バン族を斬る(中編)
ナジェンダとエスデスの部隊はバン族の領土に向かって進軍した、帝都から南西にある辺境の地である、その道のりは長いものになるであろう、ナジェンダは焦らず地道に進むことにした、エスデスは一刻も早く到着したいため強行軍を進言したがナジェンダはそれを却下したのであった、兵士達はエスデスの進言が却下されたことに不安を感じたがエスデスは特に気にすることなくあっさり受け入れたのである。
「隊長、日が暮れてきました、このまま進軍しますか?」
「いや、今夜はここに留まり明日に備える」
「わかりました、ところでエスデス将軍の部隊は?」
「私が直接エスデスに伝えておく」
「お気をつけて隊長」
副官は少し心配に感じた、勇猛だが残酷な戦いを行うと噂されているエスデス将軍である、彼女のもとへ単身で向かって大丈夫なのかと思ったのである。
「心配するなじき戻る」
副官の気持ちを察してすかさずナジェンダはフォローした、そしてエスデス部隊のもとへ一人で向かったのである。
「これがエスデス隊か」
ナジェンダはエスデス隊の兵士を見てかなりの練度だと思った、全員見事な面構えをしており、まさに百戦錬磨にふさわしいものであった。
「よお、ナジェンダ」
ナジェンダに声をかけたのはエスデス本人であった、ナジェンダは早速本題に移ることにした。
「エスデス、話がある」
「話は食事をしながらにしよう」
「かまわない」
エスデスはナジェンダを案内した、するとそこには大きな鍋にシチューが作られていた。
「遠慮せずに食え」
「いただこう」
ナジェンダはエスデスに勧められたシチューを口にした、そのシチューはかなり美味であった。
「美味いな」
「そうだろう、私自ら作ったのだからな」
「お前が!?」
ナジェンダは意外に思った、武人であるエスデスに料理の才能があったとは。
「何を驚く、私が戦うことしかできない女とでも思っていたのか?」
「い、いや、別に・・・」
「私は幼い頃から危険種を狩って捌いてきたのだ、料理も然りだ」
「なるほど」
「まぁ、うまくなるまで徹底的に父にしごかれたがな」
「父か?」
ナジェンダはふと思った、料理を習うなら母が主になるのではと。
「私の母は私が物心がつく前に危険種に喰われて死んだ」
「そ、そうか、余計なことを聞いた」
「気にするな、母はその危険種よりも弱かったから喰われて死んだ、ただそれだけだ」
「それだけって・・・」
「弱肉強食、それが世界の理であり、命の真理だ」
「・・・」
ナジェンダは薄情だなと内心思ったが全くの的外れでもなく命のやり取りをしている軍人がそれを否定するのは度し難いと思ったのである。
「それはそうと・・・」
「今夜は無理をせず夜営をすると言うのであろう」
「そうだ」
「別にかまわないぞ」
「そうか」
ナジェンダは少し意外に思った、エスデスなら一刻も早く到着するために夜も進軍すると言うと思ったのである。
「せっかくの遠征だすぐに終わらせるのは面白くないだろう」
「・・・そうか」
戦を楽しむというのはいただけないがエスデスが夜営の件をあっさり受け入れたので何も言わなかった。
「いい酒があるのだが飲むか?」
「いただこう」
エスデスとナジェンダはその後酒を飲み明かした、2人ともかなり飲んだのであるが、全く二日酔いにならず翌朝スッキリと目覚めることになるのである。
両部隊は順調に進軍した、他の部隊の倍の速度で進軍した、そして予想よりもはるかに早く目的地である帝国の前線基地に到着できたのである、だが到着してまもなく予想外の出来事が起こっていたのである。
「エルラッハ将軍が出陣した!?」
ナジェンダは驚いた、報告によればエルラッハ将軍の部隊はバン族との戦いで甚大な被害を受けて基地に後退して待機していたはずである。
「エルラッハの奴、自分だけで手柄を立てたかったのだろう」
このまま帝都に戻っても降格、もしくは閑職にまわされると焦り無謀な出陣をしたのであろう。
「エスデス、我々も出るぞ」
「もしかして奴の救援に向かうのか?」
「ああ」
「あのような馬鹿にそんなことする必要はないだろう」
「確かに彼は愚かな行動をした、だが無視はできん」
「まぁ、いいだろう、偵察のついでとしてなら」
「では、急ぐぞ」
ナジェンダとエスデスは部隊を率いて出陣した、エルラッハ将軍の救援のために。
「これがバン族の領土か」
バン族の領土は一面ジャングルに覆われていた、一瞬でも気を抜けばあっという間に迷ってしまうだろう。
「警戒を怠るな」
ナジェンダは兵士に命令した、いつどこから敵が攻めてくるかわからないからである。
「バン族の奴らどう攻めてくるかな」
エスデスは好奇心で笑みを浮かべていた、こんな辺境にはるばるきたのだ、楽しめなくては骨折り損のくたびれ儲けである。
「あれは!?」
一行が進んでいくとある大木が見えた、その大木に何かが貼り付けになっていた、それは見覚えのあるものであった。
「エルラッハ将軍!?」
貼り付けになっていたのはズタズタに切り裂かれていたエルラッハの死体であった、まさに無惨なものであった。
「・・・なんと酷い」
敵であってもここまでする必要があるのか、ナジェンダは不快感を露わにした。
「ナジェンダ、安い挑発に乗るな」
「・・・わかっている」
敵の狙いはわかっている、こうすることで冷静さを失わせるのが狙いだろう、それでも全く気にしないというのは困難である。
「隊長、敵が!!」
茂みの中から突然敵が現れ突撃してきた、敵にとっては計画どうりである。
「全員戦闘用意」
「はっ!!」
兵士は命令により武器を構えて迎撃準備を整えた、こうしてナジェンダ達の戦いが始まったのである。