ARIA新しい妖精たち   作:岩戸 勇太

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その……新しい始まりは……

 アルトはウンディーネ目指す女の子だ。

 目前に広がるのは、中世の街並みを今でも残すネオヴェネツィアの街並み。

 空港の受付には早速黄色のラインの入ったオレンジプラネットの制服を着たウンディーネがダッファーレをしている姿があった。

 橋の上に差し掛かり、少し歩くと後ろからガコンという音が聞こえてきた。誰もいなかったはずと思って後ろを振り返ると、郵便ポストの中身が棒を使って取り出されているところだった。

 彼女の故郷のマンホームでは紙の手紙のやり取りなどなくなっており、アルトにとっては珍しい光景である。

 棒を持っている人の事を調べると、自分と同い年くらいの、アリアカンパニー制服を着た子を見つけた。

「写真を撮らせてください!」

 アルトはカメラを構えて言った。

「いいですよ」

 アイが答えるのと、ほぼ同時にシャッターを切るアルト。

 ピピッという音が聞こえて、アイが棒を使って手紙を回収する姿がファインダーに納められる。

「綺麗な海、綺麗な街、綺麗な人。最高の写真になりました」

「綺麗な人って……」

 アイは言葉にはにかんだ笑顔を見せる。

 そこにまたピピッという音を立てファインダーに納められた。

「はにかんだ顔も素敵ですよ」

 アルトは言って、その場を後にした。

 

 サンマルコ広場に出たアルト。

「これは撮り甲斐がある」

 すべてがきれいなこの場所は、全てがシャッターチャンスだ。

ピピッカメラを鳴らし、この広場を写真に収める。

「おっと。建物はいつでも撮れる。今しか撮れないものでないといけない」

 キョロキョロと周りを見回すと、老紳士に声をかけられた。

「お嬢さん。何かお探しかな?」

「写真! 写真を撮りたいんです」

 アルトはその老紳士に詰め寄っていく。

 きれいな街並みを見て、写真家としての本能を抑えられないといった感じだ。

「私などいかがかな?」

 店主の軽めのジョークであった」

「いきますよ」

 そしてアルトがカウントダウンを始める。

「5、4……」

「本当に撮るのかい?」

 うろたえだす店主。だが、アルトのカウントダウンが終わると、シッカリとポーズを取っていた。

「急なんだから驚いたよ」

「ノリノリだったじゃないですか」

 そう言いケタケタ笑うアルト。バツ悪そうな店主は、帽子を深くかぶって目を隠した。

 

 アルトはそれから店主と一緒に昼食をとった。

「ここは時間の流れが緩やかでね。

 一年の日にちが地球の二倍もある。、一日も25時間。

「素敵のいっぱい詰まった惑星などと言われてるよ。さる偉大なお方にね」

 ジョークの流れでそう言い出す店主。そのさるお方という人に興味の出てきたアルトは聞いた。

「どのようなお力をお持ちなのですか? そのお方というのは?」

「あのお方には仲間が多い。手を出しでもしたら命がないと思うね。業界の次のトップはあのお方だよ。間違いない」

「本当に恐ろしそうですね」

 店主の言葉に軽く返したアルト。

「時間があるならアリアカンパニーの社屋に行くといい。なかなか面白い建物だよ」

 そしてカップを飲み干した店主は言う。

「仕事があるので」

 アルトの前から自分のティーカップを持って去っていった。

 

 アルトはアリアカンパニーに向かった。アリアカンパニーは海に浮かぶ綺麗な孤島のような美しい建物だった。、

「うちに何か御用ですか」

 アルトがパシャパシャと写真を撮ると、後ろから声が聞こえてきた。

「あなた、アイノ アイ! 噂のゴンドラタダ乗り犯!」

 アルトの言葉に、アイはキョトンとした顔をした。

 

 アルトのたっての希望で、アルトはアリアカンパニーの中を見学させてもらえた。

「ここが噂のアクアマリンの……」

「アカリさんはもうすぐ戻ってくるよ」

 そういうと、アイはお客を迎える準備を始めた。

「アイノさんも有名だよ。アッコスタビーレプリマのあれ。私も見たよ。ニュースで見たまったく素敵だったよね。特に背景が」

「私じゃないならおだてないでよ」

 アルトはアイをからかった後、くすくすと笑った。

「アクアマリン。ミズナシ アカリを見たら、すぐ帰るから」

「そううまくいくかなぁ?」

「今度はアイの方がクスクス笑った。

 そこにゴンドラを漕ぐ音が聞こえてくる。

「ここで待ってて」

 アカリが返ってきたのを察すると、アイはエプロンを椅子に掛けて船着き場に向かった。

 今日のお客である老夫婦をゴンドラから降ろし、その後、お見送りをした。

「アカリさん。物は相談なんですが」

 アイはアカリに提案をしたのだ。

 

「ゴンドラ。通りまーす」

 アイの声かけが聞こえてきた。

 大きな水路に出て視界が開けていく。

 アルトをお客様として乗せて、名所めぐりをしようというのだ

 リアルト橋、溜息橋。もろもろの名所にアルトを案内して、普段からの練習の成果を見せたのだ。

 スラスラと名所の案内と説明をするアイ。

 一人のウンディーネとして、練習の成果をみせるには絶好の状況だったのだ。

 だが、アルトはそれに不満気であった。

「なんかカタログで見たとこばっか。こんなところを今更見せられてもねぇ」

「ムチャ言わないでよ」

 アイはその要望に辟易していたが、アカリはクスクスと笑っていた。

「アイちゃん。あそこなんてどうかな?」

 アカリが指さした先には何があるかを知っている。アイはそれを見せるためにゴンドラを進ませた。

 

「ここのお庭は奥様が手入れをしているんですよ」

 いろいろな花が咲き乱れる庭。

 アルトは写真を撮りたくてウズウズしている様子であった。

「いらっしゃいますかー?」

 アカリは大きな声をはりあげた。

「いきなり呼び出すなんて失礼じゃ!」

 アルトはアカリの行動に慌てていたが、中から出てきた老婆はにこやかに応対をしてくれた。

「アカリさんね。お連れの人も一緒に紅茶でもどう?」

 アルトが慌てるのをよそに、アカリ達は老婆の家に進み出ていった。

 

 その後、たわいのない話をしてキッチンに向かう。

 アルトはふと、ビンの中に花の種が詰まっているところを見た。

「お花の種はね。油を採ったり、料理にも使えるの」

 その他、壁にポプリが飾れて花瓶にも花。

 ここの家の主は、花に囲まれた日々を送っているのだ。

「写真を撮らせてもらっていいですか?」

 アルトはこれを待っていた。

「私は、ネオヴェネツィアは綺麗な街という印象しか持っていなかった」

 だがきれいなだけでなく温かい人のつながりを教えてくれる街でもあると思えてきた。

「だけど、そんなものを写真に収めるのは無理だよね」

 自分の育てた花に囲まれたこの家の主はとても美しい。それを動じても撮って見せたい。

 だから、それをできるだけ表現できる写真が欲しい。

 

 アルトはそのために皆を庭に向かわせた。

「写真撮影です」

 一番いいポイントを見つけたアルトは、写真を撮りそれを見せると主人は言う。

「まあ綺麗。これは飾っておきましょう」

 アカリもこの写真は大事な宝物にしてくれるというのだ。

 

「そろそろ時間なんです」

「うん。オレンジプラネットだよね」

 オレンジプラネットに近い船着き場でアルトを降ろす。

 アルトはペコリと頭を下げてオレンジプラネットに向かっていった。

 アルトの姿が見えなくなったとき、アカリはふときいた。

「アイちゃん。そういえばお勘定は?」

「あー……そういえばそうでした」

 とぼけたような言いようをしたアイ。意図の分かったアカリはクスクスと笑う。

「悪い子だね」

 これで、ゴンドラタダの乗り犯はアイだけではなくなったのだ。

 

 アルトはオレンジプラネットに向かう途中に歌声を聞いた。

 アリスとアテナが歌っていたのだ。

「美しい……」

 思わずその姿に感嘆の溜息を吐くアルト。

 アリスはこちらに気づき、アルトに言ってくる。アテナの方はキョトンとしていた。

「あはは……覗き魔をやる気はなかったんだけど」

 それからアテナとアリスの事もよく知っているアルトはあたまをさげる。

「今日、オレンジプラネットに入社をする事になったアルトです」

 そういえば……と思うアリス、今日は新人が入るとか聞いていた。

「さっさと受け付きを済ませましょう。行きたいところがあります」

 

 アリスはアルトを連れてオレンジプラネット入社の手続きを済ませた。

 アルトをゴンドラに載せると小高い丘に向かっていった。

 そこは見晴らしの良い場所で、アルトはいくつものシャッターを切る。

「劇があるので劇場に行ってしまったアテナ先輩とは真逆です。どうもせっかちな子ですね」

「ここまでのシャッターチャンスは他にありませんよ」

「この先がかの有名な水上エレベーターです」

 大きな装置の中に入ったアリスが言うと、エレベーターに水がたまり始めた。

「予言をしましょう。あなたはこの先に見る景色を忘れられなくなります」

 含みのある言い方をする。

「私はいろんな景色を見てきました。ちょっとやそっとでは記憶に何て残りませんよ」

「生意気な子です。私も昔生意気と言われました。人の事を言える立場ではないですね」

 水上エレベーターは登り切り、ネオヴェネツィアの街並みが足元に広がる水路にまで進む。

「確かに綺麗ですけど、珍しいものの方が撮る価値ありますよ」

「あなたがウンディーネだから忘れることができなくなるのですよ」

 含みのある言い方をするアリス。アルトはキョトンとしていた。

 今はまだこの子も知らなくていい。忘れられなくなるのは先の話である。

「戻りましょうか。みんながごちそうを用意してくれていますよ」

 そう言いアリスはゴンドラの向きを百八十度変えた。

 

 アルトの歓迎会が開かれた。

 そこにはなぜかアイカもいた。

「歓迎会で外の会社の人間を呼ぶってのはどうなのよ?」

「いいじゃないか。大人は理由をつけてでも会わないと、会う機会なんてめっきり減るもんだからな」

 アキラはこの集まりに同意のようである。

「あらあら」

 いつもの口調で言うアリシア。アカリにアイもその場に同席していた。

「アテナに開始の挨拶ができるとは思わないがね」

「アテナ先輩は、決めるところはきっちり決めますよ」

 とりとめもなく会話をしたアリスとアキラ。アテナが立ち上がって話を始める。

「皆さん忘れていませんか? いっせーのでいいますよ」

 アテナの掛け声にアルト以外の全員が首を縦に振る。

「ようこそAQUAへ! ようこそオレンジプラネットへ!」

 その言葉はアルトの胸にじんと染み渡った。

 

 その後、アルトが空港の出口付近で客引きをする姿が見られるようになった。

「旅の思い出に写真はいかがですかー!」

 アルトのダッファーレだ。

 ネオヴェネツィアの名所の写真を売っていたのだ。

 屋台のてっぺんに大きく引き伸ばされた写真があった。

 アカリ達が集まった時に撮った記念写真だ。

「この写真をもらえないか?」

 お客にそう言われるがそのみんなの集合写真は売っていない。

「すみません。これは非売品なんです」

 ひときわ目を引く写真。題名はこうあるのだ。

 

『水の惑星の祝福』


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