問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

先週は申し訳ありませんでした。
死んでましたねはい。書こうとしたけど、指が震えてたんでやめときましたはい。

では、どうぞ。


第80話 一時の主

「いや~ひっさしぶりにいい汗かいたわ。あんがとな」

 

 ぽんぽんと、座布団代わりにと座っているものに優しく手で叩く。正しくは少年を守るように包んでいる水の泡にだが。

 

「態々手当までしてるんやし、喧嘩を売ってきたのはそっち。けど、義仁はんに怒られそうやなぁ」

 

 何処から出したか煙管を取り出す。湿気ている為火をつける事が叶わないが、まあ良いだろうとそのまま咥えた。

 

「ま、恨むなら僕をその気にさせた自分を恨めよ。君には感謝しとるし、また手合わせしたいなら受けてやってもええよ」

 

 さてと、と。腰を上げ、水の泡の中で気を失っている十六夜を担いだ。十六夜の体には致命傷になりうる怪我すら見受けられるが、出血している様子はない。

 

「さあーて……義仁はんは頑張ってるかねー」

 

 一つ欠伸をし、蛟劉はのんびりとその歩を進めた。

 

 

 

 

 

 この世界に来て三度目の急落下。必死にヒッポカンプの首にしがみつく。目を閉じ、体に吹き付ける風が落下が続いていることを否応なしに教えてくれた。

 心の中で早く着地してくれと涙ながらに祈り続け、およそ五秒、体感では五分ほど落ち続け着地した。

 

 衝撃は驚く程に少なく、着地したと分かったのも吹き付ける風が消え瞼を上げた時だったほど。

 

 ほう、と大きく息をつく。手が震え、足がふわふわと浮いているような感覚。

 

 正直、怖い。けれど、怖くない。それに、これは義仁が前に進むと言う意思表示でもあった。そうしなければ、あの二人に顔を合わせるには、あまりにも情けなかったから。

 義仁が動かないのを心配してか、ヒッポカンプが首を回し義仁の頬を舐めた。

 

「ブルルッ」

「ごめんごめん。少し考え事してた。表彰台には立てないだろうけど、頑張ろうか。…………うん。どうせならおもいっきし走ろう。私も落ちないように頑張るから。任せられるかな?」

 

 義仁がヒッポカンプの首を撫でる。それに応えるように、大きく前足を上げ水面に叩き付けた。瞬間、爆発音。それがヒッポカンプの振り下ろした足音だと分かるのに時間は掛からなかった。

 不思議とヒッポカンプの体躯が先程よりも大きく見える。さながら、押さえ付けていた楔を取り払ったかのように。

 

 そもそも、蛟魔王と言う箱庭に名を轟かせた魔王が愛馬として駆る馬。少しばかり足が速い……なんてものでは無い。蛟魔王の一撃に耐えられる程にはその肉体も精神も、その霊気すらも底上げされているのだ。

 多少足が速いヒッポカンプには負けられぬ。

 

 やるならば、勝ちを狙う。背に跨る一時の主の為に。

 

 魔王を名乗る者の愛馬がその一歩を踏み出した。

 




お読みいただきありがとうございます。

ヒッポカンプが終わって、閑話を少し挟んで、最終章って感じになるかなぁ。
あと数ヶ月……あと数ヶ月もあるのか。あと、数ヶ月しかないのか……。

ま、もう少しの間よろしくです。

では、また次回~

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