タグと違うなんて思わないでくださいね?
〜奏side〜
「ひっ!」
俺と目が合うと怯える。
そのまま俺は彼女の目の前に行き――。
「昨日は悪かった」
頭を下げた。
「……え?」
「別にあそこまで言うつもりはなかったんだ。だけど過去についてとなると勢いで行動しちまうから……その、反省してる」
「…………」
彼女が今、どんな顔をしているのかは分からない。でもさっきは泣いているのは分かった。
「……って」
「?」
声が小さくて聞き取れなかった。でも何か言ったのは分かるんだが……。
「こっち、座って」
ベッドの反対側を叩いている。
俺は言われるままに座る。彼女とは背中を合わせる形で座っている。
「何をしに来たの?」
「謝りにだ。流石に初対面の、それも女性を泣かせたなんて男としてどうかと思ったからな」
「…………」
「…………」
そしてお互いに無言が続く。
「あなたは……」
それを破ったのは彼女だった。
「もう、音楽はしてないの?」
答えるのを一瞬躊躇う、だが答えないといけないと思った。
「あぁ、三年前に辞めた」
「……どうして?」
「夢を否定されたから」
「――っ」
昨日俺が言った言葉に“みんなを笑顔に”とあった。まさにそれだ。
俺はそれを否定されて音楽を辞めた。
「バンド仲間の全員が親やその友達に『その行動は意味が無いから辞めろ』『時間の無駄だ』『それよりも楽しい事がある』と言われて全員が去っていった。その前に俺にも一緒に辞めようと言われたが、俺はそれを断ったさ」
当時の事を思い出す。
「一人、支えてくれた人がいた。俺の音を聴いてくれた人」
「……親?」
「いいや違う」
自分の親よりも近くにいた幼馴染み。
「幼馴染みの少女、で一番の親友。そいつが隣に居てくれたから、一人でも頑張れた」
笑顔で居てくれた、どんな時も楽しいと言ってくれた。
「でも俺はそいつの期待を裏切ったんだ。自分は一人だった、って気づいたよ」
バンドを組んでいた時は周りに人が多かった。
けど誰もいない。
「現実を受け入れた。夢から逃げた。なのに幼馴染みは俺と入れ替わるようにドラムを始めた」
音を捨てた俺と音を掴んだ花音。それはまるで、逃げないでと言うように……。
「っと最後のは関係ないな。まぁこれが辞めた理由だ。簡単に言えば“一人になった”からだな」
「……あたしも一人になるのかしら」
俺が話終えるとぽつりと少女が言う。
「薫、美咲、花音、はぐみ……バンドを辞めて一人になるのかしら。あなたみたいにあたしには親友と呼べる人はいない、人は笑ってくれるけどみんな距離を置いてる様に思えるの……」
弱く、今にも消えてしまいそうな声。
「あたし達は今はうまく進んでるけど、止まる日が来るのかしら、一人になる日が来るのかしら」
声が震えていた。
想像してしまったのだろう、その自分を。
「俺が――」
「え?」
「俺がお前の傍に居てやる」
自然と口が動いていた。
「俺とお前はどこか似ている気がする。そんなお前をほっとけない」
あの時傍に居てくれた花音。それがどれほど俺の支えになっていたか、本人は分かってないだろう。
「あんな事を言った俺を信用しろなんて言わない、けど俺はお前を支えていたい」
それはきっと俺の本心なんだろう。それと花音の音を聴いていたいというのもあるのかもしれない。
「自分の諦めた夢を、お前を支えて見てみたい」
もしもそれが叶うのなら……。
「もし、よかったら手伝わせてくれ。お前達が奏でる音を、お前の夢を」
言い終えると最初のように無言になる。
おそらく十秒くらいなのにとても長く感じた。
「――ねぇ、こっち向いて」
言われ振り向く。
すると。
「んっ――」
彼女が腰に手を回し顔を俺の体に埋めてきた。僅かになびいた髪からは女の子特有のいい匂いがしドキドキする。
「少し……このままでいさせて」
「あぁ」
何分そうしていたかは分からない。
落ち着いたのか彼女が話してくれる。
「こんなあたし誰にも見せたことなかった、あなたが、初めて」
顔を埋めたまま話す。
「男の人にこんな事するのも初めてよ」
そんな事言われても、という感じだ。
「あなたがあたしの最初の親友。名前、教えて?」
「草薙奏だ、お前は?」
「奏、奏ね……あたしは弦巻こころよ」
そして数秒の沈黙。
「ねぇ奏。あたしの夢、手伝ってくれる?」
さっきの俺の言葉だ。勿論答えは決まっている。
「手伝うさ、こころ。それは俺の夢でもあったんだからな」
昔の自分と向かい合う。
そう、今は昔とは違う。過去を克服する、このバンドと共に。
「さて! それじゃあ、こんなくよくよしちゃいられないわね! 早速みんなに言うわよ!」
顔を離して立ち上がる。
打って変わって表情が一瞬で明るくなる。さっきまでの顔が嘘みたいだ。
「言うって……何をだ?」
「勿論あなたの事よ! 新しいメンバーは紹介しなくちゃね!」
手を引っ張られて扉に向かう。
「お、おい! 待て待て!」
俺は戸惑う。
「ん? 何かしら?」
扉の前で止まる。
俺は一呼吸おいて昔バンドメンバーでやっていた事をする。
「これからよろしくな。こころ」
片手を上げる。俺がやろうとしてる事に気づいたのかこころも手を上げて――。
「えぇ! これからよろしくね奏!」
ハイタッチをして扉を開けた。
書き終えての感想を
「あれ?タグ(こころヒロイン?)追加した方がいいんじゃね?(汗」
はい、今回も読んでくださりありがとうございました。
追記:投稿後にタグを追加しました。