IS ―フォルテ・サファイアの日常<偽りの空・外伝>― 作:和泉
今後前書きでは時系列的に本編の何話かを記載します。
一応、読まないでもお楽しみいただける作品にするつもりですが興味を持っていただけたら是非本編もよろしくお願いします。
本編時系列:第一話
現在、イタリアはIS開発において重要な局面に立たされている。
欧州連合による統合防衛計画『イグニッション・プラン』における第三次主力期の選定。そこに名乗りを上げたのがイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、そしてイタリアのテンペスタⅡ型だ。
現状、もっとも有力視されているのがイギリス、次いでほぼ同等の評価を得ているのがドイツとなっておりイタリアは窮地に立たされているといっていい。イグニッション・プランで勝ち残るということは、次世代量産機のシェアを独占することに繋がり、逆に言えば敗北することは他国に軍事的な主導権を握られることに他ならない。
追い詰められたイタリアは、自国のISの発展性と技術力の誇示を目的としてテンペスタⅡ型の亜種を開発する。中長距離戦を主体として開発されたテンペスタⅡ型に手を加え、中近距離戦を得意とする第三世代機を作り出した。テンペスタⅡ型改、コードネーム『コールド・ブラッド』。ちなみになぜテンペスタがイタリア語なのにコードネームが英語なのかというと、開発者の一人がアメリカの古いミュージック・バンドの熱狂的なファンであり、その名前をとったものらしい。国の威信をかけたものに個人の趣味を持ち込むのはどうかと思うが、そこはサイエンティスト、一般の常識の枠には当てはまらないのだろう。
このプロジェクトが成功すれば、オールレンジ換装が可能な第三世代機ということでイギリスとドイツへ楔を打ち込めると期待されている。
イタリアはこのコールド・ブラッドをある少女に託し、データの採取とテンペスタシリーズの実用性の証明を試みる。その少女の名は、フォルテ・サファイア。イタリアの代表候補生である。
「あ~、やっぱり日本のアニメは面白いね。これからは現地で見られると思うとワクワクする」
短めではあるが綺麗に整えられたブロンドの髪に幼さが残る顔立ち、というより見た目小学生にしか見えない幼女、もとい少女。これでも彼女はもうすぐ高校生であり、イタリアの代表候補生でもある。日本語が話せるということも幸いして、プロトタイプの専用機を受領しIS学園への入学が決まった。
ISに従事する者の多くは日本語を学ぶ者が多い。何故ならISの開発者の篠ノ之束が日本人であり、世界中から注目されているIS学園も(国家に縛られていないという原則はあるが)日本に立地している。そのため、最先端のプログラミングに英語が必要であったように、ISで優位に立とうとしたら日本語の修得が求められるのだ。
そんな中、フォルテは小さいころ出会ったアニメがきっかけとなり必死に日本語を覚えた。日本でも女性に人気があった某バスケアニメ&漫画だ。中でも黄色い人がお気に入りで、そのせいか語尾が残念なことになってしまった。緑の人の『なのだよ』とどっちがよかったかは評価が分かれるだろう。……いや、一部の人種には猛烈に支持されるだろうがIS学園は女子高である。その後も多くのアニメに触れいろいろと混ざってしまうが執念は身を結び、彼女は日本語を修得した。。
話が逸れたが、多少おかしな日本語になってしまったものの意志疎通には全く問題ないレベルで話すことも読み書きすることもできるフォルテはIS学園への入学に申し分がなかった。
しかし国家の威信を欠けて送り出されるはずのフォルテはそんなものはどこ吹く風、憧れの地日本での高校生活に思いを馳せるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが……日本!! 学園なんて後回し、まずはアキバ!」
約12時間の長旅を終え、ようやく降り立った異国の地。それも幼少のころから憧れていた場所ともなれば感動も一入だろう。しかし、街中で見た目幼女の外人が一人で大きく手を広げて叫んでいたら明らかに怪しい、というより即補導ものだろう。
「お譲さん、ちょっといいかな」
「え、ちょっとなんスか!? ウチはこれから黒子っちに会いに行くんスよぉぉ……!?」
完全に不審人物になっていたフォルテは当然のように近くを警邏中のお巡りさんに見咎められ、そのままパトカーで交番まで連行されることになり彼女の叫びは虚しく遠ざかっていく。興奮のあまり訳の分からないことを口走っていたことも災いし、問答無用だった、というよりこの時点でも母国語で応えていればよかったのに日本語で話しかけられて律儀にも彼女まで日本語になったのが致命的だ。
「失礼しました、IS学園の生徒さんでしたか」
近くの交番に連れてこられたフォルテはようやく落ち着き、事情を話す。パスポートを見せても信じてもらえないので、仕方なくIS学園に連絡して確認してもらうことになりようやく解放される運びとなる。しかし、入国早々交番に連れ込まれたというのは事実で、しかもそれが国家の代表候補生だったわけだからIS学園より直接教師が引き取りにくることになってしまった。
「うぅ、せっかく思う存分日本を堪能しようと思ったのに酷いッス」
「だったら目立つような真似はせずに大人しくしていろ、馬鹿者が」
数十分後にやってきたのは、ISに携わるものなら知らぬものはいない世界的に有名な操縦者でありブリュンヒルデの異名を持つ織斑千冬だった。
「まったく、今年は問題が多すぎる! なぜ新学期前にこうまで頭を悩まされねばならんのだ」
何やらブツブツと、と言うにはあまりにも大きな独り言で愚痴り始めた千冬。その原因の一つに自分があったこともあるが、それ以上に殺気のようなどす黒いオーラがにじみ出てた気がして何も言わなかった。
「も、申し訳ないッス」
「……あぁ、すまん。だがお前は専用機持ちだろう? 問題を起こせばそれこそ国際問題になりかねん。……それに今年は専用機持ちがお前を含めて三人いるが……頼むからくれぐれも問題を起こすなよ?」
鬼気迫るといった様子で自分を言い含めてくる千冬に、フォルテは冷や汗を流しながらただ首を縦に振るしかなかった。千冬が来るまでは抜け出してアキバに行こうなどと考えていたフォルテだが、彼女に会った瞬間悟った。逆らえばただでは済まない、と。仕方ないので、そのままフォルテは千冬に連行され、IS学園へと向かうのだった。
「これがお前の部屋の鍵だ。本国からの荷物は近日中に届くだろう。ちなみに同室の者はお前と同じ留学生だ、代表候補生ではないがな。既に入寮しているから仲良くしろよ」
「了解ッス」
学園に到着し、そのまま諸々の手続きをしたフォルテはこれから住むことになる寮の部屋の鍵を預かった。基本的にこの学園は全寮制となっており、そのほとんどが二人部屋だ。そのルームメイトが彼女と同じような立場ということであれば、コミュニケーションも取りやすいだろう。
渡された鍵の番号を頼りに、自分の部屋の前へとたどり着いたフォルテはとりあえずノックをする。
「はぁ~い」
するとすぐに中から女生徒の声が聞こえる。
「失礼するッス。今日からこの部屋に入居するフォルテ・サファイアッス」
やや特徴的な女生徒からの返事に、その声の主がどんな人物か少しだけ緊張しながらフォルテは部屋に入り、まずは自己紹介をする。
「あはぁ、これはこれはご丁寧にぃ。私はフィオナ・クラインといいますぅ。みなさん私のことをフィーと呼んでましたよぉ」
「そ、そうッスか。ならウチのこともフォルテって呼んで欲しいッス」
フィオナは肩ほどまでのウェーブのかかった綺麗な茶髪で、白と青に彩られた花飾りをしている。割と整った顔立ちで、常ににっこりしているようだがなんとなく眠そうな雰囲気がある。その間延びさせた口調もそれを助長している。そんなマイペースなフィオナに若干押されつつ、挨拶もそこそこにしてまずは自分の荷物を整理した。
とはいっても、ほとんどは本国から送っているので数日分の着替えなど必要なものしか持ってきていない。すぐにそれはある程度終わり、一段落というところでフィオナがコーヒーを入れてくれたため、改めて話をすることになった。
「それではフォルテさんはぁ、代表候補生なんですねぇ。それに専用機持ちなんて憧れちゃいますぅ」
「そんな大したもんでもないッスよ。正直、面倒は勘弁してもらいたいッス。日本にきたのもアニメとか観たいからってのが大きいッス」
「なるほどぉ。もしかしてそのおかしな日本語はアニメの影響ですかぁ?」
「いや、あんたも大概ッスけどね!? でもまぁ、そうッスね。なんか抜けなくなったッス」
留学生という共通の境遇もあり、比較的話は弾み仲良くなることができた二人。その後いい時間になったので一緒に学食で夕飯をとり、部屋に戻ったあとは部屋の使い方やルールなどをお互いに決めた。その後シャワーを浴びたあとはこれから始まる学園生活についての話に花を咲かせた。そして夜も更け、そろそろ寝ようかという頃。
「ところでぇ、最期に聞きたいことがあるんですけどぉ?」
「ん、なんスか?」
先ほどまで終始にこやかな表情だったフィオナが急に真面目な表情になり、つられてフォルテも緊張する。
「IS学園って……」
そこでフィオナは溜めを作り、フォルテは思わず唾をごくりと飲みこみ続く言葉を待つ。
「初等部があったんですかぁ?」
「それウチのことッスよね!? これでももうすぐ高校生ッスよ! せめて中学生扱いくらいにしてほしいッス!」
どの国の人間から見てもフォルテは小学生にしか見られないようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
初めて日本に降り立って数日が経過し、入学式も終わった。新学期が始まる前にお目当てのアキバに行こうと画策していたフォルテだが、残念なことに未だ叶わずにいた。
そして今日は授業初日である。フォルテは事前に連絡があった自分のクラスに向かい、教室に入る。すると既に何人かいたようで、席について物思いに耽る者やさっそく近くの生徒と交流を試みたりと様々だ。
「ウチの席は……、げ」
あらかじめ出席番号順に座るよう指示があったため自分の席に向かうとその先にいる人物にフォルテは思わず声を漏らした。その人物が座っているのは、フォルテの座る席のすぐ後ろだった。
「あら。いきなり"げ"、なんてご挨拶じゃない」
間違いなく今年度の入学生で、いや下手をすればIS学園全体でもっとも有名な生徒。
現役学生唯一の国家代表。ロシア代表にして学年主席、更識楯無だった。
彼女と、この後やってくるイレギュラーによりフォルテの学園生活は波乱に満ちたものになるのだが今の彼女には知る由もなかった。
お読みいただきありがとうございます。
ということで本編でフォルテが思いのほか人気なのでスピンオフ作品です。
本編ではあまりやりすぎると主人公が涙目なのですがこちらでは自重しません。
とはいえ、気まぐれ更新なので本編のおまけと考えていただけると嬉しいです……。