Angel Beats!~ちょ、俺まだ死んでないんだけどオオオオオオオオ!!~ 作:日暮れ
なんだかんだと時間をかけてるうちに、データ消去してしまいまた書き直し……
新年度一発目からこれは痛いです。
というわけで第二十二訓です。
エリザベス。
俺の知り合いが飼ってるペンギンお化け。
自身は喋らず、どこからか言葉の書かれたプレートを持ってきてそれで会話をする。
黄色いくちばしとまっ白い体とは裏腹に、まっ黒な言動とちょくちょく香る加齢臭。スネ毛。
中身はオッさんで、たまに口からバズーカとか出てきたりする。
幻の傭兵部族・蓮蓬に属していて、将軍の地位に居ながらも星に仇名し、最後には地球すらも去って行った……のはシフトエリザベスの話。
とにかく、その(一見)かわいい風貌からマスコットキャラとして扱われてて、汚い大人(おもにアニメスタッフ)から金稼ぎの道具として使われてきた。CⅤは監修のおじさん。
そんな、元の世界にいる、腐れ縁のツレ。
ニュートンでもエジソンでもノーベルでも、だれでもいいからこんなことが起こるなら、論文なり発明なりで後世に伝えてくれたらよかったんだ。重力や電気やダイナマイトなんてのは知ってるやつが知ってればいい。一般人は障りだけで、後はノータッチだ。知らぬ存ぜぬで生きていけるんだ。
こんなクソッタレ野郎のツラを、こんな死後の世界で拝むことになるなんて。
★―ギルド連絡通路 B4―
ドサ、という、布の擦れる音や地面に物が落ちる音なんかが入り混じった音が聞こえた。
昔よく嗅いだ鉄くさい匂いが届いてきた。
見慣れた黄色いくちばしと白い体と、見慣れない銀色の髪をしたそいつが目に映った。
「エリ、ザベス……」
片手には剣。片手にはプレート。なんてマヌケな姿だ。
《お仕置きね》
そう書かれたプレートをどこかにしまい、目の前のエリザベスはゆっくり、ペタペタという場違いな音を響かせながら近づいてくる。
仲村「何、何なのよこいつ!?」
「……多分、立華だ」
日向「これが!?」
高松「にわかには信じがたいですね」
藤巻「んなこと言ってる場合か! 野田が殺られたんだ! また真っ先に殺られたんだぞ!?」
松下「真っ先にを強調する必要はあったのか?」
藤巻「や、なんつかさ。使命感っての? こうしないと野田がうかばれないって言うか」
TK「Oh my crazy!」
仲村「コラ馬鹿ども喋ってる暇があるならあのペンギンを撃ちなさい!!」
仲村の一言でエリザベスに銃弾が降り注ぐ。
《Guard skill:Distortion》
ご丁寧にそう書かれたプレートを出しながら、エリザベスの体が光に包まれる。
光に触れた銃弾は、そこを拒むように屈折して無茶苦茶な方向に飛んでいく。
大山「これってディストーション!? ホントにこれ立華さんなの!?」
「そーいってんだろがシャキっとしろガキども! 後ろのが動き出した!」
言った瞬間、後ろの立華はゆっくりと起き上がり、その赤い目で俺らを嘲るように一瞥した。
「忙しそうね」
埃をはらい、剣をこちらに向けてくる。
これぞまさしく前門の虎、後門の狼。
や、前門のペンギン、後門の堕天使か?
「って言ってる場合じゃねぇな……どーすんだ仲村!」
仲村「今考えてる!」
仲村は銃の引金を引くのを忘れず、思考し続ける。
大山「もう弾がないよ!」
日向「万事休す、か?」
仲村「――! あそこ、ペンギンの後ろ!」
見ると、エリザベスの後ろには閉ざされた通路があった。
仲村「あそこに逃げ込む! ついてきなさい!」
エリザベスにスモークグレネードを投げながら、仲村はそこに走り、みんなを先導した。
仲村「あと十秒! 間に合わなかった者は残していく! 精々二人の天使に嬲られて時間を稼ぎなさい!!」
日向・大山「ソレだけは嫌だ!!」
仲村の叱咤に慄いたのか、続々と通路にメンバーが逃げ込む。
仲村「あなたも早く!」
「嬲られんのは御免だが、十秒もやっこさんが待ってくれると思うか?」
仲村「……足止めなら私がする」
「テメーじゃ役不足だっつってんだ」
仲村「あなたに言われたくないわよ!」
「んだとこの紫野郎!!」
仲村「何よこの○毛!!」
「あぁんコラ見たことあんのか白い○毛見たことあんのかこの劣化ハ○ヒ!!!」
仲村「あ言ったわね!? みんなが思ってるけど気遣って言わなかったことをついに言ったわね!!!」
藤巻「てか喧嘩する暇あんなら少しでも足止めしろよ!!」
竹山「この間わずか七秒」
日向「やかましいわってかソレこの状況だとむっちゃ長いからね!? あと三秒!!」
「弾は!?」
仲村「ないわ! あと三秒なんとかして!」
なんとかって何だムチャぶりしやがって!
仲村「あと二秒!」
えちょっと待ってまだどうするか浮かんでな
仲村「イチ!」
「あ、あー! あそこにとってもおっきな麻婆豆腐が!(棒読み)」
……
仲村「……最悪ね」
あ、視線が痛い。
「いやでも効いてますが?」
「どこ!? そこまで大きなブラッディ・イーター(麻婆豆腐)がこの世界にあるなんて!!」
《麻婆豆腐どこ》
仲村「……」
★―ギルド連絡通路 B5―
仲村「なんだか自分が今ものすっっっっごいどーでもいいようなことしてる気分になってきたわ……」
「まぁまぁヘコむなよ。犠牲はとりあえず一人で済んだんだし」
日向「それよかあのペンギンだろ! 何だよあれ!?」
高松「天使……でしょうね」
仲村「そうね、ガードスキルを使った。間違いなく天使よ」
戦線の連中が一息つくついでにエリザベスについて話していた。
大山「先生、あのペンギン知ってる風だったよね……」
大山のこの発言に、連中の視線は一時俺に向けられる。
藤巻「そうだ、確かエリザベスーとかなんとか」
松下「エリザベス女王か!」
日向「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない!!」
直井「それはマリーアントワネットだ脳細胞までお菓子になったか愚民。グミだけに愚民」
仲村「そもそもあんなのがエリザベス女王のわけないし、あの天使の味方してたらとっくに消えてるでしょ。それと直井くん動揺でキャラぶれてるから」
「……アイツは」
俺のぽつりと零した一言は、この謎すぎる状況において、こいつらを黙らせるには十分すぎるほどの力を持っていた。
だが残念だな。お前らの知りたいようなことは教えてやれない。
「アイツは、エリザベスっつー、俺の知り合いのペットだ」
これ以上は言えない。てか言っても意味がない。
冒頭で語ったことをもう一度ベラベラ説明したところで、この状況ではまるで必要とされない。
仲村「あんなのがペットって……流石はあなたの知り合いね」
竹山「類は友を呼びますね」
「おい俺とあんなのを一緒にするな」
高松「つまり、あれは生前の先生の知り合いであるが、姿だけそっくりの天使であると」
「まぁ、そうなるな」
松下「もう訳がわからんぞ……」
藤巻「それ以前に、何で敵が増えてんだ!?」
日向「あんな凶暴な天使が二体なんて、前の降下作戦よかタチが悪いぜ……」
仲村「分身は野田くんを刺し殺す際にハンドソニックを、銃弾をかわす際にディストーションをそれぞれ使って見せた」
竹山「つまり分身を発生させるスキル、ハーモニクスも使える。と?」
仲村「おそらくはね」
軽く顎に手をやる仲村に、相変わらず高圧的で自信たっぷりの直井の声がかかる。
直井「つくづく低能な奴らだ貴様らは……あ勿論銀時先生以外ですが。無能な貴様に代わって、問題点をまとめてやろうか?」
仲村「ハイハイよろしく直井サマ」
仲村の嫌味に少し眉を動かしながらも、それをあまり気にするそぶりを見せずに、直井は話し始めた。
直井「おそらく今一番貴様らが気になっているのは、『おそらくハーモニクスで出現しただろう天使の分身が、なぜあんな姿をしているか……』だろうが、正直これはさして問題ではない。どんな姿であれ、あれが天使の力を持っているのに変わりはないからだ。考えるのはオペレーションが終わったあとでいい」
直井「それを除いたうえで、現状の問題は二つ」
直井「まず一つは、何体分身が作られたのか。分身が分身を作れるのなら、数に限りなんかない」
日向「ちょっと待て、それなら数なんか考えるだけ無駄じゃないのか? こうしてる今だって増え続けてるはずだ」
直井「少しは頭を使えこのババロア脳が。そこのリーダー(笑)と銀時先生(尊)が、ハーモニクスを使ったら分身が元に戻るようにしてあっただろう」
直井「それでもあのペンギンは存在していた。つまり、そこのリーダー(爆)がスキルに細工をする以前にあの分身は作られたということだ」
直井「そしてそれらが、こうしてここで待ち構えていた……」
藤巻「つまり……」
直井「ようやく気付いたか駄民どもめ。あ勿論銀時先生は」
「いいから話進めろ」
直井「はい。そしてこれが二つ目の問題」
直井「もし僕らの突入が読まれていて、すでに分身を量産し、このギルドに配置させていたとしたら?」
日向「そ、それって……」
TK「trap」
直井「そう、罠だ。勿論二体なんて生易しい数じゃないだろうな……」
直井「すでに退路はふさがれている。貴様らに絶対に勝ち目はない」
仲村「……あんたもでしょうが、ってツッコむ気にもなれないわね」
閉じ込められたってことは、武器の補充もできない。この先にもウヨウヨいてこれら全部を倒すのはほぼ不可能。
今来た通路を強行突破してギルド脱出ならまだ可能性はあるかもしれないが、それだと立華を助けられねぇし、何よりただのその場しのぎにしかならねぇ。
松下「ここまでくると異常だな……何の目的があってここまで。」
「さぁな……自分でもわかっちゃいねぇんじゃねーの?」
仲村「とにかく、進むしかないわ。生きるためにはね」
★―ギルド連絡通路 B10―
案の定、そのマヌケなペンギン野郎は俺たちの目の前に現れた。
こんなに笑える姿してるのに、だれもクスリとも笑いやしない。
藤巻「三体目……」
仲村「どうやら直井くんの推測、当たったみたいね」
そう言ってハンドガンを構える仲村。顔は険しいままだ。
下手すりゃこれで詰みだからな。当然か。
全員が全滅を覚悟したその瞬間、一人の男が前に歩み出た。
「……弾が、勿体無かろう」
仲村に銃を下げさせ、下駄をカラカラ鳴らしながら目の前に歩み出る大男。
「松下、いけるのか?」
松下「フン……誰に言っておる?」
ブレザーを脱ぎ捨て、その漢は雄たけびを挙げる。
松下「姓は松下、名は護騨! それがこの俺松下護騨よ!! ここで退いたら五段の名が泣くぜ!!!」
そう言い、エリー天使に掴みかかる松下。
アイツ名前、
《この、離せ!》
そのプレートが見えるとともに、ブスリという刃物が体を貫く音が響く。
日向「!! 松下五段! 腹を!」
松下「っ……オォオォォォオォオォォ!!」
しかしそこにいたのは、腹を刺され、それでもなお敵に立ち向かう戦士の姿だけだった。
松下「行けっ……! 俺の意識があるうちに!!」
「何こいつむっちゃカッコいいんだけどロリコンの松下はどこ行った肉うどんズルズルすすってる松下はどこ行ったんだよ!!」
仲村「今のうちよ、急いで!」
藤巻「耐えろよ松下五段!」
「ちっ……松下! 今度肉うどん奢ってやるからな!!」
★―ギルド連絡通路 B12―
日向「四体目……! どーすんだゆりっぺ」
仲村「……!」
黙って考えをめぐらせる仲村の脇から、手を鳴らしつつ前に出る男が一人。
「今度はお前かよ、TK」
TK「It's my turn……」
大山「そんな、危険だよ! やめたほうが――」
そう言う大山を、仲村が無言で引き留める。
仲村もわかってる。そう、これが一番だ。
さっきの松下みたく、玉砕覚悟で相手を止めて時間を稼ぐ。これなら一体につき一人の犠牲で済む。俺たちがオペレーションを成功させれば、犠牲になった奴らも助けられる。
それになにより、男の覚悟を無下にするのは野暮ってもんだ。
TK「Get chance and luck.」
その言葉の意味はわからない。おそらく何かの歌詞の引用だろうから野郎自身も、どういう意味かなんてあんまり気にしてなんかないんだろう。
だがその言葉に込められた想いは、彼の放った勇気は、まるで熱のように降り注ぐ天使の殺気を押しのけ、彼を前へと進ませた。
TK「Fooooooooooooooahahheaaaaaaaaaaaaaaa!!」
やがて、まるでダンスでも踊っているような見事な跳躍を見せた彼は、我らに立ちはだかる敵へと向かっていった。
我らが戦友の短い悲鳴のあと、俺らは少しの涙と大きな感謝をこめて、こう叫んだ。
TK……
「「「TィィィィKェェェェェ!!!!!」」」
★
日向「ま、まさかこのまま一人づつ死にに行けってんじゃ……」
仲村「あら、よくご存じじゃない。ほら次来たわよ。誰が行くの?」
高松「では私が」
大山「嬉々として!?」
高松「この肉体……見せる時が来たようでグフォ!!」
「「「高松ぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」」」
★
仲村「はい次ー」
藤巻「へっ、へへ……ビビってられるかってんだ!! うぉらぁああぁぁあギャアアァァアァァァア!!」
「「「藤巻ィィイィィィィイィ!!!!!!」」」
★
椎名「あさはかなり……あさはかなりィィイィイィイ!!」
「「「椎名ァアアァァァァァァ!!!!!!」」」
「いやお前は戦えたんじゃね?」
★
仲村「もーめんどいわねぐずぐずしてると順番決めるわよ!?」
日向「あなたは鬼ですか!?」
仲村「あアンタ今口ごたえしたわね? 行って来い」
日向「理不尽だグフッファァァァァアァァ……」
「「「日向ァァァァァアァァ!!!!!!」」」
★
竹山「何でですか僕原作じゃここに居なかったじゃないですか出番増やしてくれるのは正直ありがたいんですがもっとまともなシーンにはできなかったんですかギャァァアァァァァァァァァァ!!!」
「「「竹山ァァァアァァァァァアァァ!!!!!!」」」
竹山「クライ、スト、と……」
★
仲村「あら今度は二体? しょーがないわねじゃ二人行きなさい」
「俺この後パソコン教室あるから無理」
ユイ「私もそろばん教室あるんで」
大山「この世界にはパソコン教室もそろばん教室もないギャァァアァアァァァァァァ!!!」
直井「銀時先生の身代わりになれるのなら本望!! あイヤだけどちょっと待って心の準備だけさせてゲブォア!!!」
「「「大山&直井ィィイィイィィイィ!!!!!!」」」
★
「……なんか一瞬でみんな消えてったな。何だ? 見えない力か何かか?」
仲村「知らないわよ。それよりユイはどこいったの?」
「あ? しらねーよそろばん教室じゃねぇの?」
仲村「それもそうね。あ、こんなところにピンクの植物が生えてるわ! 珍しーわね」
「いやそれ胴体ついてね?」
ユイ「ア、アンタラオボエトケヨ……!!」
仲村「あらやだ喋ったわ。気味が悪い。捨てて行きましょうか」
「てかそれ躓いて気絶寸前のユイじゃね?」
ユイ「ヒグ……先生ぇ……!」
「まぁその、恨むんなら仲村と、ストレス溜まってテンションおかしくなってる作者を恨め。な?」
★―ギルド最深部 爆心地―
私たちはギルドの最深部、つまりギルド跡に辿り着いた。
懐かしい……ここで奏ちゃん爆撃したのよね。
……
銀時「また派手に爆破したもんだな……あ? どしたオメー、のび太くんへのあんまりな扱いを自覚したジャイアンみたいな顔してんぞ」
「そんな的確な表情してなかったと思うけど……」
奏ちゃんがのび太ってことは私はジャイアンか。誰がジャイアンよ!
何なのよこの人ホント。
「ってそんなことはどーでもいいの。早く奏ちゃんを捜すわよ!!」
私は爆発によってできた大きなクレーターを転ばないように滑って落ちる。
「よっ……と。ふぅ」
軽くスカートの埃を払いながら、中心を見回す。
奏ちゃんもいないし分身天使もいない。やっぱもう少し奥に行かないとダメか……
銀時「おおぉぉおぉおぉぉおぉおおあぁぁああぁぁあ!!!!」
「うわ!! ちょっとアンタなに転げ落ちてきてんのよ!!」
銀時「あだだだ……白衣に躓いたんだよ悪ぃか」
「別に悪かないけど、ホントあなた頑丈よね。前の降下作戦の時も生き残ったの私とあなただけだったし」
銀時「んあ? あぁそういやそーだったな。何? おたく俺のこと好きなの?」
んなっ!? すっすすす好き!?
銀時「なーんて、冗談……仲村?」
「はぁ!? なな、なに言ってるの!? わけわからないわ! どうしたらそんな思考に至るの!? アンタバッカじゃないの! いっぺん死んだら!?」
銀時「や、知ってるよ。そんな原作一話のセリフ抜粋してこなくても」
いや好きとか嫌いとかで言ったらそりゃ何ども助けられてるし? 先生だし一見死んだ魚みたいな目も戦闘とかシリアスな場面になったらキリッとしてちょっとかっこいいなーとか思ったりもするわよ? そういう客観的視点から落ち着いて冷静な判断を下すとすれば嫌いとは言えないわけで、そもそも好意にもやっぱり度合いがあると思うし、単に二択になっちゃうと私が彼のことすっ……すすす好きってなっちゃうし!? それは本意といいますか不本意といいますかうぁあぁあえっとえっと
「ブツブツブツブツ……」
銀時「あの、仲村さん? 何呪文みたいの詠唱してんの? 鬼道か何か?」
《見つけた》
銀時「!!」
そもそも何で先生はこのタイミングでこんな話題を振ってきたの? この先生のことだからまたデリカシーのないただの言動ってオチなのかもしれないけどもし、もしよ? もしこれがこれからの告白の前準備的なあれだったらどうするの!? どうしようまだ心の準備が!!
「ブツブツブツブツ……」
銀時「ちょっと仲村さん!? 来てるから、ベンギンお化け来てるから! いったん詠唱やめよう? 詠唱破棄して黒棺となえちゃお? ねぇ!?」
よし心の準備できた……えちょっとまって? もし成功したとして、これからどうするの? そこから彼の義母さんに挨拶に行ったりするわけ!? 毎日味噌汁作って、ダメだしされたりするわけ!? 『この子は甘い物好きだから、味噌汁には砂糖を入れてください』みたいな!?
銀時「だから仲村さん!? 迫ってきてるから、お化け迫ってるきてるから! ちゃんと魂葬してあげよ?
「うんわかった! 味噌汁には角砂糖たくさん入れるね!」
銀時「いい加減にしろ何トチ狂ってんだ仲村ァアァァァァァァアアァァ!!」
《Guard skill:Howling》
銀時「ハウリングだぁ!? くそ、仲む――」
いやでもよく考えると甘い味噌汁ってどうなの常識的に考え――
★
「……くそったれ。焦点が定まらねぇ」
《苦しそうね?》
《ハウリングは、強力な音波により相手の感覚を麻痺させるスキル》
《いくらあなたとはいえ、十分はまともに立つことすらできないわ》
それでかよ……さっきからどこぞのオッさんのスネしか見えねぇのは。俺が地面にはいつくばってるのはペンギンお化けに畏れ慄いたからじゃないのね。
次々プレートを出しながら、エリザベスはペタペタと俺のほうに歩いてくる。
《女のほうも動けないようね。わざわざ新しく作った甲斐があったわ》
女……仲村か? こんなときだってのに、ホントの本気でやべぇ状況だってのにあのバカ最後までバカやりやがって。
「っ、オオオォォオォォオォ……」
《ムダよ。いくらあなたの身体が頑丈でも、脳まで鍛えることはできない》
……ソレ遠回しにバカって言ってない?
《折角だから、女のほうからいきましょうか》
ッ、仲村……
《これで終わり――》
「オオォォォォォオォォォォアアアアァァアアァァアっっ!!!!!」
《!?》
護らなきゃいけねぇンだよ。ここまで俺らを運んできてくれたヤローどものためにも。
てめーなんかに、てめーなんかに!!
ずぶり。
「邪魔されて! たま……る、か」
《……あら、どうしたの? おなかでも壊した?》
「ハ、ハ……言うなこのペンギン野郎。だれのせいだと思ってんだ」
口から滝みてぇに血があふれ出てきやがる。この野郎俺がまともに動けねぇのをいいことに――
《立ち上がったのは予想外だったけど》
《棒立ちするだけなら意味はないわよね》
《じゃ、あなたから死になさい》
もうプレートの文字なんか見えやしねぇ。かろうじて聞こえたのは、野郎の刃が俺の腹から抜かれた音と、俺の身体が地べたに這いつくばる音。感覚なんかありゃしねぇがな。
スマネぇな……
パァン。
……? おかしい。一向になにも起きねぇ。俺の首はまだつながってるし、野郎の足音もなにも聞こえてこねぇ。俺の体も動くようになってきてる。
銃声。そうだ銃声。俺の意識が途切れる寸前、一瞬だけ、おぼろげながら確かに聞いた。
誰の? エリー天使は銃なんかつかわねぇ。俺も持ってねぇ。
とすると。
「……仲村か」
仲村「あら、起きたのね」
「何で気絶してねぇ」
仲村「にっしっし~。どーだ!」
手のひらに二つの小さい何かを乗せて見せてきた。
この形、耳栓か。
仲村「にしてもアホよねー。ホントに
対抗策。これで辻褄が合う。
野郎はこのスキルを新しく作った、っつってた。
だが俺たちが再度、立華の部屋に突入した時すでに仲村はこのスキルを見つけていたんだ。しかし必要以上のプログラムの改変は危険と判断して、対抗策だけ用意してこのオペレーションに臨んだ。
道理でさっきも話をきかねーハズだ。味噌汁に角砂糖って何だ。ちょっとうまそーじゃねーかチクショウ。
仲村「何よ不機嫌な顔して。もしかして私に助けられてイジけちゃった?」
仲村が意地悪く口角をあげ、寝そべってる俺を激しく見下しやがる。
「まぁな。パンツ見えてんぞ」
仲村「馬鹿!」
「ぶべらっ!?」
痛ぇ! 某ジャンプ漫画で有名な自分には特別な力があると思いこんじゃってる漆黒の翼くんくらい痛ぇ!!
……こんだけボケ回るんなら平気だな。
仲村「ねぇ、憶えてる? 前に話したこと」
「何だ突然。そんなもん忘れたわ。今しがた蹴られてスコーンて忘れてやったわ」
仲村「私はね、借りを作るのが一番嫌いなの。だから私はあなたを助けたい」
無視かよ。
「忘れたつってんだろーが。そんなもんいちいち憶えてられっか」
仲村「うん。それでも、いやだからこそ――」
――あなたを助けさせてよ。
いつか、向こうのガキどもにも似たようなこと言われたっけな。
何の役にもたたねぇ眼鏡ヲタクと胃拡張チャイナと巨大糞尿製造機のくせして。
何にもできねーくせに、俺と一緒に居る時だけ、みんなと一緒に居る時だけなんでもできるようなツラしやがって。
今のこいつにそっくりじゃねぇか。
「勝手にしろよ」
仲村「勝手……そう。そうね。勝手にするわ」
そう言って、仲村ゆりは、死後の世界とか戦線とか、全部忘れたような。
いや、違う。絶対にそうじゃない。それはこいつに対する侮辱だ。
こいつは全部背負った上で、全部と向かい合って、全部を認めた上で。
服を買って喜ぶような、
おいしいものを食べたような、
大切な人を送り出すような、
そんな笑いを俺にくれた。
仲村「行ってきなさい。そして奏ちゃんを助けてきなさい!」
★
「よう、立華」
仲村と別れた地点からそう遠くない場所に、紅い眼をした立華は立っていた。
その奥には、弱りきって廃材に身を寄せる立華が見える。
立華が立華を護っている。
何で? さっきも言ったじゃねぇか。
答えは多分、『自分でもわかっちゃいねぇ』んだ。
「どうやらお前は、一番最初に俺に斬りかかってきたヤツみてーだな。あの時の借りを返しに来たぜ」
「私は分身の中で唯一、オリジナルから作り出された」
「聞いてねーよ。そこどけ」
「ここは通さない」
「何で」
「……」
「……それが、私の使命だからよ」
「んじゃ質問を変えてやる。そのお前のまだるっこしい使命って何だよ?」
「…………」
「ホントはわかっちゃいねーんだろ?」
「お前が初めて出てきたのは川釣りの時だ。戦線の連中を助けようとして、お前は後ろの立華から生み出された」
「そんなお前の使命って何だ?」
「無事俺たちを助けられて、それでお役御免のはずだった。そんなお前の使命って何だよ?」
「……それは、あなたたちの屈服。消去」
「それはあそこの立華のものか? それともお前のものか?」
「……」
「そうじゃねぇ。そのどちらでもないんだよ。お前は何がしたかったんだ? 一番最初、お前が川の主に剣を向けてくれた時、どんなことを思ってた」
★
「……助けたかった」
「あなたたちを、護りたかった」
「大切な、やっとできた絆を」
「あなたたちを護れば、それで私はオリジナルに戻って、またいつもの立華奏に戻れるはずだった」
「けど、違った」
「オリジナルでさえ私を元に戻してくれない。残ったのは歪んだ怒りと敵意だけ!」
「これは何かに向けるもの。でも、何に?」
「私は! ……何に立ち向かえばいいの!?」
「少しでも
「でも、うまくいかなかった。一度向けた怒りは! 敵意は……自分のものだったとしてもコントロールできない」
「私の中で少しづつ私が崩れていった。でも、それでもあなたたちに立ち向かおうとした。私が、立華奏であるために」
「そして、ハーモニクスを使った。使ってしまった」
「出てきたのは、喋れないペンギンお化け」
「ハーモニクスは分身のスキル。こんな化け物が出てくるはずがない」
「何度、何度何度繰り返しても、立華奏は出てきてはくれなかった」
「目の前の化け物が、自分?」
「怖い」
「怖いのよ……!」
「私は、あなたたちを護りたかっただけなのに! 気がつけば化け物にまで身を落としてしまっていた」
「私は、何?」
「天使でも、人間ですらなくなってしまった私は一体何なのよ!?」
――私は一体、どうすればいいの――
銀時「どーもしなくていいんじゃねーの?」
まるで光を帯びた雨のように降り注いだ、けだるそうで適当な声は、しかしそれがゆえに私の心の奥に沈み込んでいった。
銀時「お前は立華だ」
銀時「鏡見てみろ? ロリコンが歓喜しそうな童顔の銀髪美少女が映ってるぜ」
銀時「激辛麻婆豆腐食って、無邪気に笑ってりゃいいんだよ」
銀時「それで充分だろーが」
銀時「お前にとってのすべては、そこに詰まってる」
銀時「今のお前は抜いた刃を鞘に収める機を失い、ただいたずらに暴れまわってるだけだ」
銀時「俺はそーいうやつを二人知ってる」
銀時「もう違えるな」
心が満たされる。バラバラになった心の破片が、魔法のように、時が戻るように、少しづつ組みあがっていく。
「でも! ……私はもうあなたたちにひどいことをした」
銀時「んなもん半日もすりゃ治る。仲間全員虐殺しかけた直井だって仲間にしてんだ。あのバカどもはこんなもんでテメーを見捨てたりしねーよ」
「すでに私はオリジナルとは違う!! 性格も、身も心も、敵意に浸食された。まさしく化物よ!?」
銀時「テメーが化物? 笑わせんな。
銀時「テメーはただの女の子だ」
心が組みあがった。血がめぐり、どくん、どくんと鼓動を撃つ。これが私だ。
ちょっぴり頭は悪いけど、ちょっぴり背は低いけど、ちょっぴり中二病だけど。
それも含めて全部私。
私は、立華奏でいて、本当にいいんだ。
「……いいの? 戻っても」
「こんな私でも、戻っても」
銀時「何度も言わせんなアホ。全教科1にすんぞ」
銀時「剣を収めろ」
銀時「もうお前は戦わなくていいんだ」
銀時「お前は立華奏なんだからよ」
「~~ッッ」
泣きそうになる。せりあがった想いが、涙に代わって、頬を伝って零れ落ちる。
銀時「ったく、何で女ってのはそうすぐに泣きたがるかねぇ」
銀時「お前は、まだまだこれからだろーが。その涙はまだ背負っとけ」
その言葉をはさんで、目の前の先生はハンカチを私に差し出した。
「……ハンカチなんて、似合わない」
銀時「うるせぇ……あ、あとお前に一つ頼みがある」
「……?」
★
「……やっとついた」
眼前には、前の爆発でボロボロになった何かの柱と、それに横たわるようにして、分身でない、正真正銘元生徒会長の立華奏の姿があった。
疲れた。たるい甘いもん食いたい。さっさとおわらせて帰ろう。
「つーわけだ立華ー。たーちーばーな。おっきろー」
立華「ン……?」
目を開けた立華は、状況を理解できないようで、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
立華「ここは……?」
「あ、今はもうそーゆうのいいから。銀さんもう疲れたの眠たいの。」
立華「??」
「えーっとだな、とりあえず立華、もう一回でいいからハーモニクスを使え。それで全部丸く収まる」
立華「ぁ……ごめんなさい」
やっと現状を理解したようで、身体お起こして謝ってくる。
「何の話だ? 俺はちょっと色々間違えたアホを助けに来ただけだ」
立華「……うん、ありがとう。じゃあ――」
体調的にもきついのか、冷や汗をかきながらではあるものの、立華は立派にこう唱えて見せた。
立華「Guard skill:Harmonics」
唱え終わるや否や、立華の頭上にはエリザベスの姿が現れた。
「つーわけで、テメーらの負けだ。めでたしめでたし」
《ちゃんちゃん、といけるといいわね》
「……どーゆうこった」
《確かに私たちは負けた》
《けどね、私たちがアブソーブで『消える』のは大間違い》
《『同化』するの。私たちはね》
《そこで一つ問題。出題者は私。回答者はあなた》
《――大量の私たちと同化されて、彼女が正気を保っていられるでしょうか?》
「!?」
《知っての通り、私はもう立華奏なんて人間なんかで収まっていない》
《彼女を乗っ取った後は、まさしく『天使』とも呼べるこの力であなたたちをを支配する》
《楽しみね……》
表情はないが、声は聞こえなかったが、目の前のこいつは確かに邪悪に笑っていた。
これが立華。認めたくない。
この世界は、こんな女の子までここまでにさせちまうのか……?
考えた瞬間、俺は立華の肩をつかんでいた。何か黒々とした、おそらくさっきまですべてのエリザベスの形を成していたものが立華に宿っていく。
立華「ぅっ……あああぁぁああぁあぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」
「……俺の声が聞こえるか、立華」
立華「っ。な、に……?」
痛いだろう。苦しいだろう。それなのに、俺のこんな一言にでさえ、必死に痛みに耐え、耳を傾けようとしてくれる。
俺はこいつがこうならないように、今まで剣を握ってきたんじゃないのかよ……っ!!
「立華、俺はさ」
「料理が得意なんだよ」
立華「……?」
「ツレの二人がよ、料理が下手でさぁ。一人はまぁ食べられるんだが、もう一人が飯番の時は卵かけごはんしか食えなかった」
「元々一人暮らしだったんだが、そいつらが着いてきちまったことでよ、俺くれぇはまともなもん作れるようにならねーとって思ってな。まぁめんどくてほとんどやってねぇが」
「あ、えっとすまねぇ。なにがいいてーかってーとだな」
立華「……」
「麻婆豆腐。作って待ってるから食いに来い」
お前が苦しんでいるときに、こんなことしか言えない先生でごめん。
立華「……うん。待ってて。食べに行くから」
「約束だかんな」
立華「うん」
俺と立華は約束の指切りをした。
立華「――アアアぁッ!!!!」
掛け声を言い終わった瞬間、立華は痛みと疲労で叫びながら倒れてしまった。
何が先生だ。何が護ってやるだ。
見守ることしか、待つことしかできない俺自身が、その時、ひどく小さく思えた。
次回に続く――
はい、これで終わりです。どうだったでしょうか。
自分、どうやらまとめるのが少々苦手らしく、気づいたら結構な量に……
ともあれ、本編八話。終わってしまいました。
あっという間に半分超えてました。そういや来月でこの小説書き始めて一年が経ちます。
相変わらず銀さんキャラブレっブレです。地の文全然増えません。一年前から成長してません。
ですが、こんな私にも、待ってくれる人たちがいます。
それを糧に、もう少し頑張っていこうと思います。
あと五話! 死ぬ気で書いていくんで、これからもよろしくお願いします!!