問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
誰しも持つ感情です。
では、どうぞ。
微かなアルコール臭に目が覚めた。ここは、私は一体? ボヤけた視界が徐々に見え始め、それと同時に意識もはっきりとしてくる。
あぁ、そうだ……そうだった……。私は、守れなかったんだ。
レティシアが連れ去られた。守ろうとした、けど、守れなかった。その事実だけが、義仁の胸へと響く。
言い表せない怒り、悲しみ、無力感、そして、またかという言葉。
「悔しいなぁ……誰も守れないなんて……」
悔しい、なんてものでは無い。もはや、言葉として言い表せないほどにそれ等の気持ちは膨らんでいく。しかし、彼の器から水が零れることは無い。不思議な事に、ボロボロの器には何故か水が溜まっていく。キャパオーバーなんて、既に達しているのだ。限界なんて既に通り過ぎている。けれど、器が壊れることも、高く高くありえない形で溜まっていく水が零れる事は無い。
「手……ボロボロだなぁ」
砕かれた右手には、包帯が薄く巻かれ赤く染まっていた。救命道具にも余裕が無いのだろう。
「私に使うくらいなら、他の人に使ってくれれば良かったんだけど」
辺りを見回す。小さいながらも個室。洗面台に、寝ていたのは上質なベット。手触りの良さそうな木製のテーブルに椅子……戦場でたった1人の怪我人を置いておくにはあまりに贅沢すぎる。
義仁は立ち上がった。安静にしておく事よりも、他の怪我人をこの部屋に回して貰った方が良いと判断したからだ。その時、ふと窓が目に映る。必然的に、透明なガラスの奥……そとの景色が目に入ってきた。
巨人は居なかった。しかし、代わりのように街を蹂躙するのは、異形の怪物達。巨大なカエルのようなものが建物を壊しながら進み、巨大な蜂が子供を攫い、ドロドロとしたヘドロが全てを飲み込む。頭が中途半端に別れた犬の頭がグパッと開き、自分の数倍のものを飲み込む。
極めつけには、龍だ。〝アンダーウッド〟の巨大樹よりも巨大な真っ赤な龍だ。龍が体を震わすだけで地が揺れる。動いたら竜巻を作りだす。
「は、はは……」
乾いた笑いしか出てこない。
ふと、ひとつの心当たりが生まれた。
〝レティシアを守れなかったから?〟
確証なんてない、ただの妄想。分かってはいる、分かってはいるのだが、それすらも、器は受け止めてしまった。器に大きな罅が入る。しかし、直ぐに直って受け止めた。
心を埋め尽くす罪悪感。義仁は窓辺から離れ、ゆっくりと部屋をあとにする。廊下には誰もいない。あの怪物も、何もいない。とぼとぼと、1人歩く。
程なくして、外が見えた。窓から見えたあの地獄が再び視界を埋め尽くす。
機械仕掛けの巨人。飛鳥ちゃんのディーンだったかな。
ディーンは百足のようなものを叩き潰していた。前よりもおっきくなったなー、ドンドン大きくなってるなー。場違いな事を考えてしまう。
ディーンの近くには飛鳥ちゃんもいる。サラさんもいた。サラさんの赤い角は根元から落とされていた。飛鳥ちゃんは、サラさんを支えている。
だから、後ろから近づく蚊のような異形達に気が付いていない。
ピシッと器に罅が入った。
溜まった水が本来の流れに乗り始める。
限界を超え、感情の吐露なんて忘れていた。無意識のものはあれど、こうして、自ら他者に対して殺意を抱いたのは何時ぶりだろうか。
ああ、家族を殺そうとするあの化物が憎い。殺したい。
愛しい人を殺そうと動くアイツらが憎い。殺したい。
そして、守れない自分自身が許せない。
気が付けば走り出していた、俺は今、どんな顔をしているのだろうか? 般若? 笑顔? 歪んでる?
そんな事はどうだっていい。
今は、愛する人を守るべきだろうがァ!
砕けた右手を無理やり動かし、握りしめ、驚く飛鳥ちゃんの横を通り過ぎ、一番前の化物を殴り飛ばした。
「ふざけんなよテメェらァァァあああ!!!」
お読みいただきありがとうございます。
強化は入ってないです。人間のリミッターが切れただけです。おっさんはクソザコナメクジのままですのでご安心下さい。
あと、蚊みたいな化物は装甲なし、腕なしのミ=ゴみたいなやつを想像してもらえば。
では、また次回〜