氷の女王を斬る
ハウルがアートンの街から帝都に戻ってからそれなりの月日が流れた、ハウルはいつも通り象牙細工の収集に励んでいた、妙な行動をとれば大臣一派に目をつけられるからである。
「なかなかの物か手に入ったな」
ハウルは象牙細工を購入して帰宅の途中に気になる人物を見つけた。
「もしかして彼は」
見覚えのある緑色の髪を見つけたので近づいてみると予想は的中した。
「ラバックじゃないか」
帝国軍の兵士の服を着ているが間違いなくラバックであった。
「ああ、あんたか」
「ずいぶん逞しくなったね」
顔はまだ少年のままだが体つきはあの頃と比べて明らかに違っていた、兵士の体であった。
「ああ、ビシビシ鍛えられたからな」
「それで今はどこの所属かな?」
「聞いて驚け、俺は今ナジェンダさんの部隊所属の兵士さ」
ハウルは驚いた、兵士になれても都合よく彼女の部隊に所属できるとは限らないのである。
「・・・なんというか、あまりに都合がいいね」
「言っただろう、俺には恋の女神の加護があると」
ここまで都合良く彼の都合のいいようになるとは神がかっているとしかいえないのである。
「ところで君は想いを伝えたのかい?」
「おう、と言いたいところだが残念ながらまだだ」
「そうか」
それを聞いてハウルはホッとした、まだまだ自分にチャンスがあると思ったからである。
「ところでナジェンダさんは・・・」
その瞬間、向こうの方で大歓声が上がった、まるで祭りのような大騒ぎである。
「何だ、あの歓声は?」
「おそらくエスデス将軍の戦勝パレードさ」
「エスデス将軍か・・・」
内政に全く関わっていないハウルでもエスデス将軍のことは知っていた、対面は一度もないが彼女の話はよく耳にする、彼女は18歳で将軍に就任した有名人である、10代の女将軍は千年の帝国の歴史でも初めてのことである、それもさることながら彼女の武勲は非常に大きく帝国最強の将軍と謳われているのである。
「パレードを見に行くか」
「お、もしかしてナジェンダさんのことあきらめるのか?」
「まさか、とりあえず一目見ようと思ったのだよ」
「それは残念」
「では行こう」
2人は大通りに移動した、そこはエスデス将軍を一目見ようと駆けつけた大衆で埋め尽くされていた、そして道の真ん中で戦勝パレードが大規模に行われていた。
「すごい人混みだね」
「それだけ将軍が注目されているんだよ」
「なるほど、で、肝心の将軍はどこかな?」
「いた、向こう側から来ている、見えるか?白馬に乗っている水色の長髪の美人がエスデス将軍だよ」
「・・・あの人がエスデス将軍」
ハウルはエスデス将軍の姿をすぐに見つけることができた、白馬に乗った女性がエスデス将軍である、彼女は評判通り、否、評判通り以上の美人であった、ナジェンダにも引けを取らない美人である、だが、ハウルはエスデス将軍にときめきを感じなかった、間違いなく彼女は美人である、だが彼女からはナジェンダのような暖かさを感じなかったのである、一言で言えばエスデス将軍は全てを凍らせる氷の女王そのものであった。
「どうよ感想は?」
「確かに将軍は美人だ、だが、私は彼女が怖く感じた」
「怖く?」
「彼女はナジェンダさんとは根本的に異なる女性だ」
「・・・面白くねぇが俺もあんたと同意見だ、エスデス将軍は美人だ、だが、それ以上に危険な人だ」
「意外だね、君が美人をそう思うなんて」
「それだけあの人はやばいんだよ」
エスデス将軍の武勲は他の将軍と比べても群を抜いている、だがあの人のやばいところは徹底的に残忍な戦い方を行うところなのだ、ブドー大将軍も彼女の残忍さに眉をひそめており、彼女の将軍にすることを即決はしなかった、だが大臣が強く推薦し皇帝も肯定したため渋々承認したのである。
「噂には聞いていたがそこまでとは」
「そんなの序の口だぜ、実際はもっとヤバい」
ラバックは詳しく言うつもりはなかった、ナジェンダの部下である以上、余計なことをしたら彼女に迷惑がかかる。
「とにかくあまり深入りはお勧めしないぜ」
「君が私を気にしてくれるとは意外だね」
「勘違いするな、ナジェンダさんに迷惑をかけたくないんだよ」
「なるほど」
確かにナジェンダさんに迷惑をかけるわけにはいかない、ハウルは納得したのであった。
その頃このパレードの主役であるエスデスはこの二人がそんな会話をしているなどと想像もしているわけがなかった、表情には出していないがとても退屈していた。
「・・・実に退屈だな」
「お気持ちはわかります、ですが大臣の直々の頼み事ですので」
エスデスに話しかけてきたのはエスデス隊の幹部である三獣士の一人であるリヴァである。
「わかっている、たまには大臣の顔を立てなければならないからな」
大臣の後ろ盾があるからブドー大将軍を気にせず思う存分敵を蹂躙できるのだから仕方が無いのである。
「にしても本当に退屈だな」
「ホント、ホント」
エスデスに呼応するかのように大男と小柄な少年が話しかけてきた、大男の名はダイダラ、少年の名はニャウである、2人とも三獣士の一員である。
「言っておくが・・・」
「わかってるよ、これも任務の一つだろ」
「わかってるけどさー」
わかっていても退屈なものは仕方が無いのである、参加しているだけマシだと思うのである。
「にしてもしばらく退屈な日々続くと思うとうんざりするぜ」
「先月の戦いで西の異民族を徹底的に叩き潰しちゃったから数年は侵攻してこないと思うんだよね」
大敗を喫した西の異民族は戦力の立て直しをするため数年は侵攻できないと思われたのである。
「お前達、余計な心配はする必要はないぞ」
「どういうことです?」
「噂で聞いたのだが帝国のはるか南西にいるバン族が不穏な動きをしているそうだ」
「それはつまり」
「遠くない日に乱が起こるかもしれんぞ」
「やったぁ!」
大暴れができる、それを思うだけで2人は心からワクワクしてきたのであった。
「お前達、まだ確定したわけではないぞ、はしゃぐな」
「へいへい」
「はーい」
リヴァは2人を注意したが、内心新たな乱が起こることを望んでいたのである。
「そういうことだリヴァよ、いつでも出陣できる準備をしておけ」
「はっ」
リヴァは深々を頭を下げて退屈なパレードに専念することにした、パレードが終われば兵達の鍛錬に没頭することになるのであるから、パレードなんかと違って実にやりがいがあるが。
「バン族共よ、派手な乱を起こしてくれよ、私を退屈させるなど許さんからな」
戦い、蹂躙こそが私の生きがいなのだ、この欲望は何人たりとも阻むことはできないのだ。
エスデスは笑っていた、無意識に美しくも残酷な笑みを浮かべていたのである。