三匹を斬る(前編)
5月3日
「ここはどこでしょうか?」
「ええと、地図ではもうすぐアスターテ街道よ」
「そうですか、それにしてもずいぶんとばしましたね」
「ぐずぐずしていたら護衛対象が殺されるから、そうなればボスの立場がますます悪くなるから」
「本部からは何も報告がありませんでしたけど」
「だからといって安心できないわ」
「そうですね、急ぎましょう」
「うん」
こうしてサヨとシェーレは全速力で駆けていった、二人は元大臣のチョウリの護衛に向かう途中である。
数日前
「それは確かなのですか!?」
サヨはナジェンダに質問した、するとナジェンダは。
「ああ、最近文官が続けて殺害されている、現場にはナイトレイドの犯行声明のビラがまかれていた」
「それってもしかして・・・」
「ああ、そうだ、ナイトレイドをおびきよせる罠だ」
「けどナイトレイドを倒せる奴なんてそうそうい・・・」
イエヤスが話終える前にナジェンダは語った。
「おそらく敵は我々と同じ帝具使いだろう」
全員がざわめいた、サヨはナジェンダに質問した。
「その帝具使いに心当たりありませんか?」
「ああ、一応な、おそらくエスデスの配下である三獣士の仕業だろう」
「三獣士?」
「全員凄腕の帝具使いだ、こいつらの可能性が一番高い」
「三獣士の帝具の能力知ってますか?」
「ああ、ただし私が知っているのは二人だけだがな、一人は笛の帝具使いでもう一人は斧の帝具使いだ、もう一人はわからん、そいつは主に兵の指揮をとっていたからな」
「笛と斧・・・その帝具に奥の手はあるんですか?」
「それは私にもわからん、奥の手はあるものと考えてくれ」
「情報があっても苦戦は免れないわね」
サヨは帝具使いになって初めての帝具戦に緊張していた。
「我々はこれ以上優秀な文官を殺されるわけにはいかん、よって今からお前達には護衛に行ってもらう、まずは元大臣のチョウリの護衛にサヨとシェーレに行ってもらう」
再びざわめいた。
「シェーレとか、意外ね、てっきり・・・」
その瞬間、後ろから強い視線を感じた、サヨは後ろを振り返るとマインはサヨを睨みつけていた。
「マイン、すごい形相ね、気持ちわかるけど、このままだともめるわね、よし」
サヨはある決心をした。
「ではボス私達早速出発します、急がないと手遅れになりますので」
「そうだな、行け」
「じゃあ行くわよシェーレ」
サヨは全速で駆け出した。
「あっ、待ちなさいサヨ」
「マイン、呼んでますけど」
「いいから無視して」
サヨはマインを無視して全速力で出発した。
「こら待てー!」
マインの怒鳴り声が鳴り響いた。
「・・・後が思いやられるけど、それも生き残れたらの話ね」
サヨは出発の時を思い出していた。
「どうしました、不安ですか」
「う、うん、私なんかが帝具使いに勝てるのかなあって思って」
「私も帝具使いと戦ったことありませんよ」
「そうなの、意外ね」
「帝具使い同士の戦い自体滅多にありませんから」
「そうよね、帝具の数自体少ないんだから」
「そうです」
シェーレはニッコリ微笑んだ。
「ところで前から聞こうと思ってたんだけど」
「なんです」
「シェーレのエクスタスどうやって手にいれたの」
「はい、アジトへの帰還中にゴミ捨て場でみつけたんです」
「ゴミ捨て場!?」
「はい、かわいそうと思いアジトへ持ち帰ったんです、アジトでそれが帝具だと判明したんです」
「・・・捨て犬を拾うみたいに、まあ、波長が合わなかったら邪魔なお荷物だし、シェーレらしいわね」
「ありがとうございます」
「・・・とにかくもっと急いだほうがいいわ」
「はい」
二人はさらに足を速めた。
その頃、アスターテ街道で悲鳴が鳴り響いていた、戦闘が行っており、無数の死体も転がっている。
「・・・あれだけの護衛をあっという間に」
一人の少女は顔面蒼白になっている、彼女の名前はスピア、チョウリの娘である。
護衛はあっという間に一人の少年によって全滅してしまった、見た目は小柄な少年の手によって。
「全然たいしたことなかったね、まあ、僕が強すぎるんだけど」
この少年の名はニャウ、三獣士の一人である。
「残りは君達二人だね」
ニャウはニッコリと微笑むと、スピアは槍を構え。
「父上に指一本触れさせない」
スピアは闘志を燃やしていると、チョウリは。
「スピア、お前だけでも逃げろ」
「な、何を言うんです、父上!?」
「お前にもわかってるはずだ奴には絶対勝てないと」
「・・・それでも父上を見捨てることはできません」
「スピア、お前はまだ若い、こんなところで無駄死してはいかん」
「嫌です、私にはそんなことできません」
「スピア・・・」
ニャウはニヤリと笑っている。
「二人とも逃がさないよ」
ニャウは笛を取りだし吹きはじめた。
「!?」
二人は音色を聞くと力が抜けたように倒れた、この笛は帝具スクリーム、音色を聴いた人間の感情を操る帝具である。
「これで逃げられないよ」
ニャウは邪悪な笑みを浮かべ、スピアに近づいていく。
「さて、コレクションの収集に取りかかるかな」
「!?」
「君の顔の皮を剥がせてもらうよ」
「!?」
スピアの顔は絶望に染まった、ニャウはその様を見てニヤニヤしている。
「剥いでる途中でショック死しないでよ、つまらないから」
スピアの目から大粒の涙がこぼれだした、チョウリはやめろと叫ぼうとしてるが声がでない。
「(や、やだ、こんな・・・)」
「いいねえ、その目ゾクゾクしちゃうよ」
ニャウはナイフを取りだした。
「(私、まだ、やりたいことがたくさん・・・)」
ニャウはスピアの顔にナイフの切っ先を突き刺した、その瞬間、ニャウは殺気を感じ後ろへ跳んだ。
「・・・まったくいいところだったのに」
サヨは村雨でニャウを切りつけようとした、シェーレもかけつけている。
「現れて欲しかったけど後5分待って欲しかっね、空気読んでよね」
「女の子の顔の皮を剥ぐなんて悪趣味にも程があるわよ」
サヨは嫌悪感をあらわにした、ニャウはまったく気にせず。
「これは芸術なんだよ、まあ凡人にはわからないけどね」
サヨは思った、アリアといい帝都にはろくな人間がいないことに不快になった。
「あなた三獣士の一人でしょ」
「僕達のこと知ってるんだ、ナジェンダから聞いたんだよね」
「ええ、小柄な少年風の男は最も残虐だということも」
「ナジェンダの奴言いたい放題だね、まあ、人間キャンドルやったときナジェンダすごい剣幕だったし」
「人間キャンドル?」
「うん、バン族の反乱の鎮圧の締めくくりにやったんだ、すごく盛り上がったよ、詳しく聞きたい?」
「結構よ、本当にろくでもないわね」
「じゃあ、早速やろうか」
「ところで残りの三獣士は?」
「僕一人だよ、アカメがいないナイトレイドなんて僕一人で十分だよ」
ニャウの表情は余裕に満ちていた。
「完全になめてるわね、でもその分隙も生まれやすい」
サヨは全速で駆け出しニャウに斬りつけた、だが、ニャウはあっさりかわした。
「速い!でも、まだまだ」
サヨは連続で斬りつけている、だが、ニャウにかすりもしなかった。
「な、なんて身のこなし」
サヨは驚愕していると、今度はニャウがサヨに斬りつけた。
「危ない!」
サヨは村雨でニャウのナイフを防いだ、ニャウは連続で斬りつけていく、サヨは防戦一方になった。
「だめ、防ぐので精一杯、とにかく間合いをおかないと」
サヨは後ろへ跳んで距離をとった、サヨの息は荒かった。
「つ、強さの桁が違う、わかってたはずなのに」
ニャウの強さにサヨは呆然としている。
「君の剣は完全に見切ったよ、絶対当たらないよ」
ニャウは完全に余裕であった。
「その刀村雨だろ、一斬必殺と呼ばれているけど傷を受けなければ全然恐くないよ、村雨なんて最弱帝具だよ、アカメも全然たいしたことなかったんじゃないかな」
サヨはそれを聞いて悔しがった。
「・・・悔しい、私のことはいくら馬鹿にしても構わない、けど、村雨やアカメまで馬鹿にされるなんて」
サヨが歯ぎしりをしているとシェーレが。
「私にまかせてください」
「シェーレ?それなら二人がかりで」
「サヨは呼吸を整えてください」
「わかった」
サヨは乱れた呼吸を整えるのに専念した。
「行きます」
シェーレが身構えるのを見てニャウは。
「次はこいつか、まあ、たいしたことは・・・」
その瞬間シェーレは全速で切りかかった。
「はや・・・」
ニャウは予想外のスピードに意表をつかれた、素早く身をかわすとシェーレは連続で突きを繰り出した。
「こいつ、できる」
シェーレの高速の突きにニャウは驚いている、すかさずニャウはナイフで反撃した。
ガキィン!!
シェーレは瞬時にエクスタスを盾にして防いだ、ニャウは連続攻撃するもびくともしない、逆にナイフが折れた。
「なんて固さだこのハサミ、業物のナイフが・・・」
サヨはシェーレの戦いぶりにア然としている。
「すごい、シェーレあんなに強かったの、鍛練をそれほどやってないのに、シェーレみたいなのを稀有の天才というのよね」
サヨが呆然としている間にシェーレの突きがニャウの右肩辺りの衣服を切り裂いた。
「今のは危なかった、こいつ相手に接近戦はキツイ、距離をとらないと」
ニャウは後ろへ跳んだ、そしてスクリームを構えた。
「スクリームなら間合いをとって戦える、僕の勝ちだ」
ニャウはスクリームを使用した、音色が鳴り響いた、サヨは音色を聞いて異変を感じた。
「地面がぐにゃぐにゃに歪んでいく、これじゃあまともに歩けない」
サヨの目にはそう見えていた、これが帝具スクリームである。
「どうだい、まともに歩けないだろ、この音色を聞いたら地面が歪んで見えるんだ、これで僕の・・・」
ニャウが勝ち名乗りをあげようとした瞬間、シェーレが切り込んできた。
「何!?」
ニャウはすごく驚いていた、お構いないにシェーレは突きを繰り出した。
「な、なんでこの音色を聞いて動けるんだ、訳がわからない」
ニャウはすっかり混乱していた、シェーレの猛攻をかわすため距離をかなりとった。
「な、なんで動けるんだ?この音色を聞いたら普通に歩いただけで転ぶのに」
「そんなのいつものことです」
「は!?」
「私は普通に歩いていると必ず転ぶのです」
それを聞いてニャウは絶句した。
「ふ、普通に歩いただけで転ぶ?なんでそんな奴がナイトレイドに・・・」
ニャウの顔が怒りで赤くなっていく。
「ふざけるな、こんなところでぐずぐずしていられないんだ、ナイトレイドの首を持って一番手で戻りエスデス様に褒めてもらうんだ、セリューなんかに遅れをとるわけにはいかないんだ」
ニャウがいらいらしていると、シェーレは。
「あなたは今誰と戦っているのですか」
ニャウはシェーレの問いにキョトンとした。
「何をとぼけたことを、君達に決まっているだろ」
「そうでしょうか、あなたの敵意は別の誰かに向けられているような、そんな気がしてならないのです、あなたにとって敵は誰なのですか」
ニャウはシェーレの指摘に絶句した、ニャウはすっかり図星をつかれた、そしてニャウはスクリームを吹きはじめた、するとニャウの体が筋骨隆々になっていった、スクリームの奥の手「鬼人招来」である。
「もうコレクションなんてどうでもいい、生きたままミンチにしてやるよ」
ニャウは完全にぶちギレていた、ニャウは突撃しシェーレにパンチの雨を繰り出した。
「お、重い」
ニャウの猛攻をシェーレはエクスタスを盾にしてなんとか防いでいる。
「シェーレ」
サヨは援護をすべくニャウに切りかかった、だが、あっさりかわされた。
「こんな巨体でなんて素早さなの」
サヨは焦りを感じた、するとシェーレはサヨに視線を送っている。
「もしかしてあの戦法を使うの」
移動途中でシェーレと打ち合わせたある戦法を使う決心をした。
シェーレはエクスタスを前方に構えた、ニャウは臆することなく突っ込んでいく。
「エクスタス!!」
エクスタスはシェーレの掛け声によって激しく光り輝いた、これこそエクスタスの奥の手である。
「なんだ?眩しい!」
ニャウは光に目が眩んだ、その隙にサヨは村雨でニャウの首を切りつけようとしている。
「これを逃せばもうチャンスはない」
サヨの脳裏にタツミとの鍛練の日々が浮かんだ。
「ふう、今日もきつかったぜ」
「ええ、でも手ごたえを感じるわ」
「ああ、軍で武術指南をやってたんだからな」
「うん、ハイドさんにはすごく感謝してる」
「イエヤスの奴朝寝坊してしごかれてるんだろ」
「ほんと軍でやっていけるのかな、打ち首にならなきゃいいけど」
「まあ、なんとかなるさ」
「うん、そうね」
「どうした、サヨ?」
「私、軍でやっていけるのかな、弓矢じゃ銃には敵わないし」
「そんなことないさ、お前の腕なかなかだし」
「私も剣使えたらいいんだけど、左手が・・・」
「お前ガキの頃ケガしたもんな、ケガする前すげえ強かったもんな」
「剣が使えないから弓を選んだんだけど・・・」
「でも、お前剣そこそこ使えるだろ」
「うん、でもここ一番の時に痺れるの」
「そりゃ気持ちの問題さ」
「そうだけど・・・」
「結局気合いがものを言うんだよ」
「タツミってほんと単純ね、でもそれがタツミらしさね」
「俺のこと馬鹿にしてないか」
「そんなことないわよ」
二人は大笑いしている。
サヨは左手に力をいれ、村雨を振り抜いた。
「これがタツミと鍛えあげた剣技よ!」
だが、ニャウは素早く身をかわした。
「これでも届かないの・・・」
サヨは無念であった、それを見てニャウは。
「言っただろう、剣は見切ったと・・・」
ピ
何かの音がした、ニャウは右肩をみた、すると肩に数ミリの傷があった。
「バ、バカな完全にかわしたはずなのに、まさかこの短時間で剣速が上がった?」
ニャウが驚愕していると傷口から呪毒が浮かんだ。
「呪毒!?」
呪毒はニャウの心臓に向かっていく。
「う、嘘だ、嘘だ、嘘だ、僕がこんな・・・」
ドクン
呪毒が心臓に届き、ニャウの心臓をとめた。
「・・・」
ニャウはうつぶせに地面に倒れた。
「エ、エスデス様・・・」
ニャウは死の間際にエスデスの幻を見た、そしてその隣にはセリューがいた。
「そんな奴を見ないでよ、僕だけを見てよ、エスデスさ・・・」
ニャウの命が消えた。
「・・・」
サヨは呆然としていた。
「すごい、あんな強敵を一撃で、きれいなだけの刀じゃないと思っていたけど、ここまでとは」
サヨは村雨の呪毒の脅威を改めて認識した。
「以前アカメが帝具を過信しないように戒めていると言ったけどまさにその通りね呪毒に慢心したらあっという間にに堕落してしまう、今まで以上に鍛練しないと」
サヨは心に誓った。
「お疲れ様です」
シェーレはニッコリ微笑んだ。
「ううん、私なんてほとんど何もできなかった、シェーレのほうが全然すごいよ」
「私の技は所詮人殺しの技でしかありません、何の自慢にもなりません」
シェーレの返答にサヨは何も言えなかった、するとスクリームの効果がきれたスピアとチョウリは。
「ありがとうございます、助かりました」
スピアが礼を言うと、サヨは。
「気にしないでください、ええと、このことはどうか内密にお願いします」
「・・・わかりました」
スピアはあえて事情を聞かなかった、訳ありだと察知したから。
「それにしても帝国兵がワシを殺しに来るとは・・・」
チョウリは呆然としていると、サヨは。
「すでに数人の文官が殺害されています」
「なに!?オネストめ、ここまでするとは、帝国の腐敗ぶりは噂以上だ」
チョウリが憤慨していると、サヨは。
「怒りはごもっともですが、帝都に行くのは・・・」
「ああ、今のワシではあまりにも無力だ、よって故郷に戻り力を蓄える、そして陛下をオネストの元から救い出す」
「救い出す!?」
サヨとシェーレは驚いた、スピアは感激している。
「父上、私も・・・」
「いや、お前はだめだ」
「なぜです、父上」
「ワシのやろうとしていることは反逆だ、お前まで罪に問われることになる」
「いえ、こればかりは聞けません、ここで逃げたら私は一生自分を許せなくなります」
「反逆者の汚名を背負うことになるぞ」
「望むところです」
「頑固者が」
「父上譲りです」
二人は微笑んでいる。
「では、ワシらは故郷に戻る、二人には世話になった、この礼は必ず」
「気にしないでください」
「あの、今度会ったらお名前教えてくれませんか」
スピアはサヨとシェーレに尋ねた。
「はい、再会を楽しみにしています」
そう言うとスピアは微笑んだ、そして二人は去って行った。
「終わりましたね」
「うん」
サヨはうなずいたが歓喜しているわけではなかった、今回勝てたのも敵が分散してくれたのが大きかった、もし、三人全員が相手なら、サヨは戦慄を感じずにはいられなかった。
「どうしました」
「な、なんでもないよ」
「そうですか」
サヨは今回はこれでよしと思うことにした。
「それにしてもどうしよう」
「何がです」
「この死体なんだけど」
サヨはニャウの死体を指を指した。
「呪毒ってずっと残るのかな」
「わかりません」
「もしすぐ消えるのならこのままにしておくのは、村雨の使い手はいないと帝国に思わせたほうが都合がいいし」
サヨが思案していると、シェーレは。
「私にまかせてください」
ジャコッ!!
シェーレはニャウの死体を一刀両断した。
「これで大丈夫です」
「シェーレ、大胆ね、でもこれでごまかせるかな」
サヨはとりあえず一安心した。
「シェーレと組むの今回だけかもしれないけど、できたらこれからもずっとシェーレと組めたらいいな」
サヨは心の中でそう思った、二人は他の仲間の無事を願いながら帰還した。
思ったよりも字数がかかりました、それにしてもバトルシーンを小説で書くのはすごく難しいです、皆さんはどのようにして書いているのでしょうか、これからもよろしくお願いします。