四男坊を斬る(中編)
「奴がこの街に来てもう一ヶ月か···」
ラバックは不機嫌そうにハウルを睨んでいた、実際なところ本当に不機嫌であった、ナジェンダが数日前に賊の討伐の任務で街を離れていたからであった。
「やあ、ラバック」
「···ああ」
「ご機嫌斜めだね、まあ、気持ちはわかるけど」
ハウルももちろんナジェンダが街にいないことは知っていた、事前にナジェンダから知らされていたからである。
「あんたに同情されても嬉しくねぇな」
「はは、手厳しいね」
平然としているハウルを見てラバックは不思議そうにハウルを見つめていた。
「あんた、一応王族なんだよな?」
「ああ、一応ね」
「俺が知っている王族とずいぶんと違うと思ってな、以前親父の付き添いで別の王族に会ったんだけどそれはもう偉そうなオッサンだったぜ、ふんぞり返ってお前らとは身分が違うってな」
「まあ、そういう人は多いかな、私は変わり者だからね」
「変わり者ねぇ」
確かにこいつは王族の中でも変わり者だな、偉そうな振る舞いをせず、誰にでも謙虚に接している、俺が知っている王族とは偉い違いだ。
「一目惚れした女に会うためにここまで来る王族なんてあんたぐらいだろうな」
「いやあ、それほどでも」
「褒めてねぇよ!!」
まったく、こいつは図太いのか抜けてるのか今ひとつわからないな、とにかくこいつのペースに乗るわけにはいかねえ。
「とにかくだ、ナジェンダさんは忙しい身なんだ、あんたに構っている暇なんかねぇんだよ」
「それなら君も同じじゃないかな?」
「お、俺はいいんだよ、ナジェンダさんの付き人みたいなものだからな」
「それだと恋愛とは無関係になってしまうんじゃないかな」
「うっ···」
こいつ本当にムカつくとこついてくるぜ、実際ナジェンダさんの身の回りの世話をしているだけでいい感じに一ミリにもならないんだからな。
「やっぱり君はナジェンダさんにとっては弟みたいなものなんだよ」
「い、今はそうでもいつか俺のことを男と思わせてやるさ!!」
「その前に私がナジェンダさんを落としてみせるさ」
「はぁ!?調子に乗んじゃねぇよ、そんなこと···」
「よう、ラバック」
突然後ろから話しかけられて二人は後ろを振り向いた、するとそこには二人の兵士がいた。
「あっ、レッドさん、トレイルさん」
「この兵士と知り合いかい?」
「ああ、この二人はナジェンダさんの部下でナジェンダさんの部隊の大隊長を務めている」
「そうなんだ」
「ところで彼は誰なんだ?」
「これははじめまして私はハウルと申します、以後よろしくお願いします」
「ああ、改めて自己紹介する、俺はレッド、このでかい奴はトレイルだ」
「····」
「もしかして彼はしゃべれないのかい?」
「いや、そうではない、極度の無口なだけだ」
トレイルは無言で頭を下げた、これが彼にとっての返事であった。
「そうでしたか、改めてよろしく」
トレイルは無言でコクリとうなずいた、筋金入りの無口である。
「ところでレッドさん、ナジェンダさんは?」
「ああ、隊長なら太守のところへ賊討伐完了の報告をするために向かったよ」
「ナジェンダさん、ケガとかしてないよね」
「隊長が賊なんかに遅れをとるわけないさ、無傷だよ、ただ···」
「ただ?」
ラバックはレッドの様子に妙な感じがした、ケガをしていないならなぜ言葉を詰まらせるのであろうかと。
「なぁ、何があったんだよ?」
「それはな···悪い、俺の口からは言えん」
「なんでだよ」
言えないってなんだよ、ナジェンダさんに関わることなんだぞ。
「少なくともここでは言えんのだ」
「はぁ!?」
ここでは言えない?理由がわかんねぇ
「そのへんにしておくんだ、これは軍事に関わること、軍事機密というやつだ」
「そうなのかよ?」
「···まぁな」
レッドさんの様子やっぱり変なんだよな、だけどこれ以上問い詰めてもはぐらかされそうなんだよな
「とにかくナジェンダさんは無事なんだよな?」
「ああ、それは断言できる」
気になることは多いがナジェンダさんが無事なら良しだ。
「じゃあ俺行くよ」
「隊長のところへか?」
「他にどこへ行くんだよ」
「そうだな」
ラバックとハウルはナジェンダのもとに向かうためその場をあとにした、レッド達はラバック達をただ眺めている。
「···」
トレイルは無言でレッドを見つめているレッドにはトレイルが何が言いたいのか察している。
「お前が何が言いたいのかわかっている、だが公には言えんだろ」
そう、公には言うわけにはいかんのだ、下手をすれば隊長の立場が悪くなるかもしれんのだ。
ラバックとハウルの二人は太守のところへ急いでいた、レッド達の様子がおかしいのが気になって仕方なかったのである。
「急がないと!」
ラバックは全速力で駆け抜けている、何度か他の通行人とぶつかりそうになった。
「待つんだラバック」
ハウルは急ぐラバックを止めようとした、いつぶつかってもおかしくなかったからである。
「なんで止める!?」
ラバックはハウルを鋭く睨みつけた、ナジェンダさんが心配じゃないのかと言いたげであった。
「気持ちは分かるが君や他の人がケガをしてしまったらナジェンダさんが悲しむだろう?」
「だけどよ···」
言っていることはわかる、だが今すぐ会いたいという気持ちは抑えられないのである。
「俺は何があったのか知りたいのだよ!!」
ナジェンダ本人から真相を聞きたい、今はそれしか考えられないのであった。
「やあ、ラバ」
ラバックはすぐさま後ろを振り向いた、その声は紛れもなく今すぐ会いたかった人の声だったからである。
「ナジェンダさん!!」
ラバックが心から恋焦がれる女性、ナジェンダがそこにいたのである。
「お久しぶりです」
「久しぶりって、数日前に会っただろ」
「俺にとっては久しぶりなんです」
「何がともあれお前に会えて嬉しく思うぞ」
「ナジェンダさん!!」
ラバックはさっきのレッドの様子で不安を感じていたが無事なナジェンダの姿を見て不安は一瞬で吹き飛んだのであった。
「私もあなたに会えて嬉しく思います」
「どうも」
ご機嫌だったラバックの顔があっという間に不機嫌になっていきハウルを思いっきり睨みつけた。
「隊長、報告終わったのですか」
「···ああ」
ナジェンダの表情が少し曇った、やはり何かあったのだろうか?
「どうしたのですかナジェンダさん?」
「別になんでもないぞ」
「そうですか」
ラバックは何もなかったとは思えなかった、さっきのレッドの様子も気になる、だが無理に問い詰めるわけにもいかない、こうなれば···
「ナジェンダさん、夕食俺んちでいただきませんか?」
「ラバの家で?」
「ちょうど極上の肉が届いたのでぜひ」
「だが迷惑にならないか?」
「とんでもない、ナジェンダさんの帰還祝いも兼ねてぜひ」
「迷惑にならないのなら構わない」
「そうこなくっちゃ、じゃあ俺先に帰って準備しますので」
「わかった」
「じゃあ私もご同行します」
「···好きにしなよ」
ラバックは苦虫を噛み潰したような表情になった、はっきり言ってハウルには来て欲しくない、だがグズグズしていたらナジェンダは遠慮して来なくなるかもしれない、それだけは絶対避けねばならない、不本意ながらハウルの同行を受け入れるしかなかったのである。
「さて、急ぐとするか」
ラバックは全速力で家へ駆け出した、ナジェンダをもてなしたいのは本当である、たがもうひとつ目的があったのであった、ラバックはどうしてもナジェンダに何があったのかを知りたかったのである。