Giocato La Divina Commedia Doc Ju Mente 奏でよ、神曲を。謳え、汝の心を 作:天神神楽
なくなっていたので、何とか覚えている範囲で書き直していたのですが、何とか書き終えられそうです。
とはいえ、院試が近いので、今までどおり遅い更新ですが。
「クレモナも二人が気に入ったみたいだな」
「ブライト様だってそうなのではないですか?」
相変わらず首をかしげているメディアや苦笑いしながらメディアを見ているルーミアを見ている二人は、何か微笑ましいものを見るかのような表情をしていた。
「あ、そうだ! 今まで一緒にいられなかったのなら、今からいっぱいデートすればいいんじゃないですか? ブライトさん、今日はもう講義ないですよね?」
名案、とでもいうようにメディアは、ニコニコ笑う。声が大きかったので周りから注目されてしまったのだが、本人は興奮しているので気が付かない。さらに、それにクレモナも乗り気になってしまった。
「それは本当ですか! ブライト様、今まで袖にされていたのです。私とデートしてくださいますか?」
ブライトとしては、こんなにも注目されている場所で頷きたくはなかったのだが、クレモナの期待に満ちた視線を受けてはどうしようもない。
「……わかりましたよ、お嬢様」
ブライトが了承の言葉を聞くと、クレモナはさらに顔を喜色に輝かせる。元が絶世の美女なのだから、そんな表情を見た周りの人々は一斉に顔を赤くする。
予想していた反応に、ブライトは内心ため息をつきつつ、にやにやしているアルトヴァースたちに声をかける。
「で、お前たちはどうするんだ?」
「私たちはメディアちゃんたちとお話ししています」
「だから、二人で行ってきなさいな」
アルトヴァースとヴィオリニスタは、二人とも笑みを浮かべていた。(ヴィオリニスタはやけににやにやしていたが)
「クレモナも私を気にせず行ってきてください。私はアルトたちと一緒にいます」
「リチェルもそう言うのか……。ま、それなら行こうか、クレモナ」
「はいっ! ふふふ、どこに行こうかしら」
ブライトとのデートに完全に浮き足立っているクレモナを気にしつつ、ブライトはメディアたちと別れ、衝動を出て行った。それを見送ったリチェルカーレは、二人が出て行ったのを確認すると、メディアに礼を言った。
「メディアさん、ありがとうございました。クレモナも本当に嬉しそうにしていましたし、心からお礼を」
「そ、そんな、気にしないでください。ふと思いついただけですから。だから、リチェルカレーさん、頭を上げてください」
「これは、失礼しました。では……私のことはリチェル、と呼んでください」
リチェルカーレがそういうと、二人は嬉しそうに頷いた。
「あ、じゃあ、リチェルさん。ブライトさんとクレモナさんって、どんな関係だったんですか?」
そう尋ねたのはルーミア。聞かれたリチェルカーレは、一瞬ポカンとしたものの、すぐに嬉しそうにほほ笑む。
「あら、気になりますか? でも、お話ししてもいいのでしょうか? どう思う、アルト?」
「私としては構わないと思いますけど、お二人はお時間は大丈夫ですか? そろそろお時間だと思いますけど……」
そう言われて周りを見渡すと、いつの間にか学生はほとんどいなくなっていた。
「あー、やっばい!! また遅刻―!!!」
「ごめんなさい! お先に失礼します! ほら、メディアも急いで!」
二人は慌てて立ち上がると、あっという間に食堂を出ていった。
残された精霊三柱は、お互いに顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「ふふふ、ブライトの言うとおり、とても将来の楽しみな子たちですね。リチェルもそう思うでしょう?」
「えぇ。クレモナもお二人のことをとても気に入っていたようですし、素質も十分ですね」
「かわいらしい子たちよね。ブライトたちが気に入るのも分かるわ」
精霊たち三人は、改めてお茶を買うと、話を続けた。
「そういえばリチェル。クレモナさんも、こちらに居を構えるといっていましたけど、お仕事とかはどうするの?」
「こちらで事務所を開きます。物件も確保済みだし、あとは開くだけの状態よ。何件か、先んじてご予約もいただいているわ」
「さすがは帝都随一の神曲楽士ね。でも、シンラ家の方々は何も言わなかったの?」
クレモナは七楽門シンラ家の令嬢である。しかも、シンラ家最高の神曲楽士として名高く、そう易々と所属変えを出来る人物ではない。
「確かに、第一公社からはかなり引き留められましたけど、当主様は、快く送り出してくださいました。一度ブライト様と一緒に顔を出せとは言っていましたけど」
その時の状況を思い出したのか、リチェルカーレは苦笑しながら言っていた。どうやら、だいぶ面白いことになっていたようである。
「ふふふ、カタリナ様にはとてもよくしていただきました。今度、ぜひお礼にうかがわないと」
「そうね。妹ちゃんたちにも久しぶりに会いたいわ。もう、結構大きくなっているのでしょう?」
現在のシンラ家は、完全に女系家族である。しかも最強の。当主シンラ・カタリナの夫(婿養子)シンラ・ゼルも高名な神曲楽士なのだが、妻には逆らえない。長女クレモナに加え、次女ロゼ、三女ステラも、神曲楽士としての才能をうかがわせている。
「ロゼ様とステラ様は来年トルバス神曲学院に入学する予定です。クレモナがいるから、というのもありますが、ブライト様がいらっしゃると聞いて、必ず入学するといっていましたね」
「それじゃあ、入学前に一度帝都に行かないとね。また、一緒に旅行とかもしたいわね」
「お伝えしておきますよ。きっと、喜んでくれると思いますよ」
そのことを伝えたときの双子の反応を想像し、三人とも同じことを想像したのか、同時にクスリと微笑み一つ。
「私たちのご主人は愛されてるわね。ね、アルト?」
「えぇ。とても、ありがたいことです。リチェル、改めて言わせてください。とても、素敵な縁を結ぶことができたのは、シンラ家の皆様のおかげです。本当にありがとう」
万感の思いを込めて、アルトヴァースは頭を下げた。少し大げさすぎるような気もするが、アルトヴァースにとって、そして、ヴィオリニスタにとって、シンラ家との繫がりは、本当にかけがえのないものであった。
リチェルカーレも、それを痛いほど理解しており、一切の謙遜もなく、アルトヴァースの礼を受け取った。
「それは私にとっても、恐らく、皆様にとっても同じことです。あなたたちと交わったことで、世界がとても鮮やかになりました。人が愛おしく、友が出来、愛されることが、どんなに素晴らしいものなのかを知ることが出来ました。これは、あなた方がいなかったら、決して、知ることができなかったものです。だから、私からも言わせて? アルト、ヴィーラ。これからもよろしくね」
アルトヴァースたち以外には誰もいなくなった食堂。奥のほうで食器を洗う音だけが響く中という、少し雰囲気に欠ける状況ではあったが、三人にとってはそんなことは少しも気にならなかった。
かつて、消えかかっていた命を救われ、生きる意味を教えてくれる人がいた。
かつて、いまだに消えぬ感動を受け、世界に楽しみがあふれていることを教えてくれる人がいた。
かつて、白黒にしか見えない世界を、見事な色彩で染めてくれる人がいた。
そんな人たちは、苦しみを、悩みを、悲しみを抱えていた。大恩を受け、それを返したいと思っても、決して返せず、自らにふがいなさを感じていたとき、助けてくれた仲間がいた。
人あらざる身に絶望したとき、それを受け止めてくれた人たちがいた。
自分たちのことを家族と呼んでくれて、とても暖かい声で心を満たしてくれた。
彼らが感じているものよりも、自分たちは彼らに感謝している。
一人では決してなく、仲間だ、と。友だ、と。そして、家族だ、と。
そう言ってもらえたとき、どれほど嬉しかったであろうか。
彼らが、救われたような顔を見たとき、どれだけ嬉しかったであろうか。
今でもしっかりと覚えているのは、四人一緒に抱きしめられた時の、あの暖かさ。
「あなたたちは、私の家族よ」
その、ほんの短い一言で。
その、たった一度の抱擁で。
心の棘がなくなった。
その言葉は、あの暖かさは、たとえ幾星霜と時が流れても、決して忘れることはないだろう。
それが、自分たちを結びつける、絆の証なのだから。
最後のは、あんまり気にしないでくれると助かります……。
感想等お待ちしております。