ARIA新しい妖精たち   作:岩戸 勇太

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その……花火大会は……

 ダッファーレをしているアイは、各民家に配達するチラシを見た。

「花火大会とかあるんだ。アリノアちゃんも一緒に行こうよ」

 チラシを挟む仕事をしているアリノアに言う。

「他のお友達も呼ぶね」

「他の子もいるの?」

 アイの言葉に、アリノアはそう言って身をすくめた。アリノアには怖いことなのかもしれない。

「いいの。いいの。みんないい子達ばかりだよ」

 アイが言うとアリノアは小さくコクンと頷いた。

 

「今日だけ日本に帰ってきたみたい」

 アイは屋台に並んでいる人を見て言う。

 わたあめにポップコーンにたい焼き。

 ネオヴェネツィアの人々が、日本の屋台で伝統的に売られているものを売っていた。それも異様な光景にも見えず、昔から続いている風習のようにも見える。

「アリノアちゃんだ」

 アイの声にアリノアはビクリと身を震わせる。

 浴衣を着てやってきていたアリノアは、オズオズと言った感じでアイに聞いてきた。

「可愛いかな?」

「うん。とっても」

 アリノアが顔を真っ赤にして目を伏せると。キョロキョロと周りを見回した。

「いろいろ誘ってみたんだけど、みんなこれないって」

 アズサは姫屋の屋台の手伝い。アーニャも余興でアテナの歌を披露するのでその手伝いという事だった。

「アカリさんは?」

 アリノアが一番会いたがっていたのはアカリだったようだ。アカリの名前を出すのと同時に顔を上げた。

「アカリさんは……デート?」

「私に聞かないでよ」

 アカリはアカツキと出かけることになっていた。どうも不思議なやりとりが、アカリとアカツキの間にあったのだ。

 

 アイが昼の支度。アカリが書類の整理をしているところだった。おもむろにアカリが髪を掴んだ。

「何度も同じ手は食いませんよ」

「ちっ……もみ子め。俺様の心を込めた挨拶を分からんとは」

 いつものように、アカツキはアカリの髪を掴もうとしたのだ。アカリが紙を掴んだので上手く髪を掴むわけにはいかなかったアカツキは「ふん」と、鼻を鳴らした。

「今日のチラシは見たか?」

「そうですね。今日は牛乳が安いですね」

 アカツキの言いたいことを分かったうえでアカリは言う。

 アカツキが言葉に詰まったのをまるで見えているようにして、アカリはクスクスと笑った。

「花火大会。一緒に遊びに行く男の人が欲しいですね」

「う……うむ……頼むんなら……」

「郵便屋さんのおじさんでも誘おうと思います」

「待て……!」

 アカツキが言うのを聞いて、アカリは笑っていた。

「すぐ後ろにヒマな男がいるぞ」

 強がりをかなぐり捨てたアカツキ。肩を震わせて笑いをこらえているアカリはアカツキに向けて振り返った。

「そうですね。アカツキさん。一緒に花火を見に行きましょう」

「そうだな。そこまで頼むんなら行ってやらん事もない」

 かなり強引にこの言葉を持ってきたアカツキ。アカリはおかしくなって笑っていた。

「なにこれ?」

 アイは意味が分からない光景に、呆れかえって言う。

 

「あのアクアマリンにそんな事が……。アカリさん。そのアカツキって人と結婚するんですか?」

「ないと思うけど、アカリさんはいつもミラクルを起こすからなぁ」

 アイの見立てでは、あの二人は進展しそうにないと思う。

 だが数々のミラクルを起こしてきたアカリなら、ありえそうなことだった。

 

 それから二人で屋台の並ぶ道を歩く。

 提灯によってやわらかな灯りを放つ屋台。それに挟まれた道を歩く事は、アイにとって懐かしくて、心地よい気持ちである。

「アイちゃん。あれってもしかして……」

「アイカさんの屋台だ」

 

「へい。いらっしゃい。イチゴシロップ一丁」

 アイカの掛け声、その背後ではアズサがかき氷を作る機械を回していた。

「なんで手動のかき氷器を一つしか用意していないんですか!」

「そりゃ、こんなに忙しくなるとは思ってなかったからよ!」

 見立てに失敗したのだ。アイカは話を打ち切ると、客の行列の方を向いた。

「へいいらはい! このこはいつもゴンドラのオールを漕いでいるから作るの早いよー」

「勝手にハードル上げないでください!」

 アズサの文句の言葉も聞かずに、アイカは客を集めていた。

 

「邪魔しちゃ悪いね」

「あの状態のアズサちゃんには近づけないね……」

 二人して、この場を立ち去る事を選んだアイとアリノアだった。

 

「もみ子よ。どこに行くのだ? 焼きそばくらい奢ってもいいと言っているのだ」

 アカリはアカツキの言葉に反して屋台の並ぶ道とは正反対の方向に歩いていた。

「花火が上がる前にきっちりスタンバイしてないと」

 急ぎ足である場所に向かうアカリ。

「私ね。昔宝探しをした事があるんですよ。ものすごい宝物だったんですよ」

「何か素敵的なものか?」

 今は、花火があがる直前。その時になってようやくアカリはアカツキを目当ての場所に連れてきた。

 アカツキは壁に『ゴール』と書かれているところに出る。

「なるほど。景色がいいな」

「ここなら花火を見放題です、私達の秘密の特等席ですよ」

 アカリが階段に座ると、アカツキもその隣に座る。

 一発目の花火は、お腹の奥にまで衝撃の伝わってくる大きな花火だ。

「AQUAにいるからには楽しむだけです。AQUAは私達に素敵な贈り物を用意してくれるんですから」

「もみ子よ。俺は今言いたいことがある」

 アカツキは何かの言葉を飲み込んだ。

『一緒に花火を見れてうれしいとなぜ言えん……』

 アカツキは一言アカリに言っておきたかった。だがのどまで出かかっていたのに底から先にはつながらない。結局アカツキは照れ隠しの言葉を言う。

「はずかしいセリフ禁止だ!」

「エー……」

 二人が近づくチャンスであったのに、アカリの用意した舞台に立ちつつも、アカツキはいつも通りの照れ隠ししか言えなかった。

 

「これは休んでもいいはずよね」

 かき氷屋の氷が切れてお客さんには頭を下げて解散してもらった。

 だが、すぐに追加の氷は用意されるらしい。まだ気を抜くのは許されない。

 用意していたパイプ椅子に座り、アイカは疲れを吐き出すような溜息を吐いた。

「お疲れ様です。疲れには黒酢ですよ。グイッといきましょう」

 それを言ったのはアルだった。

「黒酢っていかにもおじさんっぽい」

「若い人にはなじみがないですかね」

 黒酢のパックを渡したアルは続ける。

「ボクも並んでいたんですよ。氷が切れるなんて運がないですね。宇治金時抹茶がメニューにないのも残念でした。

「またもやおじさんっぽい」

「花火まで時間がありますよ焼き鳥でも食べながらのんびりしましょう」

「もう、わざとしているようにしか見えないわよ」

 いつものニコニコ笑顔のアル。いつもの調子の彼から真意をうかがう事はできそうになかった。

「途中でアキラさんに会いましたよ。屋台の方は代わってくれるようです」

 正直助かる言葉だ。

「伝言も仰せつかってきました。『忙しい時にヒマをくれてやったんだ。必ずモノにしろ。成果を上げるまで家には返さんからな』とのことです。さて、成果とは何の事でしょうか?」

「成果云々はともかく、なんで支店長の私が締め出されるのよ?」

「確かに」

 

 アキラは屋台にやってくると、すぐに代わってくれた。今はアルと一緒にこれから花火が上がるだろう夜の空を見つめていた。

「アル君ありがとう」

 アイカはアルに向けて言う。

「アキラさんからのサービスです。すごい盛況でしたよ。女性が並んでいるのが多かったですね」

「なるほど。アキラさんだったらすごいことになっていそうね」

 アルはかき氷を二つ取り出した。それがアキラからの差し入れという事だろう。

 女だというのに、一部で王子様と呼ばれているアキラならそうなるだろう。

 アルはアイカの口にスプーンを突っ込んだ。

「疲れた体に甘いものは効くでしょう?」

「そうね」

 小さく言うアイカ。

『正直、アル君に会えたってだけで疲れなんか吹き飛んだけどね』

 心の中で思うアイカ。

 アルとアイカが隣り合って座っているところ。花火が上がりだした。

 

「夜の配達が入るなんてラッキーだったのだ」

 ウッディーは花火を間近で見て言う。

 エアバイクに乗っているから、花火が破裂するすぐ横にいることができるのだ。

「ふふふ。人の手で撮るのは私しかいませんね」

 ウッディーのエアバイクに乗るアリスは言う。

 夜の配達でオレンジプラネットにやってきたウッディーをアリスが捕まえて、花火のすぐ近くに連れていくように要求したのだ。

 「明日のトップは私が取ります。こんなに近い場所で撮影するのは私くらいでしょうね」

 パシャパシャとカメラのシャッターを切りながら言う。SNSに投稿をするつもりのようだ。

「ちゃんとつかまるのだ。落ちるのだ」

 そう言い、ウッディーはアリスの体に手を回した。

 体に腕を回されたアリスは体が固まった。

「私が支えているうちに撮るのだ」

 目をつむり、顔を伏せたアリスは言う。

「もういいです……」

 ウッディーの腕が体から離れると、アリスは俯いてエアバイクの荷台を掴んだ。

「ならあの辺で下すのだ」

 何も気づかないウッディーはアリスを近くの桟橋に下した。

 

 花火が終わると、締めにアテナの歌が始まる。

 歌い始めるために檀上に出る前のアテナとアーニャは、多くの客が待っているのを見る。

「なんかいつもと違う場所だと緊張するね。アーニャちゃん」

「私が歌うのではないですので緊張はしませんね」

 だがアーニャも司会をするために少し檀上に上がらないといけない。

 本当はアーニャの胸はバクバクと高鳴っていた。

「では行きます」

 アーニャが壇上に向かう。

『最初の一言だね』

 アーニャはよくアテナから聞く事を思い出す。

 最初の一言を出すのが一番難しい。一言を言ったら自然と言葉が出てくるものだ。

「皆さん花火はお楽しみいただけたでしょうか?」

『アテナさんの言った通りだ……』

 次々と言葉が出てくる。アーニャはさっきまで緊張でモヤモヤしていたのも忘れ、台本に書かれていた言葉を思い出す。

「アテナグローリーさんです。拍手でお迎えください」

 最低限の司会ができたアーニャ。アテナが後ろを通ると小さくアーニャの肩を叩いた。

「上手くできたね。舞台に上がるのが向いているかもしれないよ」

 アーニャは言われる。アテナに言われ、アーニャはスタスタと立ち去っていく。

『無茶言わないでください』

 舞台慣れしているアテナはマイクの前で頭を下げると歌を始める。

「御清聴ください」

 その言葉を皮切りにアテナが歌い始める。

 花火大会の余韻を感じながら見なそのカンツォーネに耳を傾けた。

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