ARIA新しい妖精たち   作:岩戸 勇太

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その……不審な人は

 合同練習中、アーニャが切り出してきた。

「昨日、不審な人間がホテルにやってきたの」

 昔のアリスみたいな目つきをしているとアイは思う。

 昔のアリスは、何かを見つけると「大事件です」などといって同じような表情をしていたのだ。

 アーニャはその表情のまま話し始めた。

 

「お部屋はこちらになります。お荷物はどこに置きましょうか」

 部屋の奥にまで入ってペコリと頭を下げると、入口に設置されていた帽子掛けに帽子をかけた。

「この机の隣でいいよ」

「かしこまりました」

 アーニャが持った荷物には、布でくるまれた長い棒が飛び出していた。

「お客様。こちらの長い物は、もし使わないならフロントでお預かりする事も出来ます」

「これは大事な商売道具だ。このままでいいよ」

 と。それだけの事であった。

 

「最近ホテルの人達が、何かイベントがあるといって集まっています。出席者様を暗殺するためにやってきた刺客に違いありません」

 アーニャの飛躍した推理に、アズサはあきれ顔をした。

「何? その反応。消される覚悟で話したのに、友達甲斐がないね」

「消されないって」

 アズサの言葉の後、合同練習の続きでゴンドラが進められた。

 

「仲間は頼りにならないね」

 アーニャは自分自身でその男の事を調べると決める。

 ホテルの仕事をしながらその男の事を探っても、特に怪しい行動はしなかった。だが、なんどか外出をしていく。

「外出中にいったい何を?」

 アーニャは外出中の行動にこそ、真理はあるのではないかと邪推した。

 

 アイは郵便配達中に、路上でバイオリンを弾いている者を見た。

「最近多いな」

 水路を通りながら、何人もの路上演奏を見る。ハープ、トランペット、クラリネット、フルート。様々だ。

 郵便屋では大事な人の誕生日が近く、誕生日会の演奏の練習を兼ねているという噂なのだ。

 ここまでの演奏家を集められるとはいったい何者なのだろうか?

 

「あの子達はパワーありすぎ……」

 ダッファーレの終わったアズサは言う。まだ、子供たちに引っ掻き回されているアピスが眼前にいて、迷惑そうにしていた。

 教室が終わった後も、子供たちに揉まれているのだ。

 それはいつもの光景。家の窓から外の景色を眺めるような気分にすらなるいつもの様子だった。

「アズサさんですね」

 そこに横から声をかけてくる男がいた。

「秘密のパーティにご招待したいのですが」

 その男はホテルマンの格好をしていた。

 自分がパーティに呼ばれるような事をした覚えはない。不思議に思っているアズサに招待状が渡された。

 場所はアーニャがダッファーレをしているホテル。

「アイカ様と、アキラ様も招待されていますよ」

 ホテルマンはそう言う。つまり、自分は彼女らのオマケという事らしいとアズサは思うが、そういうわけでもないらしい。

「今回の場合、あのお二方の方がオマケのようなものです」

 アズサは招待状の文面に目を通した。

 驚いた後に合点がいく。

 

 オレンジプラネットの中庭。

 アリツェがアテナと一緒に中庭のベンチに座っていた。

「アテナ。ポカやらかしてないでしょうね?」

「していませんよ」

 二人は、わいわいと昔話に花が咲いているようであった。

「他の皆さんはどうしているんですか?」

「みんな、観光がてらに路上演奏をしに行っているよ」

「アーニャちゃんは?」

 アリツェが聞く。

 そうすると、にんまりと笑ったアテナは、アリツェにこっそりと教える。

 

 アーニャはアリスと一緒に練習をしているところだった。

 オレンジプラネットの近くの水路でアーニャにゴンドラを漕がせているのだ。

「これに何の意味があるんですか?」

「ゴンドラを漕ぐのに理由が必要ですか?」

 アリスはそう言うが、同じところを往復させ続けているだけだ。練習には常に意味があるのだが、すでに漕ぎ慣れているアーニャにこんな練習をさせる意味は全く分からない。

「まったく……あなたは勘がいいのか悪いのか……」

 そう言った後、アリスは慌てて口を押えた。マズい事でも言ってしまったかのような様子だ。

「とにかくあなたは、この練習を三日間くらい続けなさい。みっちり行きますよ」

 アリスはそう言う。ダッファーレも合同練習もいけないというのだ。

「何でそんな事になるんですか?」

 アーニャも言う。

 この意味のない行動に、疑問も上がるというものだろう。

 

 練習も途中で休憩となる。

 アリスはどこかに連絡をかける。

「はい。はい。ぶつくさ言いながらも練習をしていますよ」

 電話の先の人間は、それで満足をしているようだ。

「では私はアーニャの練習に戻ります。ぬかりはありません。彼女の大好物ばかりを挟んだサンドイッチも用意してあります。怪しまれないようにしていますよ」

 何か、アーニャに隠し事があるらしい。三日間アーニャの事をここに釘付けにしておく事がアリスの役目というようだ。

 

「あんなものを銃と間違えるなんて、オレンジプラネットの血を引いているんだね」

「昔のアリスさんもあんな感じだったの?」

 合同練習中のアイとアズサはアーニャが不審に思っていたものの正体を知っている。あれが銃ではないとはだれでも分かるというものだ。

 今の二人はアリスの頼みで工芸店に向かっている。

 アリスからアーニャへのプレゼントのオルゴールを取りに行くのだ。

 

 後日、アーニャはダッファーレに向かった。

 ホテルの入口には『本日貸し切り』の札が下がっていた。

「話は聞いていないけど」

 アーニャの言葉の通り、貸し切りにするなんて話は誰からも聞いていなかった。

 アーニャはいつも通り、ホテルをグルリと回って裏口からホテルに入っていく。

 ドアを開けると、一斉にクラッカーが鳴らされた。

 クラッカーを鳴らした者の中にはアイもアズサもいる。なぜ二人がこの場にいるのか?

 そう考えるアーニャは次の言葉で理由に気づいた。

『お誕生日、おめでとー』

 そしてアリスが出てアーニャを導いた。

「三日間の特訓を、よく耐え抜きましたね」

 あの理不尽な特訓の事を言っているのだ。

 アリスに導かれるまま中に進んでいくと、数名の音楽家が並んでいるところに出る。

 その中には殺し屋と疑った男性もいたのだ。

「私はパーティの出演者を狙う殺し屋ではなくフルート奏者だよ」

 クスクスと笑いながら言うその男。

「それは失礼しました……」

 アーニャが言うと周囲がクスクスと笑った後にバースディソングが演奏された。

「みんなあなたのために集まったんですよ」

 

 アリスからのオルゴールが渡され、みんなからもプレゼントが渡された。

 アイとアズサの番になるとアイは押し花を渡した。

 赤、黄色、青のマリーゴールドだ。

「花言葉は友情だよ」

 アイの言葉に、アーニャは頷く。

「これで私達はずっと友達だよ」

 それから、アイとアズサはアーニャと一緒に写真を撮影する。

 

 アーニャは部屋に戻るとマリーゴールドを飾った。

「どんな小説にもこんな気の利いたプレゼントはないよ」

 友情の花言葉のあるマリーゴールド。その押し花の意味に、胸がほっこりとした。

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