問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
結構時間がギリギリに……間に合って良かったです
では、どうぞ。
黒ウサギ達が部屋を去り、義仁とジンはその後軽い雑談をし、ジンが風呂場の様子を見に行くと部屋を出ていった。
このノーネームで住むことが出来る。だがノーネームの家計は崖っぷち。明日の食料にすら困っている状況。何もしないまま飯だけを喰らうのは流石に気が引ける。自分には何か出来ることがあるだろうか?
自分にはこれと言った特技なんてものはない。そりゃあ就職時には機械操作が得意だとアピールはしたが、ジンとの雑談の中で携帯もスマートフォンも通じなかった為箱庭の世界では工業はあまり発達していないものと考えられる。勿論義仁に機械を一から作ることなんて出来ない。あくまで機械操作に多少の知識があるだけだ。
「役に立てるようなもの……俺に出来ることか」
条件として挙げられるものは三つ―――
素人にも出来る
箱庭の世界でも需要がある
そして、役に立つ
最低でもこの三つに当てはまるものになるだろう。
「……戦闘を覚える? いやいや、これから身体能力が下がっていく一方なのに無理があるだろ」
けど、自己防衛はぐらいは出来るようにならないとな。と、別の形で一度思考をリセット。もう一度役に立てそうな仕事を探す。
「他に……他に……釣り? 道具さえあれば何かしらは釣れるだろうし、売り物にはならないが食料確保にはいいかもしれないな」
だが、仕事とは言えるのだろうか? 微妙なところだな。一旦保留で。リセット、再思考。
「掃除……洗濯、料理?」
それ等を手伝うのは当たり前。次。
「そう言えば、箱庭ってアルバイトの概念はあるのか? あったらアルバイトも一つの手だな。うん。それが一番いいんじゃないか?」
そもそもノーネームと言う身分証明も出来ないコミュニティ出身の男を雇うこと自体がまず有り得ない。
しかし義仁はコミュニティの名前が無いということをそれほどまでに重いものだとは考えていない。言うなればノーネームの事を、職をなくし新しい仕事を探している状態の人間。と考えているのだ。『仕事が探せる』のと、『試験が受けられない』とでは雲泥の差がある。
更にはそれを否定できたジンも黒ウサギもここにはいない。思考は加速しアルバイトが一番良い方法だと決定してしまうのも無理は無いだろう。
「この世界についてなんの知識、常識を持ってない男を正社員としては絶対に雇ってもらえない。だけど、ある程度の一般常識を持っていればアルバイトとしてぐらいなら雇ってもらえるだろ。一般常識ならジン君か黒ウサギさんに教えてもらうのが一番だろうけど……忙しいだろうし取り敢えず色々と箱庭の本を読むところからだな。そうと決まれば善は急げ。ジン君が戻ってきたら書斎に連れていってもらおう。これだけ大きい屋敷だから書斎の一つぐらいならあるだろ―――」
考えが纏まり、これからの方針も決まった。さあ、次は実行に移すぞ!! そんな時だった。部屋の外からリリのものと思われる怒号が聞こえたのは。
「な、何者ですか貴方たち―――ンッ!!」
「静かにしてくれ。何も君を殺したい訳じゃないんだ。頼むから、抵抗せず付いてきてくれ」
後半の声は小さく義仁の耳にまで届かなかったが、最初のリリが放った困惑の混じった怒号はハッキリと聞こえた。勿論、中途半端に途切れたのもしっかりと。
ベットから降り、扉へと近付く。黒ウサギ達の治療のおかげだろう、歩く分には特に痛みは感じられなかった。そして、扉を少し開き外の様子を伺う。そこには、見知らぬ男がリリの喉元にナイフを突き付けていた。
侵入者の手がリリの口を押え、喉元にはナイフ。殺される。死ぬかもしれないと言う現実にリリの肩は震え、押さえられている口からはカチカチと歯と歯がぶつかり合う音が聞こえる。その瞳には大粒の涙が幾つも流れ侵入者の手の甲に落ちていく。
侵入者は手際よく片手でリリの腕を縛り身動きが取れないよう足首も縛っていく。最後に口に縄を咥えさせ、その小さな体を持ち上げた。
そして、横腹に強い衝撃が襲い掛かり、リリを落としてしまう。
「ウグゥ」
「ッ!! 誰だ!!」
リリの苦悶の声と侵入者の怒号が響く。そこに居たのは、一人の冴えないオッサンだった。
「……チッ まだ一人動ける奴がいたのか。けど、すまないな、この子を渡すわけにはいかないんだ。俺には守らなきゃいけない息子がいる」
「アナタにどう言う事情があるかは知らないが、この娘は私の命の恩人なんだ。渡すわけにはいかない」
侵入者は持っていたナイフを構える。義仁は拳を構えた。プロの構えと、素人の構えにすらなっているか分からない構え。チャンスを伺い一撃与えている状況とはいえ勝敗は火を見るよりも明らかだった。
「シッ!!」
義仁の視線から侵入者が消える。(正しくは一瞬にして義仁の懐に潜り込んだだけだが)そして、太ももに焼けるような痛みが襲ってくる。
それは、多少ナイフの扱いに長けたものや殺しや戦いにに長けたものならばすぐに分かるだろう。この侵入者は義仁を殺すつもりはないと。
殺すのならば太ももではなく頭部を狙えばいい。あれだけ隙だらけならば、そんな事いとも容易く行えるだろう。そして、太ももに刺したのならばナイフをそこから横薙に振り払うのも良い手だし、根元付近の血管を切り引き抜けば出血多量で死ぬ。しかし、侵入者はナイフで太ももの骨手前のところまで刺し、抜くこともしなかった。相手がやり手ならば動きを制限する一手だとも取れるが、相手は素人。わざわざ布石を敷く必要も無い。案の定義仁はその痛みに蹲る。
「アァぁぁぁぁぁ!?」
「俺も箱庭じゃ弱い部類だが、お前みたいな素人には負けないさ。諦めな」
義仁を通り過ぎ身をよじり逃げようとしているリリへと近付く。
「おい、どういうつもりだ?」
「その子は……渡さないッ!!」
リリに近付こうとした侵入者の腰にしがみつく。太ももからは少なくない血が流れ、横腹は傷が開いたのかじんわりと血が広がっている。
「いい加減に」
ナイフで刺されたことなんてない。目の前は真っ赤だし、刺されたところは熱くてずっとジンジンしてる。横腹もなんか気持ち悪いし、これは傷が開いたな?
「しろッ!!」
侵入者の肘打ちが義仁の脳天に落ちる。一瞬義仁の腕から力が抜けそうになるが、なんとか持ちこたえる。
侵入者の肘打ちで頭部が切れたのか頭からも血が流れている。
「んんーッ!!」
その様子を見ていたリリが泣きながら助けを呼ぶも、口には縄があってその声は侵入者達に届く程度。助けなんて来るはずもなかった。
「離れろっていってんだよッ!!」
侵入者はリリが騒ぎ出したのに焦りを感じて何度も何度も義仁の脳天に肘を打ち下ろす。それが十回を超え始め侵入者の腕からも血が流れ始めた頃、義仁の体から力が抜け何も言わず地面へと突っ伏した。辛うじて息はしているようだが出血が酷すぎてもう三分としないうちに息絶えることだろう。
侵入者は一瞬義仁に手を伸ばすが、苦難の表情を浮かべその手を引っ込めた。
「チクショウがッ」
悪態を吐きリリへと近付く。リリは意味の無い叫び声を未だに上げていた。縄はほんのりと赤くなっているところからどれだけ必死に声を出していたのかがよく分かるだろう。
しかし、侵入者の足は止まる。足を掴む何者かが居たから。考えるまでもなかった。侵入者の顔は青ざめていく。足元には真っ赤に染まった腕で侵入者の足を掴む義仁。
訳が分からない。自分も我が子をコミュニティを守る為に誘拐をしてはいる。しかし、もし仮にこの男と同じ境遇にあえば、俺は逃げずに戦えるのだろうか? いや、逃げる。逃げて、誰かに助けを求める。あの虎に立てつける事なんて俺にはできない。
腰が引け、尻餅をつく。息が吸えない。地面についた箇所が気持ち悪い。男の血がここまで広がっているからだ。まさしく、血の海。そこに体を浸らせる二人。響くのはリリの縄に遮られた助けを呼ぶ声と、必死に空気を取り込もうとする呼吸音。
そして、血の海から義仁を救い出す四人の足音だった。
お読みいただきありがとうございます。
オッサンがなんでこれまで執着したのかは次回です。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。
今度はもう少し早く投稿できればいいな。
では、また次回。