Angel Beats!~ちょ、俺まだ死んでないんだけどオオオオオオオオ!!~   作:日暮れ

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更新遅れてすみません!
その代わりと言ってはアレなんですけど、今回はかなり多めになっています。

やっときました十二話です!


第十二訓

 ――雨は嫌いだ。

 

 こんな世界でも天気は変わる。雪はまだ体験してないが……雨は降る。

 

 ――俺はこの世界の雨が嫌いだ。

 

 何でかなんてわからない。わからないが……この世界は、俺たちに何か不幸なことがあった時にだけ雨を降らせる。

 

 ザアザアと、打ち付けるように。

 

★―学習棟A棟 屋上―

 

竹山「クライスト……クライストって……ぐずっ」

 

大山「あああ初めての告白は本当に好きな人がよかったなぁ……」

 

高松「キヤセ心理教……悪くないですね」

 

ゆり「えぅえっと私はやっぱり一緒に住んだほうがいいと思うんだけど……あ! ここ寮生活じゃない! いやでもそれくらいの障害乗り越えてこその恋愛だと私は」

 

 このオペレーション……難易度が高すぎたのか、屋上でみんなが自分の思っていることをさらけ出す。

 

 誰が聞いてるわけでもないのに、こんな綺麗な晴れの日は俺らの心を軽くする。

 

 青い空に少しの浮雲。晴天といったわけではないが、適度に雲が漂う一番心地いい日和なんじゃないか。

 

「ふあぁ……あ」

 

 思わずあくびがこぼれる。こんないい天気に屋上で仰向けになってたらあくびも出てくるか。

 

 青い空に白い雲。白い――

 

銀時「…………」

 

「……ちじれ毛?」

 

銀時「誰の頭が白髪のチ○毛だコノヤロー!」

 

「うわ!! ……何だよ銀さんか」

 

 いつの間にか銀さんがおれの目の前に立っていた。

 

 ついにこの世界にも未知のモンスターが出現し始めたかと思ったのに……

 

「大丈夫か?」

 

銀時「大丈夫? 今大丈夫って聞いたこのアホ?」

 

 そう言った銀さんの白衣は一部破れ、なんとなくほこり臭いし顔には少しアザがある。

 

 うん。全然大丈夫じゃないなコレ。

 

銀時「くっそ、あいつらホントにゾンビかよ……いや違いないか。不死身だし」

 

「自業自得だろ。ってかそれよりゆりっぺ何とかしろよ! さっきからずっとこんなんだぞ!? おかげで話がまとまらねぇ……」

 

 俺は天に向かって必死にラヴコールを贈ってるゆりっぺを指差し、銀さんにそう言った。 

 

銀時「へーへー俺のせいですよ……仲村ー」

 

ゆり「へ、え、ふぇ!? アレ? 先生……先生はおかしいか何かしっくりこない……銀さん? 銀ちゃん……坂田くん……?」

 

 下を向いてあたふたしながら必死に上目づかいで銀さんを見ている。 

 

 ダメだゆりっぺが完全乙女モードになっちゃってるよ。こんなゆりっぺに最初に会いたかった……

 

銀時「いや知らねぇよどうとでも呼べそんなことは置いといてだ仲村。あの告白な――」 

 

ゆり「え!? な、何!? 私一応家事できるししっかりしてるから専業主婦には」

 

銀時「アレ嘘」

 

ゆり「――――――――」

 

 うおおゆりっぺが固まった!

 

 必死に『いい奥さんになります』アピールをしている状態で停止しちまった!!

 

銀時「……おーい? 仲村?」

 

ゆり「…………………………………………ふふへ」

 

 ゆりっぺが不敵に笑い出す。あー……コレやばい時のゆりっぺだ。心なしか天気も曇ってきた気がする。

 

ゆり「うううへへへへへふへうふふへへへはは」

 

銀時「え、ちょ中村どしたの? どこぞの追い詰められた新世界の神みたいになってっぞ」 

 

 既に狂気の塊と化したゆりっぺはおもむろにスカートのポケットから何かを取り出す。

 

ゆり「ふふふふふへへへ♪ あっれ~? 何かなぁこのボタン? 押してみよっかなぁ♪」

 

 手元には――確か、俺が天井を突き抜けフライアウェイしたときにゆりっぺが持っていたボタンがあった。

 

 おそらく銀さんも思い出したのだろう。それを見た途端一気に顔が青くなる。

 

銀時「いやオイ待て仲村落ち着け推進エンジンなんて一体どこに仕掛けられてるんだそんなもん押したら」

 

ゆり「ポチッとな!」

 

銀時「押したらどうなるかかかあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

日向「銀さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 ゆりっぺがボタンを押した瞬間に、銀さんのスリッパから煙が出てずっと遠くの運動場の中心に墜落してしまった……

 

 ……何かグシャって聞こえたのは気のせいだろう。そうだろう。

 

ゆり「もしもの時のために彼のスリッパを超小型推進エンジン付きに改造してあったのよ。どうだったかしらね? ちょっとしたスカイダイバー気分は♪」

 

「おぉ元に戻ったってかよくそんなもん作れたな……」

 

 元に戻った(?)ゆりっぺの異常な残虐性にうんざりしつつ、ここにいない銀さんのかわりにツッコミを入れる。

 

 乙女心を傷つけられたとはいえこれは少しやりすぎじゃ…… 

 

ゆり「じゃ、午後の作戦会議といきましょうか。野郎ども集合!!」

 

 その屋上に響く声で、俺たち男連中四人はゆりっぺの周りに集まる。 

 

 まるで何事もなかったかのように俺たちをまとめてみせる。流石はリーダーだな……

 

日向「なぁゆりっぺ、こんなこといつまで続けんだ? こっちは飛ばされて天井に激突して大変なんだぜ?」

 

ゆり「テスト期間中ずっとよ。何か文句ある?」

 

日向「ありません」

 

 ゆりっぺは笑って答えたが、確かに放たれる謎の覇気みたいのに気圧される。ゆりっぺのやつ銀さんの一件のせいで余計にやさぐれてないか!? 笑顔なのに笑ってないってどういうことだ!!

 

日向「だ、だけど明日はメンバー変えたりとかしないのか!?」

 

ゆり「松下くんとかTKって重そうだもん」

 

日向「飛ばすの前提かよってか松下五段はともかくTKは重くないだろ!!」

 

ゆり「知らないわよそんなこと」

 

 ぶっきらぼうにそう答える。

 

 もはや暴君だ……いや今までも似たようなもんだったけど。

 

 まわりのみんなが希望をなくしたような呟きをもらす。

 

大山「明日は出番あるかなぁ……」

 

高松「……今度は豊胸パッドでも持って行くか」

 

 ……あれ? 希望をなくしたってか俺以外結構乗り気じゃね?

 

 

 ――そうしてオペレーションはほぼ完璧にこなされていった――

 

★―教員棟一階 職員室― 数日後

 

 ……テストから数日。生徒たちが落ち着きを取り戻した頃に、俺が所属している戦線にとってはこれ以上ない出来事が起きた。だいたい予想は出来たが……

 

立華「………………」

 

 職員室にいる先生方はみんな一言も発せず、ただ一人の生徒を囲み、怒りのこもった視線を送る。

 

 その視線の先にいるのは、当然のごとく立華だ。

 

 ――『数日前のテストで、生徒会長である立華奏は全教科0点……しかもその全てが教師を小ばかにしたような回答であった。このことについて既に生徒間でも噂が絶えない。これは生徒会の信用に大きくかかわってき、早急に対処が必要である。成績云々はまず置いておいて、このようなことをする者を生徒会長という立場に置かせてよいものか話し合いが必要である』とのことだった。ったく、こちとら数日前の運動場落下で粉砕した首と背骨が痛むってのに……

 

 音はしない。一人ひとりの息遣いや椅子のきしむ音が聞きたくもないのに耳に届いてくる。 

 

『……確認だ。立華……お前は何故このようなことをした?』

 

 一人の教師が立華に質問する。

 

立華「…………………………」

 

 答えなんか返ってくるわけないだろう。俺らがしたことだ。こいつはただの被害者なんだから。

 

『お前は生徒会長だろう? できるなら生徒の鑑になるように心がけて欲しいものだが』

 

立華「…………………………」

 

『……何とか言ったらどうだ!?』

 

 一人の教師が机を怒りに任せ叩きつける。いつもならなんてことない乱雑なだけの音が今は妙に心に響く。

 

立華「っ! ………………」 

 

 その音に驚いたのか立華は少し震えていた。それを押さえるように自分の制服の裾をぐっと掴む。

 

『……坂田先生、試験官をしていて不審な点とかは見当たりませんでしたか?』

 

 いかにも体育教師っていうようなガタイのいいジャージ姿の奴が一つ溜息をもらし、俺のところを見、質問をする。さて、どう答えたものか……

 

 本当のことを言うわけにもいかんしそれ以前にあれだけ派手に騒ぎ立てたんだ。『何もなかった』と言うのは簡単だが、信用されんかもしれんな……

 

 そんなことを考えてる最中、立華が俺に視線を向けるのに気づく。その視線にはほんの少しの希望に似た色が混じっていた。俺が助けるとでも思ってるのか?

 

「………………何も、ありませんでしたよ? 数人の生徒がやけにやかましかったのを除けばっすけど」

 

『ふぅむ……』

 

 その答えに納得したのか、教師は俺の顔から目をそらし再び立華へ向ける。

 

 これでいい。これで立華の無実を証明するのは不可能になったんだ。これで……

 

『……残念だよ立華くん、君はもう少しまともな生徒だと思っていたのに。少なくとも……あの仲村ゆりよりは』

 

 立華は一切弁解しない。当たり前っちゃあ当たり前だな、弁解のしようがない。

 

 全教科の全問不正解……しかもまともに書いているのは自分の名前だけ。どう弁解しろってんだ?

 

 そんな状態じゃ何言ってもまず信用されない。いくらだって嘘はつけるからだ。誰も立華の肩を持つヤツがいないからだ。

 

『……直井くん』

 

直井「はい」

 

 ふと、一人の教師が名前を呼ぶ。すると一人の生徒が立華と先生の前に出てきた。

 

 頭には学生帽を身に着けており、制服を誰よりも整えて……まさしく優等生、といった感じだ。 

 

 ……いつか会った生徒会副会長様か。一体何の用だ?

 

『……生徒会担当の吉田です。私は、このような事態を引き起こした立華奏を速やかに解任。生徒会長代理……場合によってはそのまま生徒会長をここにいる現生徒会副会長の直井文人くんに任せたいと思います。どうですか?』

 

 その意見にほとんどの教師が賛成の声をあげた。立華の顔はますます曇っていく。

 

『では……よろしいですね。立華奏さん、あなたは今日限りを以て生徒会長を――』

 

 これでいい。これでいいんだ……なのに――

 

「ちょっと待てよ」

 

 なんで声なんかあげちまうかな、俺。

 

 

『……なんですか、坂田先生。さっき問題がないとおっしゃったのはあなたですよ?』

 

 俺は気がついたら立華の生徒会長解任を阻止しようとしていた。生徒会長を辞めることは俺にとっても戦線にとっても都合のいいことなのに――

 

 ――どうにも、ただの冤罪で生徒会長辞められるのは気に入らねぇらしい。 

 

 他の教師からは溜息や舌打ちが漏れ出す。これ以上この話に時間を割きたくねぇのな……当然か、俺だってそうだもん。

 

「確かに、見てる限りじゃ不正行為とかは見当たらなかった……が、コレ」

 

『それは…………ッ!?』 

 

 俺は懐から数枚の紙を取り出した。それを見て教師どもの顔色が変わる。

 

 そう、これは――

 

「――テスト後すぐに、ある生徒の机から出てきた答案用紙だ。どういうわけか名前の欄に()()()と書いてある」

 

 ――立華の、本当の答案用紙。

 

「俺が自己判断で採点したところ、テスト平均96点っつー超優秀な数字が出てきましたけど?」

 

 まぁそこらへんの一般生徒に採点させたんだが。

 

『どういうことだ!?』

 

『答案のすり替え……?』

 

『立華は冤罪だったのか?』

 

 この職員室でさまざまな意見が飛び交う。この答案を見せることにより、さっきとは空気ががらりと変わった。

 

『あ、あんたが立華を信用しないから!』

 

『あなただってドヤ顔で立華さんに説教してたでしょ!!』

 

『俺は何も言ってないからな!!』

 

『おいアンタそれでも教師かよ!!!!』

 

 さっきまでの怒りに満ちた雰囲気ではない。教師全員で冤罪の生徒を責め立て追い込み、あまつさえ必死に励んでいた生徒会を辞めさせようとしたことをどうにかしようと焦る空気。先生のメンツが丸つぶれで責任を誰かに押し付けようと目を真っ赤にしてる空気だ。

 

『でも! テスト中それに気付けなかった坂田先生はどうなんですか!?』

 

 大人の汚ぇ責任のなすりつけ合いが俺にも飛び火してきた。上等だよ、テメーらには言いたいことが山ほどできた。

 

「それよりも……テメーら責任のなすりつけ合いばっかしやがってよ、立華に謝ろうってヤツは一人もいないのか? 俺から言わせればテメーらみんな教師の風上にも置けないクズ野郎だよ」

 

『『『……ッッ!!!!!』』』

 

 俺の一言で教師どもの仮面が剥がれ落ちた。もはや教師の顔ではない、ただの泥にまみれた馬糞みたいなツラだ。

 

『コノ……言わせておけば!!!!!!』

 

 一人の教師が俺に掴みかかる。が、それを止めようとする者は一人もいない……行動に出さないだけで、みんな俺のツラぁ殴りたくてウズウズしてるからな。

 

 教師が腕を大きく振り上げ、拳が顔に迫ってくる――

  

直井「待ってください」

 

 拳が目の前に来て俺がそろそろ()()()()しようとしたときに、生徒会副会長が教師の腕を掴み制止させた。

 

直井「ここで殴ってしまって、その上誰も止めようとしなかったなんてことになったら……本当に教師失格になってしまいますよ?」

 

 その一言に教師どもが固まってしまう。自分らのしてたことがいささか教職と離れすぎてたことに今更気づいたようだ。

 

 俺を掴んできた教師が手を放す。やっとこいつらも冷静になってきたらしい。

 

直井「さて……落ち着いたところでその生徒会長の答案の件ですが――」

 

 直井が俺に話しかけてくる。何をしようってんだよ今更。

 

直井「――本当に本物ですか?」

 

「は?」

 

 直井の言った言葉は俺の体を硬くする。しかしそれとは逆に教師の目に光を宿らせた。

 

 そういうことかよ……セコいマネしやがって!

 

直井「その答案が本物なら立華奏さんの冤罪が証明され、今まで通り生徒会業務に励めます……しかし、あくまでそれはあなたが今懐から出してきたもの。偽装なんていくらでもできます」

 

「だから……これはテスト後すぐにあの教室の机から出てきたもので」

 

直井「ではすり替えが行われたと仮定します。すると十中八九その机に座っていた生徒がすり替えを行った犯人です、その生徒の名前を教えてください。」

 

 …………ッ!!!!

 

直井「…………言えないんですか?」

 

 直井が意地悪くほくそ笑む。

 

 その席に座っていたのは……戦線メンバー、竹山。俺がこのことを言えば、今回のオペレーションのことが割れる――  

 

 コイツ……このオペレーションのこと知ってやがった……!!

 

『では、すり替えは実行されなかった!! つまり今までの問答は全くの無駄、ということですね坂田センセイ?』

 

 教師がさっきとは打って変わった態度を見せる。

 

 簡単なことだ。立華が冤罪でこっちが危なくなるのなら、それをもみ消して立華には堕ちてもらえばいい……

 

「コノヤロー……!!」

 

『では、立華……』

 

立華「……………………」

 

 

『今日を以て生徒会長を――解任する』

 

★―教員棟一階 職員室前廊下―

 

立華「……ありがとう」

 

 結果立華は生徒会長を辞任……という形で解任された。

 

 俺は立華を護れなかった。

 

 それでもこいつは俺に礼を言う。俺は何もできなかったのに。

 

「すまねぇな……庇えなくて」

 

立華「……それでも、ありがとう」

 

 ………………………………

 

「大丈夫か?」

 

 心当たりのないことで0点取って怒られて、挙句ずっと頑張ってきた生徒会を辞めさせられたんだ。

 

 今のこいつのショックは大きいだろう。

 

立華「別に……平気」

 

 そう言って、立華は歩いて行ってしまったが……

 

立華「……………………」

 

「いった! ちょ、気を付けてよ」

 

 どこが平気なんだあのガキ。ふらっふらじゃねぇか言ったそばから人にぶつかってるし、生まれたての小鹿かってぐらい足震えてるし。

 

 ……ん。よく見たらぶつかられたヤツ……あの紫の髪……

 

「……お前かよ、仲村」

 

 立華にぶつかった生徒は仲村だった。

 

 天使の一大事に偶然ここを通りかかった、というわけでもないだろう。

 

「職員会議を盗み聞きたぁ、結構いい趣味してんな」

 

仲村「でしょ? 褒めても何も出ないわよ」

 

 詫びれるようすなんて全くない。そもそもそんな気持ちがあったのならこんなオペレーションなんて元々やってなかったろう。

 

仲村「……あなた、何であんなことをしたの?」

 

 仲村は壁に背を預けながら俺に質問する。『あんなこと』とはおそらく、俺が立華を庇ったことだろう。

 

仲村「受け取り方によっては、あなたのアレは戦線への裏切りに相当するのよ? わかってるの?」

 

 仲村は咎めているんだ、俺が立華を庇ったことを。

 

 もし俺が庇って、あの教師どもが立華の生徒会長解任を取り消しでもしたら、戦線が今まで目的にしていた『打倒生徒会長・立華奏』への大きなチャンスを潰すことになっていた。

 

 んなこと俺にだってわかってる。だけど、

 

「あいにくと俺はそんなに器用にできてないらしいぜ?」

 

仲村「………………」

 

「本当はお前もわかってるんだろ? こんなことに意味なんて無いことくらい」

 

仲村「………………」

 

「天使は――()()だ」

 

 ……その言葉に仲村は少しだけ驚きの表情を見せる。

 

 やはりこいつもわかっていた。だけど認めたくなかった。

 

 今まで必死こいて追ってきていた神への糸口がニセモノだったなんて。

 

 今まで自分たちがしてきたことが全くの無駄だったなんて。

 

仲村「……今夜、オペレーショントルネードを決行するわ。あなたも参加しなさい」

 

 それでも仲村は前へ進もうとする。この暗闇の中を、先に何もないと知った上で、まだ戦おうとする。

 

「へいへい……」

 

仲村「それじゃ」

 

 仲村はそれだけ言うと俺に背を向け、どこかへと歩いて行ってしまった。

 

「さってと……どーすっかなぁ……」

 

 廊下にはどういうわけか一人の人もいない。さっきの職員室よりも静かだ。

 

 足音が響く。ギシギシと遠くまで。

 

 そんな中不自然な音が一つこだます。グシャっという……まるで――硬い壁と骨がぶつかり合い砕けてしまったような音が。

 

「クソ………………っ!」 

 

 拳から血が垂れる。その音と拳の血の理由は、今までもこれからも……俺だけが知ってればいいことだ。

 

 

「うぅう……緊張する……」

 

 今日は私の初ライヴ、岩沢さんが抜けた穴を私が塞がないと……!!

 

 照明が落ちて暗い中、一般生徒の顔が目に入る。

 

 たくさんたくさんたくさん――

 

「うぁあ私もうダメです!!!」

 

 やばいもう逃げだしたいお菓子食べたい!!

 

 思わず後ろを向いてしまう。

 

ひさ子「おいユイ」

 

「ふぇっ、な、何ですか?」

 

 ひさ子さんがこんな状態の私に声をかけてくれた。

 

ひさ子「お前がそんなんじゃ、私が岩沢に会わせる顔がないじゃないか」

 

 私の肩に手をかけ、ひさ子さんはそう言った。

 

 そうだ、今から演奏する曲って……

 

 

 ――その曲、岩沢が残していった最後の曲なんだ――

 

 ――えぇ!? そんな曲に私が歌詞付けてよかったんですか!?――

 

 ――そうだな……この新曲と、第二期ガルデモにみんなが反応してくれるかどうか……それ次第だな――

 

 

 ……そうだ、この曲は岩沢さんが私たちに残してくれた最後の曲。

 

 私がこんなんじゃ岩沢さんにまで恥をかかせることになる!

 

ひさ子「少しの失敗くらいあたしらがカバーする。だから楽しめユイ!」

 

関根「そーだよ! 人生楽しんだもんがちなんだからねー」

 

入江「私たちもう死んでるけどね……頑張って、ユイ!」 

 

 ひさ子さんや先輩たちはこんな時になってまで私の心配をしてくれた。

 

「……ありがとう、ございます!」

 

 照明が上がり、私たちの姿が一般生徒の前に出る。

 

『おい、始まるみたいだぞ!!』

 

『何だよあのピンク頭、岩沢はどーした!』

 

『まさかメンバー交代……?』

 

 やっぱり岩沢さんのファンの人はショックを受けてるみたいだ。

 

 だけど何とでも言えばいい。

 

 私は私のするべきことをするだけだから!!

 

『この曲は――』

 

 

 Thousand Enemies――!

 

「不機嫌そうな君と過ごして、わかったことがひとつあるよ――」

 

「そんなふりして戦うことに必死――」

 

 

 

 

『――おお』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

★―学園大食堂 内部―

 

 俺たちはオペレーションのために大食堂の入り口付近に立っていた。

 

 食堂からあのピンクいのの歌声と一般生徒の歓声が聞こえてくる。あいつらのライヴが始まったみたいだ。

 

 俺らの仕事は前と同様、邪魔するヤツ――まぁ主に立華らしいが、そいつを迎撃すること。

 

 しっかし……

 

「……暇だよー家に帰りたいよイチゴ牛乳にあんこぶちこんで浴びるように飲みたいよー」

 

日向「どこまでも無気力だなってかそのカオスの塊のようなスイーツは何だ!?」

 

 日向が俺にツッこんでくる。中々のツッコミだが……

 

 それができるってことは逆にそれだけ暇ってこったろ。

 

「つかこれもう立華こねーぜ? 今からでも間に合う俺らもあの光るヤツ持ってライヴ見に行こうよ」

 

日向「そんなもの流石の一般生徒も持ってねぇよ! あの会長代理の直井文人サマが来るかもしれねぇじゃんか」

 

「…………そうかその手があったな、よし! みんなであいつの所に迎撃という名の殺戮を」

 

日向「ちょっと待てぇぇ!! そりゃ言ったのは俺だが会長代理はNPCだ! 傷つけたらダメだろ!」

 

「……ちっ」

 

日向「本気でやる気だったのか……ん、あぁ!?」

 

 日向が突然すっとんきょうな声を上げる。ライフルのスコープを除いた途端にだ。

 

「何だ? あの子のスカートの中でも見えたのか」

 

日向「どこのマサラタウンの話だってちげぇよ!! 天使だ! 天使が来た!」

 

 日向は、天使が来たと。そう言った。

 

 ……来たのか? あの状態で? 

 

「ちょ、貸せ」

 

 俺は日向からライフルをぶんどり立華がいると言っていた所を見る。

 

 いた。確かに、立華だ。だが…………

 

立華『……っ………………たっ』

 

 立華は歩けば歩くほどに花壇やゴミ箱、そこらじゅうにあるものにぶつかっていた。 

 

 …………昼の生まれたての小鹿が治ってねぇ……

 

日向「ガードスキル発動前に――」

 

「あー日向? 大丈夫だ、あれ」

 

日向「あ!? 何で!?」

 

 俺は日向にライフルを返し立華を見るように促す。

 

 すると日向の顔が面白いほどに変わっていった。あんな立華の姿は見たことがないのだろう。 

 

日向「……何だありゃ」

   

「昼、生徒会長辞めさせられた時もあんなんだった。がっつり引きずってるよアレ」

 

日向「あー……」

 

★―学園大食堂 内部―

 

 私は遊佐さんと一緒にライヴの監視をしていた。

 

 万一一般生徒が何か妨害をしたり、天使が侵入してきたら厄介だからだ。

 

高松「――ゆ――さん!! り――!!」

 

 そんな時、上で監視をしていた高松くんが何かを訴えてきているのに気づく。

 

 こんな大騒ぎじゃ何言ってるかわかんないわよ!!

 

 高松くんもそれを悟ったのか、大きな身振りでどこかを必死に指差しだした。

 

 その方向に目を向ける――と、

 

(――天使……!? 何で、外は何してるのよ!!)

 

 天使が食堂に侵入していた。一大事だ、すぐに手を打たないと――

 

天使「……………………」 

 

 ………………? ふと疑問に思う。天使は何をやっている?

 

 天使はライヴを止めようとガルデモの所に行こうとするわけでもなく、必死に人ごみをかき分けどこかに進んでゆく。

 

 ライヴを止めようとしない……? じゃあなぜわざわざこんなところに?

 

高松『どうしますか?』

 

 トランシーバーから高松くんの声が響く。高松くんも今のこの状況をつかみかねているんだ。

 

「ちょっと待って高松くん!」

 

 トランシーバーごしに高松くんを制止させる。ここから見える高松くんの顔はひどく歪んでいた。

 

 鏡を見れば今の私もそんな顔になってたことだろう。わからない…… 

 

 何かが違う、今までの天使とは。様子がおかしいだけか……?

 

天使「……………………」

 

 天使は人ごみにもまれながらも、券売機の前に辿りついてみせた。

 

(ただ食事しにきただけとでも言うの……?)

 

 そこで天使は、誰も頼まない、食べるのは完全自己責任でお願いしますって張り紙で有名な激辛麻婆豆腐の食券を買っていた。

 

(なっ! どういうこと!? 私たちに食べさせて憂さ晴らしでもするつもり!?)

 

遊佐「ゆりっぺさん、盛り上がりは最高潮を迎えてると見受けられます、指示を」

 

「え……? あぁ」

 

 遊佐さんの一言で冷静になる。

  

 どうする……? こんな天使見たことない。戦意がまるでない、借りてきた猫のような……

 

「……回せ!」

 

遊佐「回してください」 

 

 遊佐さんがトランシーバーで送風機担当のメンバーに合図を送る。それとほぼ同時に各所に設置された送風機が回り始めた。

  

 まるで紙吹雪のように食券が宙に舞い、窓から外に流れ漂っていく。いつも思うがこの瞬間には何か心に来るものがある。これが見たいがために私はこのオペレーションしてるのかもしれない。

 

天使「……ぁ…………っ」

 

 自分の今夜の食事が無くなったというのに一般生徒どもは意にも介さない。彼らの頭には今ガルデモのライヴのことしかないのだろう。

 

 ――これで本当に、私たちとこの世界との戦いは終わったの……?

 

 

「……ん」

 

 見張りをしている俺の手の平に一枚の紙が下りてくる。トルネードで巻き上げた食券だ。

 

 食券が大食堂の窓という窓から雪のように降り注ぐ。それに光があたり、もはや何か神聖なものまで感じさせた。いつもいつも無駄に壮大だな、ホントに天使でも来るんじゃないか?

 

 俺は手の平の食券が何か確認する。

 

 ……『麻婆豆腐』? ここの学食にそんなんあったか?

 

★―学園大食堂 フードコート―

 

日向「っ! 何だよソレ、誰も頼まないことで有名な激辛麻婆豆腐じゃん!! 猛者でも白いご飯に丼にして食うんだぜ?」

 

 麻婆豆腐の食券を眺めていると、後ろから日向が聞きたくなかった情報をペラペラと語ってきた。

 

「マジかよ、俺辛いの苦手なんだが……」

 

 

 

 

 ……しばらくして、学食のババアからその激辛麻婆豆腐が手渡された。のだが…………

 

日向「……まるで血の池だな」

 

 普通なら日向のこの発言にツッコミを入れるとこだが、今回は……あまりにも的を射すぎて、何も言い返せない……!!

 

 通常の麻婆豆腐に少し見られるはずのひき肉の灰色の部分が、なぜだか全く見られない。それどころか赤黒以外の色が全く見えない! 豆腐どこいった豆腐は!!

 

「まぁ……コレ食わねぇと晩飯抜きだからな…………いただきますっ!」

 

 赤く染まり上がりもはやごはんと言っていいものかわからない何かををすくい、勢いよく口に運ぶ。

 

日向「ど、どうだ……?」

 

 ……………………………………

 

「おい日向、意外とイケるぞこれ、食ってみろ」

 

日向「うぇえ!! 嘘だろ!? ……じゃあ、一口だけ――あがががががががががががががあががが!!!!!」

 

「ふふへ……日向くんようこソコッチガワヘヘヘヘヘヘヘェェェェェエエェェェエエェエェェェ!!!!!!!!」

 

藤巻「おいてめーら死んでるくせに三途の川泳いでんじゃねーよ静かに飯も食えねぇのか!!」

 

「あー! 藤巻くんも一緒に来たそうだねー日向くん?」

 

日向「ぐが、ふへへ……そうだね銀時せんセェエェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」

 

藤巻「おいお前ら何だその目はわかった謝るごめんなさい! ごめんな――ああああああああああぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

 

 ふふふふはへへへ……はっ!!!!!

 

「な……何だ今のは……?」

 

 何か恐ろしいものにとりつかれたような――数十秒前の記憶がない!

 

 気づいたら日向と二人で藤巻の口に麻婆豆腐たらふく突っ込んでたって我ながらなんだが何やってんの俺!?

 

 こ、これか!? この麻婆豆腐が!?

 

ゆり「それ、天使が買った食券よ」

 

 いつの間にか同じ机に座っていた仲村が話しかけてくる。

 

日向「ははふふへはへへ……はっ!!!!! ……おいマジかよその話!」

 

 おお日向復活したか……ってんなもん今はどうでもいい。

 

 あいつが……これを……

 

「……怒られて、生徒会辞めさせられてしょぼくれて好物食べようとしたらこれか?」

 

日向「踏んだり蹴ったりじゃねぇかよ、何か恐ろしく哀れに感じてきた……」

 

 哀れ――ね。

 

 

 ――彼の言うとおり、薄々感づいていたことではある。やはり……天使は人だ。

 

 失意の底で慰めに好物の麻婆豆腐を食べにくる天使がどこにいる?

 

 生徒会長としての義務から、風紀を乱しまくる私たちを野放しにしておけなかったんだ……

 

 私たち……いやもっと前から、ここに来た人間が状況を理解できずに戦い、武器を作り出したから、それを抑えるために彼女もガードスキルを生み出し始めた……これが事の顛末か。

 

 滑稽ね。今までしてきたことが、本当にただの徒労でしかなかったなんて……

 

 

 俺が死に物狂いでこの何ともカオスな麻婆豆腐を食い進め、あと一口と迫ったところで――()()は起きた。

 

 机に座ってただ食事をしているだけの俺たちを、突然十数人の一般生徒が囲んできたのだ。

 

 そして、その一般生徒の後ろから出てきたのは――やはり、というべきか。

 

直井「そこまでだ……」

 

 立華を蹴落とし、生徒会長の座に登り詰めた元副会長……直井文人。

 

野田「何だ貴様らは!?」

 

 最初に声をあげた野田だけじゃない。他の戦線メンバーもこの状況を呑み込めずに戦々恐々としていた。

 

 何人かは銃まで取り出す始末だ。

 

直井「色々と容疑があるが、とりあえず時間外活動の校則違反により全員反省室へ連行する。僕が生徒会長となったからには、貴様らに甘い選択はない……」

 

 一般生徒が俺らを拘束する。こいつら全員生徒会か……? いや、風紀委員と連動してる。

 

 わざわざ風紀委員総動員してまで俺らを罰したいのかよ?

 

「おーおー新生徒会長様は随分と熱心だねぇ。念願の生徒会長になってはしゃいでんのか?」

 

 俺の言った言葉に何人かの風紀委員の腕に力がこもる。随分と信頼が厚いこって……イヤ、逆かな?

 

直井「なんとでもどうぞ……」

 

 直井がおもむろに右手をあげる。

 

 それを合図に俺らを囲んでいた一般生徒が反応し、連行しようとする。

 

直井「――連れて行け」

 

★―次回予告―

 

「え? 何ココどういう状況今……あ、んだこれカンペ? どれどれ……」

 

「――『いつまでも第○訓に続く……じゃおもしろくないから今回から急遽、銀さんには次回予告をしてもらいます』だぁ!?」

 

「ったく、本編のほうも最近キツくなってるってーのにネタ大丈夫かねぇ……」

 

「次回、EPISODE.6 Family Affair 第十三訓……まぁそんなわけなので、万一ネタが切れたら仲村が脱ぎます!」

 

仲村「脱ぐかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!!」

 

 お楽しみにね!




今回は何回か指摘があった地の文を多くしてみました。

難しすぎて最後らへんダレてますが、
暇で仕方がないという方は感想・評価してくれるとうれしいです!

※予告が一言だけで何か面白くなかったので急遽次回予告入れてみました!
本編と違ってダラッとやっていきますのでよろしくお願いします!
つまんなかったら言ってくださいね!
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