Angel Beats!~ちょ、俺まだ死んでないんだけどオオオオオオオオ!!~ 作:日暮れ
朝から憂鬱です。学校行きたくねぇ……
そんなわけで張り切っていってみましょう連続投稿二回目です!!
いやはや、現実とは誠に小説よりも奇妙なもので、ここぞ! という時には必ず不測の事態が着いて回る。これには大小種類様々あり、テレビではそれを武器に人気を集めている芸能人も少なくはない。世間ではそのような人たちを指しておっちょこちょいとか、ドジなんて呼ぶ。
かく言う俺も、今現在絶賛不測の事態に遭遇中なのだが。ある意味での未知との遭遇中なのだが。
しかし、俺がこのことを将来おもしろおかしく、優越感に浸りながら、そして僅かな恐怖感に侵されながら、悠々自適に語ることのできる日はおそらく来ないのであろう。
なぜなら今この瞬間こそ、悠々とゆったり落ち着き、自適に自分の思うまま行動出来るような状況ではないからだ。
いや、むしろこんな体験を乗り越えて初めて悠々自適にこれを語れるというものなのだが、今の状況はさながら、竜巻が起きた遠くの海をあそこにいなくてよかったねーと立派な船から呑気に眺めているようなものではなく、今にも転覆しそうなボートから嵐により表情を変えた大自然の猛威に為す術も無くただただ傍観しているようなものなのだ。
傍らで観ているのだ。
まるで傍らに居る
――一つ、ここで勘違いしてもらいたくないところは、これが『不測』の事態であって、『予想外』の事態でないことだ。
予想はできたのだ。テレビでも新聞でもドラマでも漫画でも、ここぞという時には大なり小なり不幸が下りてくるものだと知っていたから。
それが待ちに待ったセンター試験ともなれば、むしろそういうことがいつもより余計に頭に浮かぶ。
だが俺の脳みそがそれを自然に意識の彼方へと追いやっていた。それを畏れるあまり、金庫の最深部に何重もの錠を掛けて封印していた。
まさか。そんなことはフィクションであり、
実在の人物・事件・団体とは一切関係のないものであり、
よってこの瞬間の俺とは一切関係のないものだ、と。
安心しきっていた。
しかしながら、今ではそう早合点してしまった俺を、大人ぶってさっさと決断を下してしまった早計な俺を、おもいっきりブン殴ってやりたい。むしろ長年の受験勉強で培ったストレス発散用ヘッドバンキングで頭蓋を撃ち砕いてやりたい。早くたって良いことはないぞ。特に下の方は。
未来は『予想』するものであり、『未知』であり、そして決して『観測』できるものではないということを、
畏れ、封印していたものが、自身の知らぬ間に這い出し、復讐と言わんばかりに自分を
俺はとっくに、知っていたはずなのに。
さて、ここらでさっきの『悠々自適』よりもこんな状況を表すに相応しい表現を捜してみよう。
そうだな。俺はあまり言葉に詳しくはないけれど、一番しっくりくるのは――
――お仕舞。物事が終わること。
この場合、終わりは死。
だから、
お死舞。
―Day1―
空が真っ黒だった。
というか、真っ黒なのは俺だった。
というか、前にもこんなことあったような気がした。
「……頭痛ぇ」
酷い既視感が襲う。
起き上がろうとしてまず俺の頭に浮かんだのは、今度はどっかの先生に起こされるんじゃないんだなー、という間の抜けた感想だった。いや今度はって何だよこんなこと今まで一度もなかったろーが。
とても重苦しいスライムのような空気を必死に吸い、自分が何をしようとしていたのか、その結果どうしてここに横たわっているのかを思い出そうと、うつろな脳みそに鞭を打って考える。
確か、今日はセンター試験だったはず。試験会場に向かうために電車に乗って、それで……?
……思い立ち、右のポケットに入れていたはずの携帯を取り出す。
「一三時、二三分……」
過ぎてんじゃねーか、センター試験。
折角ここまで頑張ってきたのに。ふざけんな遅刻してでも行き着いてやる、試験官の靴舐めてでも試験受けてやる。
その怒り混じりの思いが、俺の体をゆっくりと起き上らせる。
渇いて砂まみれになった眼球をパチパチと潤しながら目を凝らすと、なるほど俺の思いは叶わないのだと悟った。目の前の光景が、俺にそう説いてきた。
「……」
瓦礫と化した座席に、吹いて飛ばした洗濯物のように散らばり垂れ下がる、人。
そのまま死ねたら幾分かは楽だったかもしれない。
しかし辛うじてというべきか案の定というべきか、赤黒く重たい血の元に倒れながら、かろうじて生きながらえ、眼前の光景に言葉を失う人々。
虫籠の中みたいだった。
籠が振り回され、死にゆく者や生き延びる者が出る。
それを無邪気に楽しそうにどこからか眺める
「また、失うのかよ……!」
掌を血が滲むくらい握りしめ、ガラクタのシートにたたきつける。焼けた鉄と砂が混じった埃が舞う。
「っぐ、が、ゲホっ、ゲホッ」
暗くてよく見えなかったがそのシートにはどうやら人がいたらしく、俺が立てた埃がわずらわしいと言うように咳き込む。見ると怪我をしているようだ。
「す、すまん……オイ、というか大丈夫なのかその怪我!」
「ゴホッ! いやなに……気にするな、大丈夫だ」
「アホ、頭から血ィ出てんだろうか! 俺が見えるか、意識は?」
質問を続けながら、手近にあった布を引きちぎり、血を拭き取り、包帯代わりに頭に巻く。少しきつくしすぎたのだろうか、うめきにも似た息が顔にかかる。
「……少し、ふらふらする」
「気分は、吐き気とかはするか?」
「大丈夫、だ。」
「……ここは空気が悪い、外に出るぞ。立てるか?」
「あぁ。なんとか……何だ? アンタ医者なのか」
「……まさか」
実際実用的な知識なんて勉強した覚えはない。不思議なもんで、自然と身体が動くんだよ。さっきからそんなんばっかだ。どうも記憶が判然としねぇし。
……そういや、センター試験って。何で、何処に受験なんかしようとしてたんだ? 俺。
男に肩を貸し、黒板を引っ掻くような音を鳴らすドアを蹴破り、外へと降りる。
外に出て、初めて「泣っ面に蜂」の本当の意味を知ることが出来た気がした。この歳でまた一つ賢くなれたよかったな、と冗談を言う気力もなく、俺は瓦礫で塞がれてしまった退路を、傍観するしかなかった。
蜂の毒は廻っていく。俺が傍に気付くまで。
「……ひとまず、中の奴らを助ける」
「手伝おう」
「大丈夫なのか?」
「何、まだ少しふらつくが……五十嵐だ」
「あぁ、よろしく。俺は――」
――俺は、誰だ?
思い出そうにも記憶がない。事故のせいか?
いや、これはもっと……
「――よろしくな」
五十嵐と名乗る少年は、まるで満足のいく返事をもらったように握手を交わし、電車の中に入って行った。
ちょ、待て。俺は――
★
非常用のライトをかざし、無事な人に手を貸し、外へと送る。
誰のかもわからない荷物から、利用できるものを探り、応急処置に使った。
重症の者から外へと連れ出し、必要であるならシートを引っぺがしてそこへと座らせる。
「……ほら、ここで休んでろ」
「す、すまない……ありがとう」
「気にしないでくれ。こんな時はお互い様だ」
全員が……生きてる人全員が、電車の外に出られたのは、始めてから三時間くらい経ったころだった。
「これで全員だな。おつかれ、五十嵐」
「あぁ……じゃあ。みんな聞いてくれ!」
五十嵐の声が、空気を伝わりみんなの耳に届く。
案外、こいつはリーダーとか、そんなのに向いてるのかもしれねぇな。
どっかの紫も見習ってほしいもんだぜ。てか何だこの俺のリーダー=紫の方程式。どこで習ったんだどんな定理だよ。
「オレたちは電車の事故に巻き込まれて、現在閉じ込められた状態になってる。携帯の電波も圏外で、外とのコンタクトは取れない」
「オレたちが助かる方法はただ一つ、救助が来るまで生き残る。それしかない! 悪いが、誰か一人だけ助かろうなんて思いはここで捨ててくれ。まずは水と食料を共有して――」
「ちょっと待てよ!」
事故にあった中でも比較的軽症で済んだ、派手なニット帽を着けた目つきの悪い学生とそいつの取り巻きがつっかかってくる。
「その話し方からすると、水だの食料だのはお前が管理するように聞こえるんだが?」
「あぁ、そのつもりだ」
「ざけんじゃねぇよ、今日会ったばっかの奴を信用しろってのか!?」
「それは……」
当然と言えば当然な言葉が聞こえてきた。
俺だって、昨日今日会ったばっかのこいつが根から良い奴だなんて本当に思えるほど、酔狂な奴じゃない。
「……じゃあ、誰が適任なんだ」
「俺とかどうよ? 少なくともツレは、俺のことを良い奴って言ってくれてるぜ?」
ヒヒ、と帽子のガキとそのツレが意地悪く笑う。
「ふざけないでよ! あんたみたいなガラの悪い奴信用できない、私と彼で管理する!」
「そうだ!」
カップルなのだろう、寄り添い合う二人の男女が声を挙げる。
「んなもん疑ったらてめぇらだって怪しいだろうが!」
ここから水と食料を奪い合う論争に発展していった。
渇いた唇から貴重な水を飛び散らせ、血走った瞳にはもはや自分しか映っていない。おそらくこいつらの誰に管理を任せても、最終的には私欲に走ることだろう。
誰か一人だけ助かろうなんて思いはここで捨ててくれ――そう言った五十嵐の姿が思い出される。
わかってない。こいつらはこの言葉の意味も、五十嵐の思いも。何も理解しようとしていない。五十嵐の提案が、『自分が助かるために』言ったことではなく、『みんなを平等に助けるために』言ったことにすら気付けない。
「朱に交われば赤くなる」とはよく言ったものだ。この光景はまさに水の中に墨を一滴垂らすようなもの。
僅かな光から生まれた影が、ゆっくりと俺たちを呑みこむようで……俺は。それが、気に入らない。
連中のしようとしてることは一つ。貴重な物資を何としても自分が独占する、というもの。
しかしこれは、奴らも無意識下でしか意識できていないことだ(あの帽子野郎どもは知らねぇが)。信用のない人に物資は任せられない、という明確で強い建前がある今ならば、全員公平で平等な正当意見を以ってねじ伏せることが出来る。
この電車事故に巻き込まれ、生き残った者達の中で、全員から等しく信頼され、食料の管理を任せ得る人物……あるいは、食料を持ち逃げする可能性があろうがなかろうが、連中が
なら、自然と答えは決まる。
「んじゃ。その役、俺がするわ」
めんどくせーけど、と、聞こえないくらいの声で零す。
「お前とこいつらで何が変わるってんだよ」
「ぁあ? 誰に向かってその汚ぇ口開いてんですか? その素敵な帽子、口に突っ込んで窒息させんぞ。テメーを助けたのは誰だ?」
「……こんなの放っといても何もねぇよ」
ついさっき俺が見てやった腕の傷に、わずかに悔しそうに触れてから言う。
「他の奴らは違うだろーが」
目線で、周りを見るように促す。
いまだに苦しみの呻きが止まない状況をもう一度目に焼き付ける。
酷い奴は目も潰れて、骨折までしてる。
「俺は医学をかじってる。お前らを助けたのは俺と五十嵐だが、お前らを生かすも殺すも俺次第だ。そんな状況で俺を信じられないようじゃ、どの道みんな御陀仏だろ」
「なっ……」
どよどよと不安と期待が混じった言葉の渦が生まれる。
うーん我ながら惚れ惚れするほど最悪なセリフ。いやね、これでもオブラートに包んだんだよ? 包んだんだけど刺激が強すぎて溶けちゃったよね。ボンタンアメ剥き出しだよね。これは業者の方に問題があるよね。業者出てこい。
そう心でぼやいていると、ハハッ、と隣の五十嵐が喉を鳴らす。
「そうだな。食料の管理を任せようがそうしなかろうが、こいつに消えられたら、結局オレたちはもう生き残れない。ならいっそこいつを信頼する意味も込めて、任せてみようぜ?」
しばらくの静寂の後、わずかづつだが賛成の声が上がる。さっきの帽子野郎も、文句ねぇみたいだ。
★
「……イチゴ牛乳飲みてぇ。どっかに転がってねーかな」
一か所に集められた大量の水や食料などをなんとなく眺めながら、しきりに垂れるよだれを吐きだしつつそう言った。
(なんでこんなメンドクサイことに……)
あの時、みんなが荒れ始めた時。あのままだと何かを失う気がしたんだ。また失ってしまう気がした。
また。と言っても、俺にはその『また』の時の記憶がない。というか事故の前の記憶が全くない。自分の挙動や言動に不信感を抱くことはあっても、なぜそうするに至ったかを自分に言及することが出来ない。
というかそもそも、俺は自分の名前を知らない。
最初からおかしいんだ。
俺にはセンター試験なんて受けようとした記憶なんてないし、受けようとした理由に関しても全く知らない。まるで設定のように、物語の筋書きのように、貼り付けられた付箋に従って行動しているようですらあった。
正直、記憶もやる気もないのだから、ついでに言えば一緒に事故にあった連中を助けてやる義理も俺にはない。こいつら全員はっ倒して食料奪って救出まで生き残るのが、俺にとっての最善の手なのだ。
「……」
けど、無いはずの記憶が零す。『もう奪われたくない』と血ヘド吐きながら訴えかけてきやがる。
どうしても俺には、それを無視することができない。
考えろ。みんなが生き残る、みんなを救える可能性を。
今までのこと全てを思い出せ。脳みそが焼き切れようと、記憶が飛んでようと、そこにしか活路はない。
みんなが団結し、脱出まで一丸となれる可能性。
この暗闇から脱する可能性を、文字通り微かな光明すらない暗闇から探し出せ。鈍って錆びた刃を必死に研ぎ澄ませ。目の前の絶望なんざその剣で切り伏せろ。銀色の光で連中を導いてやる。逃げるのにはもううんざりなんだよ。失う怖さも、立ち向かう痛みも、錆びと一緒に落として行け。
一瞬に執着しろ。自分達が生きているこの一分一秒を何よりも敬え。そこで止まらず、満足するな。考えろ。次の一瞬を生き抜く術を。
たとえ一寸先が闇だろうが、そのたかだか三センチを全力で美しく生きろ。
――俺が素直に言うことを聞くと思ったか? 台本なんて貰ったその日に失くしちまったよ。だが幸いにも俺はアドリブを売りにしてんだ。設定だろーがなんだろうが関係ねぇ、好き勝手やらせてもらう。
水と食料の配給や計算が一息ついたころに、肩をぽんぽんと叩かれる。
見ると、そこには五十嵐が立っていた。
「ありがとよ、さっきはうまくまとめてくれて。危うく収集つかなくなる所だった」
元々軽症なのか、具合が良くなってきたのか、五十嵐は俺の肩を豪快につかんで言ってくる。
「……俺はただ、自分が少しでも生き残る可能性が高い地位と、それに就く口実が欲しかっただけだ。それより、何かヤバそうな奴がいたらすぐ俺に言え。あと、悪ぃが動ける奴ともう一度、電車の中を探索してみてくれ。まだ何かあるかもしれん」
「……の割にみんなの様子を気にかけるじゃねぇか?」
「うるせぇなそのニヤケ顔やめろ腹立つ。俺は出口を見てくる。ちょっくらライト借りるぞ」
「はいはい。んじゃ精々オレは、お前の右腕として尽力させていただきますよ」
「何でそんなに楽しそうなんだよ……じゃな」
★
ライトをかざしながら、暗闇を歩く。足音がいちいち反響するから無茶苦茶不気味だ。ユーレイとか出ないよね? コレ。
だけど、もしも出口が開いてたら外に出られる。みんなを助けられる。
その気持ちが俺の足取りを速く、軽くさせた。
――思えば、甘かった。
「――――……」
神は、そう思うことでさえも、希望を持つことでさえも、
「何だよ、これ……」
徹底的に、許さない。
必死に絞り出した希望を、湧いてくる絶望が根こそぎ蹴散らしていく。
明確で巨大な壁となって。
「こんなの、どうすりゃ――ガッ、ハ……っ!?」
必死に押し殺していた毒が、じわりじわりと俺の腹に広がる鈍い痛みに変わってきた頃に、俺にもようやく少しづつ、気付けるようになってきた。なってしまった。
傍らで笑う、死神に。
★―次回予告―
「いやーついこの前久々の更新だと思ったら何だこれ? 何で突然電車事故に巻き込まれてんの俺訳わかめなんですけど……はて、電車事故? 前にもこんなことがあったような、なかったような……」
日向「おぉ久々の登場だな、って……あれ? お前、いやアンタ誰だっけ?」
「おいおいいきなり出てきて失礼だぞ日向。俺の秘技・木遁の術であの世に送ってやろうか?」
日向「いや、ここあの世だしそれ木の葉にて最強な方の日向さんだから……にしてもそのボケのセンス、いや喋り方か? どっかで……」
日向「確か白髪で、赤毛で。だらしねぇマヌケ面してて、イケメンで。イチゴ牛乳好きで、コーヒー好きで。――あれ? ますますわかんねぇ」
「ま、アホ日向がいくら考えても無駄ってこった。そのうち、俺の正体もわかるかもしれないぞ?」
日向「……それもそうだな!」
「納得するのかよ……一応原作見てない人にもわかるように書いてるつもりだが、ちょっとよくわからないって人がいたら申し訳ない。とりあえず、次回。His Memory②。楽しみにしててくれ」
日向「あ、わかった! 坂無銀結さんだ!」
「誰だソレ……じゃ、また今度ー」
おしまい
はい。今日はこれで終了です。いかがだったでしょうか?
今回は主観の人物が変わったので、文体も少し変えてみました。
セリフよりも地の文を多くして、いつもの台本形式を普通の小説形式にしました。変わってないと感じた方にはスミマセン。
ともあれ、連続投稿二回目終了です。次回は来週中に一回投稿したいと思います。