〜こころside〜
「おはよう! 美咲!」
「……あぁ、おはようこころ。相変わらず元気だね」
朝教室がざわざわしてる中あたしは一番に美咲に駆け寄る。
「あたしはいつでも元気よ! 美咲は元気じゃないの?」
「元気ですよ~」
頬杖をついて言う。
「あたしにはあまり元気に見えないわ。昨日何かあったの?」
「昨日?」
美咲は窓の外を見る。そうしてる間にあたしが昨日していた事を話す。
「あたしははぐみと遊んでいたわ!」
昨日は家ではぐみとスポーツをしていた。
今思い返してもいい汗をかいたと思うわ。
「……昨日は」
思い出していると美咲が口を開いた。
「花音さんと喫茶店に居たよ」
「あらそうなの?」
「うん。結局は三人になったけど」
「? どうして三人? 誰か呼んだの?」
薫かしら? と思ったけど演劇部の練習と言っていたらか違うだろう。
「呼んだというよりも先客かな、草薙さんが寝ててさ」
「(っ――)へ、へぇ……それで?」
「花音さんが草薙さんと遊んで、その後に三人で話してた。普通に楽しかったよ」
奏の名前が出てきた時に一瞬変な感じがした。
「…………」
「おーい、こころー?」
「え?」
目の前で美咲が手を降っていた。
「どうしたのぼーっとして。あんたらしくない、そろそろHR始まるから座りなよ」
「え、ええ分かったわ……」
言われてあたしは席につく。
そしてHRが始まる。あたしはさっきの違和感を考え続けた、けどそれは一向に答えが出る気がしなかった。
〜奏side〜
一時間目が終わり挨拶をして休み時間に入る。だが俺は違った。
俺の席は窓側、それも絶妙にぽかぽかする位置だ。クラスの真ん中の寒い空間とは訳が違う。
「おーい起きろー奏ー。移動教室だぞー」
「…………」
そこに俺に向け声が発せられる。がそれを無視する。
「ふむ。……おーきーろー」
バシバシと教科書らしきもので叩かれる。
俺は枕にしていた教科書を抜き取りそれを前方横に振る。すると手応えがあった。
「ごふっ! お、おま……横腹……」
「うるせぇ。人がせっかく寝てたのに何で邪魔をする」
机の下で横腹を押さえているやつを見ながら準備をする。
「ね、寝てたから起こしてやろうと思っただけなのに……」
「……寝てないから起こされる必要も無い」
「さっき寝てるって言っただろ!」
「目を閉じて突っ伏してただけだ。いいから行くぞ、移動教室なんだろ?」
「あ、おい! 待てよ!」
席を立ち移動をする。
さっきから話してるこいつの名前は白羽総士。昔は俺とバンドを組んでいた仲間だ。全員辞めたがメンバー同士の仲は今でもとても良い。
「あー、そういやさ」
自分の教室2-Bから出る。その間に総士が移動しながら話す。
「お前らってまだ付き合ってないんだな」
「……お前も好きだな」
この質問される度にめんどくなってくる。
何だ、そんなに付き合った方がいいのかよ。
「俺じゃねぇ。龍斗が会う度に聞いてくるんだ」
「あいつ……まだ好きなのか。てか未来か花音、どっちかに絞れよ」
これもバンドメンバーの一人だ。
九十九龍斗、春明高校一年生で最近また音楽を再開したらしい。
「お前が花音を取れば終わる話だ。そもそもお前の寝起きの癖でああなったんだからな?」
「は? 寝起き? 何の話だよ」
深いため息をつかれる。
「お前の寝起き……知ってるさ、お前が無意識なのは。でもあんなイチャイチャされたら誰だってイラッとくるぞ? それも龍斗は花音を好いてるんだからな」
あぁその話か。確か去年も話した気がする。
「前も言ったろ覚えてねぇよ、俺が何をしたかなんて」
どうやら俺は寝てる最中に一回起きるらしい、でも毎回とは限らない。その起きた時によく花音の髪を触るらしい。“花音の”というのは普通は人の近くでは寝ないが花音の近くなら何故か寝れるという謎の特性(かどうかは知らないが)がある事にも関係がある。
「俺もそのスキル欲しいよ。あれだ主人公なんちゃら」
「はいはい」
話を流しながら階段を登り二階にある自分のクラスから四階の音楽室に向かう。その時あることを思い出した。
「あ」
「? どうした?」
「いや、何でもない」
「何だよ……変なやつだな……」
先に扉を開けて音楽室に入る総士の後に続く。
「(そう言えばこころに話したい事があったんだった。昼休みにでも連絡しとくか)」
~こころside〜
朝の事が頭から離れないまま時間が過ぎていき昼になった。
花音とはぐみが教室に来てご飯を誘ってくれたのであたしと美咲は一緒に屋上へ向かった。
「んー……ん~〜?」
「み、美咲ちゃん……こころちゃんは何をさっきから唸ってるの?」
「あたしにも分からない。今日はずっとこの調子だからさ」
「ん~~~~?」
考えても考えても分からない。今まで体験したことのない感情、だからだろうかそれを導き出せない。
「珍しいよねこころんが悩むって――って、こころん?」
「ん〜~。どうしたのはぐみ? アイデア?」
「いや携帯が鳴ってるんだけど、こころんのだよね?」
言われてからポケットの携帯が振動しているのに気付く。
「あらホントだわ。誰から――」
あたしは携帯に表示されてる名前を見て驚く。
「ちょ、ちょっと向こうに行って来るわね……。す、すぐに戻って来るから!」
「え? こ、こころ?」
美咲の声が聞こえたが無視をして屋上にある影の部分に走っていき電話に出る。そして向こうから声が聞こえてきた。
『お、出た。おーい聞こえるかー?』
「え、ええ! 聞こえるわよ!」
『おお……やっぱり元気だな。まぁいいや。ちょっとお前に頼みたい事があってな。帰りに時間を合わせれるか?』
「え――?」
『そうだな~大体――』
思考が停止してる間に話を淡々と進める奏。あたしはそれを聞いてる余裕なんて無くなっていた。
「(え? え? 帰りに時間を合わせる? それって一緒に帰るって意味よね?)」
『花女は四時半には学校が終わるだろ……それなら――』
何故か鼓動が早くなるのが分かる。
「ね、ねぇ? あたし一人……なんて事は無いわよね?」
『四十五分くら――ん? お前一人だけど、問題でもあるのか?』
「いっ、いや! 無いわよ! 問題なんて全く無いわ!」
二人で帰る!? それも奏と!?
ますます鼓動が早くなる。そういえば朝の時も奏の名前が出てきた時に似た感じに――。
『あ、悪ぃ。ちょっと待ってくれ』
急にそんな事を言う、理由はすぐに判明した。どうやら向こうで誰かと話をしているようだ。通話中なので少し声が聞こえる。
『おーおー、彼女さんですかな? 奏さん』
「(かっ、かの――!?)」
顔が熱くなる。恐らくあたしの顔は今真っ赤なのだろう。
『彼女!? 花音さん!? そこに居るんで――ゴハァッ!!』
『黙れ龍斗。それと花音じゃない、ただの知り合いだ』
『彼女というのは否定しないのですかな奏さん?』
『…………』
『え、何その手。ちょ! ゴメン! 悪かった、俺が悪かったから! 奏様! どうか……どうかお許しグォッ!』
数秒、携帯の向こうが静かになり奏の声が聞こえてきた。
『……ふぅ〜。取り敢えず今日の放課後、四時四十五分くらいだな、花女に俺が迎えに来るからな。正門近くで待っててくれ』
「えっ? あの――」
『じゃあな。また放課後』
ツーツーツー……。
あたしの言葉の前に電話が切られてしまった。さっきのを断っていないのでこれは――。
「か、奏と……二人、で……帰るの?」
ドキドキが止まらない。
この感じは奏の家でもあった。病気、なのだろうか? でもあたしは風邪なんてひいていない。
“俺がお前の傍に居てやる”
あの時の言葉が脳を横切った。
この謎の感情に囚われる時は決まって奏が関係している。きっと本人と二人きりになれば、分かるのかもしれない。
そう、二人きりに――。
「〜~〜~っ!!!!」
な、何を考えてるのかしら! あっ、あたしは別にそんなつもりじゃ――ん? そんなつもりってどんなつもり?
ごちゃごちゃした頭を整理するのも兼ねてみんなの元に戻る。
大丈夫、みんなと話せば元通りになる。後の事は後で考えればいい。
「(あたし、どうしちゃったのかしら――)」
答えが出ないこの違和感はあたしの胸に引っかかる。それでも、とてもドキドキする……。
「(どうしてこんなにも……奏を考えると――)」
この分からない気持ちは放課後まで続いたのだった。
次投稿する話はちょっと特別な話になります。
混乱しないように軽く説明をしておきますと、時間帯は前に戻ります。奏がまだハロハピのメンバーとあってない時の話です。
今回も読んでもらいありがとです!