四男坊を斬る(前編)
「あれがアートンの街だな」
ハウルはナジェンダの半年の派遣任務の終了を待ちきれなくてアートンの街に赴くことにした、表向きは象牙細工の収集の旅になっている。
「なかなか賑わっているな」
ハウルは街に入ると賑わっている光景を目の当たりにした、帝都にもひけをとらない程賑わっている。
「商業ギルドマスターはやり手と聞いているが」
昔から商業の街で有名だが現在のマスターになってからさらに発展したのである。
「さて、ナジェンダ将軍を探さないと」
ハウルはまず兵士の詰所を探すことにした、うまくいけばそこで彼女に会えるかもしれないし、会えなくても手がかりがつかめるかもしれない。
「会った時何を言うか決めておかないと」
帝都で会った時は緊張してろくに話ができなかった、同じ轍を踏まない、そうハウルは心に誓ったのである。
「あなたはハウル殿?」
聞き覚えのある美しい声、間違いなく彼女の声である。
「ナ、ナジェンダ将軍!?」
ハウルは驚いた、まさかこんなに早く彼女と再会するなんて夢にも思わなかったのである。
「なぜあなたがここに?」
「ぞ、象牙細工の収集の旅の途中でこの街に赴いたのです」
「そうですか」
突然の再会に驚いてしまったがこれはチャンスだ、逃してはならない、そう内心で意気込んでいると聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「ナジェンダさん、そいつ誰です?」
ナジェンダの後ろを見てみると緑色の髪の少年がいた、少年は不機嫌そうにハウルを見ている。
「ああ、この方はハウル殿で王族の人だ」
「ふぅん、で、あんたこの街になにしに来たの?」
さらに不機嫌そうな表情になってぶっきらぼうに少年は話しかけた。
「こら、王族の方に失礼だろ」
ナジェンダに叱られて少年は一瞬でシュンとなってしまった、その変わりようは面白いものだった。
「気にしないでください、今の私はただのハウルです、そうかしこまることありません」
「そうですか、なら、私のことも将軍とお呼びしなくても構いません」
「じゃあこれからはナジェンダさんと呼ばせてもらいます」
「はい」
蚊帳の外になってしまった少年はすっかり不機嫌になりむくれてしまった。
「ところでその少年は?」
「はい、彼の名前はラバックでこの街のギルドマスターの息子です」
「そうですか」
この少年はギルドマスターの息子なのか、どうりで普通の少年とは違う雰囲気が出ていると思った。
「改めて自己紹介するよ、私の名はハウル、よろしくラバック君」
「君はやめてくれないかな、ガキ扱いされてるみたいで嫌なんだよ」
「わかった、ラバック」
年頃の少年はこういうものなのかな、妙なところで大人ぶる、彼に言ったら怒りそうだな、言わないでおこう。
「私はこれで失礼します、書類を届けなくてはならないので」
「ナジェンダさん、私も同行しても構いませんか?」
ハウルの一言に驚いたのはナジェンダではなくラバックの方であった、明らかに不機嫌な様子である。
「構いませんがつまらないですよ」
「この街を一通り見ておきたいのです」
「そうですか、では行きましょう」
三人は書類の届け先である役所に向かって歩き出した、ハウルはご機嫌でナジェンダは平然としラバックはこの上なく不機嫌であった。
「ナジェンダさん、この街はいい街ですか?」
「はい、いい街ですよ、活気に満ちていますから」
確かにこの街は地方の街でありながら帝都にひけをとらない程活気があるのである、他の街はこうはいかない。
「商業ギルドの親父達が頑張っているのもあるけど何より太守がやり手だからな」
「そうなんだ」
「赴任した初日に太守に会いました、なかなかの人物ですよ」
ナジェンダさんがここまで称賛するとは、実力は本物なのだろう。
「ナジェンダさん、話は変わりますが···」
「少し失礼します」
ナジェンダはそう言い残しその場を離れて行った、どういう用なのか聞くのは野暮である。
その場にハウルとラバックの二人が残された、はっきり言ってラバックはハウルを歓迎していないようである。
「なぁ、あんた」
「なんだい?」
「ナジェンダさん目当てでこの街にやって来たんだろう」
「まぁ、否定はしない、でも、象牙細工の収集は嘘じゃないけどね」
そう、決して嘘じゃない、収集の旅というのは嘘ではないのだ。
「あんたナジェンダさんのこと好きなんだろう」
「そうだよ、一目惚れだよ」
その瞬間ラバックの表情はこの上なく不機嫌になった、薄々察していたがこの少年は···
「君もナジェンダさんのこと好きなのかい?」
「ああ、そうさ、あんたと同じで一目惚れさ」
ハウルは別に驚かなかった、あれだけの美人である、年齢など関係なく惚れてしまってもおかしくないのである。
「君、いくつ?」
「10だ、10月で11になる」
「ナジェンダさんとは11離れているんだよ、正直釣り合うのかな?」
「それがどうした、親父とおふくろは10以上齢が離れているんだぞ、全然ありだ」
「君の両親は問題ないけど君とナジェンダさんは別さ、21歳と10歳とでは姉と弟みたいなものさ」
「うるさい、誰が何と言おうと折れるつもりはない!!」
彼のこの必死さ、本物なんだな、本気でナジェンダさんに恋しているんだな
「わかった、これ以上どうこう言わない、君の想いを貫くといいさ」
「言われるまでもねぇよ」
もちろん私も引き下がるつもりはない、全力で相手をするよ
「お待たせしました」
「いえいえ」
ナジェンダは用をすませて戻って来た、その瞬間ラバックはこれ以上ない笑顔を見せた。
「ナジェンダさん行きましょう」
「おい、引っ張るなラバ」
ラバックはナジェンダの手を掴んで歩きだした、ハウルに自分達の仲を見せつけるためである。
「やれやれ」
やっぱり彼は子供だな、まぁ、一緒懸命さは認めるけど
三人は目的地である役所に到着して書類を役人に渡した、これで仕事はおしまいである。
「終わりましたね、ナジェンダさん」
「ああ」
「これで本日の仕事は終わったのですか?」
「はい、明日の夕方まで非番です」
「ナジェンダさん、よかったら飲みに行きませんか?いいワインが飲める店を知っているのです」
「ほう、ぜひ」
その瞬間ラバックの表情が一変した、まさに驚愕そのものであった。
「ナ、ナジェンダさん、俺も行きます」
この野郎、出し抜く気だな、そうはさせねぇぞ
「悪いね、子供は入れない店なんだ」
「はぁ!?ふざけるな!!」
ざけんじゃねぇよ、てめぇの好きにさせてたまるか、断固阻止してやる
「ラバ、すまんな、今回は控えてくれ」
「ナジェンダさん···」
ラバックは捨てられた子犬のように半泣きでシュンとしてしまった、少し気の毒な気はした。
「では行きましょう」
「はい」
ハウルは後ろから強い圧のようなものを感じた、後ろを振り向くと仇敵を睨みつけるようなラバックの姿があった。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう
悪いな、これも恋の戦いだ、大人の利点最大に使わせてもらうよ。
二人はラバックをその場に残して店へ向かって行った、ハウルはお酒でいいムードにしてナジェンダを口説くつもりであった、ただ、ハウルの誤算はナジェンダが酒にとても強くナジェンダを酔わせる前にハウル自身が酔い潰れてしまってもくろみはご破算になってしまったのである。