励ましを斬る(前編)
「じゃあ、先代の皇帝の話からするね」
ハウルは昔の話を語り始めた、王族だった頃の昔話を。
「皇帝陛下ご機嫌麗しゅう」
「ああ、ハウルか」
「はい、皇帝陛下」
「まわりには誰もいない、かしこまることはないぞ」
「ですが···」
「俺とお前の仲だ、気にするな」
「···じゃあ遠慮なく、ジーク兄さん」
「それでいい、で何か用か?」
「別に用はないけど、ただ兄さんひどく疲れているように見えたから」
「そんなに疲れているように見えたか?」
「かなり」
「···そうか、まぁ、無理ないな、このところ多忙だったからな」
「やはり皇帝の勤め相当大変なんだね」
「確かにな、だが俺が気を病んでいるのは他にある」
「何?」
「上流層の下々への扱いが日に日に酷くなってきてな」
「酷い?」
「自分達の贅沢三昧のために法外な税を搾取しているのだ」
「少しくらいなら仕方ないんじゃないかな、彼らの勤めは容易なものじゃないんだし」
「俺も少々なら大目に見ても構わんと思うのだが、連中のそれは明らかに度を越しているのだ」
「そんなに?」
「ああ、重税のせいで餓死者が増え続けている、さらに子供も売り飛ばす有り様だ、このようなことが続けば帝国は遠からず崩壊してしまう」
「崩壊!?いくら何でも千年続いた帝国が崩壊なんて···」
「···残念ながらありえないがありえてしまう状況なのだ」
「ならば兄さんの一声でなんとかならない、兄さん皇帝だし」
「···残念ながら俺が一喝しても無意味だろう、表向きは応じても裏では搾取し続けるだろう、皇帝の権威は絶対ではないのだ」
「そんな···」
「今はチョウリの頑張りでかろうじて持ちこたえている」
「チョウリ大臣ならなんとかしてくれるんじゃないかな?」
「···いや、決して楽観はできない、チョウリは有能だが何でもできるわけではない、必要な人員の数が足りないのだ、それに他にも気がかりがある」
「気がかり?」
「最近幕僚の末席にオネストという男が加わった、その男は一言で言えば油断ならない者なのだ」
「油断ならない?」
「あの男は有能だが常軌を逸した野心を抱いている、言葉巧みに他の幕僚を自分の派閥に取り入れて勢力を強めている」
「いくら彼が有能でも兄さんが危惧するほどなのかな?」
「杞憂かもしれん、だが侮れん奴なのだオネストは」
「じゃあもし兄さんが困ったことになったら僕が力になるよ」
「いや、それはやめた方がいい」
「何で?」
「オネストの派閥に加わることを拒否した幕僚が次々と事故死したのだ」
「それって···」
「それ以上言うな、お前の身に危険が及ぶかもしれん、お前は政治から距離を置け」
「でも兄さん···」
「お前を死なせたくないんだ」
「···わかった」
「すまんな」
「でもこのままじゃこの国の行く末が、それに兄さん、もうすぐ子どもが」
「わかっている、だから産まれてくる子のためにも少しでもこの国を良くしておきたいんだ」
「兄さんの心意気はすごく感じる、だけどなんとかなるのかな?」
「絶対とは言いきれないがこれでも俺は皇帝のはしくれだとことん足掻いてみせるさ」
「僕には何もできないけど兄さんの愚痴を聞くことぐらいはできるから」
「ああ、その時は俺のボヤキを聞いてくれ」
「うん」
その時のハウルは事態をそこまで深刻に考えていなかった、最終的にはなんとか事態を収めると思っていたのである、そして予想もしていなかった最悪の事態が後に起こってしまうのである。