四男坊を斬る(後編)
「どうぞナジェンダさん」
ラバックはナジェンダを自宅に招いて夕食会を催した、テーブルにはご馳走が並ばれている、ラバックが手間を惜しまず用意したのである、この夕食会に参加したのはラバック、ナジェンダ、ハウル、そして次男グラールであった。
「これはご馳走だな」
ナジェンダは賊討伐の任務の間は食事は主に保存のきく携帯食料だったのである、はっきり言って味は絶品とは言えないのである。
「遠慮なくいただいてください」
「ああ」
ナジェンダは手頃な席に座った、ラバックはすかさずナジェンダの隣の席に座ったのである。
「じゃあ私はここに」
ハウルはナジェンダの正面の席に座った、ラバックはそれを見て不機嫌な顔になった。
「ところで他の家族の方は?」
「親父と長兄はギルドの仕事が忙しくて来れません、オフクロは友人のパーティーに行っています」
「そうか、ところで三男の方は?私はまだ会ったことがないのだが」
「言ってませんでしたって?三男の兄貴は外国に留学しています」
「そうなのか?どこへ留学に?」
「その国は帝国から船で出発して数ヶ月かけて到着するんです」
「どんな国だ?」
「詳しいことはわかりませんが学園都市ってことはわかってます」
「学園都市か、少し興味があるな」
「じゃあ兄貴にその都市について詳しい内容の手紙を送ってもらいます」
「ぜひ頼む」
「はい」
その後も食事は続いた、だがラバックは妙な感じをした、一見ナジェンダは何事もないように見える、だが彼には何かを感じていたのである。
「ナジェンダさん、何かあったのですか?」
「···別に何もないぞ」
返答に一瞬間があった、やはり何かあったのであろう。
「レッドさん達の様子も何かおかしかったし、俺、気になってしょうがないのです」
「任務が終わった直後だ、そう見えたのだろう」
ナジェンダの返答にラバックは何かを感じずにはいられなかった。
ナジェンダさんはああ言っているが本当に何もないのか?だが無理に聞き出すのも悪いし···
ラバックが悩んでいる最中ハウルが会話に入ってきた。
「私もあなたに何かあったのではないかと感じています、ぶしつけですが教えてもらえないでしょうか?」
「べ、別に何も···」
「ここには私達しかいません、周囲に知られることはありません」
「ですが···」
「俺じゃあナジェンダさんの力になれないかもしれない、それでもナジェンダさんが悩んだままでいるのは嫌なんだ」
「···」
ナジェンダは無言のまま考え込んでいる、どうしたらいいのか迷っているのだ。
「俺しばらく席を外すよ」
そう言ってグラールは席を外して部屋から出て行った、彼なりに気を使ったのである。
「···わかった、話そう」
ナジェンダは語り始めた、その内容は予想よりも深刻なものであった、ナジェンダ達が討伐した賊は盗賊団などではなく重税で食料を手に入れることができなくなりやむを得なく盗みを行ったのである、さらにそれだけではなくその一団は同じく重税で親に捨てられた子供を保護して世話をしていたのである。
「そんなことが」
ラバックはナジェンダの気持ちを察した、食うために仕方なく盗みをやっていた連中を討ったことにナジェンダは後ろめたさを感じているのだと。
「なるほど」
「なるほどってなんだよ」
ハウルはラバックに説明した、この賊騒動は元は帝国の重税が原因で起こったのである、それを非難することは帝国の上層部の非難につながる危険があるのである。
「だからレッドさんは何も言わなかったんだな」
うかつなことを言ってしまえば上官であるナジェンダの責任問題になってしまう可能性があるのだ、ようやくラバックは合点がいった。
「保護されていた子供達に彼らを討ったことを伝えると怒りと憎しみに満ちた目で睨まれた、敵を討とうとして私を殺そうとした子供もいた」
「えっ!?ナジェンダさん大丈夫なのですか?」
「私は大丈夫だ、だが···」
「だが?」
「背後から殺気を感じとっさにその子供を斬りつけてしまった」
「その子供はどうなったんです?」
「応急処置をしたが残念ながら···」
「ナ、ナジェンダさんは悪くないですよ、そうしなければナジェンダさんが死んでいたかもしれないんだから!」
「どんな理由であれ私は子供を殺してしまった、それは事実だ」
「···」
それ以上ラバックは何も言えなかった、殺されそうになったとはいえ子供を殺してしまったナジェンダの苦悩は計り知れないのであるから。
「他の子供達はどうなったのです?」
ハウルの問いにナジェンダは答えた、太守に頼んで子供達の保護を頼んだのであった、太守はとある施設に送って保護すると約束した。
「だがそんなことをしてもあの子達は私を許さないだろう」
そう、私は許されない、私は戦場で死ぬ覚悟で軍人になった、そして敵を殺す覚悟もした、だがあの子供はそんな覚悟なんてなかったのだ、そんな子供を私は殺してしまったのだ。
「私なんかではあなたの苦悩を取り払うことはできません、ですがあなたの悩み事を聞くことはできます、遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます」
「お、俺もいくらでも聞きます、だから」
ラバックはハウルをキッと睨みつけたお前ばかりにいい格好させてたまるかと言いたげである。
「ああ、わかった、その時は頼む」
「はい」
それでもナジェンダの心は晴れていなかった、子供を殺してしまった苦悩もあるがそもそもの根源は帝国の圧政なのである、これからもこういうことは起こるであろう、今の自分には何もできない、ただ軍務を務めるしかないのだ、自分は帝国の民と平和を守るために軍人になった、だが今の自分にそれができるのであろうか、自分は何がしたいのであろうか、そうナジェンダは思わずにいられなかった。