「ふぁ~」
もう朝か……。
「面倒臭いけどいきますか」
身だしなみを整えて家をでた、
30分ほどかけて『東方不動産』に着いた。
「おはようございます」
「おはよう~ 花衝"はなつく"君」
先輩のアリスさんと挨拶を交わす。
いつもの日常である。
新卒で入って、早一年が経過し、
ようやく仕事に慣れて来た感じだ。
自分の席に座りパソコンを立ち上げ、
お客様からメールが来てないか確認。
ふと隣の席を確認すると紅茶が湯気を立てており、
隣の方はどうやら出社はしているが、席を離れているようだ。
「うーん……」
メールを確認したが、大したメールは着ていない。
「ふぅ……よかった」
「あら おはよう」
「おっおはようございます」
隣の席の風見さんが帰ってきた……。
この、お姉さんは俺の一つ上の先輩で、
最初に仕事を教えてくれた人なんだが……。
こわい……とてつもなくこわい……。
ミスったら殴られるとかそういう怖さではないが、
強烈な威圧感があり、教えてもらっているときは変な汗が止まらなかった……。
やっぱりミスったら殴られる怖さもあるわ。
「じゃあ行ってきます」
上司に一言伝えて、
早々と外にでた、決して風見さんが怖いからではない。
お客さんとの約束があるからだ、怖いからではない。
だいぶ時間に余裕があるが、
なにかあってもいいように余裕を持って出たいからだ、
怖いからではない。
――
―――
――――
お客様との交渉はうまく進み、物件を預かる事ができた。
上司に電話で結果を報告して、事務所に戻った。
事務作業の処理に少し時間が掛ったが何とか終わった。
「20時か……帰ろう……」
本来なら18時30分までなので、残業になってしまった。
事務所の中には誰もいなく、俺以外は帰っていた。
会社帰りに外食するのが楽しみだったりする。
会社を後にし、夕飯を目当てで外に出た。
この辺りには飲食店が多く、いまだに行った事がない店がたくさんある。
「今日は なに食べようかな~」
道を歩き、適当に散策していると。
「あれ?」
目の前に二人で歩いている姿が見える
片方は、なにか見た事がある後ろ姿が……。
「たぶん風見さんだ……」
触らぬものになんとやらだ視界に映る前に消え失せよう。
悟られるように慎重に立ち去ろうとしたが、何か様子が変だ
暗くてよく分からないが、一緒に歩いている男が絡んでいるように見えた。
「……」
頭で考える前に風見さんの方に向かっていた。
「いいじゃんお姉さん うち安いからさ~」
「……」
「無視してんじゃねーよ!」
「あ~もう うっざいわね!」
風見さんは男を手ではじき飛ばした。
「このやろ!?」
よし! その間に俺が体をねじこめば……。
「やっやm」
俺が一瞬見えたのは風見さんが足を振りあげて
ハイキックをぶっ放した瞬間だった。
タイミング悪く顔面に食らい……倒れた……俺が……。
なんてタイミングが悪いんだろう……
倒れる瞬間にそんな事を過った。
「あぁ!? 花衝君!?」
「あ~あ 俺しらね~」
「こら!? 逃げるな!?」
――
―――
――――
「うぅ……」
「やっと起きた……よかった……」
「ここは……いてて……」
「だっ大丈夫?」
「なっなんとか……」
顔面の痛さに比べて、ムニムニして気持ちよく後頭部が妙に心地よかった。
あっこれ膝枕だ。
「おきおき起きます」
無理やり体を起こした。
まだ多少痛いが、なんとかなりそうだ。
人気のない細い路地で、どうやら介抱されてたらしい……。
あの怖い風見さんが……。
「ごめんなさいね」
「だっ大丈夫です平気です……はい……」
「本当はもう少し居たい所だけど 私も用事があるから」
「わかりました 本当に平気なんで……はい……」
「あなた ボケっとしてるけど意外と勇敢なのね」
「……ども」
「じゃあ また明日」
「はっはい」
風見さんは夜道に消えていった。
明日仕事なのに、これから何処か行くのか……元気だな。
――
―――
――――
いつも通りに出社し、自分の席に着いた。
「おはよう 花衝君」
「おはようございます」
「昨日はごめんね」
「いえ いいんです 少し運が悪かっただけです」
正直、膝枕の心地よさで『まっいっかな』って感じである。
「花衝君? ちょっといいかな?」
上司に呼ばれた。
「なんでしょうか?」
「これを頼む」
書類作成のお願いだ。
どっちみち、今日は事務所にいる予定だったので、
差支えはない。
仕事をこなしていると、もう昼だ。
キリがいいので食べに行こうかな。
「ねえ?」
「はい?」
風見さんが話しかけてきた。
なんだろう? 殴られるのかな?
「そろそろ お昼に行く?」
「そうしようと してました」
「昨日の事もあるし お昼は奢ってあげるわよ」
一瞬『NO』と言おうとしたが怖いので従う事にした。
「わかりました お言葉に甘えます」
「早く行きましょ」
風見さんと一緒にお昼を行くことに。
どこにしようかな……。
「どこにするの?」
できれば風見さんに決めて欲しいのだが……。
「ラーメンでいいですか?」
「いいわよ」
よく行くラーメン屋に連れて行くことにした。
事務所を出て、エレベータに乗った。
「そこのラーメン屋は近いの?」
「近いです」
「ふ~ん」
外に出て、2分程歩き着いた。
「ここです」
「へぇ~」
そっけない返事が返ってきた。
ラーメン屋の外観なんて感想を述べようもないか。
「へい らっしゃい2名様で?」
「そうです」
「テーブルが空いているので奥にどうぞ」
タイミングがよく、お昼時でも並ぶ事なく入れた。
「う~ん」
風見さんはメニューを見て悩んでいた。
「あなたは もう決めたの?」
「はい」
まあ、いつも同じものしか頼まないからな。
「あなたと同じでいいわよ」
「えっ? いいんですか?」
「いいわよ」
「わかりました」
俺は結構食べるので、
半チャーハンのセットを頼むつもりだったが、
いいのだろうか?
女性の方にそんな大盛りの物を……。
……何度も聞き返すと引っ掻かれそうなので、やめた。
「すいません 注文いいですか?」
「はい」
「このAセットを二つ」
「畏まりました」
後は待つだけだ。
「仕事はどう? 順調?」
「普通ですね」
風見さんも営業なのだが、
暴力で屈服させて契約をとるのだろうか?
「あなたは いつも外食なの?」
「そうですね」
「夕飯も?」
「そうです」
一人暮らしをするときに、調理道具を一通り揃えたが
ほぼ未使用状態です……あははは……。
そう言えば風見さんは弁当が多いな……。
料理が碌にできない俺からすると尊敬する。
「はい どうぞAセットです」
きたきた。
半チャーハンと家系ラーメンのセットだ。
「あなた こんなに食べるの?」
やはりちょっとビックリしている。
「あっはい」
「細身だから小食だと思ってた……」
やはり聞けばよかったかな。
……
……
「ふぅ~ 食べた食べた」
「すごい太りそう……」
風見さんもなんだかんだで全部食べていた。
「さてと戻りましょうか」
「はい」
午後からも面倒臭い仕事を頑張りますか。
――
―――
――――
事務所に戻りキーボード音を響かせていると
「う~ん」
風見さんは何かを悩んでいる様子だ。
いつもはアリスさんに相談するのだが、今はいない。
「ちょっといいかしら?」
「はい?」
案の定きた。
「これ なんかおかしいんだけど」
パソコンの画面を俺に見せて、一言そう申し上げた。
どうやらエクセルで何処か触って、うっかり保存したみたいだ。
それぐらいなら、任せろ!
「これはですね」
俺は席を立ちあがり、風見さんの背後に回りこむ。
すごいいい匂いがする。
なんで女の人って、いい匂いがするんだろうか?
不思議でしょうがない……。
「難しい?」
一瞬トリップした。
「ああ いや そんなことないですよ」
背後からパソコンを操作して、数式を修正してあげた。
「ありがとう」
「いえいえ」
人から頼りにされるのは悪くないな。
このやり取りを皮切りに風見さんと話す事が多くなった。
――
―――
――――
「早く戻らないとやばいな」
今日は、お客様との約束の時間が遅く、
事務所に帰る時間が大変なことになっていた。
就業時間は過ぎているので、直帰しても文句は言われないのだが、
今日は一日外にいて、メールと書類の確認がしたいので戻る事にした。
事務所に戻ると。
「あれ 戻って来たの?」
風見さんだけが居た。
「一日事務所にいなかったので」
「真面目ね」
「そうですかね」
その理論でいくと、
この時間まで残っている風見さんも真面目だと思うけど……。
早くメールの確認をしないと、
慌ててパソコンのメールを見てみる……。
「……よかった」
重要なメールは来ていなく、
自分の机の上にあった書類もすぐ終わるものばかりだ。
思ったより早く帰れそうだ。
「どう? 帰れそう?」
「30分もあれば」
「あらそう そういえば 今度の飲み会は来るの?」
「あ~」
正直、こういう飲み会は好きじゃなかったりするのだが。
「たまには来なさいよ」
「じゃあ行きます」
「了解」
風見さんは帰る準備をしつつも、
隣でハンドクリーム塗っていた。
「……」
「これはこうしてと」
「手を出して」
「あっはい」
手を差し出した。
なんだろう? 切り落とされるのかな?
「最後の一絞りだからって出し過ぎちゃった」
俺の手をマッサージするように、クリームをつけてくれた。
手も疲れていたのだろうか? すごく気持ちがいい。
「はい 終わり じゃあね~」
「おっお疲れ様です」
気のせいか、手が軽くなった気がする。
「頑張りますか」
仕事を片づけて、家に帰った。
――
―――
――――
今日は会社の飲み会なので、定時には余程の事がなければ強制終了の日だ。
まあ、事務所の人だけでやるので10人もいない飲み会なんだけどね。
今回は、中華料理屋で飲み会だ。
店に着くと予約を取ってあり、宴会席に案内された。
俺は一番端っこに座ったのだが。
「よいしょっと」
なぜか風見さんが横に座ってきた。
少し慣れてきたとはいえ、怖いものは怖い。
というかアリスさんの近くに座ればいいのに……。
そう思って周りを見てみるけど。
どうやらいないみたいだ。
あれ? 欠席? 珍しい。
周りのガヤで聞こえたが、アリスさんは用事で欠席らしい。
なんてこったい。
「みんなそろったか?」
上司からの全員に対する問いかけだ。
「「「はぁ~い」」」
「みんないるみたいだな それでは かんぱ~い!」
「「「かんぱ~い!!!」」」
生ビールをグイッと飲みエビチリを頬張る……幸せだ。
隣にいた風見さんはいつの間にか、席を移動しており、
女子グループに混ざっていた。
俺は、近くにいる人と、どうでもいい話で盛り上がっていた。
当たり前の事だが、明日は休みなのでかなり遅くまで飲み会は続いた。
「さてと そろそろかな お~いみんな」
上司の一言で、飲み会は終わり、みんな帰っていった。
「じゃあな花衝」
「お疲れ様です」
俺も帰るかな。
帰ろうとしたら、腕を掴まれた。
「なっなんぞ!?」
「ごっごめん ちょっとお願いが」
風見さんだった。
「なんでしょうか?」
このまま、腕を折られるかどうかの心配をしてしまった。
「一度さっきの店へもどりましょ」
「あっはい」
よく分からないけど、店に戻る事になった。
「あら どうなさいました?」
店に戻ると店員さんが不思議そうな顔をしていた。
「すいません 忘れ物をしまして」
「そういう事ですか どうぞどうぞ」
先ほどまでいた、宴会席に戻ってきた。
「なにを忘れたんですか?」
「忘れたというより 無くした」
「???」
「……ピアス」
「なるほど」
これで全てが繋がった。
恐らく一人では探せないから、近くにいた俺を誘ったのだろう。
「店も閉まっちゃうから 早く探しましょ」
「わかりました」
二人で虫のように、這いつくばって探した。
そのピアスは、結局みつかる事がなく、店が閉まってしまった。
「実は亡くなってしまった彼が買ってくれた物なの……」
それを聞いた俺が死にもの狂いで探すという熱い物語は
…………あるはずもなく。
「ありましたよ」
割かし早くみつかった。
「ありがとう」
よかったよかった。
「あれあれ」
「今度はどうしました?」
「……つけられない」
たぶんお酒で手が、おぼつかないのだろう。
というか、そのまま着けずに帰るという選択はないのだろうか?
「つけてよ」
「ふえ!?」
一方的にピアスを渡された。
俺はピアスをしてないし、ましてや人に着けたこともない。
でも否定すると後が怖いので……言う事を聞くことにする。
風見さんの耳たぶを触りピアスを……。
わあ……耳たぶってこんな感触なんだ……やわらかいな……。
つーか特別仲がいいわけでもないのに、こんなことをしていいのだろうか?
何度も耳を触り、苦戦しつつも、つける事ができた。
決して耳の感触を楽しみたいのではなく、ガチで苦戦した。
そう苦戦しただけだ。
「どうでしょうか?」
「うん ばっちり♪」
ここに、いつまでも居る訳には行かないので店を出た。
「……」
「……」
「……」
「……」
お互いに黙りながら歩いた。
駅までの距離は短いし、
変に話を盛り上げても仕方がないからだ……と俺は思ってるけど、
風見さんはどう思ってるかは知らん。
黙々と歩き駅に着いた。
「じゃあ俺はこっちのホームなんですけど風見さんはどっちでしたっけ?」
「……」
「風見さん?」
「今日 あなたの家に行っていい?」
どうしたんだろうかこの人は?
「ダメ?」
「いえいえ いいですよ」
怖い人だけど、やっぱり美人には勝てないよ。
そんな事を話している内に電車が来た。
この時間だと車内は空いており、二人とも座る事ができた。
「あなたの駅はどのくらいなの?」
「20分くらいですかね」
「そうなんだ」
風見さんは携帯を取り出した。
なんだろう? その携帯で殴り殺させるのかな?
「これ私のLINEのID」
「ありがとうございます」
連絡先の交換だった。
「あなたは音楽は聞くの?」
「まあ聞きますね」
「私もよ これ聞いてみてよ」
右のイヤホンを俺の耳に左のイヤホンを風見さんの耳に入れて
風見さんの携帯から音楽を聞いた。
「♪~~♪~♪」
いくつか聞いて、幽閉サテライトのメビウスだけが分かったが、
後は知らない曲だった。
「着きましたよ」
「はい」
駅から歩いて5分ぐらいで俺の家だ。
「ここです」
「近いのね」
オートロックを抜けて、自分の部屋に到着した。
「いい部屋じゃないの」
「そうですかね」
1LDKの普通の部屋だと思うけど。
「片付いているのね」
「荷物が少ないだけですよ」
家に招き入れて気がついたけど、もう終電なんか間に合わないよな……?
まさか……泊まる気じゃ……?
まっいっか。
風見さんをリビングに通した。
「とりあえず 座ってください」
「はい」
紙コップにお茶を入れて出した
「押しかけて 悪いわね」
「いえ 気にしないでください」
とりあえず、理由ぐらいは聞いておくか。
「急にどうしたんですか?」
「なっなんとなく……」
「さっさいですか……」
「……」
「……」
また沈黙
「ねえ?」
「はい」
「あなたの事をもっと教えて」
「自分の事ですか?」
「うん」
いきなり自分の事を教えてと言われてもなぁ……。
「好きな料理とか趣味とか なんでもいいの」
そういう事ね。
「あなたの事あんまり知らないから お話したかったの」
今日の風見さんなんか、可愛いな。
「そうですね……」
自分の事を洗いざらい話した……
と言っても、自分のことなんて大した話はできず、
むしろ風見さんが傘を集めるのと花が好きな事に驚いた。
色んな話題で盛り上がり、時計を見ると2時になっていた。
「あなたは明日 予定ってある?」
「特には」
「一緒に出かけない?」
「いいですよ」
「そうと決まれば、早く寝ましょ」
「あっはい」
「私はどこで寝ればいいの?」
「俺のベッドでよければ」
「いいの?」
「いいですよ 鍵はここに置いておくので 勝手に使ってください」
机の上に鍵を置いた。
「わかった いろいろありがとね」
「いえいえ」
早速、風見さんは外に出ていった、恐らくコンビニにでも行ったのだろう。
俺はお風呂に入って、リビングのソファーで寝た。
zzz
zzzz
zzzzz