真剣で魔王さまに恋しなさい!   作:優雅

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魔王、武神に目をつけられる

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュンと、雀の鳴き声が聞こえる中、一人の男が目を覚ます。

男は起き上がり、隣で寝ているもう一人の男を起こさないように注意を払いながら、台所で顔を洗い、直ぐさま料理を開始する。

冷蔵庫などという、便利な器具をもたないこの家では、料理するだけでも一苦労だ。だが、彼はそんなことを思わせないような手際の良さで、料理をし始める。

同じ職場に通う者からもらった食パンとペットボトルの紅茶。あらかじめ買っておいた少量の野菜で簡単なサラダを作る。また、インスタントのコーンスープをお湯を注いで作れば、立派な洋食の朝食が出来上がるのだった。

食事が出来上がり、彼はもう一人の男を起こすのだった。

 

「魔王さま、目を覚ましてください。朝ですよ!」

「ん~…芦屋、今の俺は真央だって何度言えばわかるんだよ…それに、昨日は遅くまで起きてたんだ。もっと寝かせてくれ…」

「ダメですよ、魔王さま。このままでは初日から遅刻ですよ?」

 

遅刻、という言葉を聞きガバッと勢いよく起き上がった。

 

「あ、芦屋ぁ!なんでもっと早く起こしてくれなかったんだ!」

 

起き上がった男、真央は今の今まで起こそうとしなかった芦屋に抗議しながらも、直ぐさまハンガーにかけてたった制服に着替え始める。

だが、芦屋は冷静に答える。

 

「魔王さま、冗談です。今からなら、食事をしてもゆっくりと登校できますよ」

「なっ…騙したのか、芦屋!」

「魔王さま…遅くまで勉学を学ぶのは良いですけど、朝はなかなか起きてくれないじゃないですか。さっ、朝食にしましょう」

 

真央の抗議にのらりくらりと躱す芦屋。

こんな一般的な朝を過ごすが、これでもこの二人は一週間前は、異世界エンテ・イスラを後一歩のところで侵略するところまでいった魔王とその四天王の一人であった。

ぶっちゃけ、一週間で馴染み過ぎである。

 

 

* * * * *

 

 

朝食を済まし、ゆっくりと通学路の川原の土手を歩く真央と真央から一歩引いた位置で歩く芦屋。そんな二人を周りの生徒は注目していた。

 

「なぁ、芦屋。なぜか知らんが、俺たちかなり見られてないか?」

「そうですね…普段よりも一層視線が多いですね、真央」

 

さすがに一般の人から見て、この平凡そうな青年を様付けするのは世間体的に問題があると判断した真央は、芦屋に様付けを禁止させたのだった。その際の芦屋の表情は、まさしく捨てられた子犬のような瞳で真央を見ているのであった。

さて、何故この二人がここまで注目されているのか?それは、芦屋に問題があった。

芦屋は六日前から、真央が通う川上学園に用務員として雇われていた。

働かないかと聞かれ、了承した次の日には知り合いの学園の用務員になれるのか、一般常識を学んだ二人には激しく疑問に思うのだが、あの大家が原因だろうと直ぐさま結論づけた。あの容姿で、あの威圧感。あれで、迫られたらyesかはい以外は答えられないだろう。

そして、芦屋の見た目はかなり優れたものであった。長身で整った顔立ち、イケメンとも言える容姿の芦屋が前置きもなく用務員になれば話題性が抜群である。また、芦屋は現人間であるが元は悪魔である。礼儀正しさの中には、あまり人と関わろうとしないようにしているクールさもあり、女生徒や女教師からは人気を、男子生徒と男教師からは嫉妬の視線を浴びせられている。

そんな芦屋が、従者のように見たこともない男子生徒の後ろを歩いていたら?

まさしく、視線が集中するであろう。

だが、そんなことを気づいていない二人はそのまま歩いて行った。

しばらく二人が歩いていると、土手から降りたところに一人の女性が多くのヤンキーとも言える人種に囲まれているのが見えた。一見、一人のか弱き女性徒にヤンキーがよって集っている図である。

真央はため息をつき、上着を脱ぎ始めた。

 

「ま、まさか、真央!あの女生徒を助ける気ですか!?」

「仕方ないだろ、見ちまったんだからよ。無視したら、悪いだろ?世間的に」

「で、ですが!」

「あの…大丈夫ですよ?」

 

さすがに、女生徒を見逃すわけにもいかず、助けようとする真央だが、芦屋に止められてしまう。

周りから見れば、ヤンキーを相手しようとする男子生徒を止めようとする用務員の図であるが、その真意は魔王が人間を助けようとするのを止めようとする悪魔大元帥の図であるのだった。

だが、そんな二人に大丈夫だと言う女生徒がいた。

セミロングの栗色の髪に同じく栗色の瞳。小柄だが、どこか自己主張する胸部。愛くるしい表情をする少女の服装は、真央と同じ川神学園の制服だった。

 

「えっと…君は?」

「あ、初めまして。私、佐々木千穂(ささきちほ)って言います。あなたは?」

「俺は、今日からこの学園に通う真央貞夫って言うんだ。こいつは、用務員の芦屋。それで、大丈夫ってどう言う意味?」

「えっと、あの人は川神百代(かわかみももよ)さんって言って、川神学園の2年生なんですけど、とっても強いんです」

 

とっても強いと言われても…そんな表情を浮かべながら、囲まれている女性徒、川神百代を見る真央と芦屋。いくら強いと言っても、さすがに女性徒が十人を超える男に囲まれたら限度があるだろ…なんて思っていた。

だが、次の瞬間、川神百代はヤンキーの一人を殴り飛ばしていた。

その光景を見て、唖然とする真央と芦屋。それもその筈だろう。未成年の女性が、拳一つで男を数十メートル殴り飛ばすのだから。

千穂は、自分も初めて見たときはこうだったと苦笑しているが、真央と芦屋は元悪魔な為か、身体能力は人間と比べると高い。そんな二人が、魔力を持たない女性が、以前戦った勇者と同レベルの速さで相手に8発も殴っていたのは驚愕どころでなはい。

 

「あ、芦屋…なんだあれは?」

「…わかりません。一体、どうすればあんな速さと威力を出せるのやら………」

「えっと、確か、気って言う力のおかげだそうですよ?私はよく知らないので、わかりませんけど…」

 

佐々木千穂と名乗った少女は、気という力のおかげだと言った。

それを聞いた真央と芦屋は一瞬で、アイコンタクトで会話をする。

 

(芦屋…気ってなんだ?)

(わかりませんが…この世界は、魔力の変わりに気という力が発展した可能性がありますね。調べる価値はあります)

(わかった)

 

一瞬でそんな事を意思疎通する二人。

しかも、すぐ傍にいる千穂に気づかれないといった隠密性にもすぐれていた。

だが、そんなことをしていた二人に対し、川神百代が殴り飛ばしてきた一人がこちらに飛んできた。

 

「うおっ!?」

「ぐえっ」

「キャッ!」

 

こちらに向かって飛んでくるヤンキー。

真央は、つい僅かな魔力を使いながらヤンキーを殴り返した。その際に、カエルがひかれたような声がしたのはご愛嬌。

哀れなヤンキーA。川神百代に殴り飛ばされたかと思いきや、今度は真央に殴り飛ばされ、止めと言わんばかりに再び川神百代に蹴られ川に蹴り飛ばされるのだった。

 

「あ~、びっくりした…」

「魔王さま!このような所でお力を…」

「おい」

 

不意に、真央たちの背後から話しかける声が聞こえた。

いきなりの事で警戒を深める真央たちなのだが、その声の主からは真央たちが今まで感じた中で、勇者とい戦った時と同じ闘気を感じ取っていた。それが、二人の警戒をさらに強めていた。

 

「お前、なんか面白い力使うな~。少し、私と戦わないか?」

 

声の主は、先ほどまでヤンキーをぶちのめしていた女性徒、川神百代だった。

 

「貴様…魔王さまに喧嘩を売るなど…身の程をわきまえろ」

「ほぅ?なら、お前が私の相手をするか?」

「いいだろう。はあぁぁぁぁぁぁぁ…ハァ!!!」

 

自身の主人に喧嘩を売ってきた百代に対し、芦屋は喧嘩腰で対応した。その結果、百代の相手を芦屋がすることになったのだった。

だが、芦屋はある事を忘れながら、掛け声とともに右手を天に向けるのだった。

 

「………それがどうした?」

(「おい、芦屋!お前、魔力が使えないこと忘れてるだろ!」)

(「す、すみません…魔王さま!魔王さまに喧嘩を売るなどという愚か者を見ると、つい…」)

 

あんな見るからに恥ずかしいポーズをとっても、何も起きない事に百代は呆れたような目つきで芦屋を見ていた。

そんな芦屋を見て、近くにいた千穂や周りの登校中の学生たちはクスリと笑っている。

だが、そんな中で一人だけ別の行動をとる者がいた。

 

「ぬぐぉぉぉぉっ……」

 

制服の下にパーカーを来ている男子生徒が悶えているのであった。

 

「魔王さま」

「いや、違うからな。芦屋」

 

魔力を使った(?)直後だった為、芦屋は自身の力が原因かと思い真央に意見を求める。

若干、期待のこもった視線を向ける芦屋に対し、真央はバッサリと切り捨てるのであった。

 

「一瞬で弟の古傷を抉るか…お前もなかなか面白いなぁ!」

「うわぁあ!?」

「真央さん!?」

 

どうやら、百代からはさっきの芦屋の行動が故意によるものだと判断されてしまったようだ。

百代はもう待てないと思わせる獰猛な笑みを向け、二人に襲いかかってくるのだった。

百代の素早い動きは、真央から見れば先日戦った勇者を思わせる速度だった。先日までの、魔王としての真央だったらこの速度についていけただろう。だが

 

(くそっ…やっぱ、人間って不便だ!以前にもまして、体が動かない!!)

 

今までの勘から、真央は間一髪で避けることができた。対象を失った拳は、そのまま地面に叩きつけられクレーターができると同時に、一面を覆うように砂煙が舞う。

そんな中、真央は焦っていた。

勘から、どこから、どのように狙ってくるかはわかる。だが、肝心の体が真央の反応について来ず、対応しきれないのだ。先ほどの一撃をよけれたのも、奇跡としかいいようがない。

 

「(このままじゃ、一方的に殺される…なら、撤退しかない!)芦屋!」

「魔王さま!?何を…」

「跳ぶぞ!掴まってろ!」

 

砂煙の中、真央は芦屋を手を掴み、少なくない魔力を使う。

瞬間、真央と芦屋は闇に飲み込まれるように消えていった。これは、真央が使う技の一つ空間転移だ。だが、空間転移に使う魔力は少なくない。真央の魔力から、よくてあと一回の空間転移が限度だろう。

砂煙がはれると、そこにはクレーターの中心で立ち尽くす百代だけがいるのであった。

 

「くくっ、この私がみすみす見逃すとはな…やはり、面白い男だ!」

 

今にでも高笑いでもしそうな雰囲気の百代。

それに対し、周囲のギャラリーは一体真央たちがどこに行ったのかと疑問に思っていた。中には、百代に殴り飛ばされた、と考える者もいた。

そんな中、千穂はというと。

 

「真央さんと芦屋さん…どこに行ったんだろ?学校に間に合えるのかな?」

 

などと、少し場違いなことを考えているのであった。

 

 

 

 

 

 

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