まぶたを開くと そこに貴女が……   作:白犬

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『幸子さんとお姉さま」 後編

『お姉さまは今回、ファクトリーアドバンスの製品[フレームアームズ・ガール]を

お買い求めくださったんですよね?』

 

 お姉さまは無言のまま、生気に乏しい顔でうなずきました。

 

『それでしたら、なおのこと(轟雷)に付属されていたこの装甲パーツの組み立てをお勧めいたします』

「……そうこう?」

『はい、私にとってこれらはまさにレーゾンデートル(存在理由)……装甲や武装パーツを装着して、初めて私は真の意味で[フレームアームズ・ガール]と呼べる存在に

なれるんです』

 

 

 

「……ふぅん、じゃあその装甲パーツとかいうのを付けたら、幸子はもっと硬くなるの?」

『は?』

 

 

 

 まったく想定外の質問を投げかけられ、私は言葉に詰まってしまいました。

 でもここは、話をお姉さまに合わせておいた方がよさそうですね。

 

 

 

『え、ええ、そうです。装甲パーツを装着したら、メッチャ硬くなりますよ、私!』

「……じゃあ、やる」

 

 

 お姉さまは、心なしか嬉しそうな顔をしました。

 後ろに置かれていた箱に駆け寄ると、私が梱包されていたブリスターパックを持ち上げ、その下に納められていた数枚のランナーを取り出し差し出すと、お姉さまはランナーを手に取りながら小首をかしげて見ています。

 

「……この枠の先についてる、小さいヤツを取ればいいの?」

『はい、そうです! あっ、ちょっと待ってくださいね。え~と……』

 

 ランナーからパーツを切り出すという作業においてニッパーは必要不可欠の品。

 

 

 とくに日本刀の如き切れ材を誇るという、コ〇ブキヤニッパーがあれば申し分ありません。

 

 

 

 私はゴミだらけの部屋の中から目的の品を探そうと、周りを見回し始めましたが、

やはりというか、ニッパーの影も形も見あたりませんでした。

 

『ふぅ、仕方がありませんね。こうなったら爪切りで我慢するしかなさそう、ん?』

 

 そのとき、私の耳に異音が届きました。

 

 いぶかしげに顔を上げると、不揃いな黄ばんだ歯でパーツをくわえ、それを食いちぎっているお姉さまの姿が目に飛び込んできました。

 

 

「……ぷっ」

 

 

 不自然な力がかかったため、砲身の中程にクラック(ヒビ)が入り、折れ曲がった120ミリ滑空砲(パーツナンバー B⑱)が、乾いた音を立て私の足下に転がってきました。

 

 

「……ぷっ」

『…………』

「……ぷっ」

『…………』

「……ぷっ」

『…………』

 

 

 模型製作において、ランナーからパーツを『手でもぐ』というのは初心者にありがち

なことだというのは、事前にインストールされた知識で知ってはいました。

 

 

 

 でも、まさか『口でパーツを食いちぎる』人がいるなんて……お姉さまは、完全に

私の予想の斜め上をいっています。

 

 

 

「……次はどうするの?」

 

 自己主張激しいゲート残りやクラックの入ったパーツははまだ良しとして、歯形の

痕も生々しく一部欠損した総数85点にもおよぶ武装パーツに囲まれ呆然としていた私は、お姉さまの辛気くさい声で我に返りました。

 

『え~とですね、では、次にこのパーツを取り扱い説明書に書いてある順序で組み

立てていただければと……』

 

 お姉さまは、差し出された取説を手に取ると、黙って目を通し始めましたが、すぐに全身がわなわなと震え始めました。

 

「……ひぃいいいいいいいいいっ!!」

 

 ひきつけでも起こしたようにヒステリックに叫ぶと、お姉さまは手にした私の取り扱い説明書を破り始めました。

 

『あの、お姉さま、どうなさっ……ひゃあっ!?』

 

 振り仰ぐと、上から堅く握りしめられた拳がこっちに向かって真っ逆さまに落ちて

くるじゃありませんか!

 

 

 

 

 脚部履帯起動、緊急回避ッ! って、まだパーツ組み立てていませんでしたね……。

 

 

 

 コンマ数秒の間に自分の考えにツッコみを入れながら、私はとっさにその場から

飛びすさりました。

 間一髪、私の立っていた場所に、骨に皮を張っただけのような拳がめり込みました。

 

 

 舞い上がる埃、飛び散るコンビニの空弁当……かじりかけのたくあんやアジフライ

の尾に紛れて、パーツ状態の私の武装が部屋中に四散しました。

 

 

 唖然としながらその光景を見ていた私は、うなり声を耳にして慌てて振り返りました。

 そこには、まるで地獄のすべての責めを一身に受けている亡者の如き形相で、お姉さまが顔中の筋肉を痙攣させていました。

 

 

「……めんどくせぇ」

『そ、その通りです! こんなモン、ちまちまと組み立ててなんていられません! 

いやホント、こんな作業まじでウゼェですよね? 最初から「完成品を同梱しろっ!」

ってメーカーに説教したい気分ですよ!!』

 

 

 

 

「こいつwww日和ってんじゃねぇよwwww」と思っているそこの貴方! 笑いたければ

笑ってください!

 

 

 

 でも、ここで否定の言葉など口にしようものなら、こんどこそあの拳は私の上に降り

おろされる……私も自分の保身に必死なんです、耐用年数(寿命)をまっとうしたいんですッ!

 

 

 

 それに、ゴミの集積場のようなこの部屋の中に飛び散ったパーツを探すなんて、広大

な砂丘から一粒の砂を探すようなもの……すべてのパーツを探し出すのは、絶望的でしょう。

 まあそれ以前に、パーツの幾つかは、ネズミさんが餌と間違えてくわえていってしまいましたしね……。

 

 

 

 うふふ、グッバイ! 私のレーゾンデートル(パーツたち)

 

 

 

 これからはもう、私はアーキテクトのバリエーション(色違い)として生きていくしかないのでしょうか? 

 

 

 

 悲観に暮れていた私を、骨ばった手が優しくすくい上げてくれました。

 

「……気を落とさないで」

『お姉…さま?』

「……たとえ武器がなくても、幸子は幸子だから」

 

 お姉さまはそうつぶやくと、そっと私に頬を寄せてきました。

 

 

 

 ああ、お姉さま。慰めてくださるのはとても嬉しいです。でも、頬ずりはマジ

勘弁してください……。

 

 

 

 

 でも、少し変わった方ですが、お姉さまは私のことをほんとうに気にかけてくださります。

 私は自分で思っているより、幸せなフレームアームズ・ガールなのかもしれ……ん?

 

 

 

 今までお姉さまに気を取られしたが、私は天井から糸で縛られた小さな影がいくつも

ぶら下がっているのに気づきました。

 

 

 カメラアイをズームさせると、それはおびただしい数のフィギュアやドールでした。

 

 

 逆さにぶらさっているモノはまだマシな方で、大半は手足の一部をもぎとられ、ヒドいのは四肢を失いタコ糸で髪の毛しばられ吊り下げられています。

 

 

『あは、あはははははは』

 

 

 お姉さまが私を購入した理由を理解した瞬間、乾いた笑いを発しながら私の意識は少しずつ薄れていきました。

 

 

 

 

 次に私が目を覚ましたとき……まぶたを開くと、そこにはお姉さまが立っているので

しょうか? 

 

 

 

 それとも……

 

 

 




え~、「まぶたを開けば そこに貴女が……」前後編、お読みいただきありがとうございました。

今回の短編はアニメ「フレームアームズ・ガール」第1話を見ていて、後先考えずに突発的に書き上げたものでした。

そのためか、かなり後味の悪いラストになっていますが、私の頭の中では物語はまだ進んでおり「轟雷(幸子)」も健在で、幸せとはいいがたですが、お姉さまとそれなりの生活を送っています(笑)。

本作はとりあえずこれで終わりですが、この先、「フレームアームズ・ガール」+「フレームアームズ」の二次創作なんぞも書きたいな~と考えている次第です。

そのときは、時間が空いた時にでも読んで頂ければ幸いです。

では!

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