Giocato La Divina Commedia Doc Ju Mente 奏でよ、神曲を。謳え、汝の心を 作:天神神楽
「私、シンラ・クレモナと申します。こちらは私の契約精霊のリチェルカーレ・ジャス・フーガです。皆さま、よろしくお願い致します」
優雅にお辞儀をするクレモナ。だが、ユフィンリーはポッカーンとしていた。返事がないことを不思議に思って首を傾げていたクレモナを見て、ブライトは呆れたように助け船を出した。
「クレモナは帝都随一の神曲楽士だ。で、名前の通り出身は正真正銘の七楽門『シンラ家』だ。なんでここにいるかは知らないがな」
「そんな……ブライト様を追ってきたのです。お父様からもお許しを頂いています」
ニコニコしながら言う姿を見て、ブライトは頬を引きつらせた。だがすぐに諦めたようにため息をつくと、疲れたように深々とソファに腰かけた。
「で、今はどこで暮らしてるんだ?」
「今はホテルに泊っています。どこかマンションを探すつもりです。あ、ブライト様とご一緒してもいいのなら……」
「狭いから駄目だ」
顔を赤らめているクレモナをあしらいつつ、話をしていると、時計は十時少し前を指していた。
「っと。そろそろ時間だな。んじゃ、所長。学院に行ってきますね」
ブライトが立ち上がって準備をしようとすると、クレモナが首を傾げた。
「ブライト様、どこかに行かれるんですか?」
「トルバス神曲学院で特別講師やってんの」
ブライトはそう言うと準備を終えたのか鞄を持った。それと同時にクレモナも立ち上がる。
「……ついてくるつもりか?」
「はいっ」
「…………行くぞ、アルト、ヴィーラ」
「はい」
「……あんたも大変ね」
ブライトは諦めたようで肩を落としながら事務所を出て行った。クレモナとリチェルカーレはどこか楽しそうにその後を着いて行ったのであった。
――――キーンコーンカーンコーン
「はい、今日はこれまで。次もこの続きからだから、復習忘れるなよ」
授業が終わると生徒達は、ブライトの所に質問しにやってくる。そんな中メディアとルーミアは質問が特になかったので、皆より一足先に教室を出ていた。
「ふぅー、お腹すいたー」
「もぅ、メディア。少しは慎みを持ちなさいって」
「そんなこと言われてもー」
おしゃべりをしながら歩いていると、メディアは廊下でオロオロしている女性を見つけた。
「ねぇ、ルーミアちゃん。あの女の人、どうしたんだろう?」
「うーん……なんか道に迷ってるみたいだけど……」
「それじゃ、話しかけてみよっか!」
「え? あ、メディア! あぁ、もう」
ルーミアの制止も聞かず、女性の元へ行ってしまうメディア。ルーミアもそれを追っかける。
「あの、どなたかお探しですか?」
「え? あ、はい。ここに来たのは初めてでして。カグヤ・ブライト様がどちらにいるか、ご存知でしょうか?」
「へ? ブライトさんですか? ブライトさんならあっちの教室ですから……案内しますねっ!」
「まぁ、それはありがとうございます。それではお願いしますね」
「はい。こっちです」
そうしてメディア達は、先ほどまでいた教室に戻った。とはいえほんの数分の距離。三人はあっという間についてしまった。
「ブライトさん、お客さんですー」
教室の中では、ブライトが授業の片づけをしていた。メディアとルーミアが教室を出たときにはまだ残っていた生徒達も、質問が終わったのか今はブライトしか残っていなかった。
「ん、あぁ、メディアか。どうした、客って、クレモナか。どうした?」
「そろそろお昼ですし、ご一緒にどうかと思いまして」
「そうだな。なら、ちょっと学院長に一声かけてくるから、先に食堂に行っててくれ。2人とも、クレモナのこと、頼んでもいいか?」
「はい。元々そのつもりです!」
メディアが了解すると、ブライトは荷物を持って先に教室を出た。
「それじゃあえーっと」
「シンラ・クレモナです。クレモナとお呼びください」
「あ、それじゃあ私のことは、メディアって呼んでください」
「ち、ちょっとメディア!あ、すみません……」
「大丈夫ですよ。それより、あなたのこともルーミアちゃんって、呼んでもいいかしら?」
「はい! もちろんです」
「ふふっ、それじゃあよろしくね、メディアちゃん、ルーミアちゃん」
美人のクレモナにニッコリと微笑みかけられた二人は、同性であるにもかかわらず、思わず顔を紅くしてしまった。
「じゃ、じゃあ、食堂に案内しますね!!」
メディアは、気を取り直すと、元気に声を出してクレモナを案内した。ルーミアもメディアについていく。
そんな二人のチョコチョコした動きを見て、クレモナはニコニコとしていたのだった。
そして、食堂に到着した三人。お昼時なので食堂の中は賑わっていたが、そんな中、クレモナの存在は、ひと際目立っていた。とはいえ、それも当然といえば当然か。クレモナ自身の外見の良さもさることながら、彼女は、帝都でも随一の実力を誇る神曲楽士。更には七楽門の一、シンラ家の令嬢である。少しでも神曲楽士というものに志があるものならば、知らない者はいない。そんな彼女が、普通に食堂にいるのだ。注目されないわけがない。
さらに、それも当然というべきか、隣に入るメディアとルーミアも注目されており、特にルーミアは小さくなっていた。
「そ、それじゃあ、クレモナさん。混んじゃいますから、先にご飯を取っちゃいましょうか」
「はい。でも、どうやって注文すればよいのでしょうか?」
「ふえ? じゃあ、一緒に行きましょう。簡単ですから大丈夫ですよ」
一方餘視線を気にしていないメディアは、クレモナの腕をニコニコしながら引っ張る。クレモナも、どこかわくわくしている様子だった。ルーミアは、一人にならないようにと慌てて後を追った。
「まぁ、たくさんの種類があるのですね」
「はい。ここは色んな所から人が来ますから。いっぱい種類があるんです!」
何故か、自分のことのように胸を張るメディア。
「こんなにいっぱいあると迷っちゃいます。どれにしましょう?」
「それなら、日替わり定食がお勧めですよ! シェフの匠が光る逸品ですから!」
ねー、と奥にいるシェフに同意を求めると、おうよ、と返事を返すシェフ。
「でしたら、それにしましょう。こちらで頼めばいいのですね?」
メディア達に聞きながら、注文をしていくクレモナ。なんとか無事に注文をすると、空いている席についた。
すると、ちょうどよくブライトがやってきた。
「お、ちゃんと注文できたんだな」
「からかわないで下さい。私はそこまで世間知らずではありません」
ブライトのからかうような言葉に、クレモナは苦笑しながら反論する。
「わるいわるい。っと、二人も案内ありがとう」
「そんなっ。クレモナさんと仲良くなれましたし、こちらこそありがとうです!」
「はい。私もクレモナさんとお話出来て楽しかったです」
「なんだか、すごく仲良くなってるみたいだな」
二人と仲良くなっているのをみて、ブライトは少し驚いていた。クレモナはそんなブライトを見て、自慢するように、隣のメディアを抱きしめる。
「ふふふ、私達、凄く仲良くなったんです。ね、メディアちゃん、ルーミアちゃん」
「はい! とっても仲良しです!」
メディアは抱きつかれたことに喜んでニコニコしながら答えたが、ルーミアは照れてしまい、それでも、小さく頷いた。
「クレモナと友達か。多分、コイツとつき合うの大変だから頑張れよ」
「あら、酷いです。ブライト様こそ、つき合うのが大変ではありませんか。再会するのに、どれだけ大変だったか、御存知ないでしょう?」
どこか責めるような視線に、ブライトはお手上げといって手をあげる。
と、クレモナの言葉に、ルーミアが反応した。
「あれ? お二人は、ずっと一緒だったのではないんですか?」
「はい。10年以上もあってくれなかったんですよ、ブライト様は」
この言葉を聞いたメディアは、ブライトに向かってぷんぷん怒りだした。
「ダメですよ、ブライトさん! 女性を待たせるなんて、男性失格です!」
本人は怒っていますよ、という感じなのだが、小さくて可愛らしいメディアがそのような表情をしても、やはり可愛らしいだけだった。
「そう言われると、言い返せん。けどまぁ、色々と事情もあってな。許してくれ」
ブライトは子の話は終わりだと言って、メディアの頭をよしよしと宥めるように――誤魔化すように――撫でる。案の定というべきか、メディアはそれであっという間に大人しくなってしまった。
「メディア……」
「ふぇ? なぁにルーミア?」
親友の情けなさに、げんなりするルーミアなのであった。