励ましを斬る(中編)
「以上が先代皇帝、ジーク兄さんの話だよ」
「先代皇帝って本当に国のことを思っていた人だったのね」
「ああ、兄さんは本当にこの帝国の行く末を案じていた、だが兄さんがどれだけ案じていても応じてくれる人間は少なかった」
「その少ない人も大臣の手によって抹殺されたのよね」
「ああ、ついには兄さんも大臣によって、表向きは急病による崩御とされているが、大臣によって暗殺されたんだ」
「異を唱える人はいなかったの?」
「その時には上層部は大臣の息のかかった者で構成されていたから不可能だったんだ」
「本当に大臣はやっかいな人間ね」
「それが彼のやっかいなところだよ、決して無能じゃなく、必要な処置は必ず行っているんだ」
本当にそう、ぜいたくにおぼれて身も頭もたるみきってしまえば革命も困難にならないかもしれないのに。
「次の話をしていいかな?」
「え?う、うん」
「じゃあ次は現在の皇帝、アレクの話をしよう」
···アレク、皇帝の名前アレクなんだ、皇帝、皇帝ってよく言ってるけど名前までは意識したことなかったわね
「じゃあ···」
「ハウル兄さん」
「これは皇帝陛下ご機嫌麗しゅう」
「···ハウル兄さん」
「気分がすぐれないのですか?」
「前のようにアレクって呼んでよ」
「ですが今のあなたは皇帝陛下、軽々しく振る舞うのは」
「今は二人だけだよ、気にする必要ないよ」
「ですが···」
「これは命令だよ」
「···わかりました、じゃあアレクどうしたんだい?」
「父上はどのような皇帝だったの?」
「ジーク兄さんは民が平穏に暮らせる国を志していたよ」
「やっぱりそうなんだ」
「兄さんから聞いてなかったのかい?」
「父上は僕に政治のことは気にせずに強い男の子になることだけ目指せばいいと言っていたから」
「兄さんらしいね」
「僕も父上の力になりたかったんだけど僕ってやっぱり頼りないのかな?」
「そうじゃないさ、兄さんの言いたいことは難しいことは大人にまかせて子どもは成長することに専念してほしかったんだよ」
「そうなのかな?」
「きっとそうだよ」
「でも父上と母上はもういない、僕が皇帝として頑張らないと」
···皇妃さま、ジーク兄さんの後追い自殺で命を絶ったとされているがそんなことはありえない、アレクが成人になるまで何があっても見守り続けると言っていたのだから、間違いなく大臣か大臣の息のかかった者の手によって殺されたんだ、だが殺された証拠は一切なく、仮にあったところで揉み消されるのがおちだろう。
「どうしたの?考え込んで」
「な、何でもない」
「そう?」
アレクの両親は大臣によって殺されたと言ってもアレクは信じないだろうな、それどころか私が大臣によって殺されかねない、うかつなことは言えない。
「ハウル兄さん、僕は父上のような偉大な皇帝になれるのかな?」
「自信がないのかい?」
「うん、僕は父上のような強い意志はないし···」
「アレクはどうしたいんだい?」
「僕?」
「大事なのは何をすべきじゃない、何をしたいかだ」
「僕は···僕は父上のような偉大な皇帝になりたい」
「じゃあ目指せばいい」
「でも僕じゃ···」
「誰がなんと言おうともアレクがなりたいのならひたすら頑張ればいいんだ」
「···うん、わかった、僕頑張ってみるよ」
「それでいい、それでこそ···」
「どうしたのですか?」
「!?」
この声、この太い声、間違いない、あの男だ、奴が後ろにいる···
「オネスト大臣」
「皇帝陛下、うるわしゅう」
「···」
「確かあなたはハウルでしたかな?」
「は、はい、オネスト大臣」
落ち着け、落ち着くんだ私、取り乱したら変な疑いを持たれる。
「陛下、何をなされていたのですか?」
「ハウル兄さんに励ましてもらってたんだ」
「ほう」
大臣の雰囲気が変わった、私が余計なことをしたのではないかと疑っているな、下手な真似はできない。
「励ましですか?」
「はい、陛下が不安を感じていたので励ましていたのです」
「ほう」
「僕に皇帝が務まるのかと不安だったんだけど、僕が偉大な皇帝になりたいのなら頑張ればいいと言ってくれたんだ」
「心配ご無用です、陛下なら必ず偉大な皇帝になれます、自信を持ってください」
「そう?」
「はい」
「わかった、僕頑張るよ」
「このオネスト微弱ながら陛下の力になりましょう」
「ありがとう、オネスト」
「もったいなき御言葉」
「じゃあ早速政治の勉強をしようと思う」
「立派な心がけです、私もお手伝いさせてもらいます」
「ハウル兄さん、僕行くね、励ましてくれてありがとう」
「陛下頑張ってください」
「うん」
アレク、ジーク兄さんに本当に似てきたな、だが、アレクの熱意もこのままじゃ···
「では、これにて失礼します」
「はい、オネスト大臣」
···ハウル、象牙細工にしか興味がなく政治には関心が持たない男、本当に陛下を励ましていただけのようですね、もし余計なことを吹き込んでいたら殺すところでしたが、まあ今回は見逃してあげましょう。
「ふぅ」
オネストの奴、私をジーと見ていたな、おそらく自分に都合の悪いことを吹き込んでいるのかと疑っていたのであろうな、もうアレクと話をするどころか近づくのも無理だろうな、そうなればオネストは私を殺しにくるだろう、一層政治に無関心であることを示さなければならない、もう帝国は長くないかもしれないな、だがせめてアレクが在位している間はもってほしいな、アレクが在位している時に帝国が滅びてしまうのはあまりにアレクが不憫すぎる···