Giocato La Divina Commedia Doc Ju Mente 奏でよ、神曲を。謳え、汝の心を 作:天神神楽
「ただいまーっと」
「ただいま帰りました」
仕事を終えたブライトとペルセルテが事務所に帰ってきた。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
今回の依頼は警察からので、暴走している精霊を抑えるというものだった。空いているブライトとまだ見習いのペルセルテが向かったのである。
「あぁ。ヴィーラの精霊雷で動きを止めたあとで鎮静させる曲を弾いた。それで落ち着いたから、周りの被害も窓ガラスがいくつか割れた程度で済んだ。その精霊、フヌマビックだったから今、ヴィーラが話し相手になってもらってる」
「そう。分かったわ。お疲れ様。報告書、忘れないでね」
ブライトは了解と返事をすると、奥のロッカーに向かった。ペルセルテは一息つく為に自分の席に着いた。と、そこにユフィンリーが声をかける。
「ねぇペルセルテ。ブライトの仕事、どうだった?」
「そうですねぇ……凄かったのは凄かったんですけど、あんなやり方は初めて見ました」
「初めて? どんなのだったの?」
気になるユフィンリーは身を乗り出していた。
「ヴィオリニスタさんが精霊の動きを止めていたんですけど、その時はブライトさん、神曲を演奏してなかったんです」
「へ? どういうこと?」
「ですから、ヴィオリニスタさんはただの肉弾戦と言いますか……殴ったり投げ飛ばしたりして、最後に精霊雷で精霊の動きを止めたんです。それで仕上げのような形でブライトさんが神曲を弾いて精霊を落ち着かせたんです。警察に連れて行かれる時もその精霊さん、とても落ち着いてて、ブライトさんにお礼までしてました」
「すごいわね、それ……」
ユフィンリーが絶句していると、ブライトが戻ってきた。そこでユフィンリーに見られたのでギョッとしていた。
「な、なに?」
「アンタの仕事について話してたのよ。ヴィオリニスタに神曲で援護しなかったっての、本当なの?」
「うん? そうだけど。周りに野次馬がたくさんいたからな。へたに神曲で援護すると危なそうだったからな。ヴィーラに頑張ってもらったんだが、なんかまずかったか?」
「いえ、そうだったんならいいわ。もし手を抜いてたんなら怒るけどね」
ユフィンリーはそう言うと表情を和らげた。雰囲気が和らいだのを確認すると、ペルセルテが、でも、と口を開いた。
「ヴィオリニスタさんの格闘技、凄かったですよね。向かってくる精霊を全部投げ飛ばしたりいなしたりしてましたもん」
「そうだな。ヴィーラ、格闘技得意だからな」
「へぇ、そうなのか?」
と、そこでユフィンリーの後ろからヤーディオが現れた。
「それならぜひとも手合わせしてぇな」
「ヴィーラとヤーディオか。面白そうだな」
そんなことを話していると、丁度良い所にヴィオリニスタが帰ってきた。
「ただいまー……って、何?」
帰って来て早々注目されたので、思わず聞き返すヴィオリニスタ。それにユフィンリーが答える。
「お疲れ様。今、あなたのことを話してたのよ。それより、あの精霊はどうなったの?」
「私のこと? まぁいいわ。で、その精霊のことだけど、もう大丈夫よ。ブライトの神曲を効いたみたい」
「そう。分かったわ。ありがとう」
報告を終えると、ヴィオリニスタはブライトの隣に座った。
「それで、何を話してたのよ?」
「お前の格闘技について話してたの。ヴィーラとヤーディオ、どっちが強いか、ってな」
「そんなこと話してたの? あんた達も暇ねぇ」
少し呆れたようにため息を吐くヴィオリニスタ。するとヤーディオがヴィオリニスタの方へと近づいてきた。
「なぁ、ヴィオリニスタ。ひと勝負しないか?」
「勝負ぅ? 私、仕事終わったばっかりなんだけど……」
やる気満々のヤーディオに対して、乗り気ではないヴィオリニスタ。しかし、ブライトとアルトヴァースは違った。
「いいじゃないかヴィーラ。やれよ」
「そうですよ。たまには私達以外の方ともやってみたらどう?」
「あんた達ねぇ……他人事だと思って……。まぁいいわ。じゃ、裏の駐車場でやりましょう」
ヴィオリニスタは諦めたようで、ため息をつきながら裏の駐車場に向かった。それにヤーディオもついていく。
「ちょっと……って行っちゃったわ」
「でもいいのか?」
二人が行ってしまった方を見ていたユフィンリーに、ブライトが話しかけたのだが、当の本人は何の事だか分かっていないようである。
「いいって、何が?」
「だって、裏の駐車場。所長の愛車あるだろ?」
ブライトの言葉にピシリと固まった。
「あぁーっ!? ちょっと、二人とも待ちなさーい!!!!」
そしてユフィンリーは駐車場にすっ飛んでいった。残されたのはブライト、アルトヴァース、フォロン、コーティカルテ、ユギリ姉妹。
「はぁ……。アルト、所長の車、守ってやってくれ」
「ふふっ、はい」
アルトヴァースは苦笑しながら駐車場へ向かった。
「フォロン達は行かなくていいのか?」
「はい。電話が来ないとは限らないですしね」
「所長があんなに慌てるのも珍しいですけど」
そう言うフォロンとペルセルテも苦笑気味だったが仕方がない。
「まぁ、勝負は見えているから見なくても変わらん」
「え? そうですか? ヤーディオも結構強いですよ?」
コーティカルテの呟きに、ペルセルテが首を傾げた。
「簡単なことさ。中級と上級との差は大きいということだ。いくらヤーディオの奴が時に上級精霊を圧倒するとしても、同じ土俵では歩が悪い」
それっきりコーティカルテは語ろうとはしなかった。
「あぁ、そう言えば、ブライトさん宛てに手紙が来てましたよ」
ふと思い出したように、プリネシカがブライトに三通手紙を渡した。その内二通は普通の手紙だったが、もう一通は封筒を見るからに豪華で、蝋で封をされている。
「わっ、凄い豪華な手紙ですね」
「……もう嗅ぎつけたか」
「? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもないさ」
ペルセルテの質問をはぐらかしながら、残りの二通を確認する。すると、おっ、と声をあげる。
「三つ子ちゃんとリーマさんか」
「リーマ、って《リーマ&グレイス・カンパニー》のリーマさんですか?」
珍しくプリネシカが質問をした。
「そうだよ。前にも勧誘されてたんだけどな。ここに就職したから……やっぱり文句だわ」
苦笑しながら手紙を置くと、もう一通に目を通す。
「まったく……あの三人は相変わらずみたいだな」
ブライトはクスクス笑いながら手紙を読んでいたが、ユギリ姉妹の視線を感じると読むのをやめてしまった。
「あっ、すみません」
「いや、こっちこそ。気にしないでくれ」
そう言うとブライトは手紙を置いてしまった。
「おや、この豪華なのは読まんのか?」
「あぁ。別に読んでも読まなくても変わらないからな」
「え? それってどういう……」
ペルセルテが尋ねようとすると、事務所の扉が開いた。
「失礼します。カグヤ・ブライト様はいらっしゃいますか?」
入ってきたのは、さらりと腰まで流れた黒髪が美しい女性と、同じく黒髪の――しかしこちらは肩のあたりで切り揃えられている――精霊。精霊の方はスーツ姿で、彼女の鋭い目付きと相まって、びしっとした雰囲気が感じられる。そして人間の女性の方は、なんというかオーラがある。服装が超高級ブランドの物だが、決して嫌味などなくむしろ気品に溢れている。
落ち浮いた色のショールやフレアスカートを身につけており、無条件に目が惹かれる。そんな、高級ブランドにも勝るモノを確かに持っていた。
突然の来訪者に驚いていたペルセルテとプリネシカも思わず彼女に見惚れていた。しかしすぐに気を取り直すと、ペルセルテは慌てて立ち上がった。
「し、失礼しました!! えと……依頼のお話でしょうか?」
「あ、いえ。依頼ではありません。ここにカグヤ・ブライト様という……」
事務所に入ってきた女性は、彼女が話をしている途中にいつの間にかソファに隠れていたブライトを発見した。ブライトを見つけた女性はその顔を喜色に染めると……突然ブライトに抱きついた。
「ブライト様!! あぁ、ずっと探していました!!」
愛おしげにブライトに強く抱きつく彼女を見てペルセルテ達は唖然としていた。コーティカルテまでもが口を開いていた。当のブライトは面倒くさそうに顔を押さえていた。
「リチェル……どうにかしてくれ」
ブライトは女性の後ろにいた精霊に助けを求めたが、その精霊も苦笑いをして首を振った。
「あと数分の我慢です。頑張ってください」
その後女性が離れたのは、勝負を終えたらしいヴィオリニスタ達が戻って来てからだった。