問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
サラさんが出てきて、オッサンの人間味が強くなった気がする。
「ジン君。さっきサラさんからコミュニティに来ないかって言われたよ」
「は? え、ど、どう言うことですか!?」
コーヒーの入ったカップを手にジンが驚きの声を上げる。それもそのはずで、なんの前置きもなしに引き抜きされたなどと言われれば驚きもする。
さらに言えば、ジンにとって義仁とは心の支え。依存する存在で、父のような存在でもあるのだ。
そんな大切な人が何処かに行ってしまうかもしれないとなれば、戸惑いの声を上げるのも無理はないだろう。
「まあまあ、落ち着いて。どうやらサラさんは私がやっている研究に興味があるようでね」
「……恩恵を使わず魔王に汚染された土地を浄化する。確かに、魔王の呪いは凶悪なもの。特に〝アンダーウッド〟なら、最悪この都市を支える大樹が死ぬ可能性もありうる。
確か、〝アンダーウッド〟で、そういった呪いや毒物が少しでも確認できた場合神霊等に協力を仰いでいるって聞いた気が……。
神霊を動かすのならそれ相応の金額を要求されるはず……。
だとすれば、義仁さんの研究が完成すれば、その出費を抑えられる。更に、その技術を浸透させていればそれこそ魔王に強襲され、大樹が汚染されたとしても……住人だけで応急処置程度は出来る。
成程。なら、投資をしていつ来るか分からない、〝アンダーウッド〟の環境下では通用するかも分からない。それなら、自分たちの手元に置いておけば…………〝アンダーウッド〟に対応した環境下での研究を行える……。
つまりは、すぐに技術を実戦投入でき、かつ浸透させることもいち早く行うことが出来る。
白夜叉様は投資されていて、そこでの話はそこまで拗らせずに終わるだろうから……。僕達からの抗議だったりに対応したり、謝礼金を払う価値は十二分ある訳か。
義仁さん。引き抜きの他にも何かしらの条件を提示されたりはしませんでしたか?」
義仁は急に饒舌となったジンにアハハと苦笑いを浮かべ、ジンからの質問に答えた。
「うん。そうだね。技術提供だったりとかは言っていたけど、結局はコミュニティに来て欲しいって言っていたよ。条件はこっちで決めていいって言われたぐらいかな。あんまり度が過ぎてたら飲み込めないとは言われたけど」
んなっ!? と、またもやジン君から驚きの声が上がる。
「条件は決めてもいい!? それじゃぁ……」
義仁さんが〝ノーネーム〟から脱退すると言い出しても可笑しくないじゃないですか! なんて、言えなかった。
〝ノーネーム〟での生活は以前に比べかなり安定している。そう『安定』している程度の物なのだ。
貯蓄はあるが、食料の蓄えはない。いつ、なにが、どのようになるかなんて分からない。ちょっとした贅沢すらも自らの首を絞めるような自殺行為となりうるのが現状なのだ。それは、義仁だろうと、十六夜だろうと、ジンだろうと変わらない。
しかし、義仁はどうだろうか? ここでサラの手を取れば、ちょっとした贅沢どころの話ではない。かなりの高待遇が用意され、研究にもより取り組みやすくなることだろう。
天と地。〝龍角を持つ鷲獅子〟の出すであろう待遇と、〝ノーネーム〟の出せる待遇はそれだけの差があった。
ジンは震える体を必死に押さえ、聞きたくなくても、聞かねばならない事実を問うた。
「よし、義仁さんは……。どう、返事を返すのです、か?」
「え? いや、断るつもりだけど。今は保留にしてもらってるけど、まあ、受ける事は無いんじゃないかな」
ジンの体から力が抜ける。本当によかったと。
「どうしてか、お聞きしても?」
「どうしてか、って聞かれてもなぁ。私の帰る場所は、今は〝ノーネーム〟だからかな。確かにサラさんは似ているよ。見た目とかじゃなくて、そのあり方が。また、彼女に惚れ直した気分だった」
そう言って義仁はカップを傾け微笑む。
「似ている?」
「ああ、妻にね。でも、ここで、サラさんをサラさんとしてではなく、妻として見てしまったら……今でも、胸を張れるような人間ではないけれど、笑顔すら見せられなくなるんじゃないかなって思ってね。それに、〝ノーネーム〟の皆と離れるのはちょっと寂しいしね」
義仁は照れくさそうに頬をかきながら、そう告げた。
そして、轟音と共に大地が揺れた。
お読み頂きありがとうございます。
ジン君が依存系ヤンデレみたくなり始めたけどそんなルートは用意されてないです。
ただ、ジン君はかわいい。
今週の木曜日から車の合宿にいくので、来週投稿出来るかが分からないです。
ごめんなさいm(_ _)m
PS.やっぱり投稿出来なさそうです。理由等を活動報告に書いておきます。
では、また次回〜