まあ、こういうこともあるよ、とそんな感じで
【被聴取者 軽巡洋艦 天龍型一番艦 天龍 練度63】
ああ、まあ。昔から変な奴だな、とは思ってたよ。なんて言うのかさ、ギラついたって奴?
────ギラついた?
そう、欲まみれって言い方してもいいかもな。絶対になんかやってやるぞ、って気合が入ってるというか。
そのくせに戦闘の時にはむしろ大人しいんだ。臆病って言った方が近いんじゃねえかな。
例えば俺達が出撃して、敵艦隊に出会ったときの話なんだけど、敵に戦艦が居ると見るや「すぐに逃げましょう」だの「せめて複縱陣にしましょう」だのうるせえんだ。だから俺はそん時「艦娘ならシャキッとしろ」って……
────そういうお話は別に要らないので続きを
なんだよこれからが面白いってのに。まあいいや。とにかくあいつは臆病者だった。だから提督も気に入ったんだろうな。
何にギラついてたのかって、つまりはそういうことなんだろうな。そりゃ、俺達にはそんな自由は無いけどよ。まさかそこまでするのか、って正直思ったね。
────仲間が沈んだというのに、随分淡白なことで
仕方が無いだろ。死んで死なれては俺達にとっちゃ日常茶飯事だ。今は多少珍しくなったって、昔からの記憶はそう簡単に無くなりゃしねえよ。アンタには分からないのかもしれないけどな。
だから悲しいって感覚も、無いわけじゃあ無いが、支障をきたすほどじゃねえな。フフ、怖いか?
────いえ、別に
なんだよ、ノリわりいな。とにかく、そういうこった。俺達はあいつが死んだこととは無関係に戦うんだ。分かるだろ?
*
【被聴取者 航空戦艦 扶桑型二番艦 山城 練度87】
よりにもよって私が選ばれるのね。不幸だわ。
────彼女が死んだことが?
それもあるけれど……あの子が死んだのは、貴方達にとっては分からないのかもしれないけれど、私達にとっては普通のことだもの。それが理解されないのは何よりも不幸だわ。
────なんとなく分かるような気はします。
どうかしらね?
あの子は、自分のやりたいことをやっただけよ。艦娘であれば誰もが一度は思い描く。だけど実行には移さない。そんな願いをあの子は叶えたのよ。むしろ尊敬するべきなのかもしれないわ。
────それが自殺のようなものだとしても?
分かってないわ、貴方。あの子は本懐を果たしたのよ。満足こそしても、悲しむことは何も無いわ。残された私達には思うところあってもね。
やっぱり不幸だわ。あの美しい死に様が理解されないなんて。もしかしたら、深海棲艦と戦って沈むよりもずっと高潔かもしれないのに。
*
【被聴取者 正規空母 翔鶴型二番艦 瑞鶴 練度80】
最低よ、あいつは。皆の前では、提督の前では言うべきでないけど。私はあいつを、あいつの死に方を絶対に許しはしない。
────高潔だと言う声もありますが?
本人は満足よ。これ以上ないくらい幸せでしょ。誰だって好きなことして死ねるなら選んでもおかしかないわ。だけどね、私は嫌、理解したくない。理解できるから、訳分かんないって言いたくなるのよ。
だけど、残された私達はどうなるの?
軍艦だから轟沈は当たり前よ。今日一緒に笑ってた相手が明日は首無しになってる。そんなのは見飽きたわ。慣れっこよ。
けど、あいつの場合は違うでしょ。同じに比べちゃならないでしょ。
私達は諦めだってつくわよ。艦娘だもの。私が言いたいのは、ここに居るのは軍艦だけじゃないってことよ。
────もしかして、提督?
そうよ!
提督は今を生きる人間よ。昔はともかく、この鎮守府では轟沈者を出したことが無い。幾ら臆病者って言われたって、提督は誇りに思ってた。私だってそうよ。だって逃げてるわけじゃないもの。引き際を見極めて、堅実に、絶対に損をしないような提督の采配は、私にとっても誇りだったわ。
だけどあいつはそれすら踏み躙った。ここのことなんて軒並み調べたんでしょ。だったら知ってる筈よ。あいつも気づかない筈がないのよ。分かっててやったのよあいつは!
────落ち着いてください
ごめんなさいね。少し感情的になったわ。
提督には話を聞いたの?
────いえ、まだですが
だったら、せめてあの人の傷を抉るようなことはしないで。誰よりも傷ついて、誰よりも治りが遅いのは絶対にあの人だから。
もし、アンタが提督を傷つけるようなことがあれば、私はアンタを殺す。
────肝に銘じておきましょう
*
【被聴取者 古賀友次提督 階級大佐 31歳】
俺だ。俺が秋月を殺したんだ。アンタだってそう思うんだろう?
俺がずっとあいつを苦しめていたんだって。俺が死に追いやったんだって。なあ!?
────原因は、貴官のせいではありません
ああ、アンタは優しいんだな。それとも瑞鶴辺りに釘でも刺されたか。あいつはいつも俺のことを見透かしたように。
────大切、なので
そうだよ! そんなことは分かってるよ!
俺一人がうじうじしていた所で秋月はもう帰ってこないし、他の皆にも迷惑をかけるだけだって。
でもよ、なんであいつは。なんで……
ほら、見てくれよ憲兵サン。これさ、ケッコン指輪だよ。秋月にさ、ちょっと前にしたばかりだったんだ。あいつは泣いて喜んでくれてさ。皆で間宮のアイスでお祝いして。これからもっと楽しくなると思ったのに。死ぬまで一緒だって思ったのに。
あんたに話したって何にもならないし、困るよな。分かってるよ。暇だって思ってんだろ。こんな軟弱者の弱音聞いてたって何も面白くないもんな。
優しい人だよ。俺がこんなことばっか言ってるのに、黙って聞いてくれているだけで、本当に。
う……うぅ……
────日を改めましょう
そうしてくれると助かる。いや、いつになったって変わらないかもしれないけどな。皆はどんな反応だった悲しんでたか?
あいつらのことだからケロッとしてたか?
────他人との記録は守秘義務があるので
そうか、そうだよな。悪い忘れてくれ。
ついでにそろそろ出てってくれ。一人になりたいんだ。
*
いけないことだとは分かっていました。自分がどうなるのかも、話に聞いただけですが、知っていました。何度も何度もしつこく、注意されたのですから、しっかりと頭には残っています。
注意が霞んでしまうほど、苦しいのです。卑しい人だと笑ってください。どうしても抑えきれないのです。
司令は悲しむのでしょう。薬指を見るとそう思いました。臆病者の私を愛してくださいました。とても幸せでした。あの涙は嬉し涙だったんです。本当です。提督に愛されることが、軍艦として功を褒められることより嬉しかったんです。一人の女性として見てくれたような気がしていました。
やめてしまおうか、誰かが言いました。誰も喜ばないと分かっていました。
だけど、私は駄目でした。軍艦として失格です。反逆行為です。天龍さんや山城さんは分かってくれるでしょうか。瑞鶴さんはきっと凄く怒って、それから悲しんでくれる筈です。
私は、自ら命を絶とうとしています。後悔はたくさんあります。これでいいのか、なんて問い掛ける声もあります。きっと私は間違っています。間違っていることが私は嬉しいのです。
こんなことをするのは私くらいしか居ないだろうと。昔なら分かりませんが、今は私くらいに馬鹿じゃないときっとできません。
さようなら、あなた。悲しまないでください。私はこんなにも安らかなのですから。
*
報告書を眺める少年が一人。白い軍服にゴールデンバットを咥え、ため息混じりに煙を吐く。
「ありふれた、事故であります」
そう、本当にありふれた悲劇だ。どこでだって起こり得る話で、実際に何度も同じような結末を見た。昔は本当に腐るほど。それでも、最近になってから減ったように思ったのに。
慣れるような事は無かった。むしろ、絆が深まるにつれ、苦しみは倍増していった。
「大馬鹿者であります」
少年は書類を机の上に投げ散らかした。
ランプに灯された一枚のページには、駆逐艦秋月の利発そうな顔と、その横に