それはいきなりであった。
うさぎと商店街でケーキを買い家に帰宅。
その後、自身の家で夕飯を食べ終え自室でくつろいでいた時に起こった出来事である。
「クソ兄貴!!」
「ぐはぁ!?」
何者かが俺の部屋に乱入してきたのだ。
目を閉じ、耳栓代わりのヘッドフォンで眠っていた俺の腹部に強烈な一撃が入りそのままベッドから転がり落ちる。
「私より先にうさぎさんとケーキ屋に行きやがって~!!」
だというのに下手人はそれでも足りないのか馬乗りになって襟を持って激しく揺さぶってくる。
「やめろ、雪!というか、それだけの理由で俺の腹に一撃決めたのかこの馬鹿妹!」
揺すっていた手を止めさせポニーテールの黒い艶のある髪に勝気な瞳が印象的な妹鴉羽雪に反撃する。
「きゃー!ちょ、ちょっとやめてよ!あ、謝るから、アハハハハ!!」
全力でくすぐる。こいつは昔からくすぐったいのが苦手で悪戯が過ぎた時はいつもこうしているのだ。
「ふっ!もう、アハハ!やめ、し、死んじゃうからとめてー!!」
「ふぅ・・・。愚か者め。この兄を倒そうなど千年早いわ!」
涙目で息も絶え絶えな妹を床から起こしベッドに寝かし自分は椅子に座る。
「だいたい、ケーキ屋くらいいつでも行けるだろ?」
「みんなで行きたかったの!」
・・・・・・なんとまぁ、可愛らしい事を言うんだろうかこの妹は。
「悪かった。次行くときはちゃんと呼ぶから」
「・・・たりない」
「・・・わかった。夏にうさぎの都合が良ければどこかに行こう」
「やったー!!流石、兄貴!それじゃ、あたし部屋に戻るね!」
そう言い残し風の様に去っていった。
「てーん、お風呂入りなさーい!」
「りょうかーい」
一階のリビングにいる母さんの声に返事を返し風呂場に向かう。
風呂場の電気をつけ扉を開けた。
「ん?なんだ、天か。一緒に入るか?」
「父さん・・・いるなら電気付けなよ・・・」
我が家の大黒柱が入っていた。がっしりとした身体、髪に未練はないとばかりのツルツルヘアー。傍から見れば格闘家の様な父だ。まぁ、格闘家じゃなくてお坊さんなんだが。
「いやー、露天風呂気分を味わいたくて」
「あがったら教えて」
扉を閉めそのままリビングで暇をつぶすことにした。
父は色々と行動が読めないので困る。お坊さんになったのも爺ちゃんが死んで管理していた寺を引き継ぐためなったのだ。元々何の仕事をていたのか分からない。聞いてみても「何だと思う?」と答えを言わないので諦めた。
リビングに入ると腰まであろうかという黒髪の母が煎餅をかじりながら時代劇を見ていた。
「母さん父さんが入っていたよ」
「あら、そうなの?」
煎餅に手を付けながら適当に返事をする母。
因みに、母の年齢は五十過ぎのはずなのに三十代にしか見えない魔女である。
「よっと」
「あ」
テーブルの上のリモコンでチャンネルを変えニュースにする。
「天?いま、私、テレビ見ていたんだけど?」
「録画して何度も見たやつでしょ?」
「何度見てもいいじゃない!面白いのなら!」
「それはいつでも見ることが出来るでしょ!」
傍から見れば子供の言い合い。しかし、当人たちにとっては引けない戦いである。
だが、両者一歩も引かないため最終手段に頼ることになった。
「・・・あれで決めるか」
「・・・いいよ。今日こそは勝ってやる」
二人とも椅子から立ち上がり構えを取る。
俺は鳥をイメージした構え。対する母は拳を身体に隠した。
二人の目は本気である。その集中力はある種のゾーン状態と言って過言ではないほどだ。
鴉羽家流最終解決方法。その方法は・・・。
「最初は・・・」
「グ―・・・」
「「じゃん・けん・・・」」
じゃんけんである!
「「ぽん!!」」
一瞬の静寂。
膝から崩れ落ちる俺。勝利のピースサインを出す母。
結果は一目瞭然である。
また・・・勝てなかった。
こうして鴉羽家の第何回目かもわからないリモコン争奪戦に終止符が打たれたのだった。
「ああ、疲れた」
漸く風呂に入り就寝できる。
電気を消し、暗闇の中今日の出来事を思い出す。
慌ただしくも楽しい生活。充実している。
明日は何があるのだろうと楽しみにしながら眠るのは少し子供っぽいかもしれないがそれでいいと思う。
「おやすみなさい」
誰に言うにでもない言葉は部屋の静寂に溶け込み俺を夢へと誘ったのだった。
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