東雲洋子には秘密がある (仮題)   作:雨の日の河童

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春眠暁を覚えず

春。

それは出会いと別れの季節であり始まりと終わりの季節。

陽気な天気と春風は心地良く、春眠暁を覚えずと中国の詩人が詠ったらしいが・・・なるほど確かに眠るには丁度いい暖かさだ。

まぁ、授業中だから寝ちゃいけないんだけど。

そんなこんなで現在、海原高校一年生、鴉羽天は睡魔と絶賛交戦中です。

いつも思うのだが、どうして五限目の授業はこんなにも時計の針が遅いのだろう?

あれか?俺の苦手な地理の授業だから遅く感じるのか?

などと考えている間にも心地の好い睡魔がおいでおいでと手招きしてくる。

魅力的なお誘いをどうにか跳ね除けようと手の甲をつねってみたり眠気覚ましのツボを押したりと一人で悲しい孤軍奮闘してみるがしながらやはりなかなか睡魔は消えずそれどころかより一層深まっていくのを感じる。

その証拠に先ほどまではっきりと視界に映っていた黒板の文字は輪郭がぼやけ全体的に見える範囲を縮めていく。

 

・・・ああ、まずい。このままじゃ・・・。

 

「起きて、天」

「!?」

 

寝てしまうと思った瞬間、よく知る愛らしい声によって沈んでいた意識が一気に浮上した。

 

「ね、寝てませんよ!?って、あれ?」

 

勢いよく顔をあげれば空は夕焼け。

クラスメートはおらず短く切り揃えた黒髪に学校指定の紺のセーラー服の幼馴染の日野うさぎが立っていた。

 

「嘘は駄目だよ、天。ほら、涎たれてる」

「ん!?」

 

子どもの様に頬をハンカチで拭かれ、鴉羽天の羞恥心は限界ですよ!

 

「はい、もういいよ」

 

それを知ってか知らずか優しい笑顔でうさぎはハンカチをポケットにしまい込む。

 

「う、うさぎ。五限の授業は?」

「残念ながらもう放課後だよ」

「なん・・・だと?」

 

まさか五限目どころか六限目も寝てしまっていたのか?

 

「けど、六限目は先生の話だけだったから」

「ならいいか。よし、帰るか」

「そうだね、帰ろっか」

 

まさか二時間も連続で眠り続けていたのか、俺は。

我がことながら呆れてしまいそうになりながら教室を後にし、廊下を二人で歩いて行く。

窓から見えるグランドには野球部や陸上部などの部活動の生徒が懸命に練習をしている姿をぼんやり見ながらそのまま一階へと向かう。

 

「ねぇ、どんな夢を見ていたの?」

「ん?どんなって・・・・・・」

 

そういえばどんな夢だったか。何か見た気はする。気はするのだが・・・・・・全く持って思い出せない。それに思い出そうとするとなぜか頭痛と背中に違和感を覚えた。

 

「忘れた」

「そっか~。残念だなぁ」

 

という割には、うさぎは対して残念がってないような気がする。まぁ、これ以上の追及は嫌な予感がする。

 

「そういえば、六限目って何の話だった?」

 

よって、俺が眠っていた時の話を聞くことにした。

 

「えっと、この頃不審者がよく出てるって。黒のスポーツカーだったり白色の車だったり車種がバラバラで分からないから警察の人も注意を呼び掛けているみたい」

「なるほど。不審者、ね。うさぎ、知らない人に声かけられたら直ぐ人がいる方に逃げろよ?」

「もう!そこまで子どもじゃないよ!」

 

少しふざけながら下駄箱を出て帰路につく。

 

「あ、そういえば天のお母さんに聞いたんだけど商店街においしいケーキ屋さんが出来たみたいなんだぁ。ちらり」

「・・・行くか」

「おー!さすが話が早いね。雪ちゃんにもお土産で買っていこう」

「そうだな」

 

こうして家に帰る前に商店街のケーキ屋に向おうとしてふと、校舎が気になり何となしに見上げる。

 

「っ!?」

 

鮮やかな金色の髪に赤い瞳の女子生徒と目が合う。

その瞬間、心臓が一度大きく跳ね上がる。

それと同時にこちらを見透かすような赤い瞳はこちらをとらえて離さない。

まさに蛇に睨まれた蛙。呼吸すらも忘れ嫌な汗を流していた状況を変えたのはうさぎであった。

 

「あ、洋子先輩だ」

「せん、ぱい?」

「そうだよ?二年生の先輩でミステリアスな雰囲気で私のクラスでは人気だよ、女子に」

「女子にかよ」

「うん。でも、とっても優しい人だったよ。部活は民間伝承研究部にいるみたい」

「なんだよそれ・・・」

 

そして、例の洋子先輩にうさぎは手を振る。それをさも当然というように手を振り返す洋子先輩。

 

「ほら、やっぱり優しい」

「そう、だな?」

 

そうして洋子先輩は窓に背を向けそのまま歩いて行き見えなくなった。

 

「じゃ、行こうよ」

「お、おう・・・」

 

無邪気なうさぎに手を引かれそのまま商店街に向った。

確かにうさぎの言う通り優しい人なのだろう。

だが、最後の窓に背を向けたあの瞬間。微かに笑っていたのが少し気になった。

 

 

夕方から夜へと変わった学校。

夜というだけで昼とは違う不気味な雰囲気である。

余りの不気味さに警備会社の人間も月に一度しか訪れない。

そんな学校の屋上に夜空を見上げる人影が。

それは何をするわけでもない。流れる雲とその合間に見え隠れする月を見上げるだけ。

ただ、その表情は嬉しくてたまらないと言わんばかりの笑みであった。

 

 




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