俺と君を繋ぐ音   作:小鴉丸

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こころ回です。
タグと違うなんて思わないでくださいね?


第五話 俺に似ていた彼女

〜奏side〜

 

 

「ひっ!」

 

俺と目が合うと怯える。

そのまま俺は彼女の目の前に行き――。

 

「昨日は悪かった」

 

頭を下げた。

 

「……え?」

 

「別にあそこまで言うつもりはなかったんだ。だけど過去についてとなると勢いで行動しちまうから……その、反省してる」

 

「…………」

 

彼女が今、どんな顔をしているのかは分からない。でもさっきは泣いているのは分かった。

 

「……って」

 

「?」

 

声が小さくて聞き取れなかった。でも何か言ったのは分かるんだが……。

 

「こっち、座って」

 

ベッドの反対側を叩いている。

俺は言われるままに座る。彼女とは背中を合わせる形で座っている。

 

「何をしに来たの?」

 

「謝りにだ。流石に初対面の、それも女性を泣かせたなんて男としてどうかと思ったからな」

 

「…………」

 

「…………」

 

そしてお互いに無言が続く。

 

「あなたは……」

 

それを破ったのは彼女だった。

 

「もう、音楽はしてないの?」

 

答えるのを一瞬躊躇う、だが答えないといけないと思った。

 

「あぁ、三年前に辞めた」

 

「……どうして?」

 

「夢を否定されたから」

 

「――っ」

 

昨日俺が言った言葉に“みんなを笑顔に”とあった。まさにそれだ。

俺はそれを否定されて音楽を辞めた。

 

「バンド仲間の全員が親やその友達に『その行動は意味が無いから辞めろ』『時間の無駄だ』『それよりも楽しい事がある』と言われて全員が去っていった。その前に俺にも一緒に辞めようと言われたが、俺はそれを断ったさ」

 

当時の事を思い出す。

 

「一人、支えてくれた人がいた。俺の音を聴いてくれた人」

 

「……親?」

 

「いいや違う」

 

自分の親よりも近くにいた幼馴染み。

 

「幼馴染みの少女、で一番の親友。そいつが隣に居てくれたから、一人でも頑張れた」

 

笑顔で居てくれた、どんな時も楽しいと言ってくれた。

 

「でも俺はそいつの期待を裏切ったんだ。自分は一人だった、って気づいたよ」

 

バンドを組んでいた時は周りに人が多かった。

 

けど誰もいない。

 

「現実を受け入れた。夢から逃げた。なのに幼馴染みは俺と入れ替わるようにドラムを始めた」

 

音を捨てた俺と音を掴んだ花音。それはまるで、逃げないでと言うように……。

 

「っと最後のは関係ないな。まぁこれが辞めた理由だ。簡単に言えば“一人になった”からだな」

 

「……あたしも一人になるのかしら」

 

俺が話終えるとぽつりと少女が言う。

 

「薫、美咲、花音、はぐみ……バンドを辞めて一人になるのかしら。あなたみたいにあたしには親友と呼べる人はいない、人は笑ってくれるけどみんな距離を置いてる様に思えるの……」

 

弱く、今にも消えてしまいそうな声。

 

「あたし達は今はうまく進んでるけど、止まる日が来るのかしら、一人になる日が来るのかしら」

 

声が震えていた。

想像してしまったのだろう、その自分を。

 

「俺が――」

 

「え?」

 

「俺がお前の傍に居てやる」

 

自然と口が動いていた。

 

「俺とお前はどこか似ている気がする。そんなお前をほっとけない」

 

あの時傍に居てくれた花音。それがどれほど俺の支えになっていたか、本人は分かってないだろう。

 

「あんな事を言った俺を信用しろなんて言わない、けど俺はお前を支えていたい」

 

それはきっと俺の本心なんだろう。それと花音の音を聴いていたいというのもあるのかもしれない。

 

「自分の諦めた夢を、お前を支えて見てみたい」

 

もしもそれが叶うのなら……。

 

「もし、よかったら手伝わせてくれ。お前達が奏でる音を、お前の夢を」

 

言い終えると最初のように無言になる。

おそらく十秒くらいなのにとても長く感じた。

 

「――ねぇ、こっち向いて」

 

言われ振り向く。

すると。

 

「んっ――」

 

彼女が腰に手を回し顔を俺の体に埋めてきた。僅かになびいた髪からは女の子特有のいい匂いがしドキドキする。

 

「少し……このままでいさせて」

 

「あぁ」

 

 

 

何分そうしていたかは分からない。

落ち着いたのか彼女が話してくれる。

 

「こんなあたし誰にも見せたことなかった、あなたが、初めて」

 

顔を埋めたまま話す。

 

「男の人にこんな事するのも初めてよ」

 

そんな事言われても、という感じだ。

 

「あなたがあたしの最初の親友。名前、教えて?」

 

「草薙奏だ、お前は?」

 

「奏、奏ね……あたしは弦巻こころよ」

 

そして数秒の沈黙。

 

「ねぇ奏。あたしの夢、手伝ってくれる?」

 

さっきの俺の言葉だ。勿論答えは決まっている。

 

「手伝うさ、こころ。それは俺の夢でもあったんだからな」

 

昔の自分と向かい合う。

そう、今は昔とは違う。過去を克服する、このバンドと共に。

 

「さて! それじゃあ、こんなくよくよしちゃいられないわね! 早速みんなに言うわよ!」

 

顔を離して立ち上がる。

打って変わって表情が一瞬で明るくなる。さっきまでの顔が嘘みたいだ。

 

「言うって……何をだ?」

 

「勿論あなたの事よ! 新しいメンバーは紹介しなくちゃね!」

 

手を引っ張られて扉に向かう。

 

「お、おい! 待て待て!」

 

俺は戸惑う。

 

「ん? 何かしら?」

 

扉の前で止まる。

俺は一呼吸おいて昔バンドメンバーでやっていた事をする。

 

「これからよろしくな。こころ」

 

片手を上げる。俺がやろうとしてる事に気づいたのかこころも手を上げて――。

 

「えぇ! これからよろしくね奏!」

 

ハイタッチをして扉を開けた。




書き終えての感想を

「あれ?タグ(こころヒロイン?)追加した方がいいんじゃね?(汗」

はい、今回も読んでくださりありがとうございました。

追記:投稿後にタグを追加しました。

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