後悔を斬る(後編)
4月24日朝
アジトの食堂にブラートとラバとイエヤスがいた、三人とも表情が暗かった、アカメが殉職してしまい、なおかつマインの言動で皆、意気消沈していた。
「おい、早く食っておけ」
ラバは用意されていた食事をイエヤスにすすめた。
「今は食いたくねえ」
明らかにだるそうであった。
「無理してでも食っておけ、いつ依頼があるかわからんからな」
ブラートは頬張りながら言った。
「そうなんだが・・・食欲がねえ」
「俺もそうだが無理して食ったさ」
「二人ともすげえな、あんなことがあったすぐなのに」
「どんなことが起こっても依頼は待ってくれんぞ」
ブラートは食事を全部平らげた。
「改めてこの稼業が過酷だと思い知らされたよ」
「正直俺も偉そうにできないさ」
ラバはアカメの死を知らされた時涙を流していた。
「以前、兄貴がいつ誰が死んでもおかしくないと言っていたけどあの時はそんなに深刻に考えてなかった」
イエヤスは自分の甘さを恥じていた。
「俺もアカメちゃんは大丈夫だと思っていた」
「だがその緩みが今の現実を招いた」
ブラートの言葉はとても耳に痛かった。
「ところでサヨはどうした」
「サヨちゃんは食事を作った後鍛練にいったよ」
「あいつ全然寝てねえだろう」
「鍛練していれば何も考えずにすむのだろう」
「それに俺達と顔を会わせずにすむし」
「なんで」
「サヨちゃんは俺達がサヨちゃんを恨んでいるんじゃないかと恐れていると思う」
「な、なんでそうなるんだよ」
「サヨちゃんは自分が足を引っ張ったせいでアカメちゃんが死んだと思っている、そして俺達がサヨちゃんを恨んでいると思っている」
「お前、まさか」
「そんなこと思ってないよ、俺達もアカメちゃんも任務で命を落とす覚悟はしていたさ」
「じゃあ・・・」
「だが、簡単にはいかないさ、あいつの気持ちは良くわかるからな、俺も新兵の頃俺を助けようとした先輩が敵に殺されてしまったからな」
「兄貴が?」
「俺も新兵の頃は弱かったさ」
「その後どうなったんだよ?」
「仲間は俺を恨んでいた、恨んでいると思っているような気がした、実際恨んでいただろう」
「大丈夫だったのかよ」
「どんなに悔やんでも時は戻らんからな、俺はがむしゃらに鍛練に励んだ、足手まといにならないように」
「兄貴にそんな過去があったなんて」
「誰だって最初は弱いんだ、必死に強くなっていくしかねえ」
三人が話し込んでいると、シェーレが食堂に入ってきた。
「おはようございます」
「ああ、シェーレはあれから眠れたのか」
イエヤスはシェーレに尋ねた、ちなみにイエヤスはほとんど寝ていない。
「いえ、ほとんど」
よく見るとシェーレの目が赤かった。
「ところでマインの奴は」
「私が起こしに行きましたけど何も言ってきませんでした」
「あいつ、まだ寝てるのか?」
「わかりません」
「まったく図太い奴だよ、サヨにあんなこと言っておいて」
イエヤスが怒りをあらわにしていると、ブラートは。
「その辺で勘弁してくれないか」
「何言ってんだよ、あいつサヨに死ねって言ったんだぜ」
「怒るのはもっともだ、だが、あいつも裏切り者がでていらついていたんだ」
「けどよお・・・」
釈然としない様を見て、ブラートは。
「このギクシャクをいつまでも引きずっていたら命取りになるぞ」
ブラートの顔に危機感が満ちているのを見てイエヤスは渋々了解した、するとナジェンダが現れた。
「お前達に言っておきたい事がある」
ナジェンダの顔になにか危機感みたいなものを感じた。
「たった今本部にアカメの死を報告した」
ナジェンダは連絡用の鳥の危険種を飛ばした。
「間違いなく本部は混乱するだろう、私にも何かの処分が下るかもしれん」
「処分って?」
イエヤスがナジェンダに聞くと。
「最悪、私の首が飛ぶかもしれん」
「く、首が飛ぶって?」
イエヤスは突然のことにうろたえていると、ナジェンダは冷静に。
「そのままの意味だ、私はうち首になるかもしれん」
「そ、そんなこと・・・」
皆、それを聞いて騒然としている、特にラバは非常に取り乱している。
「あいつならその可能性はゼロではない、覚悟はしておかなくてはならないだろう」
ナジェンダは腹をくくっていた、するとブラートは。
「それはないだろう、そんなことをしても無意味だからな、あの人はそんな馬鹿ではないさ」
「だが、万一のことも覚悟しておかなくてはならん、その時はブラート、お前が指揮をとれ」
「ナイトレイドのボスはナジェンダ、あんただ、これから先もな」
「そうですよ、私達のボスはナジェンダさんあなたしかいません」
「手柄をたてれば本部も黙らせられるよ」
「・・・わかった、可能な限りナイトレイドのボスであり続けよう」
ラバだけが深刻な顔をして無言のまま考え込んでいた。
「(あの人ならナジェンダさんの処刑やりかねないんだよな・・・もしそうなったらナジェンダさんを連れて革命軍を抜けるか、だが、ナジェンダさんは絶対認めないな、俺はどうすれば・・・)」
ラバはただそうならないよう願っていた。
アジトから離れた山岳部でサヨは鍛練に励んでいた、やがて日も暮れはじめた、サヨはへとへとになって大の字になって倒れていた。
「日が暮れはじめた、そろそろアジトに戻らないと、だけど・・・」
サヨは皆からアカメを死なせてしまったことを糾弾されるのを恐れていた、皆の糾弾の声を想像して苦しんでいる。
「ごめん、私のせいでアカメを死なせてしまって・・・」
サヨはひたすらアカメに謝っていた。
「・・・ここは?」
いつの間にかサヨは草原にいた、辺り一面草原しかなかった。
サヨは後ろを振り向くとアカメとタツミがいた。
「な、なんで二人が?」
サヨはわけが分からなかった、二人は何も言わない。
「ねえ、何か言ってよ、恨み言でもいいから」
だが二人は何も言わなかった、すると二人はサヨから段々離れていった。
「待って、二人とも待ってよ」
サヨは必死に追いかけるがやがて二人は見えなくなった。
「私をおいていかないで」
その瞬間サヨはハッと目を覚ました。
「夢?私寝ちゃったの」
辺りはすっかり暗くなっていた。
「アジトに戻らなきゃ、皆にこれ以上迷惑をかけられない。
サヨは気落ちしたままアジトに戻った。
「アジトに着いた、早く入らないと・・・」
サヨは皆に会わせる顔がなく入りずらかった、それでも決心をして入っていった。
「皆、寝ちゃったのかな」
すると厨房から悲鳴が聞こえた、サヨは駆け足で厨房に向かった、そこにはコゲコゲになったシェーレがいた。
「シ、シェーレ?何やってるの」
「アカメの供え物を作ろうとしたんですが、焦がしちゃいました」
シェーレの傍に真っ黒焦げの肉があった。
「でも大事でなくてよかった」
「サヨこそ大丈夫ですか」
「うん・・・正直に言って大丈夫じゃないけど」
「そうですよね」
「でもシェーレはいつもどうりね、さすがプロね、私も何事にも動じない冷徹なプロにならないと」
「・・・」
シェーレは無言のままうつむいている。
「どうしたのシェーレ」
「・・・じゃないですか」
「!?」
「大好きな仲間が死んじゃったんです、平然なわけないじゃないですか!」
シェーレは大粒の涙を流して叫んだ。
「でも、取り乱してもアカメは還ってきません、だからできるだけ平然を装っていたんです」
「ごめん、シェーレの方がアカメと付き合いが長いんだから平気なわけないんだし」
「いえ、私こそ」
二人は呼吸を整え落ち着きはじめた。
「私、皆と顔を合わすのが怖かった、アカメのこと責められるんじゃないかなって」
「そんなことはありません、私達ナイトレイドは常に死と隣り合わせなんですから、責めたりはしません」
「うん」
サヨはシェーレの言葉に安堵した。
「皆はどうしてるの」
「会議室にいますよ」
「そう、じゃすぐいかないと」
サヨが歩きはじめた時、後ろから声がした。
「サヨ、戻ってたんだ」
「レオーネ?いままで何してたの」
「ひたすら走り回っていた、吹っ切れるために」
「意外ね、レオーネならやけ酒しそうなのに」
「私はそんな酒は飲まないさ、酒は楽しく飲むものだ」
「そうね・・・あの、レオーネ」
「アカメのことで自分を責めるな、あいつもそれをよしとしない」
「うん、でもマインが・・・」
「マインは良くも悪くもああいう奴だ、私も逆上して特攻しかけたから」
「うん」
「とにかく私は足を止めず前へ進む」
レオーネを見てサヨは。
「・・・私も前へ進まなきゃ」
「前へ?」
シェーレはキョトンとしている。
「うん、私、腹をくくるわ」
「おい、まさか」
レオーネはサヨの考えを察し驚いた、サヨは会議室へ向かった。
「今なんて言った?」
ナジェンダは驚き問い返した。
「私に村雨を託してもらえないでしょうか」
一同は驚きざわめいた、サヨはそれに動じず。
「今のままでは私は役立たずです、だから」
「アンタ、何言っているの?アンタごときが帝具をもてると思っているの?」
マインはサヨを睨みつけた。
「わかってる、私なんかじゃ力不足だって、でも、何もせずに後悔はしたくないの」
「村雨は呪われた妖刀よ、アンタじゃ死ぬかもしれないわよ」
「その時はマイン、あなたが村を救って」
マインはサヨの覚悟を察した。
「まあ、考えてもいいわよ」
「ありがとう」
サヨはマインに礼を言うと、ナジェンダは。
「勝手に話を進めるな、私は許可してないぞ」
「ボス、お願いします」
「・・・」
ナジェンダは悩んでいた、サヨに村雨を渡すのを、あの呪われた妖刀を。
「このままじゃまた私は皆の足を引っ張ってしまいます、もうそんなのはいやなんです」
サヨの決心を見てナジェンダの心は揺れていた、するとシェーレは。
「ボス、私からもお願いします、サヨの決心を受け止めてください」
シェーレの懇願を見て、ナジェンダは決心した。
「わかった、試してみよう、ただし、命の保障はないぞ」
「ありがとうございます」
ナジェンダはサヨに村雨を渡した、サヨは村雨を抜いた、村雨の刃が輝いている。
「私が村雨を手に取る・・・確かに私は村雨を手に取りたいと思っていた、でもこんな形で・・・アカメが死ぬ事態なんて望んでなかった、でも泣き言を言ってもアカメは還ってこない・・・なら、私がアカメの分まで戦う、村雨、こんな私に力を貸して、私の力に、私の帝具になって」
サヨは村雨に想いを念じていた、その様子をラバとイエヤスは見て不安になっていた。
「なあ、あれ、大丈夫なのか?」
「わからないよ俺にも、ただやばい何かを感じる」
二人には村雨からおぞましい気配を感じている、他のみんなも不安になっていた。
「サヨ・・・」
シェーレは何事もなく終えるよう願っている。
「・・・」
サヨは一心不乱に念じている、すると、ナジェンダはサヨに語りかけた。
「どうだ、体に異変を感じるか?」
「いえ、何ともありませんけど」
サヨはまったく疲弊していなかった。
「どうやら適合できたようだな」
「えっ!?こんなにあっさりと・・・激しい苦痛を覚悟していたんですけど」
サヨはあまりにあっさりと村雨と適合できたことを驚いていた。
「大丈夫かサヨ、村雨からやばい気配感じまくっていたぞ」
イエヤスはサヨに駆け寄った。
「そう、私は全然感じなかったけど」
サヨはキョトンとしていると。
「本当によかったです」
シェーレは感激のあまりサヨに抱き着いた。
「シェーレ、ありがとう」
皆もサヨの元へ駆け寄っている、ただ、ナジェンダは不安を感じていた。
「本当にこれでよかったのだろうか、だが、アカメの穴を埋めなくてはならんのも事実、今はこの時を喜ぶべきか、アカメ、私はお前が夢見た平和な世界を実現するために命を懸けるぞ」
ナジェンダは亡きアカメに誓った、そしてサヨは村雨を見つめて思った。
「たとえ世界中の人が村雨を呪われた妖刀と思っても私はそうは思わないから、こんなにきれいな刀なんだから」
ついにサヨが帝具使いになりました、ここからが本当のスタートです、自分はサヨは村雨が似合うと思います、サヨの衣装はミニスカ和服なので、日本刀には和服が良く似合います、何がともあれ次回作をお楽しみに。