ARIA新しい妖精たち   作:岩戸 勇太

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その……人形劇は……

 アイは買い物の途中で人だかりを見つけた。

 アイがひとだかりの中心を見ると、マリオネットの人形劇をしているのだった。

 生きているように動くマリオネット。その糸を操っているのはウンディーネだった。

 そのマリオネットの人形劇は終わりだったようで、人形が皆にペコリと頭を下げているところだった。

 買い物で余った小銭を置かれているビンの中に入れたアイに声がかけられた。

「あなた……アイノアイさんね」

 その声を聞き、人形師の方を見る、マリオネット人形は、チョイチョイと手を振ってアイに手招きをしていた。

「私はアラリアっていうの。あなたの事を知っているよ」

 人形が大きく腕を広げた。

 人形師のアラリアの事を見るとアラリアはにこやかに微笑んでいた。

 

 アイは買い物の途中だったが、そう急ぐものではない。アラリアに誘われて近くのカフェに行く。

「私、アッコスタビーレプリマを目指しているの」

 アイはそれに複雑な気持ちになる。

 アッコスタビーレプリマは一度悪用をされてしまった。

 アッコスタビーレプリマの座をかっさらっていったアニタは、どうにも憎めない相手であった。

 彼女の事をどう思えばいいか分からない。アラリアがもし制度を悪用しようとしているなら、アイもまた頑張らないといけないのだ。

 そうふと思う。

「私の事をどう思っている?」

 アラリアにとっては自分は敵かもしれない。前回二位だった自分は、順当にいけばアラリアの前に立ちはだかる壁のはずだ。

「憧れでもあり、勝たなきゃならない相手でもあり、そういう意味では敵同士だけど……」

 やはりアラリアにとっては自分は敵だ。口を固く結んだところ、アラリアはつづけた。

「でも手加減なんてしてほしくないな。あなただってプリマになりたいでしょう?」

 アラリアにそう言われる。

 アイは考えたことがなかった。アリシアの作ったアッコスタビーレプリマを守るため、そのためにやってきた事が前回の二位という結果だっただけだ。

 

 夜。ネコミミのナイトキャップを被って寝間着に着替えたアイは寝息を立てているアリア社長の隣で考えた。

「私ってアッコスタビーレプリマになってもいいのかな?」

 アリシアは出会いに恵まれない子のためにアッコスタビーレプリマの制度を考えた。

 自分の近くにはアカリがいる。アイカにアリスもいる。その自分は、彼女らと一緒に頑張っていけばいい。

「はずだけど……」

 自分の考えたことに返す言葉を自分で探した。複雑な気分だ。

 アイは自分もアッコスタビーレプリマになりたい。皆から愛されるプリマとして胸を張りたいのではないかと思う。

「アリシアさんはどう思うかな?」

 アッコスタビーレプリマの制度を考えたアリシアはどう思うかを考えた。

 

 翌朝、朝食の時にアカリのこの悩みを打ち明けたアイ。

「アイちゃんはどう? ダッファーレは楽しい?」

「もちろんです」

「ならそれでいいよ」

 アカリの言葉を測り切れないアイはキョトンとした。

「アイちゃんが楽しくダッファーレをすればいいと思う。アリシアさんもそれを望んでいるんじゃないかな?」

 つまりは、対決をしているなんて考えなくてもいいという事だ。

 

 その日のアズサとアーニャとの合同練習があった。

「難しい問題ね」

「どっちを選べば、アリシアさんが喜ぶか? って事だよね」

 アズサとアーニャにとっても難しい話のようだ。

「でもいいんじゃない? アイちゃんが勝っても」

 アズサは言う。

「ダッファーレもウンディーネの修行にはなっていると思う」

 ゴンドラ教室で講師をしているアズサは、それから学べた事があるというのだ。

「彼らって自由なの。たまに秘密基地とかに行くんだよね。私の知らない場所を、彼らはよく知っている。この場所とかをお客さんに案内して喜んでもらえばいいなって思う」

 藤の花が降りる場所。二つの像が太陽を掲げているように見える場所。

 新しい発見を子供たちに教えられると、ゴンドラ教室をやってよかったっと思うのだ。

「アイちゃんが決めていいのよ。アリシアさんだって怒ったりしないと思う」

 アズサの言う事に、アイは心が晴れる気がした。だがアーニャはそれとは違う考えを持っているようだ。

「私、会社でも上達が早いって言われてるけど、アテナさんとアリスさんのおかげだと思う」

 オレンジプラネットにも上達のできない子もいる。指導員の力不足が原因であると感じる事も多いのだ。

「そういう子のためにも、アイちゃんが勝っちゃいけないと思う」

 アーニャの言葉に、アイは唸るだけだった。

 

 アカリがアリアカンパニーに戻り、夕食となった。

「私もアリシアさんのためになるかどうか気になったんだ」

 アカリは朝の話がひっかかっていたようであった。

「アイカちゃんにも聞いてみたんだ」

 あの二人の意見は参考になるはずと思ったアイ。

 アカリはアイカから聞いた話をしはじめた。

 

 アカリが姫屋に向かうと、顔パスですぐに支店長室に案内をしてもらえたのだ。

「アポなしでいきなり来るのはやめてくれない? 今はちょうど休憩したい気分だったからいいけど」

 アイカの言葉の後、アカリはアイカに聞く。

「殿堂入りとかどうよ? 優勝した人はもう出れないようにするの」

 優勝しても一回で終わり。そうなればアイも気兼ねなく参加をする事ができるだろうとアイカは言うのだ。

「問題なのはアイちゃんの気持ちでしょう? アリシアさんだって、アイちゃんの望むようにして欲しいはずだし」

 アイはアリシアの事を考えすぎなのだという。勝ちたいなら全力を出せばいいというだ。

「アッコスタビーレプリマになりたいならなればいいじゃない」

 アイはウンディーネの修行にはげんでいる熱心なウンディーネだ。その熱心なウンディーネが優勝をするなら、元々の趣旨に合っている

 

「アイちゃんはどう思う? 気兼ねなくダッファーレをやれる?」

 話の最後にアカリが言い出した。

「一番重要なのは私の気持ちですか」

 アリシアの事ばかりを考えていて、そんな事は全く考えなかったアイ。

 

 次の日、アイはアラリアの人形劇に出くわした。まだ始まって間もない状況のようで、人垣の後ろから、アイはアラリアの人形劇を見た。

 小さな女の子はおばあちゃんが大好きだった。

 毎日おばあちゃんにたのんでマリオネットで人形劇をしてもらっていたのだ。

 その子はおばあちゃんを友達の集まる公園に一緒に連れて行った事もある。

 おばあちゃんの人形劇はその友達にも盛況だったのだ。

 みんなを楽しませてくれるおばあちゃんはその子の誇りであったのだ。

 おばあちゃんは、皆のために新しい劇を考え続けてくれた。そのおばあちゃんの姿を見て、自分も人形劇をやりたくなったのだ。

 その子はおばあちゃんに頼んで、人形の動かし方に語り口調も覚えた

 楽しく覚えたその子は友達の前で拙い人形劇を披露したのだ。

 だが友達はつまらないという。おばあちゃんの劇の方が面白いというのだ。

それが悔しくて、何度も練習して上達をするようにがんばった。

 その子は人形劇にのめり込んでいったのだ。

 時が経ち、友達も十歳になり十二歳になる。

 みんなの興味は人形劇以外のものに進んでいった。その子自身も、人形劇をやめ、ウンディーネを目指すようになったのだ。

 ウンディーネになったその子はダッファーレをする事になる。

 その子は、倉庫の奥のマリオネットを引っ張り出し、人形劇をしようとしたのだ。

 だがその時祖母はすでに亡くなっていた。教わる相手がいないながらも、独学で人形劇を確立させていく。

 一人の力で勝つのではない、ダッファーレで勝つ事はおばあちゃんと自分の二人の勝利であると考えているのだ。

 ダッファーレですでに有名になっているあの子に負けないため、その子はおばあちゃんの人形で戦っているのである。

「これでこの話はおしまい」

 アラリアはそう言い、人形をお辞儀させた。

 

 あれはアラリアの過去だ。

 この劇は、アラリアからアイへの挑戦状である。

 アイの胸にはじん……とくるものがある。

 

 あれから、アイはアラリアをカフェに誘った。

「あれは負けられないよね」

 もう亡くなった祖母からもらったマリオネット。自分の負けはおばあちゃんも一緒に負けてしまう事になる。

 自分一人ではなく、もう一人の命も預かった。自分だけではなく誰かのために戦うというアラリアの強さになっていると感じた。

「あなたも負けられないでしょう?」

 アラリアはアイがダッファーレに打ち込む理由を知っているという。アリシアが作ったダッファーレはアイにとってかけがえのないものであろう。

「私も悔しかったよ。あの子にアッコスタビーレプリマを取られて」

 アニタがアッコスタビーレプリマになり、胸がギュッっと締め付けられる気分になったという。

「だから今度の勝負はあんな子が入ってくる余地のないすっごいものにしたいの」

 アイはそれで思った。

 アリシアに聞く必要などない。彼女はアイと競い合えるのが楽しみなのだ。

「二人でがんばろう? 私もトップを取るつもりで行くよ」

 アリノアの言葉でアイの迷いは晴れた。

 アラリアは自分が心配をするような相手ではなかったのだ。

 アラリアは人形を取り出した。マリオネットをアイの前で動かす。

「この人形で、私はアッコスタビーレプリマになるんだ」

 彼女が祖母からもらった人形は、必ず何かの力がある。それに負けるわけにはいかないと、アイは思ったのだ。

「はいお辞儀」

 アラリアと、アラリアの操る人形はそろって愛に向けてお辞儀をした。

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