う武偵だ。
「星伽さん沈んでたみたいだぞ?どうしたんだ?」
その白雪と何かトラブルを起こしたようで、顔を伏せていて、気が沈んでるキンジに武藤が話しかける。
「白雪とはどうしたも何も……武藤お前、白雪見かけたのか?」
武藤はニヤ顔でキンジにこう言った。
「今朝、温室で花占いしてたのを不知火が見たって言うからよ」
「へー」
キンジが頬に手を当てて流すような返事をする。
「僕に見られて気付いたのと、一時間目の予鈴が鳴ったのとで……占い自体は中断したけど。なんか、涙ぐんでるみたいだったよ?で、なんで別れちゃったの?もう、愛が冷めちゃったとか?」
不知火はキンジとアリアに顔を向いてそう言う。
うきゅうっ、とアリアが丸のみしていたももまんをノドに詰まらせる音が聞こえた。恋愛には疎いアリアには結構効いたのだろう。
「あのなぁ……どこでどう話がこじれてそうなるんだ。そもそも俺と白雪はそういう関係じゃない。ただの幼馴染だ」
「あんなやばい幼馴染がいるか」
新光は嫌そうに小さく呟く。
「幼馴染、かぁ。はぐらかし方としてはポピュラーな選択肢だね。噂では神崎さんがヤキモチをやいて、星伽さんに発砲したって聞いたよ?だから、僕の読みは遠山君と神崎さんがうまくいって、女子二人が決闘した……ってセン。だって神崎さん、アサルトでも遠山君の話ばっかりしてるもんね。しかもすっごく楽しそうに」
「こ、こっ、このヘンタイ!」
「ぐっ!?」
地雷を踏んでしまったのかアリアは真っ赤になってキンジの顔面に当たる。
不知火が踏んだのになぜかキンジに被害を受けるハメになった。
「ハッキリいっておくけどねっ。あたしが白雪を追い払ったのは、ヤッ、ヤキモチとか、そういうんじゃないの。あたしとキンジはパートナー。す、好きとかそういうんじゃない。絶対、絶対、ぜぇーーったいそれはない。これは本当に本心の本音よ!」
「……不知火、アドシアードはどうする?代表とかに選ばれていたはずだが」
ジダバタと動くアリアの怒号を無視するキンジは不知火に今年行うアドシアードのことを聞く。
アドシアードとは年に一度行われる武偵高の国際競技会だ。
「たぶん競技にはでないよ。補欠だからね」
「じゃあ、イベント手伝い(ヘルプ)か。何をするんだ?何かやらないといけないんだろ、手伝い」
「まだ、決めてなくてねぇどうしようか?」
「アリアはどうするんだ?アドシアード」
キンジはアリアに何に出るのか聞く。
「あたしは競技には出ないわよ。拳銃射撃競技(ガンシューティング)代表に選ばれたけど、辞退したわ」
「じゃあお前もイベント手伝いか。何やるか決めたか?」
「あたしは閉会式のチアだけやる」
「チア……?ああ、アル=カタのことか」
アル=カタとはイタリア語の武器(アルマ)と日本語の型(カタ)を合わせた用語だ。
女子はそれをチアと呼ぶ。
「新光とキンジもやりなさいよ。どうせ手伝いなんでもいいんでしょ?」
「ああ、俺はヴァイオリン演奏しないといけないが」
新光は指を動かし、ヴァイオリンの演奏、空想だがした。
去年は訳があって出られなかったが、今年は出る予定である。
「あ、そうなの」
「……でも神崎さん、代表を辞退するなんてもったいない。ポピュラーな話だけど知ってる?アシアードのメダルを持っていると、人生バラ色になるんだ。武偵大も推薦で入学できて、就職にも有利。武偵局にはキャリア入局できるし、民間の武偵企業だって一流どころの内定がよりどりみどりって話しだよ?」
「そんな先のことはどうでもいい。あたしは今すぐ、やらなきゃいけないことがある。競技の練習なんてでているヒマなんてないわ」
やらなきゃいけないこと、それはかなえさんを助けること。
だがアリア、イ・ウーの他にも相手しなければいけない組織もあるかもしれない。
場所が変わって危険地帯のひとつ、教務課(マスターズ)、尋問科(ダギュラ)の綴に呼ばれた新光たち、新光のほかにも珍しく、優等生の、そして話題であった白雪も呼ばれた。
綴のタバコ……完全にアレだが持ってる紙を見ながら白雪にこう言った。
「おまえを狙う可能性が高いって諜報科(レザド)のレポートに書いてあっただろ。SSRにも似たような予言があった。魔剣(デュランダル)だよ」
デュランダル、確か超能力を用いる武偵・超偵を狙う誘拐魔。
全国の武偵校でも注意しろと言われているが……まさか白雪が。
ついでに俺たちも狙われているということも言われ。
そしてまさかの……
「そのボディーガードあたしがやるわ!」
ダクトの、通気口のカバーを蹴破ったのは、アリアだ。
ついでにキンジもいる。
なぜボディーガードで出てくるんだお前は?と呟く新光。
「ア、アリア!?キンちゃん!?」
「二十四時間体制、無償で受け付ける!」
アリアとキンジはダクトから跳び降り、無償で引き受けるとは。
「へぇ、Sランク武偵がタダで護衛を引き受けてくれるのか、そりゃ上等だ」
綴は通気口から出てきたのをツッコまず、ニヤニヤしながら言う。
「嫌です。アリアと一緒に居るなんて汚らわしい」
白雪は拒否反応しているかのように言う。
白雪、そこは引き入れてやれよ。仮にもアリアは一流だ。まぁ、白雪はそこがダメみたいだな。
で、いろいろあって最終的には。
「キンちゃんもボディーガードして!二十四時間体制で!わ、私もキンちゃんと一緒に暮らすぅー!」
そう、まさかの白雪とキンジとアリアの同棲宣言で、
ドサッ!と白く灰になったキンジが後ろに倒れた。
なんという知略というかなんというか、哀れだな。
そんなことを知っていた願は新光がいる寮まで来て、魔剣逮捕する、手を組もうと乗り込んできたのだ。因みにキンジのほうにも願のパートナー、 も交渉に行ってるという。
まぁ向こうは向こうで武力行使だろう。
「ふっ、ここまで言ってもピンと来ないか。いいか、魔剣はイ・ウーと関わっている、いやその一員だからだ」
「……ほぉ、まじか」
新光はイ・ウーという言葉に耳を傾ける。
EJも言っていた、イ・ウーも狙っていると。
もしかしたら、いや、アリアはイ・ウーの一人である魔剣を捕まえようと乗り出したということだ。
「どうだ?乗ってみるか?」
「乗ってみるさ、頼んだぜ」
交渉成立、という感じに手を合わせる願と新光。願も、アリアも魔剣を捕まえ、新光たちと白雪が助かる。一石二鳥ということだ。
白雪の護衛は朝、全員で登校、四時間目まではアリアと香苗が、昼休みは俺、浩司と新光……もちろんアリアは近くでチアの練習、新光達は遠くでパオズ(中華まん)を食いながら監視、放課後はキンジ、鷹、春奈……パートタイムでたまにレキが監視する。そして願達『大和』一派も監視している。
「はぁ?アリアと喧嘩した?」
昼休みの終わり頃にアリアがノーベルドバカ賞!とか叫んでいたから屋上に行ったらキンジが仰向きに倒れていて給水搭に「バカキンジ」と撃ち抜かれていたが訳を聞いたら予想通り、またアリアとキンジのもめ事だった。
「あぁ、あいつ勝手に白雪と結婚しちゃえばいいのに、とか言っているからな。それにデュランダルなんていないし」
キンジがデュランダルは居ないと断言する。しかし願もデュランダルを探している。
あいつ、『大和』のトップが探しているんだ。
「とりあえず、白雪の護衛はどうする?今レキ……願も監視しているが」
レキは二十四時間監視はできない。
願も流石に無理だろう。別メンバーが監視してくれていると思うが。
「白雪は……夜、俺が護衛する。寄り道したいところもあるでな」
キンジが何か考えていたかのような言い方をした。
そういえば、明日花火か。
「わかった。任せるわ」
武偵の生活とは程遠い平和な花火。キンジと白雪二人っきりで楽しんでいくんだ。
俺は浩司とレキと香苗、平賀、願達と楽しんでいくよ。
「ほう、デュランダルの情報……ですか?」
花火前日の夜、寮の、新光のリビング部屋でEJの草加と新光たちの定期連絡を取り合っていた。
草加のほかにも、以前会ったあごひげがあり、腰に刀を挿している男と帽子を被ってウェーブかかった紫色の髪が特徴な男。草加の仲間だと思うが何か雰囲気が違っていた。
その二人は草加の命令で外へ待機している。
蛍光灯の明かりが草加が出した白い書類を照らす。その書類には事前に連絡した、魔剣(デュランダル)のデータだ。
「ええ、他にも詳しいことが知りたいんだ。俺たちが、そいつ、デュランダルの隠し玉とか、勝てるかどうかとかね」
しかし新光はデュランダルの装備、経歴、能力の他にもっと詳しい情報を要求する。
「そうですね、デュランダルは……たしか策士でしたかね。でもあなた方ならあの程度の下っ端倒せるでしょう」
草加はイ・ウーのデュランダルを下っ端だと言う。しかし書類の情報通りなら能力者。白雪と同じ超偵ということ、勝てるのか不安だ。願たちが居たら大丈夫だがもしも居なかったらとすると。
いや、イ・ウーの他にもヴィンチェンゾ・ファミリーの事も忘れてはいけない。
仮にだがもし同時に接触してきたら。
そんなことを考えている新光、そして草加も同じような考えをしており更に新光達は願の力も借りていると聞いている。
まさかあの組織とか、と。
草加が呟いていた組織、『大和』の願、伊椎翠(いしいりょく)、桂柚梨佳(かつらゆうこ)……ついでの霧藤遼(きりがふじはるか)は女子寮に向かっていた。
周知メールで『SSRの生徒を中心とした失踪事件に注意』と出ていたが二人はSランク(実力はR)だが念には念をと思い付き添う。白雪は実家通いで今なら大丈夫だろう。
「いいのに……私は大丈夫だよ」
「いいや、お前達二人が心配で、心配で、心配で……」
意外な心配性の願のその言葉で翠と柚梨佳は顔が赤くなる。
「……この野郎」
嫉妬心なのか遼が黒いオーラを出しながら呟いた。
十字の道路が見えた時、その真ん中に黒い服を来た男が、不自然にもそこに立っていた。
なんだ、あいつ?ど真ん中に突っ立っていて、と願は不審に思っていた。
その男の顔は真っ直ぐ願に向いていた。他の三人を置いといて
目線もしっかりこっちに向いていて俺と目が合った。
「……萩原願くんだね?」
男の特徴が分からず、願の名前を呼んだ瞬間街灯、建物の明かりが消えた。
「ふん、お前がSSRの武偵を狙っている犯人か?」
願はサムライエッジを取り出し構える。
だが男は銃を向けられているのに武器も取らずに冷静な表情をしていた。
「悪いがそれは俺じゃない。そして『あの色金』についての話に来た」
あの色金……『暗黒色金』のことか。
その暗黒色金を管理しているのは『大和』。
もしこれが無かったら、おそらく日本は無かっただろう……
この男はいったいなにを企んでいる?
「ふ、そんな顔をするな。俺は君達『大和』を喧嘩しない。……ただ忠告しに来ただけだ」
「忠告……だと?」