Angel Beats!~ちょ、俺まだ死んでないんだけどオオオオオオオオ!!~ 作:日暮れ
第二十五訓
この景色を見るのも、もう何度目になるだろう。
紅く染まる空。わずかに感じる風。授業終わりで下校したり、これからの部活に喜んだり悲しんだりする空気。晩御飯のことを考えてうっとりしてる女の子や、その女の子のことを見てうっとりしてる男の子。
青春だなぁ。
ドラマで見たような光景に思わず笑みが零れる。
ここは幸せな場所。ここにいれば私はなんだってできる。歌うのだって、ギターを弾くのだってできるようになった。他にもまだまだたくさん、叶ってないことはあるけど、なんたってここは夢みたいな理想郷。きっと全部叶うはず! いや叶えてみせる!
――あ。
でも一つだけ、この世界に言いたいことがあるとするなら。
あの窓越しの夕焼けのほうが、綺麗だったな。
★
「あーちぃぃぃ……」
俺こと坂田銀時は、最早生ぬるい熱風を延々と送り続ける不毛な機械となり下がった扇風機にそれでもしがみつきつつ思っていた。
ヤツらを救うにはどうしたらいいのか、と。
救う、なんて上から目線な粋がったセリフ言いたかねぇが、どうやら俺がこんな世界に呼び出された理由もその辺にあるらしい。
俺は元の世界で死んでない。そもそも俺がもし死んだとして、情状酌量の余地なく閻魔の野郎が地獄に叩き落すだろう。こんな世界に来ること自体がまずない、ありえない。
俺に残されはヒントは
生前妹を救えず、結果的にこの世界でも誰も救えなかったと嘆いていた少年。俺の代わりにあいつらを救ってほしいと万事屋の俺に依頼してきたお人よし。
つまりは俺はそいつの依頼を請けちまって、こんな
何てややこしい依頼請けちまったんだ俺。
どーーーーーーーーーすっかなぁ……
扇風機のスイッチを、無駄に入れたり切ったりしながら考える。
カチ。カチ。カチ。
秒針の音と重なる。
カチ。カチ。カチ。
「……めんどくせぇ」
なんで俺があのガキどものために頭を悩まさないといけないんだ、アホらしい。
思えばこの数日はバタバタしすぎてた。碌に飯もくってねぇからか、腹の虫がうるせぇし。
立華のヤローがやっとこさガキどもと打ち解けてきたと思ったら立華の分身が襲撃かけてくるし、その分身がまた分身してそれがエリザベスになったりして――
……。
「そーいやすっかり忘れてたが、あのエリザベス天使はなんだったんだ?」
思考の奥へと身を落とそうと一呼吸置いたころに、それを阻むかのように
コン、コン。
と、部屋のドアが鳴った。
「どうぞー」
入ってきたのは、何処かでみたNPCの女子生徒だった。
左目の眼帯がよく目立つ。
「こちらお悩み相談所、通称万事屋でーす。お客さん、今日はどういった用件で?」
『え、いや。今日はお悩み相談とかじゃなくて……いや! 確かにそれもあるんですけど』
こ、これ……。
そう言って差し出してきたのは、いつかどっかで見た弁当箱だった。
「これ……俺にか?」
『は、はい。この前、渡しそびれたので』
渡しそびれた? 前にも渡そうとしてたのか?
いや、待て。似たようなことがあった。あれは確か2年前……じゃなくて! 3日くらい前か?――
――へ? それって……私、先生に食べられちゃうってこと? あられもない姿になった私を銀時先生が優しく包みこんで作者の能力ではとても表現しきれないくんずほぐれつアハンウフンなことになっちゃうってこと!? 保健室や体育倉庫や中庭で!? ナニソレ燃える! むしろ萌える!!――
「あの時俺に弁当渡そうとしたド変態ヤローか!!」
『最初からそう言ってます。というか、それ本当に私が言ったんですか……?』
あの時の女子生徒か。すっかり忘れてたぜ……思い出せない方はEPISODE.7 Aliveの第十九訓を確認してね! その勢いで一話から読み返してね!
言われてみれば雰囲気がちょっと違うが、今さら何の用だ? 弁当だけ置いてさっさと失せやがれ。
そういうと軽くショックを受けたような表情をした後、ゆっくりと左目の眼帯に手を伸ばした。
――全身の毛穴から汗が噴き出る音が聞こえた。
「こいつは……」
隠された左目は、まるで血を映したような朱色をしていた。
同じ目をしたやつを、俺は一人知ってる。
あの、ハーモニクスで生み出され、俺たちに剣を向けた、第二の天使。
エリザベスでない、立華奏。
★―学園大食堂 内―
「……それで、どうしてこのメンバーなんです?」
イチゴパフェと先生の不機嫌顔を堪能しつつ、私――遊佐は、先生に聞き返した。
事の始まりは今日の正午過ぎ。うわのそらな様子の銀時先生を見つけ、なんとなく声をかけてみたら、彼が「パフェ奢るからついてこい」と言われ、今に至るのである。
それはいい。それはいい、……んだけど。
「……? なんですか? 私の顔に何かついてますか? このクラ」なんで
「……話を整理していいか?」
頭を抱えた様子の銀時先生が私たち二人に向かって語りかける。
「構いませんが……一体私たちはなんの用件で呼ばれたのでしょうか?」
「頭が足りん。手伝え」
「問答無用ですか」
「あん? だったらいつだったか貰った『遊佐にいつでも何でも頼める券』使ってやろーか? なんでもいうこと聞かせてやろーか?」
「そういえばあげましたねそんなものも。使わなくて結構です」
それはもっと、なんというか、使いどころを考えてほしいというかもっとゴニョゴニョな時用に取っておいてほしいというか……
「おーい、遊佐さーん? ……返事がねぇ、屍のようだ」
「大して違わないですけどね。ていうか、僕をおいてけぼりにして話を進めないでください」
……ああ。一瞬どこかに飛んでしまっていた。ええっと、なんだっけ……
そこから数十分。彼の今朝あった話、それとあの時出現した、不可解な天使について説明を受けた。
天使や他のどさくさに紛れてうやむやになっていたけど、確かにあの天使の姿は異常だった。
あの時の姿は銀髪をたなびかせるどこか神々しい天使とは全く違い――それどころか人間のあるべき姿とは全く違い、なんというか、ペンギンおばけのような恰好をしていた。ちょっとだけかわいいと思ってしまったのは秘密です。
しかも話を聞くとどうやらあのお化けは銀時先生の生前の知り合いの姿をしていたという。その上で中身は天使……。
というかあのお化けとお知り合いって、先生の交友関係がとても気になります。
「そこはどーでもいいんだよ。重要なのは次だ」
「では、次は僕が」
軽くPCにメモをとりながら、竹山さんが説明を引き継ぐ。
「今朝、ある一般生徒の少女が先生のもとを訪ねてきた。その生徒は以前銀時先生と接触していたことがあり、その時はNPCとは思えぬ言動をしていた……」
「彼女は眼帯で左目を隠しており、その下は……第二の天使と同じ、朱色であった」
「今朝会った際には一般生徒らしい落ち着いた雰囲気、言動をしていた。彼女の話では『ここ数日間の記憶がない。記憶がなくなる直前は、激しい嫉妬にかられていた。記憶が戻った時には自分はよくわからない地下の施設跡のようなところに横たわっており、そこから仲村ゆりが助けてくれた』とのことでしたね」
「あいつからは聞いてなかったんだがな」
「特に話すようなことではない、と戦線の皆には伝えていませんでした」
「続けます。記憶がない中、彼女が唯一感じてたことは、激しい敵意のみだったといいます」
竹山さんが言い終えたあと、わずかな静寂が訪れる。事の異常性に触れて、次の一言が出なくなっているのかもしれない。
「……確か、似たようなことがありましたね」
「似たようなこと、とは?」
第一声を放った竹山さんに、聞き返す私。
「戦線の記録では、掛けたら個性が身につく――具体的には、ツッコミのキレが増す眼鏡が一時期出現した、とあります。しかも、この時も先生は、『この眼鏡には知り合いが宿っている』と仰っていたそうです」
「……あぁ」
「これらの情報からの、あくまで推測ですが」
竹山さんが口を開く。
「銀時先生のお知り合いがなぜこの世界に、という現象の理由はわかりません。それ以外の、天使の異常な姿と少女の話についての推測です」
「天使のガードスキルは、Angel Playerによって作成されたものです。僕も少しだけ触ったことがあるのでわかりますが、基本はプログラミングソフトと何ら遜色ありません」
「であれば、あれはプログラミングが不十分であったハーモニクスのバグ、ではないかと
考えられます」
「バグ? あのスキルは完璧じゃなかったってことか?」
「はい。おそらくは」
竹山さんは、自分の経験則から導きだした考察を、ゆっくりと、要点を押さえて語り始めた。
――ハーモニクスとは本来、使用者本人(この場合は天使)の身体を2つに増殖させるスキルである。
しかし、プログラミングの不具合により、その増殖対象は身体どころか精神、つまり魂の部分のみになってしまった。身体がなければこの世界には存在できない。
天使の精神はこの世界を一瞬のうちにさまよい歩き、その時の自分の魂に則した肉体を探した。つまり……敵意と憎しみに満ちた肉体を。
そんなとき見つけたのが嫉妬心でいっぱいだった今朝の彼女。魂は彼女に宿り、彼女は第二の天使として私たちに剣を向けた――
「そして第二の天使のハーモニクス時にも同じ現象が起こり、あのペンギンお化けに天使の魂が宿った……と?」
「エリ……あのペンギンが肉体も増殖可能だった理由は?」
「そこまでは……わかりません」
竹山さんが軽く肩を落とす。そんな、ここまで推理してくれた時点で出来すぎなくらいなのに。普段みなさんからバカにされてても、やっぱりこの人はクライストだ。
「そっか……いや、サンキューな」
そこまで言って、先生は私たちに帰っていいといった。
「……あの、先生」
「んだ遊佐、下校時間だって言ってんだろ。さっさとおうちに帰りなさい」
「いえ。たいしたことでは……先生」
私たちに、まだ隠し事してませんか?
そこまで質問すると、先生はなんとも言い難い、後悔に似た表情を作ってみせた。
「……女ってのはどーしてこうも目敏いかなぁ」
「先生がわかりやすすぎなだけです。安心してください」
「やかましいわ」
悪態をつきながらも、彼はその『隠し事』を話してくれた。
実は銀時先生が死んでここに来たわけではないということ。
生前の世界で、この世界にいたという音無弦結という青年の依頼によってこの世界に来てしまったこと。
その青年の願いが、この世界から死んだ世界戦線のみんなが救われて消えていくことだということも……
「あの時、体育館で言ったことは別にこいつに願われたからとかじゃねぇ、俺の本心でもある」
「いつまでも囚われてちゃいけねーんだよ。その苦しみを知ってる俺が言うんだからな、間違いねぇさ」
今の先生の話を反芻し、何とか理解する。言葉にするのがとても難しく、次の言葉を発するのにとても時間がかかってしまった。
「……つまり、今の先生は死んでないのにこの死後の世界にいる、勝手に遠くに行ってしまって帰れないでいる飼い犬みたいな状態、ということですか?」
「誰が飼い犬だ無表情女……まぁ、そういうことだ」
勝手に遠くに行ってしまって帰れないでいる犬、という例えで進めるとしたら、今の先生に首輪とリードはついている。リードはここと、先生の元いた世界をつないでいる……
先生の言っていることがすべて事実であるなら、と前置きして私も話を始める。
「貴方が完全な形でこの世界に来ているのではなく、どこかであの世界と繋がっているのなら」
「その『どこか』をたどって貴方の元の世界の方が来ても、まぁ説明はつくのではないのでしょうか」
「……!!」
「あの、ツッコミが達者な眼鏡の方は魂のみで眼鏡を依り代にでしたが、ペンギンの方はその繋がりをたどってこの世界に来て、騒動のあと帰っていった……のでは?」
「自分の意志で、とは言いませんが」
言ってて頭が痛くなる。
この世界で全く前例のない現象について追っている。確証もなにもない、すべて推測の話ではあるけれど、
何かが、少しづつ繋がってきている。
★
「……あんがとよ。大分考えがまとまった」
「気にしないでください。パフェのお礼です」
あ、あと。と、また話をつなげる。
「あの一般生徒の女の子から、以前弁当を貰ったんですよね? それはどうしたんですか?」
「あん? 仲村のせいで貰いそびれちまったよ。ったく、あの野郎……」
「……その少女の気持ち、わからなくもないかもです。」
「あ?」
「なんでもありません」
嫉妬心。こんなわずかな炎が、私たちを危機に陥れる業火になってしまうなんて……
私も気を付けよう。
「今朝そいつから改めて弁当貰ってさーこれがうめぇのよ意外と」
「死んでください」
「なんで!?」
お久しぶりです! 身の回りが落ち着いてきたので投稿させていただきました。
今回の内容は主に謎解き、複線回収となっております。
なにかわからない点などあればどしどし質問してください!答えられる範囲で答えたいと思います。
質問の答えが返ってこなくても心配しないでください!自分が書いているのにわからないとかそういうんじゃないんです。一応。ただちょーっと眠たいだけです!それかあれです、風邪ひいてるんです!たぶん
それではまた次回もよろしくお願いします!