気が付くと俺は古びた神社に居た。
もう誰も使っていないのか所々に苔が生え、屋根には小さいが穴も開いている。
どうやらこの神社には俺しかいないらしい。
いや、違う。
もう一人いた。それも自身の目の前に堂々と立っていた。
だが、それは人ではない。人の形をした別の『ナニカ』だ。
だってそうだろう?人間には空を飛ぶ鳥の様な翼などないのだから。
「・・・・・・」
山伏の格好に狐面をした男は何も言わずにただ黙してこちらを見ている。
手には錫杖の代わりに美しい波紋を描く抜き身の太刀を持ち、腰には朱色の鞘に入った脇差。
その背中にある立派な翼は黒色でなければ天使と勘違いしていたことだろう。
あと狐面がなければだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
狐面の男はやはり何も言わない。
かといって俺から話しかけようとも思わない。
ただ、何もせず見ているだけ。
「時が・・・満ちたか」
「え?」
長い沈黙を破ったのは男の方だった。
だが、意味が分からない。時が満ちる?一体、何の時が満ちたというのだろうか。
「・・・解らぬか。なら、今日は終いだ」
此方が答える間もなく男はその場から奥の御神体が祭られてある部屋に消えていった。
俺は茫然と何も言えずに立ち尽くす事しか出来ず、風の音とそれにより擦れる木々のざわめきが嫌に耳に残る。
「・・・一体、なんだったんだ・・・・・・?」
誰もいなくなった神社で答えなど返ってくるはずもない。
ただ何処かで一羽の鴉が鳴いたのみであった。
「・・・変な夢だったなぁ」
目が覚めるといつも見慣れた天上が目に入る。
時計を見れば午前六時ジャスト。
いつもより早く起きてしまったが・・・・・・まぁたまにはいいか。
「ん~!――ん?」
布団の中で伸びをして背中に違和感を覚える。
あれ、なんか背中が変だぞ?
思わずシャツを脱ぎ部屋に置いてある姿見に背中を映し・・・。
「・・・・・・」
絶句した。
声も出ないとはまさにこのこと。
いや、今のは見間違いでまだ寝ぼけているだけなんだよ、うん。
その場で目を閉じ深く深呼吸。
そして、勢いよく目を開き。
「うそ・・・だろ?」
夢であれという願いは無残に砕けた。
背骨と肩甲骨の中ごろに生えた黒い羽。
妹(ゆき)の仕業でもない。
頬をつねるが痛く夢ではない。
試しに背中に力を入れるとばさばさと羽ばたいた。
正真正銘、背中から翼が生えている。
え?いや、え?なんで?昨日まで何もなかったよな?いや、え?
もう頭の中はぐちゃぐちゃであったが。
「あにきー。もうおきたの~?」
「!!?!??」
下の階からこちらに上ってくる足音。
雪!?や、やばい隠さないと!!
こんな姿を人にましてや家族に見られてしまえばどうなるか想像もつかない。
「あに・・・どうしたの、その恰好?」
「ふ、太巻き」
いつものように遠慮なく扉を開けてきた雪。
既に制服で肩には朝練に行くと思われる陸上のシューズの紐が見える。
そんな妹の目に映っているのは身体に布団を巻き付けて仰向けになった自身の兄。
顔にはコイツ何してんだ?と書かれているが仕方ないのだ。
俺は焦っていたのと時間がない事が相まって手っ取り早く羽を隠す手段をこれしか思いつかなかったのだから。
怪訝な顔していた雪は突然、はっ!と気づき少し頬を染める。
「・・・あ!そ、そうだよね?兄貴も男の人だし、ね?」
やばい、盛大に何かを勘違いしている。
「おい、何か勘違いを」
「ご、ごゆっくり~」
風の如く階段を下りていった雪。
「ああもう、さいあくだ」
ばれてない。確かにばれてはいないがそれと同じかそれ以上のダメージを負うことになった。
「はぁ、それにしてもこれどうすっかなぁ・・・」
羽は・・・まぁ包帯でぐるぐるに巻けば何とかなるだろう。
問題はその後のこと。
誰にもばれないように生活することは確定だ。
が、それも何時までもつか解らない。一瞬でばれるかもしれないし死ぬまでばれないかも・・・。
「いや、それはないか」
気だるげな溜息一つ。憂鬱な気分で俺は包帯を探すのであった。
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