エースの航海道中   作:3×41

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第1話 荒野をゆく一人と一頭

夜の荒野を一人の男が歩いていた。

背後に馬を引き、馬は背中にくくりつけられたロープから大きい荷物を引いていた。

男は背中に下げた荷物袋に手をつっこみ、地図を取り出す。

 

「たしかバルマって街がこの辺にあるはずなんだが」

 

街がみつからなければ野営を張ることになる。

だができれば街にたどりついて残り少ない水の補給もしておきたかった。

 

「ここから北にいけばオアシスがあるみたいだが、バルマの水の相場によるな。よそ者だからってふっかけられなきゃいいんだが」

 

しばらく歩いて荒野の丘からあたりを見回す。

すると前方の暗い夜の中に小さな赤い点がともっているのが見えた。

 

「あれがバルマか、…いや、あの光は違う。燃えてる」

 

街の光は街頭の灯りではなかった。赤い光の中に黒い筋が見える。あれは煙だ。バルマの街がところどころ焼けているのだ。

 

「こりゃ何か起こってるな。略奪か、それとも内乱か?おい馬!ちょっと走るぞ」

 

男は手綱を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

 

バルマの街の道の上に一人の男が倒れていた。

パチパチと家屋が燃える音が聞こえる。黒い煙のにおいが鼻についた。

男は腹部を押さえている。腹部が斬られ、血が流れ出していた。傷口が燃えるように傷む、そして足先は凍えるように冷えてきていた。

自分はもうすぐ息絶えるだろう。だがその前に誰かにこのことは伝えねば。

そのとき誰かがかけよってきた。

 

「おい、あんた。大丈夫か」

 

男の体が抱きかかえられる。

男が小さくうめいた

「う、ううう。あんたは・・・」

 

「俺はエース。ポートガス・D・エースだ。あんた、この傷は・・・」

 

エース、どこかで聞いたことがあるような気がする。しかし頭がぼんやりとして思い出せなかった。

エースと名乗る男は自分の傷口を確認したようだ。

 

エースが男につげる。

「あんた、なにかのぞみはあるかい?」

 

のぞみか、そういえば、のどが焼けるように熱い。1滴でもいい。水が飲みたい。水、水を・・

男がうめく

 

「み、水を・・・」

 

そのとき、誰かが声を張り上げたのが聞こえた。

「おいいぃぃぃ!兄ちゃん」

 

男がそちらのほうを向くと、三人の大男がエースに声をかけるのがわかった。

それぞれが片手に曲刀を持っている。

 

その中の一人の大男がエースに声をかける。

 

「ちょうど今バルマに来るとは、運がなかったな。ここは俺たちが略奪したあとさ。その男は」

 

大男が右手の曲刀を持ち上げる。曲刀は赤い血で輝いていた。

 

「俺がやったのさ。あんまり骨がないんでつまらなかったくらいさ」

 

男たちがゲラゲラ笑う。エースは背中越しに男たちの話を聞いていた。

 

「おい兄ちゃん、身包み全部おいてきな。急いで逃げりゃぁ見逃してやらんでもない」

 

エースが顔を横に向ける。

 

「そうかい。あんたらがこいつをやったのかい。じゃぁ」

 

大男たちが笑う。

「あっはっは、そうさ。多少は鍛えていたようだが、あいにく俺様は一騎当千よ。たあいもなかった」

 

エースが続ける。

「じゃぁ、自分たちがやられても文句はねぇよな」

 

にやつく三人の大男たちがぴたっと笑うのをやめる。曲刀を握る手に力を入れる。

 

「動くなよ、にいちゃん。動かなきゃ楽に殺してやるぜ」

 

背中ごしに横顔を見せるエースがにやりと笑い。抱きかかえていた男を地面におろした。

 

男がうめく。

「あぁ、やめろ、エース。逃げろ・・・」

 

「俺を殺す?そいつはお心遣い痛み入るね。しかしおれぁあんたらに殺されるつもりなんかないのさ」

 

三人の大男たちが飛びかかろうと足に力を入れた。

 

そのとき、背中を向けていたエースの背中が陽炎にゆらめき、次の瞬間グルンと大男たちのほうを向いた。

同時にエースの右腕が赤くゆらめいた。

 

その瞬間大男たちの腹部に異変、男たちの腹部にそれぞれ大砲玉をうちこまれたような衝撃がはしり、ついで高熱が腹をこがす。

 

「ぐぐぐ、ぐああぁぁ・・!!」

 

三人の男たちは吹き飛ばされ、背後の建物にそれぞれ高速でつっこんだ。

男たちがつっこんだ建物が爆発したように木片を飛ばす。

 

エースが男たちにつぶやいた。

「火力はおさえてある、しにゃぁしねぇよ。ただしばらくうごけねぇ」

 

エースは帽子のつばをグイっと持ち上げた。

そのエースの足元にグサっとナイフがささる。

 

エースがナイフが飛んできた先を見ると100メートルほど前方の屋根の上に一人の小男がいるのがわかった。

 

その男が右腕を振る。

 

次はさっきよりエースに近い地面にナイフが突き刺さった。

 

「へぇ、なかなかいい腕してる」

 

エースはつぶやいて。100Mさきの小男のほうを向く。

そして右腕を小男のほうにかかげ、一指し指を拳銃のように小男のほうに向ける。

 

小男が右腕をふりかぶる。

右腕をかかげたままエースがつぶやいた

 

「火銃。バン!」

 

エースの人差し指がかげろうにゆらめく。

小男がナイフを投擲する、そのナイフはエースの体の横50cmをかすめた。

 

そして100M先のその小男の腹部に何かが着弾、貫通する。小男はからだをよじり、屋根から地面についらくした。

 

 

 

あたりにはもう脅威になるような人間はいないようだった。

 

エースは地面によこたわる男に近寄った。

男に水袋をよせてやる。

 

「まだ生きてるか。ほら、水だ。いくらでも飲んでいいぞ。なに北のオアシスに数日でいける」

 

男は小さくうめいた。

 

「い、いや・・・いい・・・お、おれは・・・オリマ=クロムウェル。そ、その水で、南のラースに向かってく、くれ。盗賊の本隊、は、もうバルマを、出てる。南の、、ラースへ、、」

 

途中で男は言葉をとぎらせた。

 

「おい、おい!」

 

エースはしばらく声をかけて、男が死んでいるとわかると、右手で男の顔を覆い、目を閉じさせた。

 

「南のラースか・・・」

 

エースは燃える街の中でしばらくたたずんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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