バン族を斬る(前編)
エスデス将軍の戦勝パレードから半月後、帝国領南西にいるバン族が帝国に反旗を翻した、帝国は直ちに地方軍を差し向けたがあっさり返り討ちにあってしまった、さらに二度地方軍を差し向けたが同様に返り討ちにあってしまった、事態を重く見た帝国は帝都にいる将軍を派遣して事態を収集しようとしたが・・・
「皆さん遠慮せず召し上がってください」
帝都にあるとある高級レストランにある一団が卓を並べていた、その一団はナジェンダとラバックとナジェンダ隊の幹部達である、ハウルが新たにバン族鎮圧の任務を与えられたナジェンダ達をねぎらおうと招待したのである。
「申し訳ない、これだけのご馳走を用意してもらって」
「気にしないでください、自分にはこれくらいのことしかできませんから」
テーブルには庶民には食べることができないご馳走が並んでいる、相当な費用になるだろう。
「戦地に赴く皆さんに比べたら何でもありません」
準備が整えば直ちに出陣するのである、ご馳走どころではなくなるだろう。
「気にすることありませんよナジェンダさん、遠慮せずに今夜は英気を養いましょう」
正直ラバックにとってはハウルのおごりというのは気に入らないが、ナジェンダさん達の英気を養うためということで今回はハウルに花を持たせたのである。
「では遠慮なくいただきます」
そうしているうちにウェイターが食前酒を運んできた、ナジェンダ達はその食前酒を飲み干し食事の準備を整えた。
「ところでバン族はそんなに強いのですか?帝都から派遣された将軍でも敵わないとは」
「確かにバン族の士気は高い、それ以上に地の利は圧倒的に向こうが有利だ」
ナジェンダの説明によると数多の獰猛な危険種がおり、毒の沼や毒ガスによって倒れた兵士も多く、バン族しか知らない抜け道が無数にあり奇襲を受けてあっという間に壊滅状態に追い込まれたのである。
「なるほど、ですが地方軍ならともかく帝都から将軍が派遣されたのに好転しないとは」
「まぁ、エルラッハ将軍じゃ仕方が無いさ」
「私はエルラッハ将軍について全く知りませんがあまり優秀じゃないのですか?」
「はっきり言って将軍になれたのが不思議なくらいさ」
「ではなぜ将軍になれたのですか?」
「将軍の実家が帝都で指折りの大金持ちなのさ」
「なるほど」
ハウルは理解した、彼は大臣に多額の賄賂を贈って将軍の地位を得たのだろう、ブドー大将軍は反対したと思うが大臣の推薦で皇帝が頷き仕方が無く承認したのであろう、そんな彼が任務に失敗しても不思議じゃない。
「そこでナジェンダさんに白羽の矢が立ったのですね」
「そのとうり、だがそれで終わりじゃないんだ」
「終わりじゃない?」
「エスデス将軍も出陣することになった」
「エスデス将軍も?ナジェンダさんだけで十分だと思いますが?」
「ブドー大将軍もナジェンダさんだけ出陣させるつもりだった、だがオネスト大臣がエスデス将軍も出陣するべきだと強く進言したんだよ」
「大臣が?」
「皇帝も大臣に賛成したことでエスデス将軍の出陣が決まったんだよ」
「・・・そんなことが」
・・・大臣め、事あるごとに口を出してくる、この帝国が自分の私物だと思っているのか、アレクもオネストの言いなりになっている、この国はどうなってしまうのだ。
「とにかく上の決定だ従わなくてはならない、私達は最善を尽くすだけだ」
「そのとうりです、ナジェンダさん」
「レッド、トレイル、兵の鍛錬は進んでいるな」
「もちろんです、隊長」
トレイルは無言でコクリと頷いた。
「ジャズ、補給の準備は整っているな」
「はい、補給は万全の状態です」
ジャズはナジェンダ隊の大隊長であり、副官でもある、なお仮面の帝具バルザックの所有者である。
「では出陣の日まで各々体調を万全にしておけ」
「はっ!」
「皆さん万全の体調にするためにも今晩は英気を養ってください」
「ハウル殿馳走になります」
「いえいえ」
その後一行は並べられたご馳走を残さずすべて平らげた、一番多く飲み食いしたのはナジェンダであった。
数日後、帝国はナジェンダ隊に正式な命を与えた、準備を整えてナジェンダ隊は出陣した、帝都の門を出てしばらく進軍していると待機している一団があった、それはエスデス将軍率いるエスデス隊であった。
「遅いぞナジェンダ」
それを聞いて同行していたラバックはムッとした、年上で将軍としても先輩である彼女に対してなんて無礼な口をきくのだろう。
「すまない、エスデス将軍」
ナジェンダは別に気にすることなく返答した、ラバックは大人の対応だなと感心した。
「私のことをいちいち将軍と呼ぶ必要はないぞ、エスデスでかまわない、私もお前のことをナジェンダと呼ぶ」
ラバックは再びムッとした、年下でありながらお前呼ばわりするなどと。
「わかった、これからはエスデスと呼ぼう」
「決まりだ、ではバン族の地へ向かうとしよう」
「ああ」
2つの隊は合流すると迅速にバン族の地へ進軍していった、そこで惨劇が起こることをナジェンダはまだ知らない。