IS ―フォルテ・サファイアの日常<偽りの空・外伝>―   作:和泉

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本編時系列:第九話~第十話


フォルテ・サファイアの転機

「楯無、俺と勝負しろ」

 

 食堂でいきなりそう切り出したのは、フォルテたちの一つ上の学年となるダリル・ケイシー。

 短めで赤に近い茶色の髪に、褐色の肌をした健康的な少女だ。彼女はアメリカの代表候補生であり、二年生としては唯一の専用機持ちである。

 

 彼女はいろいろと問題もあり停学処分を受けていたのだが、優秀な生徒でありそもそも停学の実態も誰かしらを守るためだったりと相応の理由がある。

 

 先日、実技の授業における特別講師として千冬により強制参加させられた中で生徒会の面々は彼女を直接見る機会を得た。生徒会としては、彼女のそういった性格から出来れば生徒会へ参加してくれないかと画策していて、そんな折に丁度良く接触の機会を得たのだ。

 さっそく楯無は彼女を昼食へと誘い、雑談もそこそこに勧誘を切り出したのだが、そこで彼女から告げられたのが先の言葉である。

 

 弱い奴の下にはつけない、それが彼女のポリシーだった。

 

 

 

「で、なんでこんなことになってるんスか?」

「ふふふ、だって面白いじゃない」

「あぁ……そッスね」

 

 昼休みでの一幕で、楯無は模擬戦を受け入れた。しかもそのまま千冬に対して午後の授業の最後に専用機同士の模擬戦を提案して受け入れさせる手際のよさだ。

 これにより、ダリルとの戦いが決定して今まさにそれが始まろうとしているのだが、何故か楯無はフォルテの横にいる。

 

 クラスメイトの視線の先には、戦闘態勢に入ったダリルと……楯無に押し付けられた形の紫音がいた。

 助けを求めるような視線を送ってくるけれど、既にこの状況でその術がないフォルテは目を逸らす。

 

「……南無ッス」

 

 逸らした視線の先では楯無が満面の笑みを浮かべていたのをフォルテは見なかったことにした。

 

 そして始まる模擬戦。自身が完敗した相手でもある西園寺紫音の戦いに、フォルテも興味が無いわけがない。ましてや、相手は前生徒会長をも上回ると噂されるほどの人物。

 

 そして、すぐさまフォルテはその試合に魅了された。

 

 最初のうちは、ダリルがもつ汎用型の五九口径重機関銃デザートフォックスの射撃による牽制だった。ただし同時に二挺を操り相手の動きを制限する動作はかなりレベルが高い。実際、フォルテも二挺の射撃武器を用いた戦術を用いるためよくわかる、自分にはここまで制御できないと。

 

 片方のデザートフォックスが弾切れとなり、そのリロードのタイミングを見計らって紫音が攻め込むも、高速切替によって展開された新たな武装より放たれた光線で失敗に終わる。そして、それを認識する間もなく再び手にはデザートフォックスが握られていた。

 

『ちっ、まだ試作品だけあって精度は低いな。だが威力は十分そうだ』

 

 舌打ちをするダリルだが、一撃を躱されたような悔しさは感じられない。むしろ楽しそうだ。

 その後は、一進一退の攻防のあとに奇策により接近に成功した紫音だが、そこからの一撃もダリルに防がれる。しかも、彼女は二挺の銃を手にしたまま脚撃による打撃を交えたコンビネーションで近接戦に応戦する。

 

『なるほど、二挺拳銃による近距離格闘射撃に加えて足技による一人三位一体攻撃。さながら三つ首を持つケルベロスというわけですか。かなりアレンジが加わってますがガン・カタというものですか?』

『ち、よく知ってるな。俺の国にあった映画が元なんだが、まぁ足技加えたせいであんま原型残ってないけどな。そんでこいつらが俺の相棒のハデス』

 

 ひとしきりの攻防が終わり距離が離れ、お互いが一息つくかのように語りかける。

 いつの間にかダリルの脚部装甲も変化しており、彼女の足技の威力をより高めるようになっているようだ。

 

「す、すごいッス!?」

「フォ、フォルテちゃん? ちょっと興奮しすぎじゃないかしら?」

 

 もともと二挺拳銃、二刀流という戦い方をするフォルテにとって、ダリルの試合からは得るものが多い。フォルテは持ち手の武器を状況により切り替えるのだが、ダリルは基本的にハデスだけで射撃と打撃を行う。それをそのまま適用することはできないが、その戦い方やスタイルはフォルテに大きな衝撃を与えた。

 

「ウチも、あんな風に戦いたいッス!」

 

 フォルテは目の前の戦いを見ながら、一つの決意を固めたのだった。

 

 さて、試合は終盤。授業の時間も終わりが近づいており千冬からも五分以内の決着を要求された。

 二人も意識を切り替え、次撃での決着を覚悟する。

 

 一瞬の攻防の後に交差する二人。

 紫音の凄まじい勢いの突きは……ダリルの胸元へと突き刺さる。

 

『そこまで!』

『……大したもんだ』

『ありがとうございます』

 

 千冬の終了宣言にて、模擬戦の勝者は決定した。

 

『でも……届きませんでした』

 

 ハデスの一つに突きは防がれた上でもう一つのハデスの銃口は紫音に向けられている。既にそこから発せられた射撃により、紫音のエネルギー残量はゼロとなった。

 

『いや、届いていたぜ』

 

 ニヤリと笑いながらダリルがそう言うと、ネームレスを防いでいたハデスが砕け散る。

 

『ったく、防御用の盾も兼ねてるからそうそう壊れるようにはできてないんだがな。ま、ケルベロスの首の一つが堕ちたんだ。だからまぁ……引き分けだな』

 

 若干、自分のセリフに酔ったような雰囲気を醸し出しながらドヤ顔をするダリル。紫音も若干引き攣った表情をしつつ、楯無は生徒会に勧誘するチャンスだから我慢しろ、と視線を送る。

 

「紫音ちゃん、あのドヤ顔は確かに腹が立つけどここは我慢よ……」

 

 そして一方のフォルテは……。

 

「か、かっこいいッス……!」

 

 目をキラキラさせながらダリルの方を見つめていた。

 彼女はもうすっかりダリルに心酔してしまったようだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 紫音の善戦もあり……本人は内容に納得してないようだが、ともあれダリルは生徒会へ入ることが決まった。既にそれぞれの面通しも済んでおり、彼女は正式に生徒会へ所属したことになる。

 

「おぅ、フォルテか。どうした?」

「先輩、ウチにもあの戦い方をいろいろ教えてほしいッス!」

 

 先日の歓迎会で、ダリルはフォルテの戦い方が似ていると指摘し、フォルテもあわよくば教えてもらおうと考えていた。と、いうより何かとフォルテのことを何かと弄ってくる同級生たちに対して、そういう扱いの一切ないダリルに懐いてしまったようだ。もっとも、フォルテは別に弄られるのが嫌いではないのだが。

 

 その後ダリルは丁寧にフォルテに指導した。自分の戦い方をフォルテに適用させて、そのままを教えるのではなく相手に適切なアレンジを加えて教える。言動はおおざっぱだが、意外と面倒見がよいのだ。

 

「とりあえずいいんじゃねぇか? 今後は反復練習と実戦あるのみだな。あとは展開速度と思考速度を鍛えろ。状況に合わせて無意識でも対応できるようになればOKだ」

「ありがとうございます、ダリル先輩! とってもわかりやすかったッスよ! う~ん、やっぱりカッコいいッスね。でもせっかくこんなカッコいい戦い方ができる二人がいるんなら合体技みたいのがあればもっといいッスよねぇ……」

「あぁ? いまなんて言った?」

 

 二挺拳銃による近接格闘、まるで演武のようなその動作は見栄えはいいものの実用性は低いとされてきた。故に、映画や漫画などでは見かけても実際にそれは実戦レベルで使いこなせる人間は少ない。 

 それを独自のアレンジを組み入れて使いこなすダリル、そして亜種とはいえ似た戦法を使うフォルテ。

 アニメなどで合体技やコンビネーションといったものを見て憧れていたフォルテとしては、ただ願望を口にしただけだったが、その言葉を聞いた瞬間ダリルの雰囲気が変わる。

 

「あ、じょ、冗談ッスよ? さすがにそんな暇ないッスよね!」

 

 急変したダリルの様子、フォルテも慌てて撤回する。自分の発言が何か触れてはいけない彼女の琴線に触れたと思ってしまったからだ。だが……。

 

「いいじゃねぇか。よし、完成まで放課後は付き合ってやる」

「え、ちょ、乗り気ッスか!? 確かに憧れるッスけどそこまで……あ、なんか目がヤバいッス!」

 

 確かに、琴線に触れていたようだ……ちょっとフォルテの想像とは違ったようだが。

 

「とりあえず、今からもう一度寮の門限まで特訓だな、行くぞ!」

「え、門限ってまだ5時間くらいあるッスよ!?」

 

 しかし、彼女の叫びが聞き入れられることはなく、やる気になったダリルによって訓練場へと再び引きずられていったのだった。

 

 

 

「うぅ、まさかあんなに張り切るとは思わなかったッス……でもまぁ、楽しかったしコンビネーションもかなりいい感じだからいいッスけどね! それに、いいこと言ってたッス」

 

 自室に戻ったフォルテはシャワーを浴びながら先ほどまでのやり取りを振り返る。

 

『あぁ? ルームメイトに仕返ししたいけど、できない? なんだ、そいつ強いのか?』

『いや、別にそういう訳じゃないんスけど、逆らえない雰囲気というかこれ以上手を出してはいけない気がするというか……』

『ったく、いいか? 別に喧嘩してる訳じゃねぇんだろ? だったらじゃれ合いみたいなもんじゃねぇか。相手だってやり返されるのは覚悟の上だし、お前としてもやられたらやり返せ』

『そ、そうッスよね! このままじゃ楯無にもやられっ放し……こうなったら下剋上ッス! まずは手始めにフィーに……』

 

 ダリルは別にそういうことを言いたい訳ではないのだが、フォルテはもはやそれどころではなかった。そして、まさかダリルもフィーとのやり取りがデザートの取った取られたの争いだとは思いもしなかった……。

 

「くっくっく、見てるッスよ、フィー。ダリル先輩の言う通り。食っていいのは、食われる覚悟のある奴だけッスよ! 食べられたら食べ返す、倍返し。いや、100倍返しッス!」

 

 決意を新たに宣言するフォルテだったが、興奮のあまりその声はルームメイトに筒抜けだった。

 翌日、冷蔵庫の中にフィーが仕掛けた激辛ゼリーを口にしたフォルテの叫び声が寮内に響き渡ることになる。

 

 彼女が下剋上を果たすのはまだしばらく先のようだ。

 

 




なんとか今月中に投稿できました。

今月から本編のストックがなくなった上に多忙になってきました。

本編の週一は維持させつつ、余裕ができ次第こちらも投稿になります。

次話もなんとか10月中に……。毎日投稿してる人、尊敬します。
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